魔物襲来と総司令の負傷
文字数 2,477文字
ザウバーが資料と向き合っていた頃、ダームとベネットはヘイデルに到着していた。ヘイデルの様子に大きく変わったところは無かったが、それでもダームは厳しい表情を浮かべる。
「魔族が攻撃してきてはいなそうだけど、それでも……なんだか不安」
ダームは空を見上げ、目を細める。
「変わったところはないか、それを確認する為にも街を回ってみよう。何も無ければそれで良い」
そう返すとベネットは歩き始め、ダームはその後を追う。二人は、回復薬を扱う店が在るかどうかを確認しながらヘイデルを巡った。
そして、警備兵施設の近くに来た際、その変化に気付かされた。施設には、負傷した兵が運び込まれ、その中にはアークの姿も在った。
この為、ダームは直ぐにアークへ駆け寄り、話し掛け様とする。しかし、ダームか近寄るよりも前にアークは警備兵施設に運び込まれ、会話を交わすことは出来なかった。
「どうしよう、アークさんの体も気になるけど、それよりもあんな怪我を負わせた何かが気になる」
ダームの話にベネットは頷き、アークがやってきた側を見た。
「まだ運ばれてくる兵が居る様だ。それを頼りに向かおう」
そう話すなり、ベネットは走り始め、ダームは直ぐにその後を追った。すると、その先には負傷した警備兵が多数居た。
負傷した兵の多くは、見た目こそ酷いものの自分で歩くことが出来ていた。しかし、そうでない者も多く存在し、ベネットは道すがら回復魔法を掛けて走った。
怪我を治された兵達は、何が起きたのか分からないまま目を丸くしていた。しかし、回復魔法を使った者は既にその場を駆け抜けており、説明を出来る者も居なかった。
この為、怪我を治された警備兵達は騒ぎ始めた。中には、怪我が治されたのだから戦いに戻ろうとする者も居た。
アークを欠いた警備兵達は、指揮をする立場の者が居らず迷走を始めた。そんな中、大きな声で今までの指示に従うよう言う者も現れ、殆どの者がそれに従った。
ごく一部の警備兵が、戦いの場に戻ろうとした。その警備兵を止めようとした者も居たが、責任感からか止めようとした者を振り切って戦いの場へ向かった。
ところが、戦いの場では既に厄災の元は倒されており、駆け付けた警備兵は力無くその場でしゃがみ込んだ。
「あの状態から、一体誰が……」
警備兵の目の前には、倒された魔物が折り重なって黒い塊となっていた。命を奪われた魔物は既に動かず、倒れた時に巻き上げた砂だけが風に乗って動いている。
「アークさんは、この魔物にやられたのかな?」
「恐らく、な。一体だけなら倒せただろうが……無傷の個体が居た辺り、流石に倒しきれ無かったのだろう」
ダームとベネットは、倒したばかりの魔物を眺めながら話していた。魔物の亡骸はヘイデルの入口近くに有り、壊された馬車も近くに在った。
「マルン側の方では魔物は出なかったけど、こうやって被害に遭う人も居る。それも、アークさんでも倒せない様な魔物の攻撃で」
ダームは、壊されてしまった馬車を見た。馬車の中に人は居なかったが、居たはずの人が何処にいるかは不明だった。
「魔物が力を付けてきているのかも知れないな。ヘイデル近くに出没する魔物は、これ程に強く徒党を組んで人間に襲いかかる種は居なかった筈だ」
ベネットは、黒い塊と化した魔物の亡骸を見た。その大きさは壊された馬車よりも大きく、生えている毛はダームの髪よりも長かった。
「先ずは、アークに会えないか警備兵施設に向かおう。アークの安否を確認し、ここに居た魔物を倒したことも伝えたい」
「そうだね、今の所は他の魔物は見当たらないし……会わせて貰えるかは分からないけど、行ってみよう」
ダームとベネットは道を引き返し、警備兵施設へ向かおうとした。しかし、その途中で見知った顔に呼びかけられる。
「あら、負傷者が多いからって呼び出されて来たのに怪我人が居なくて何かと思えば……魔法で一気に治したってことね」
