第43話

文字数 3,610文字

 米倉と水野の提携の解消のニュースは、その日のテレビのニュースでも、流していた…

 当たり前だ…

 ネットで、流れていたものが、ガセでも、ない限り、テレビで流れないはずはない…

 が、

 私は、あえて、テレビでも、確かめざるを得なかった…

 疑り深いというか…

 どうしても、ネットでは、なく、テレビの方が、信頼できるというか…

 歳のせいだろうか(笑)?

 テレビで、流れた方が、ウソがないように、思える(笑)…

 そういうことだ…

 そして、そのニュースを、見ながら、あらためて、米倉と、水野の提携が、破談になったことを、知った…

 米倉と水野の提携…

 今さらだが、おさらいをしておくと、当初は、米倉と水野は、合併するはずだった…

 巨額の債務を隠して、水野と合併しようとした米倉…

 が、

 さすがに、合併直前になって、米倉の隠された債務が、暴露された…

 それによって、水野は、騙されたことに、気付いた…

 水野家当主の水野良平は、親友の米倉平造に騙されたことに、気付いた…

 そして、米倉と水野の合併を象徴するものとして、米倉好子と、水野透(とおる)の結婚が、決まった…

 米倉と水野を代表する二人が、結婚する…

 それは、ちょうど、戦国時代の戦国大名の同盟と同じだった…

 米倉と水野の当主の子供同士が、結婚する…

 それが、両家の契約の保証だった…

 自分の子供を相手に預けることで、ある意味、人質にとることになる…

 いわば、命をかけた保証だった…

 米倉と水野の場合は、さすがに、そこまでは、いかないが、いかに現代とて、両家の子息が、結婚することで、両家が、経営する会社が、合併するのは、実に、わかりやすい構図だった…

