浮かんだ疑問と小さな手掛かり

文字数 1,124文字

(腹を満たして回復する程度なら、慣れない作業の連続で無理し過ぎたのも、急な魔力減少の原因の一つかもな)
 ザウバーは、食後の茶を用意しながら大きく欠伸をした。そして、手際良くカップに茶を注ぐと、椅子に座って目を細める。

(箱に入っていた冊子は、あれの他にもある。そっちに何かしらの手掛かりがあるかも知れねえ。大体にして、太古に禁じられた魔術が、兄貴の向かった先に関わっている訳でも無いだろう。いや、無い筈だ)
 青年は茶を一口飲み、温かな息を吐き出した。

(もし、兄貴の専門が魔術研究だったら……いや、兄貴は転移魔法の腕を買われて、人の立ち入らない遺跡へ向かう時に重宝されて考古学者の道に入ったって……それで、なんだ? 何かが引っ掛かかる。何か忘れていることがあるのか?)
 カップに残った茶を飲み干すと、ザウバーはカップを握る力を強めた。

(思いだそうと記憶の糸を手繰っても、思い出したい何かに手が届かない。俺は、一体何を忘れている?)
 ザウバーは手を組み、肘をテーブルに着けた。

(何かしらの魔術か? だとしたら、一体誰にかけられた?)
 目を瞑って額を手に乗せ、ザウバーは息を吐く。

(悩んでも、何時だって答えはでねえ。片付けをしたら、別の方向から探ろう)
 ザウバーは食事の後片付けをし、それから箱に入った冊子に向き合った。彼は、表紙が上等な革で作られた冊子を手にし、その質感を指先で確かめる。

(内容の厚さに比べて、表紙に手が込んでいるが……特に術が刻まれている気配はない。これに手掛かりがあるなら、それで良いが)
 革が表紙の冊子を様々な方向から確認し、ザウバーは表紙を捲った。その中には、日記と思われる記載がなされ、ザウバーは一文字一文字を漏らさずに読んでいく。

(これの何処かに、兄貴の行き先が書いてあれば良いんだが)
 ザウバーは、小さな情報さえも見逃さぬよう、時間を掛けて冊子を読んだ。すると、その後半部分に、長旅に必要なアイテムのリストを発見する。

(この内容から予測するに、あまり途中に補給地の無い場所へ向かったか。兄貴なら、一度行った場所なら魔法で向かえる。それに、帰還するのも必要な魔力さえあれば可能だ。つまり、予備はあれど、必要以上の荷物は持たない筈だ)
 ザウバーは、リストを確認した後でページを捲った。しかし、その先は白紙で、枚数も無かった。

(ここで終わりか……いよいよ、これが問題の遺跡へ向かう前、最後に書いたものかも知れねえな)
 ザウバーは細く長い息を吐いた。

(何だろうな……手掛かりが見つかったなら、もう少し歓喜すると思っていたけど、恐ろしい位に感情が動かねえ)
 脱力しながらも、ザウバーは兄の部屋から持ち帰った全てを次々に精査していった。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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