ベネットは、ルキアの声で立ち止まり、ダームは以前知り合った医者の名を思い出そうとした。
「元々、休暇だったのに呼び出されたから、私としては楽で良かったけど。急いで何処かに向かおうとしていた辺り、まだ問題があるのかしら?」
ルキアに問われたベネットは、アークが負傷していたことを伝えた。そして、アークの状態と騒ぎの詳細を聞く為、警備兵施設に向かっていたこともルキアに伝える。
「成る程ねえ。まあ、アークは治さないでおきなさい。そうでもしないと、アイツは休まないから」
ルキアは笑い、待機したままの警備兵達をざっと見た。警備兵達は未だ行動を起こすことは無く、ただぼんやりと指示を待っている。
「酷い怪我なら怪我で、警備兵施設じゃ診きれないだろうって病院に運び込まれるでしょうし、病院に運び込まれないなら大した怪我じゃないってこと。で、病院に運び込まれたら運び込まれたで、アークは私の好きに出来る」
ルキアは片目を瞑り、口角を上げた。
「尤も、アークが軽傷なら、警備兵施設に運び込まれはしないで、ここに残って指揮をしていたでしょうね。だから、その内病院にアークはやってくる。そうしたら、強制的に休暇を取らせるから」
その話にダームは呆けた表情を浮かべた。しかし、それでも尚ルキアは話を続ける。
「入院させてしまえば、アークと話す時間なんてのは、院長権限で何とでも出来るのよ。たとえ、アークが会話も出来る状態まで回復しようと、アイツが取るべきだった休暇を取るまで退院させてやらないことだってね」
ルキアは、言うだけ言って胸を張った。一方、ベネットは何処か呆れた様子で息を吐く。
「ま、一応此処に残された警備兵達は、怪我を確認してから病院に戻るけど、その頃にはアークも病院に居るかも知れないわね」
それを聞いたダームとベネットは顔を見合わせ、それを見たルキアは笑顔を浮かべた。
「だから、暫く待っていなさい。アークに合う手筈は私が整えるから」
ルキアの話にダームとベネットは礼を述べた。そして、ルキアの確認が終わった後で、彼女達はヘイデル病院まで向かった。
「魔族が攻撃してきてはいなそうだけど、それでも……なんだか不安」
ダームは空を見上げ、目を細める。
「変わったところはないか、それを確認する為にも街を回ってみよう。何も無ければそれで良い」
そう返すとベネットは歩き始め、ダームはその後を追う。二人は、回復薬を扱う店が在るかどうかを確認しながらヘイデルを巡った。
そして、警備兵施設の近くに来た際、その変化に気付かされた。施設には、負傷した兵が運び込まれ、その中にはアークの姿も在った。
この為、ダームは直ぐにアークへ駆け寄り、話し掛け様とする。しかし、ダームか近寄るよりも前にアークは警備兵施設に運び込まれ、会話を交わすことは出来なかった。
「どうしよう、アークさんの体も気になるけど、それよりもあんな怪我を負わせた何かが気になる」
ダームの話にベネットは頷き、アークがやってきた側を見た。
「まだ運ばれてくる兵が居る様だ。それを頼りに向かおう」
そう話すなり、ベネットは走り始め、ダームは直ぐにその後を追った。すると、その先には負傷した警備兵が多数居た。
負傷した兵の多くは、見た目こそ酷いものの自分で歩くことが出来ていた。しかし、そうでない者も多く存在し、ベネットは道すがら回復魔法を掛けて走った。
怪我を治された兵達は、何が起きたのか分からないまま目を丸くしていた。しかし、回復魔法を使った者は既にその場を駆け抜けており、説明を出来る者も居なかった。
この為、怪我を治された警備兵達は騒ぎ始めた。中には、怪我が治されたのだから戦いに戻ろうとする者も居た。
アークを欠いた警備兵達は、指揮をする立場の者が居らず迷走を始めた。そんな中、大きな声で今までの指示に従うよう言う者も現れ、殆どの者がそれに従った。
ごく一部の警備兵が、戦いの場に戻ろうとした。その警備兵を止めようとした者も居たが、責任感からか止めようとした者を振り切って戦いの場へ向かった。
