第35話

文字数 3,863文字

「…正造さんの妹?…」

 そんなバカな?…

 私は、思った…

 米倉正造に妹はいない…

 いるのは、姉の澄子さん…

 弟の新造さんは、いるが、正造とは、母親が違う…

 母親が違う?

 ふと、気付いた…

 もしかしたら、母親が、違うのなら、あり得るかもしれない…

 正造の父親の平造は、女好きだと、後から、知った…

 だから、ひょっとして、外に、女の一人や二人は、いても、おかしくはない…

 そう、思った…

 そう、悟った…

 が、

 私が、必死になって、そんなことを、考えていると、眼前の女のコが、なにやら、笑っている気がした…

 明らかに、楽しそうに、私を見ていた…

 …エッ?…

 …なに?…

 …なに、どういうこと?…

 …ひょっとして、私、からかわれてる?…

 ふと、気付いた…

 もしかして、私は、この眼前の女のコに、からかわれてる?

 ふと、思った…

 そして、冷静になって、考えた…

 もしかしたら、この眼前の女のコは、あの水野透(とおる)と、フライデーに写った女のコかもしれない…

 そして、もしそれが、正しいのなら、私を知っているかも、しれない…

 なぜなら、あの好子さんが、怒っていた…

 夫の透(とおる)が、あんなに不用意に、写真週刊誌に、撮られていたのを、怒っていた…

 つまりは、あの写真週刊誌=フライデーに撮られた女のコは、下心があって、透(とおる)に、近付いた…

 つまり、泥酔した透(とおる)と、いっしょに、フライデーに写ることで、スキャンダルを狙った…

 スキャンダル=醜聞を狙った…
 
 水野・米倉グループの代表の透(とおる)の醜聞を起こすことで、透(とおる)の水野家での地位の低下を、狙ったのだ…

 と、すると、どうだ?

