第8話

文字数 4,179文字

 結局、その日は、外出した…

 いつまでも、家に閉じこもっているのは、性に合わない…

 ひとは、私の外見から、どちらかと言えば、おとなしく見えるから、いわゆるインドア派と、私を思うかも、しれないが、さにあらず…

 アウトドア派とまでは、言わないが、決して、家に閉じこもっているタイプではなかった…

 ただ、群れるタイプではない…

 これは、学生時代から、同じだった…

 群れる=誰かに、合わせる、だ…

 それが、嫌だったのかも、しれない…

 集団で、行動すれば、どうしても、他人に合わせなければ、ならない…

 私は、それが、苦手だった…

 学校や職場など、ひとが、集まるところでは、我慢できる…

 仕方が、ないからだ…

 が、

 プライベートで、他人と合わせるのは、御免だった…

 よほど、気の合う友人ならば、いい…

 が、

 そういう友人は、数えるほど…

 片手で、数えるほど、少ない…

 いわゆる、広く浅い友人関係とは、真逆の狭く深い友人関係…

 いや、

 深いとまでは、言えない…

 私は、そもそも、自分のプライベートに、他人が、関わるのは、嫌だった…

 もっと、言えば、一人遊びといえば、おかしいが、なにかを、一人で、するのが、好きだった…

 読書や、漫画を読むなど、その典型だろう…

 もっとも、だから、結婚できないんだとも、思った…

 一人遊びが、好き=他人と交わることが、嫌いだからだ…

 そんな他人と交わることが、嫌いな女が、積極的に、男と付き合おうとは、思わない…

 いや、

 これは、男も同じだろう…

 例え、イケメンに生まれても、同じ…

 積極的に女と、付き合いたいと思わないだろう(笑)…

 ただし、

 ただし、だ…

 イケメンが、周囲の女に、目もくれず、誰とも、付き合わないとなると、周囲の女が、

 「…あの男は、生意気…」

 とか、

 「…アイツは、アタシたちを下に見ている…」

 とか、

 騒ぎ出す(笑)…

 つまり、自分たちが、相手にされないのが、悔しいのだ…

 そして、これは、女も同じ…

 美人が、周囲の男に、目もくれなければ、やはり、同じように、

 「…あの女は…」

 と、なる…

 そして、ハッキリ言えば、その根底には、嫉妬がある…

 嫉妬ゆえに、自分たちが、相手にされないのが、許せないのだ…

 あるいは、コンプレックスがある…

 ルックスでは、イケメンや美人に釣り合わない…

 負けているのが、わかっているから、悔しいのだ…

 本当は、イケメンでも、美人でも、あまり他人に関心がなく、ただ、自分の好みの相手が、身近に、いないから、付き合わないだけといった場合も多いが、それが、許せない…

 そういうことだ…

 だから、美人も、イケメンも、ルックスのいいのは、諸刃の剣というか…

 なまじ、ルックスがいいから、ひとに妬まれる…

 私は、子供心に、そんなことに、気付いた…

 私は、美人に生まれたが、やはりというか、イケメンに憧れる…

 が、

 滅茶苦茶、憧れるわけではない…

 ルックスが、いいひとと、ルックスが、イマイチのひとと、どっちが、いいかと言えば、誰もが、ルックスのいい方が、いいに、決まっている…

 が、

 さっき例に挙げた、昔、知り合った女性のように、年がら年中、他人の悪口ばかり言っていては、誰もが、辟易するだろう…

 例えば、美人で、有名な女優の佐々木希さん、そっくりの美人でも、うんざりする…

 それは、当たり前だろう…

 ルックスに惹かれるのは、誰もが、同じ…

 だが、

 大抵は、最初だけ…

 いわゆる、第一印象…

 ファーストインプレッションに過ぎない…

 前にも、言ったが、それは、例えば、キレイな家に入るようなもの…

 いかにも、お金がかかった豪邸に入って見ても、中は、汚部屋(ごみ屋敷)とまでは、言わないが、外見からは、想像もできないほど、汚れている場合がある…

 それと、同じだ…

 そして、それは、イケメンでも、美人でも、付き合っている異性を見れば、わかる…

 いつも、付き合っている異性が、違うからだ…

 それは、イケメンだから、美人だから、モテるから、いつも、異性をとっかえひっかえしていると、思いがちだが、さにあらず…

 実は、いつも、異性から、振られている可能性もある…

 要するに、付き合ってみたら、中身に幻滅したわけだ…

 だから、いつも、付き合っている異性が、異なる…

 そういうことだ(笑)…

 むろん、ルックスがいいから、相手を選び放題で、異性をとっかえひっかえしている場合もある…

 が、

 そうでもない場合もあるということだ(笑)…

 そして、それは、歳を取れば、取るほど、わかってくる…

 学生時代、周囲のアイドルだった、イケメンの男性が、結婚、離婚と繰り返しているのを、風の噂で、聞いたことがある…

 要するに、その男は、女癖が、悪かった…

 最悪と言っていい(爆笑)…

 例え、結婚しても、次から次へと、違う女に手を出す…

 自分の夫が、イケメンで、周囲から、羨ましがられるのは、正直、嬉しい…

 そんなイケメンと結婚できたことで、自分のプライドが、満たされるからだ…

 例えば、男で言えば、女優の佐々木希さんと、同じ…

 「…あんな美人の奥さんと結婚できたんだ…」

 と、言われれば、誰もが、嬉しいものだ…

 そして、それは、トロフィーと、同じ…

 例えば、水泳でも、ボクシングでも、なにかの競技で、優勝したのと、同じ…

 美人=トロフィーだ…

 だから、昨今では、トロフィーワイフと、世間で、呼ばれている…

 女の場合も、これと、同じだろう…

 が、

 いかに、イケメンでも、結婚してからも、相変わらず、あっちの女、こっちの女と、年がら年中、他の女に手を出していれば、いい加減、うんざりするし、しまいには、ブチ切れる…

