弱音を吐き出せる友人
文字数 4,244文字
広くはない部屋の中、二人の少年が座っていた。二人の間には木製の机があり、それには所々に小さな傷が出来ている。その机は正方形をしており、椅子を使わないで座ると、少年らには使い易い高さを有していた。また、少年らは小さめのクッションに尻を乗せており、それは所々が解れている。
二人の少年は向かい合う形で座っており、久しぶりの会話を楽しむ様に笑い合っている。少年らの会話が盛り上がり始めた頃、彼らの横に円形をしたトレイを持った女性が現れた。女性が持つトレイには硝子製のコップが乗せられており、それらには冷たいジュースが注がれている。女性は、ジュースの注がれたコップを少年の前に置くと、柔らかな笑顔を浮かべて口を開いた。
「ごめんね、急なことだから何も用意出来なくて」
そう言うと、女性はトレイを胸に抱え苦笑する。
「謝らないで下さい。フレンに会えただけで嬉しいから」
少年は、その台詞を強調するかの様に、対面に座る友人の目を見つめる。すると、少年の仕草を見た女性は安心した様に目を細め、嬉しそうに口を開いた。
「ダーム君は優しいのね。君みたいな子が友達で、フレンは幸せ者ね」
女性は、そう話すと左側に居る少年の顔を見つめて微笑んだ。彼女に見つめられた少年は小さく頷き、もう一人の少年は頬を赤らめる。
「私はご飯の用意をするから、ゆっくりしていてね」
それだけ言うと女性は立ち去り、残された少年達は顔を見合わせて笑い合った。
「元気みたいで良かったよ。お前の死体が見つからないって聞いたし……混乱に乗じて連れ去られたって噂も有ったんだぜ?」
フレンは、そう言うと腕を組み、軽く笑ってみせた。彼の話を聞いたダームはつられて笑い、先ほど出されジュースに口を付ける。
「僕も、フレンが生きてるって分かって嬉しい。だって、僕が寝ている内に色々起きてて」
「で、俺達が全員居なくなったと思ったんだっけ?」
フレンの台詞にダームは苦笑し、気まずそうに頭を掻いた。
「俺も、ダームの立場だったらそう考えるし……それよりさ、あちこち旅してんだろ? もっと色々聞かせてくれよ」
ダームは、友人の頼みを聞き入れ、旅に出てからのことを話し始めた。フレンは、彼の話を楽しそうに聞き、ダームのことが羨ましいとまで言い始める。
そうして和やかな時間が過ぎていき、二人の少年の前にリアンの用意した夕食が運ばれてくる。リアンの作った料理は野菜中心の質素なものばかりだったが、そのどれもが温かな湯気を立ち上らせていた。また、料理の盛られた皿は木製で、それが食卓に更なる温かみを与えている。
「いただきます」
フレンは、そう言うや否や料理を食べ始め、リアンはダームに遠慮なく食べる様伝えた。厚意を受けたダームはリアンへ礼を言い、料理に口を付ける。
「有り合わせの材料だけど、お口に合うかしら?」
食べ始めたダームを見たリアンは、柔らかな笑みを浮かべながら問い掛けた。彼女の質問を聞いたダームは小さく頷き、口に含んだ食物を嚥下する。
「とても美味しいです。それに、何だか懐かしい」
そう伝えると、ダームは微笑しながらリアンの目を見つめる。この時、ダームの瞳には涙が浮かんでおり、なんらかの感情の揺れがあったことが窺えた。
「良かった。じゃあ、お腹いっぱい食べて頂戴ね」
リアンは、そう言うとダームの目を見た。ダームはリアンに礼を言い、目の前に用意された料理を、次々に口に入れていく。その後、三人での食事は和やかに進んでいき、机上に用意された料理は全て空になった。
リアンは、空の皿を集めると立ち上がり、静かに台所へ向かっていく。この際、ダームは皿洗いを申し出るが、リアンは断った。リアンの台詞を聞いたダームは素直に肯定の返事をなし、友人と目線を合わせる。
「ゆっくりしていけって。お客なんだしさ」
そう伝えると、フレンは笑顔を浮かべてみせた。一方、友人の台詞を聞いたダームは小さく頷き、笑い返す。
「で、お前はこれからどうするの? ここまで来たってことは、やっぱ戻って来る?」
