第48話

文字数 4,720文字

 …知っている!…

 …わかっている!…

 そう、思った…

 私とあの秋穂の関係をわかっている…

 そう、気付いた…

 そして、そういうことか?

 と、思った…

 この五井が、今、米倉の株を買っている…

 ハッキリ言えば、米倉の株を買って、米倉を助けている…

 それは、当たり前だが、慈善事業ではない…

 人助けでは、ない…

 ただ、米倉を助けたのではない…

 当然、役に立つから…

 利益になるから、助けただけだ…

 そして、米倉の株を買い漁る前に、色々、米倉のことを、調べまくったに違いない…

 だから、あの娘のことを、知っていた…

 秋穂のことを、知っていた…

 そういうことかも、しれない…

 いや、

 違うか?

 なぜなら、今日、私が、訪れたのは、あの米倉正造の紹介…

 米倉の一族の紹介だ…

 ということは、どうだ?

 米倉正造が、動いた…

 水野に見捨てられた米倉を救うために、動いたと、考えれば、いいのだろうか?

 そう、気付いた…

 今の米倉は、ボロボロ…

 米倉家の率いる大日産業の株価は、ボロボロ…

 だから、米倉先代の当主の平造は、盟友の水野良平を騙して、米倉と水野を合併しようとした…

 普通なら、誰が見ても、倒産寸前の米倉の大日グループ…

 自力で、再建するのは、不可能…

 誰かに、助けてもらうしかない…

 だが、その財務内容というか、経営状態を見れば、誰も助けないに違いない…

 だから、盟友の水野を騙した…

 先代当主の平造は、盟友の水野良平を騙して、米倉と水野を合併させようとした…

 が、その提携が破綻…

 米倉と提携していた水野が、提携を解消した…

 だから、振り出しに戻ったというか…

 最初に戻った…

 初めから、やり直し…

 だから、結婚ではないが、最初から、始めなければ、ならない…

 結婚相手を探さなければ、ならない…

 そういうことだったかも、しれない…

 そして、その中で、どういう過程なのか、わからないが、あの米倉正造が、この五井を紹介したというか…

 ハッキリ言えば、米倉の救世主というか…

 ぶっちゃけ、新たなスポンサーを見つけてきたということかも、しれない…

 私は、そう思った…

 そして、そう考えると、どうして、私が、この場所に招かれたのかは、ともかく、この五井の一族は、当たり前だが、米倉について、調べたと、思った…

 調べ尽くしたに違いないと、考えた…

 だから、あの秋穂という娘のことを、知っているに違いないと、思った…

 そして、当然のことながら、秋穂の母親である、澄子さんのことも、知っているに、違いないと、思った…

 それより、なにより、その澄子さんが、あの好子さんを、嫌っていることを、知っているに違いないと、考えた…

 そして、その澄子さんが、今回、動いた…

 おそらくは、このまま、米倉と水野の提携が、進み、米倉と水野が合併しては、自分の居場所がなくなると、思った澄子さんが、今回の米倉と水野の提携の破綻の陰にいる…

 それを、知っている可能性が、高い…

 いや、

 知っているに違いない…

 すべてを、知っていて、米倉の救済に動いたに違いない…

 私は、思った…

 そして、そんなことを、考えていると、和子さんが、

 「…なにか、思い当たることが、おありのようね…」

 と、意味深に言った…

 からかうように、言ったと、言っても、いい…

 だから、私は、ハッキリと、

 「…秋穂さんのことでしょうか?…」

 と、言った…

 「…私に似た、若い娘というのは、澄子さんの娘の秋穂さんでしょうか?…」

 と、聞いた…

 すると、和子は、ニッコリとした…

 ニッコリと、笑った…

 「…なにもかも、ご承知のようね…」

 ニッコリと、笑いながら、続けた…