 当たり前だ(爆笑)…

 そして、そんな経験を積むことで、そのイケメンと、結婚後、離婚した女は、

 「…どんなに、イケメンでも、アレは、ダメ…ダメな男だ…」

 と、わかるし、それを聞いた、そのイケメンと面識のある周囲の女も、若い時は、わからなくても、歳を取れば、取るほど、わかってくる…

 いわば、実感するというか…

 それが、歳を取るということなのだろう…

 私は、思った…

 考えた…

 そして、そんなことを、漠然と考えながら、街を歩いていた…

 外出したと言っても、別段、当てはない…

 気晴らしに、近所のスーパーにでも行くだけだ…

 何度も言うように、私は、休職中だ…

 12年間、勤務した会社を休職中だ…

 12年間、働いたから、それなりに、貯金はある…

 が、

 私は、そのお金を気晴らしや、憂さ晴らしに使うような人間ではない…

 たしかに、会社に一方的に、リストラ宣告をされ、結局は、休職に落ち着いたが、無茶苦茶なことを、されたという思いから、爆買いをしたり、あるいは、ホストに狂ったりとか、する女は、いるが、私は、そんな女ではないと、言いたいのだ(爆笑)…

 私は、平凡…

 実に、平凡だった…

 生まれも、平凡…

 育ちも、平凡…

 頭の中身も平凡…

ただ、自分で、言うのも、恥ずかしいが、少しばかり、他人様よりも、ルックスが、いい…

 それだけだった(笑)…

 が、

 それを、よりどころに、して、これまで、生きてきたわけではない…

 世の中には、自分が、金持ちや美人であることを、鼻にかけて、生きている人間が、男女を問わず、いるが、私は、そんな人間ではない…

 いや、

 そんな人間ではないと、自分自身は、思っている…

 が、

 周囲が、私をどう思っているか、わからない…

 現に、私に、休職を告げた、あの金崎実業の人事の松嶋などは、

 「…相手を選び過ぎているんだよ…いい加減、妥協したら…」

 と、いかにも、私が、美人であることを、鼻にかけて、これまで生きてきたかのように、言った…

 だから、わからない…

 私自身は、自分が、他人様よりも、たった一つ、優れていること…

 私が、美人に生まれたことを、おおげさに、言えば、自分の武器=長所だと、思っているが、それを、ことさら自慢している気持ちは、さらさらない…

 が、

 あの松嶋は、そうは、思わなかったに違いない…

 そして、あの松嶋と同じような意見の者も少なからず、いるに違いない…

 だから、自己評価と、他己評価というか…

 自分が、自分をどう思っているのか? と、他人が、自分を、どう思っているのは、おおげさに、言えば、別物…

 まるっきり、別物だ…

 だから、もしかしたら、私もまた、あの、学生時代に、バイトをしたときに、出会った、異常に、自己評価の高い女性と、同じかも、しれない…

 ふと、思った…

 あの、まったくの平凡な女にも、かかわらず、自己評価が、異常に高い、女…

 彼女と、同じかもしれない…

 ふと、気付いた…

 まさか…

 そんなことが…

 私が、彼女と、同じなんて?…

 そんなバカな!…

 あるはずがない!…

 でも…

 もしや?…

 私が、そんなことを、考えていると、

 「…高見さん?…」

 と、声をかけられた…

 私は、驚いた…

 文字通り、仰天した…

 街を歩いている最中に、いきなり、誰かから、声をかけられることなど、滅多にないからだ…

 反射的に、

 「…ハイ…」

 と、答えながらも、声のする方向を、急いで、振り返った…

 と、

 そこには、私の父と同じぐらいの年齢の長身の男性が、立っていた…

 私は、一瞬、その男性が、誰だか、わからなかった…

 が、

 見覚えがあった…

 たしかに、あった…

 一体、誰だったのだろ?

 必死になって、考えた…

 考え続けた…

 が、

 すぐには、思い出せなかった…

 しかし、思い出す必要も、なかった…

 その長身の男性が、自分から、自分が、何者か、名乗ったからだ…

 「…高見さん…お久しぶりです…」

 長身の男性が、丁寧に、私に頭を下げて、言った…

 が、

 それでも、すぐには、その男性が、誰だか、わからなかった…

 そんな、私の心の内が、表情に出たのだろう…

 「…高見さん…お忘れですか? …水野です…」

 と、長身の男性が、名乗った…

 「…水野さん?…」

 思い出した…

 水野良平…

 米倉・水野グループ、総帥の水野良平…

 あの米倉正造が、守り続けた、血の繋がらない妹の、米倉好子…

 私と姉妹同様に似ている、米倉好子…

 その好子と結婚した水野透(とおる)の実父…

 水野良平、そのひとだった…

               
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み