ダームは、フレンの問いに目を丸くし、友人へ返すべき答えを模索する。しかし、直ぐには決められないのか、悲しそうな表情を浮かべて口を開いた。
「ごめん。直ぐには決められない」
そう言うとダームは苦笑し、軽く鼻の頭を掻く。
「帰れるなら、そうしたいって思ってた。生きてる人が居て嬉しかったし、前みたいな生活に戻れるかなとも思った」
フレンは友人の話を静かに聞き、ダームは恥ずかしそうに微笑んでみせる。
「でも、色んな所に行って、色んなことが有って、辛い時も有るけどみんな優しくて」
ダームは、そこまで話すと目を伏せ、何度か手の甲で瞼を擦った。
「だから、僕は」
「二人共、お風呂の準備が出来たから冷めないうちに入って」
その時、ダームの声を遮る様にリアンの声が響く。フレンは、彼女に対して返事をなすと、眼前に居るダームの肩を軽く叩いた。
「風呂に入って、ゆっくり考えればいいよ。着替えは、俺の貸してやるから」
そう言って微笑むと、フレンは立ち上がってダームの背中を叩いた。ダームは、そんな友人に礼を言い、笑顔を浮かべながら立ち上がる。その後、フレンは友人を浴室に案内し、ダームは入浴すべく服を脱ぎ始めた。
服を脱ぎ終えたダームは、ゆっくりと浴室の戸を開ける。ダームが入ろうとする浴室は狭く、体を洗うにも不便な程であった。ダームは、体を軽く洗うと湯船に浸かり、目を瞑りながら息を吐き出す。彼が浸かっている湯船は小さく、ダームは膝を抱えながら入浴していた。
「嬉しいけど、いきなりは決められないよ」
目を瞑ったまま呟くと、少年は膝を引き寄せる。ダームは、そのままの姿勢で入浴を続け、数分が経った頃に浴室を出た。脱衣場には、フレンの用意した服が置かれ、それを覆う様にタオルが乗せられている。ダームは、白いタオルを手に取ると、それを広げて体に付いた水分を拭き取っていった。
一通り体を拭き終えたダームは、タオルを肩に掛け、下から順に衣服を身に付けていく。そして、全ての服を着込むと、湿ったタオルを抱えてフレンを探し始めた。程なくして、彼はフレンを見付け、礼を言ってからタオルについて質問する。質問を受けたフレンはタオルを受け取り、脱衣場の隅に置かれた籠へ投げ込んだ。
「そんな気、使わなくて良いから。友達だろ?」
そう言うとフレンは笑顔を浮かべ、ダームの肩を何度か叩く。彼の台詞を聞いたダームは照れくさそうに笑い、嬉しそうに頷いた。
「じゃ、俺も入って来る」
フレンは、それだけ言うとダームの前から居なくなる。ダームは、そんな友人を見送ると、夕食時に座っていた場所に腰を下ろした。ダームが入浴を終えてから数分後、フレンは勢い良く友人の背中にのしかかった。この時、フレンの髪は濡れたままで、何粒もの水滴がダームの体に滴り落ちる。
「フレン、重いって」
ダームは、そう言いながら顔を後方へ向け苦笑する。しかし、フレンはダームの台詞などお構い無しに、更に体重をかけていった。
「そうか?」
それだけ言うと、フレンはダームから離れ、髪を拭き始める。一方、重さから解放されたダームと言えば、フレンの方に向き直りながら口を開いた。
「そうだよ。いきなり体重掛けられたら重いって」
ダームは笑顔を浮かべ、前方からフレンの体にのし掛かる。対するフレンは、器用に後ずさると、そのまま勢い良くしゃがみ込んだ。この際、彼に体重を預けていたダームはバランスを崩して倒れ、軽く鼻を床にぶつける。それを見たフレンは思わず吹き出し、ダームは鼻を押さえながら立ち上がった。
「ごめん、ごめん。まさかぶつかると迄は」
フレンは、そこまで話すと笑い始め、笑い声を聞いたダームは不機嫌そうに声を漏らした。この時、ダームの鼻は打撲により赤くなっていたが、幸いにも出血は無かった。
「良いよ。痛く無いし」
ダームは、そう言うと苦笑いを浮かべながら立ち上がる。
「あの日から、色んな所怪我したし、この位の痛み」
そこまで話すと、ダームは何故か浮かない表情を浮かべ目を伏せる。フレンは、そんな友人の変化を感じたのか、心配そうに口を開いた。