 もし、この眼前の女のコが、あのとき、透(とおる)と、フライデーの記事に載っている女のコだとしたら、私のことを、知っている可能性もある…

 なぜなら、単なるセックス要員といっては、失礼だが、誰かに頼まれて、ハニートラップを仕掛けるだけの女ならば、透(とおる)の素性も、わからないかもしれない…

 が、

 そうでない可能性も高い…

 なにより、この銀座で、いきなり、私に、

 「…高見ちづる…」

 と、聞いて来た女性だ…

 もしかしたら、私が、試されている可能性がある…

 突然、私の名前を告げることで、

「…私が、誰だか、わかりますか?…」

と、真逆に、私を試している可能性もある…

それに、気付いた私は、

「…ウソは、おやめなさい…」

と、眼前の女のコに、言った…

「…ウソ? …なにが、ウソなんですか?…」

「…正造さんの妹ということよ…」

私が、断言した…

すると、

「…どうして、そう思うんですか?…」

と、女のコが聞いてきた…

いかにも、気が強そうだ…

「…だって、アナタ、…この前、水野透(とおる)さんと、フライデーに写真を撮られたひとでしょ?…」

私が、言うと、

「…」

と、女のコが、黙った…

それから、

「…おキレイね…」

と、わざと、言った…

「…透(とおる)さんも、アナタのような美人なら、フライデーに撮られても、名誉ね…」

私が、言うと、彼女は、私をキッと、睨みつけた…

それから、すぐに、

「…どうして、名誉なんですか?…」

と、私に食って掛かった…

「…だって、アナタ、美人でしょ? せっかく、フライデーに女のコと載ったのに、相手が、美人じゃないと、透(とおる)さんも、カッコ悪いじゃない…」

私は、言った…

 もちろん、半分本音…

 半分、嫉妬だったかも、しれない…

 この女のコは、美人…

 おまけに、私より、10歳近く、若い…

 だから、この女のコと、並んで、歩けば、私の負け…

 どうしても、10歳年上の私の負けとなる(苦笑)…

 私は、自分でいうのも、なんだが、子供の頃から、

 「…美しい…」

 とか、

 「…美人ね…」

 と、周囲から、さんざん、チヤホヤされてきた…

 だから、つい、美人を、前にすると、自分と、比べたくなる…

 …どっちが、キレイか、比べたくなる…

 だから、それが、習い性に、なったというか(笑)…

 きっと、私が美人に生まれなかったら、こんな習慣は、つかなかったかも、しれない…

 そして、そんなことを、漠然と、考えていると、

 「…凄い、洞察力ですね…」

 と、悔しそうに、目の前の女のコが、言った…

 それだけで、私の見当が、当たっていることに、気付いた…

 「…ですが、私が、誰だかは、わからないですね…」

 「…それは、当然…」

 「…だったら、私の勝ちです…」

 「…勝ち?…」

 私は、呆れて言った…

 いきなり、私の前に現れて、私を睨みつけ、私が、誰かと聞けば、名乗らない…

 それどころか、私が彼女の素性が、わからないと、知ると、

 「…私の勝ちです…」

 とか、わけのわからないことを、言い出す…

 まったく、もって、意味不明というか…

 正常な思考形態の娘とは、思えなかった…

 だから、

 「…アナタ…頭の方は、大丈夫?…」

 と、つい、言ってしまった…

 「…どういうことですか?…」

 彼女は、またも、私に食って掛かった…

 「…いきなり、私の前に現れて、私が、誰か、わからないと言うと、私の勝ちです…なんて、普通のひとが、言う言葉じゃないでしょ?…」

 私は、きつめに、説教した…

 まさか、こんな銀座の路上で、自分より、10歳以上、若い、女に、公開説教をするとは、自分でも、思わなかった…

 が、

 自分でも、自分を抑えられないほど、気持ちが昂ったというか…

 なぜか、この女に負けられないという気持ちが、起きた…

 それは、もしかしたら、彼女の若さのせいかも、しれない…

 ふと、気付いた…

 自分でも、よくわからないが、彼女の若さが、羨ましいのかも、しれなかった…

 私も、彼女に似た美人…

 同じように、女優の常盤貴子さんの若い頃に、似ている…

 すると、どうだ?

 同じ顔をした女が、二人並べば、どうしても、歳が若い方が有利というか…

 どっちがいいか、選びなさいと、男に、問えば、10人中10人が、若い方を選ぶ…

 そういうことだ…

 だから、無意識に、敵と認識するというか(爆笑)…

 普通でも、つい、自分と同じようなタイプの美人がいて、それが、自分より、10歳も若ければ、対抗心を燃やすところが、眼前の彼女のように、私にケンカを売って来るような真似をすれば、余計に、頭に来る…

 ケンカ上等というか…

 ヤンキーではないが、つい、こちらの対応も、乱暴になった…

 だからというわけではないが、さすがに、銀座の路上で、女同士が、言い争っているので、何事かと、周囲の人間が、足を止めて、こちらを見ているのが、わかった…

 が、

 今さら、後には、引けないというか…

 自分から、止めることは、もはや、できなかった…

 そして、それは、言い訳ではないが、原因は、彼女にあるというか…

 美人だが、いかにも、気が強そうな、表情を見るにつけ、こちらも、引けなくなった(笑)…

 そして、私が、そんなことを、考えていると、

 「…聞いた通りですね…」

 と、彼女が、口を開いた…

 「…エッ? …聞いた通りって?…」

 「…美人で、気が強い…」

 彼女が、私を睨んで、言った…

 が、

 それを、言えば、それは、彼女の方だろうと、思った…

 彼女自身が、美人で、いかにも、気が強そうだ…

 「…お母さんの言う通り…」

 …お母さん?…

 …お母さんって?…

 ということは、誰かの娘?…

 私の知っているひとの娘?…

 私は、あらためて、彼女の顔を見た…

 いや、

 睨んだ(爆笑)…

 私に似た顔の美人…

 が、

 正直、私よりも、はるかに、気が強そうだ…

 これは、偏見ではない(苦笑)…

 たしかに、眼前の彼女を見れば、美人だが、気が強そうなのは、誰でも、一目でわかる…

 いや、

 だが、美人は、これぐらい気が強い方が、いいかも、しれない…

 ふと、思った…

 美人というだけで、どうしても、世間では、男から、チヤホヤされる…

 だから、うっかり、男の誘いに、ホイホイ乗っては、ダメ!

 危険な目に遭うかも、しれない(苦笑)…

 だから、いつも、自分で、自分の身を守ることを、考えなければ、ダメ!

 常に、用心しなければ、ダメ!

 そして、その用心のためにも、気が強くなければ、ならない…

 攻撃は最大の防御というか…

 相手が、なにか、しようとしていても、周囲から、

 …あの女は、とんでもなく、気が強い…

 と、思われていれば、誰も、安易に手を出さないからだ…

 だから、美人に生まれれば、同時に、気が強くなければ、ならない…

 なぜなら、いつも、自分で、自分の身を守らねば、ならないからだ…

 私が、そんなことを、考えていると、

 「…私は、米倉正造の姪です…」

 と、いきなり、女は名乗った…

 「…姪?…」

 たしかに、姪ならば、おかしくはない…

 米倉正造は、私より、10歳は、上…

 すでに、40歳は、超えている…

 そして、正造の年齢を考えれば、それは、当てはまる…

 が、

 姪と言えば、正造の兄弟の子供…

 正造の兄弟といえば、姉の澄子と、弟の新造さん…

 あの好子さんは、正造の妹だが、血が繋がってない…

 それに、なにより、澄子さんと、澄子さんの弟の新造さんでは、年齢が合わない…

 二人とも、30歳前後…

 30歳前後の男や女に、二十歳を超えた娘がいるはずがない…

 ということは?…

 ということは、残る一人は、澄子さん?…

 澄子さんの娘だろうか?

 私は、考えた…

 そして、そんなことを、考えていると、

 「…私のお母さんは、米倉澄子です…」

 と、彼女が、名乗った…

               

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