 「…もっとも、でなければ、あの米倉正造さんも、高見さんを、この場に招きは、しないでしょう…」

 「…招きは、しないって、どういうことでしょうか?…」

 「…アナタ…巻き込まれたのよ…」

 「…巻き込まれた?…」

 「…そうよ…」

 「…なにに、巻き込まれたんですか?…」

 「…米倉と水野の内紛に?…」

 「…内紛?…」

 「…どうして、私が…」

 「…アナタ…誰かに、似ているでしょ?…」

 「…誰かに、似ている?…」

 言いながら、その言葉で、わかった…

 私は、あの米倉好子さんに、似ている…

 あの水野透(とおる)と、結婚した米倉好子さんに、似ている…

 これは、当たり前…

 あの米倉正造は、私が、好子さんに、似ているから、私を選んだ…

 父親の平造が、血が繋がってない娘の好子さんを狙っていると思ったからだ…

 だから、好子さんに似た私を、平造に紹介して、好子さんの代わりに、平造に与えようと画策した…

 だから、私が、好子さんに似ているのは、当たり前…

 当たり前だ…

 そもそも、好子さんに似ているから、私は、米倉正造に、選ばれたのだ…

 だから、私は、おずおずと、

 「…好子さん…米倉好子さんに、ですか?…」

 と、和子に聞いた…

 「…そう…」

 和子が、嬉しそうに、相槌を打つ…

 「…そして、その好子さんを嫌っているひとが、米倉家にいるでしょ?…」

 「…澄子さんですか?…」

 「…当たり…」

 これも、嬉しそうに、和子は、言った…

 「…そして、アナタ…」

 「…私? …ですか?…」

 「…アナタは、やり過ぎたのよ…」

 「…やり過ぎた? …一体なにを私が、やり過ぎたんですか?…」

 意味がわからなかった…

 一体、私がなにを、やり過ぎたんだろうか?…

 「…聞くところによると、あの水野のお坊ちゃんも、本命は、あの米倉好子さんではなく、高見さん…アナタと、結婚したかったそうね…」

 「…エッ?…」

 驚いた…

 たしかに、自分でも、そう考えたことがある…

 あのとき、透(とおる)は、私か、好子さんのどっちと、結婚しても、水野は、米倉を救うと、宣言した…

 だが、

 私は、あのとき、自分は、当て馬だと、思った…

 本命は、好子さん…

 だが、それでは、ありきたりというか…

 だから、わざと、あのとき、私の名前を出したと、思った…

 そもそも、私は、米倉の人間でも、なんでもない…

 その私が、水野透(とおる)と、結婚すれば、米倉を救済するなんて、言葉は、意味不明というか…

 正直、わけがわからない(爆笑)…

 だから、断った…

 即座に、

 「…私は、透(とおる)さんと、結婚するつもりは、ありません…私の結婚相手は、私が決めます…」

 と、啖呵を切った…

 が、

 それを、快く思わない人間がいたとしても、不思議ではない…

 いや、

 違った…

 論点は、そこではない(笑)…

 論点は、そこではなく、驚いたのは、この和子が、

 「…本当は、透(とおる)は、私と結婚したかった…」

 と、断言したことだ…

 好子さんではなく、この高見ちづると、透(とおる)は、本当は、結婚したかったと、断言したことだ…

 自分でも、なんとなく、後で、気付いたが、この和子に言われて、その言葉が、確信に変わったというか…

 もしかして、あのとき、透(とおる)は、本当は、この私と結婚したかったのか?

 と、今さらながら、気付いた…

 だが、だとしたら、どうだ?

 私は、誰から、恨みを買う?

 もしかして、好子さんから、恨みを買った?

 好子さんが、透(とおる)の本命が、自分ではないと、気付いて、私を恨んだ?

 ありがちなことだ…

 だから、考えたが、答えは出ないというか…

 私が澄子さんの怒りを買っているのは、わかったが、もしかしたら、好子さんにも、憎まれているのでは?