ところが、戦いの場では既に厄災の元は倒されており、駆け付けた警備兵は力無くその場でしゃがみ込んだ。
「あの状態から、一体誰が……」
警備兵の目の前には、倒された魔物が折り重なって黒い塊となっていた。命を奪われた魔物は既に動かず、倒れた時に巻き上げた砂だけが風に乗って動いている。
「アークさんは、この魔物にやられたのかな?」
「恐らく、な。一体だけなら倒せただろうが……無傷の個体が居た辺り、流石に倒しきれ無かったのだろう」
ダームとベネットは、倒したばかりの魔物を眺めながら話していた。魔物の亡骸はヘイデルの入口近くに有り、壊された馬車も近くに在った。
「マルン側の方では魔物は出なかったけど、こうやって被害に遭う人も居る。それも、アークさんでも倒せない様な魔物の攻撃で」
ダームは、壊されてしまった馬車を見た。馬車の中に人は居なかったが、居たはずの人が何処にいるかは不明だった。
「魔物が力を付けてきているのかも知れないな。ヘイデル近くに出没する魔物は、これ程に強く徒党を組んで人間に襲いかかる種は居なかった筈だ」
ベネットは、黒い塊と化した魔物の亡骸を見た。その大きさは壊された馬車よりも大きく、生えている毛はダームの髪よりも長かった。
「先ずは、アークに会えないか警備兵施設に向かおう。アークの安否を確認し、ここに居た魔物を倒したことも伝えたい」
「そうだね、今の所は他の魔物は見当たらないし……会わせて貰えるかは分からないけど、行ってみよう」
ダームとベネットは道を引き返し、警備兵施設へ向かおうとした。しかし、その途中で見知った顔に呼びかけられる。
「あら、負傷者が多いからって呼び出されて来たのに怪我人が居なくて何かと思えば……魔法で一気に治したってことね」
ベネットは、ルキアの声で立ち止まり、ダームは以前知り合った医者の名を思い出そうとした。
「元々、休暇だったのに呼び出されたから、私としては楽で良かったけど。急いで何処かに向かおうとしていた辺り、まだ問題があるのかしら?」
ルキアに問われたベネットは、アークが負傷していたことを伝えた。そして、アークの状態と騒ぎの詳細を聞く為、警備兵施設に向かっていたこともルキアに伝える。
「成る程ねえ。まあ、アークは治さないでおきなさい。そうでもしないと、アイツは休まないから」
ルキアは笑い、待機したままの警備兵達をざっと見た。警備兵達は未だ行動を起こすことは無く、ただぼんやりと指示を待っている。
「酷い怪我なら怪我で、警備兵施設じゃ診きれないだろうって病院に運び込まれるでしょうし、病院に運び込まれないなら大した怪我じゃないってこと。で、病院に運び込まれたら運び込まれたで、アークは私の好きに出来る」
ルキアは片目を瞑り、口角を上げた。
「尤も、アークが軽傷なら、警備兵施設に運び込まれはしないで、ここに残って指揮をしていたでしょうね。だから、その内病院にアークはやってくる。そうしたら、強制的に休暇を取らせるから」
その話にダームは呆けた表情を浮かべた。しかし、それでも尚ルキアは話を続ける。
「入院させてしまえば、アークと話す時間なんてのは、院長権限で何とでも出来るのよ。たとえ、アークが会話も出来る状態まで回復しようと、アイツが取るべきだった休暇を取るまで退院させてやらないことだってね」
ルキアは、言うだけ言って胸を張った。一方、ベネットは何処か呆れた様子で息を吐く。
「ま、一応此処に残された警備兵達は、怪我を確認してから病院に戻るけど、その頃にはアークも病院に居るかも知れないわね」
それを聞いたダームとベネットは顔を見合わせ、それを見たルキアは笑顔を浮かべた。
「だから、暫く待っていなさい。アークに合う手筈は私が整えるから」
ルキアの話にダームとベネットは礼を述べた。そして、ルキアの確認が終わった後で、彼女達はヘイデル病院まで向かった。