 が、

 その合併前に、米倉の巨額な負債が、暴露された…

 当然のことながら、それを、事前に知らされてなかった水野良平は、激怒…

 好子さんと、透(とおる)の結婚の中止を宣言したが、肝心の透(とおる)が、嫌がった…

 自分は、どうしても、好子と結婚すると言って、譲らなかった…

 透(とおる)にとって、好子さんは、憧れだった…

 米倉平造と、水野良平…

 二人は、仲が良く、互いに、家族を連れて、互いの家に遊びにいった…

 それゆえ、透(とおる)と、好子さんは、子供の頃から、互いに、顔なじみだった…

 そして、その頃から、透(とおる)は、好子さんに憧れていた…

 それは、元を辿れば、米倉平造と、水野良平の生い立ちが、似ていることが、発端だった…

 互いに、名家の分家の一員として、生まれ、その才能に、よって、本家のお嬢様と、結婚した…

 当然のことながら、一族での視線は、冷たい…

 たしかに、能力は、あるかも、しれないが、そもそも一族内では、地位が、低いからだ…

 その地位が低い人間が、本家のお嬢様と、結婚して、本家の当主となる…

 それには、周囲の者を納得させる実績が、必要となる…

 二人とも、それが、大きなプレッシャーだった…

 が、

 二人とも、そのプレッシャーをはねのけて、大成した…

 だから、互いに、出会ったときに、肝胆相照らす仲になったというか…

 互いが、同じような環境で、育ったことを、実感した…

 それゆえ、互いに、打ち解け、無二の親友になった…

 もっとも、それは、互いに、気が合うという側面もあったに違いない…

 いくら、境遇が、同じでも、気が合わなければ、仲が良くなれないからだ…

 だから、米倉と水野は、合併しようとした…

 が、

 その直前になって、米倉のウソが、発覚した…

 米倉が、巨額の負債を隠していることが、発覚した…

 それゆえ、当然、米倉好子さんと、水野透(とおる)の結婚も破談したかと、思った…

 が、

 透(とおる)が、押し切った…

 透(とおる)は、幼い時から、ずっと、好子さんが、好きだったからだ…

 だから、米倉と水野の会社は、関係なく、好子さんと、結婚したかった…

 そして、そんな透(とおる)の行為は、父親の良平の気持ちを翻意させるに、十分だった…

 なぜなら、透(とおる)が、初めて、強引に、好子さんと結婚すると、宣言したからだ…

 透(とおる)は、これも、何度も触れたが、良平が、外に作った子供だった…

 いわゆる愛人の子供…

 良平と、本家のお嬢様=春子との間に、生まれた子供ではない…

 だが、春子との間に子供が恵まれない良平が、後継ぎがいないため、透(とおる)を、本家に引き取った…

 それゆえ、透(とおる)は、いつも他人の顔色を窺う子供に育った…

 いや、

 育たざるを得なかったというか…

 幼い時に、水野本家に、ひとりで、やって来た透(とおる)は、周囲の目を気にして、生きていく以外、生きる術(すべ)を、持たなかった…

 それゆえ、周囲を笑わせる、ひょうきん者を演じた…

 その方が、周囲に馴染みやすいからだ…

 が、

 それが、良平は、嫌だった…

 透(とおる)の立場を考えれば、仕方のないことだったかも、しれないが、嫌だった…

 これもまた、当然のことだった…

 将来の水野グループを率いる人間が、ひょうきん者では、周囲の人間を率いることが、できないからだ…

 が、

 そんな透(とおる)が、おそらくは、生まれて、初めて、好子さんとの結婚が、破談になることに、異を唱えた…

 常に周囲の顔色を窺って生きてきた透(とおる)が、初めて、自分の意思を頑なまでに、示した…

 それが、良平には、嬉しかった…

 それまで、決して、自己主張をしない、透(とおる)が、初めて、自分の意思を示した…

 それが、嬉しかった…

 また、米倉の負債が、当初、思っていたよりも、少なかったということもあり、二人の結婚を許した…

 そして、その負債ゆえに、当初は、合併だったのが、提携という形になった…

 もちろん、将来的には、合併を目指していたが、今は、まだその段階ではない…

 最初は、提携という形で、それぞれのグループに属する企業の状況を調べ、いずれは、合併する…

 そういうシナリオを描いた…

 と、

 そこまでが、これまでの話…

 それが、今回のあの透(とおる)と、秋穂のスキャンダルを契機に、破談した…

 米倉と水野の提携が、破談した…

 そういうことだ…

 私は、思った…

 が、

 ということは、どうだ?

 やはりというか…

 米倉は、どうなるんだろうか?

 真っ先に思ったのは、そのことだった…

 米倉は、巨額の債務を抱えている…

 債務=借金を抱えている…

 だから、ハッキリ言えば、水野の支援なしでは、生き残れない…

 すぐにでも、倒産してしまうからだ…

 そして、それは、すぐに株価に現れた…

 上場している米倉の持つ、大日産業の株が、売られた…

 売られまくった…

 相場は、売り一色…

 それゆえ、わずか数日で、株価は、つるべ落としに、下がった…

 急降下した…

 もはや、紙切れ同然になるのは、時間の問題だった…

 昔の山一証券を見るようだった…

 傍から、見れば、倒産寸前…

 倒産は、時間の問題だった…

 が、

 そうはならなかった…

 救世主が、現れた…

 米倉の持つ、大日グループ…

 それを、買収すると、いう企業が現れた…

 そして、それは、五井だった…

 日本を代表する名門…

 あの五井財閥だった…

 五井のネームバリューは、凄い…

 日本は、愚か、世界中に、その名は、響き渡っている…

 その五井が、米倉が持つ、大日グループを買収する…

 その噂が流れると、たちまち、株価が、急上昇した…

 まるで、ジェットコースター…

 つい、数日前に、米倉と、水野の提携が、解消したときには、真っ逆さまに下がった株価が、五井が、買収するという、噂が、流れると、一転して、急上昇した…

 まるで、仕手戦のようだった…

 株価が、上がったり、下がったり、乱高下する…

 それを、背景に、誰かが、一儲けしようと、企んでいる…

 下世話な物言いだが、そうも、思えた…

 が、

 それは、ともかく、五井の買収が、市場で、噂されると、大日グループの株価は、わずか、数日で、持ち直した…

 まさに、奇跡…

 奇跡だった…

 私は、それを、見ながら、背後に、誰がいるのか?

 考えた…

 もはや、市場に、見捨てられつつある、米倉の大日グループ…

 本来、巨額の債務を、持つ、大日グループなど、倒産して、当然…

 救いの手を差し伸べる企業など、あるはずもなかった…

 それが、わかっているからこそ、あの平造は、盟友の水野良平を、騙してまで、大日グルプを水野グループに合併させようとした…

 内実が、火の車の大日グループを買い取ろうとする、企業など、どこにも、ないことが、誰よりも、わかっていたからだ…

 だから、平造は、良平を、騙した…

 親友の良平を騙した…

 そういうことだ…

 私は、そんなことを、考えた…

 考え続けた…

 そして、そんな、ある日だった…

 私の自宅に、ひとりの美しい女性が、やって来た…

 名前は、寿綾乃…

 五井家に仕えるものだと、名乗った…

                
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