 と、気付いた…

 が、これは、あくまで、想像…

 想像に過ぎない…

 好子さんが、私を嫌っている証拠は、ない…

 そして、そんなことを、色々考えていると、

 「…高見さん…」

 と、諏訪野和子が、声をかけた…

 「…なんでしょうか?…」

 「…高見さん…生きる上で、一番大切なことって、なんだか、わかる?…」

 いきなり、聞いた…

 私は、なぜ、この諏訪野和子が、いきなり、そんなことを、言うのか、わからなかった…

 文字通り、謎だった…

 だから、反射的に、

 「…わかりません…」

 と、答えた…

 それは、なにより、この諏訪野和子の意図が、わからないのが、原因だった…

 一体、この諏訪野和子が、私になにを、言わせたいのか、わからなかったのが、原因だった…

 「…答えは、愛されること…」

 と、諏訪野和子が、ニコニコと、楽しそうに、言った…

 「…愛されること? …ですか?…」

 「…そう…高見さん…アナタ、誰からも、愛されているでしょ?…」

 「…エッ?…」

 意味が、わからなかった…

 だから、思わず、

 「…私は、まだ独身ですが…」

 と、答えた…

 自分でも、わけが、わからなかったが、つい、口から出た…

 すると、またも、

 「…プッ!…」

 と、誰かが、吹き出した…

 私は、誰が、吹き出したか、見た…

 またも、寿さんだった…

 私が、寿さんを見ていることに、気付くと、

 「…スイマセン…」

 と、寿さんが、詫びた…

 「…でも、そういう意味では、ないと、思います…」

 この寿さんの言葉に、私も反論できなかった…

 私も、つい、大した考えもなく、
 
 「…私は、まだ独身ですが…」

 と、言ってしまった…

 これは、考えて見れば、私の潜在意識のどこかで、自分が、まだ独身であることに、引け目があるのかも、しれない…

 そう、思った…

 だから、つい、
 
 「…私は、まだ独身ですが…」

 と、言ってしまった…

 口に出してしまった…

 そういうことかも、しれない…

 が、

 私が、そんなことを、考えていると、

 「…米倉正造さん…高見さん…会ったばかりで、こんなことを、言うのも、失礼ですけれども、彼と、アナタは、まだ、なんの関係も、ないのでしょ?…」

 と、諏訪野和子が、聞いた…

 直球で、聞いた…

 私は、驚いたし、また、なぜ、いきなり、この諏訪野和子が、そんなことを、言うのかも、謎だった…

 だから、

 「…どうして、そんなことを…」

 と、言ってしまった…

 小声だが、つい、言ってしまった…

 「…アナタが、愛されているからよ…」

 「…私が、愛されている?…」

 「…米倉正造さんにも…水野透(とおる)さんにも…」

 「…」

 「…カラダの関係もなにもない…でも、男のひとが、高見さんのために、動く…決して、カラダ目当てでも、なんでもない…ただ、高見さんが、好きだから、動く…こんな嬉しいことって、他にある…」

 諏訪野和子が、力を込めて、言った…

 そして、その言葉には、実感が、こもっていたというか…

 変ないやらしさが、なかった…

 それは、やはりというか、この発言の主が、女だからだろう…

 私は、思った…

 女だから、

 同性だから、

 この発言に、素直に納得する…

 この発言の主が、男ならば、また違っただろう…

 だから、ふと、見ると、寿さんは、真剣な表情で、私と諏訪野和子さんのやりとりを聞いていたが、この場の、ただひとりの男である、諏訪野伸明さんは、どこか、居心地が悪そうだった…

 カラダ目当てうんぬんの言葉が、嫌だったに違いない(笑)…

 もしかしたら、この諏訪野伸明さんも、過去に、そういう言動があったからかも、しれない…

 身に覚えがあるのかも、しれなかった(笑)…

 だから、居心地が、悪いのかも、しれなかった(爆笑)…

 そして、そんなことを、考えていると、

 「…まあ、カラダを武器に、している娘もいるけれども…」

 と、意外なことを、言った…

 私は、

 「…誰ですか?…」

 と、聞きたかったが、さすがに、聞くわけには、いかなかった…

 すると、

 「…アナタに、よく似た方…」

 と、続けた…

 あの秋穂という娘のことだ…

 私は、思った…

              

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