「ごめん! 薬探して」
「違うんだ、フレン」
ダームは、友人の話を遮る様に言い、フレンの肩を軽く掴む。
「痛いんじゃなくて、色々思い出しちゃって」
そこまで伝えると、ダームは手を離して笑う。
「怖かったんだ。何もかも無くなったって絶望した。自分も死ぬんじゃないかって思った」
ダームは、そう説明すると目を瞑り、呼吸を整える。
「今でも、たまに思い出す。ごめん……何を言いたいか、僕にも分からなくなっちゃった」
そう話すとダームは苦笑し、彼の台詞を聞いたフレンは静かに息を吐き出した。
「俺は、その場所に居なかったから偉いことは言えないけど……生き残ったお前が苦しんでいたら、死んだ奴らも辛いと思う」
フレンは、ダームの肩を軽く叩いた。
「この町だって、命を掛けて戦ってくれた人が居るから無事だった」
フレンは、しっかりした声で話し続けていく。
「だから、助かったお前が生き続けなくてどうするんだよ」
そこまで話すと、フレンはダームの頭を軽く叩いた。ダームは、上目遣いでフレンの顔を見ると、微笑しながら小さく頷く。
「そうそう。みんなの分まで頑張らないと」
フレンは、そう言うと腕を組み、自信あり気に胸を張った。そんな折り、少年らの前にリアンが現れ、笑顔を浮かべながら口を開く。
「二人共、そろそろ遅いし寝なさいね。明日だって話は出来るんだから」
そう告げると、リアンはフレンの目を見つめた。すると、フレンは彼女の言葉を受け入れ、ダームの手首を掴んで寝室へ向かい始める。寝室には、小さなベッドが二台詰め込まれ、ベッド以外には何も置かれていない様だった。フレンは、向かって左のベッドに寝転がると、その端へ移動する。
「狭くてごめんな。なるべく詰めるから」
フレンは、言いながらベッドの開いたスペースを軽く叩いた。一方、友人の仕草を見たダームは首を振り、フレンの示した場所で横になる。
「怒られないように話そうぜ?」
そう話すと、フレンは横に居るダームの目を見つめた。対するダームは楽しそうに頷き、二人は小声で談笑を始める。彼らの談笑は、リアンが寝室に来るまで続き、話すことを止めた二人は直ぐに眠りに落ちてしまった。
二人の少年は向かい合う形で座っており、久しぶりの会話を楽しむ様に笑い合っている。少年らの会話が盛り上がり始めた頃、彼らの横に円形をしたトレイを持った女性が現れた。女性が持つトレイには硝子製のコップが乗せられており、それらには冷たいジュースが注がれている。女性は、ジュースの注がれたコップを少年の前に置くと、柔らかな笑顔を浮かべて口を開いた。
「ごめんね、急なことだから何も用意出来なくて」
そう言うと、女性はトレイを胸に抱え苦笑する。
「謝らないで下さい。フレンに会えただけで嬉しいから」
少年は、その台詞を強調するかの様に、対面に座る友人の目を見つめる。すると、少年の仕草を見た女性は安心した様に目を細め、嬉しそうに口を開いた。
「ダーム君は優しいのね。君みたいな子が友達で、フレンは幸せ者ね」
女性は、そう話すと左側に居る少年の顔を見つめて微笑んだ。彼女に見つめられた少年は小さく頷き、もう一人の少年は頬を赤らめる。
「私はご飯の用意をするから、ゆっくりしていてね」
それだけ言うと女性は立ち去り、残された少年達は顔を見合わせて笑い合った。
「元気みたいで良かったよ。お前の死体が見つからないって聞いたし……混乱に乗じて連れ去られたって噂も有ったんだぜ?」
フレンは、そう言うと腕を組み、軽く笑ってみせた。彼の話を聞いたダームはつられて笑い、先ほど出されジュースに口を付ける。
「僕も、フレンが生きてるって分かって嬉しい。だって、僕が寝ている内に色々起きてて」
「で、俺達が全員居なくなったと思ったんだっけ?」
フレンの台詞にダームは苦笑し、気まずそうに頭を掻いた。
「俺も、ダームの立場だったらそう考えるし……それよりさ、あちこち旅してんだろ? もっと色々聞かせてくれよ」
ダームは、友人の頼みを聞き入れ、旅に出てからのことを話し始めた。フレンは、彼の話を楽しそうに聞き、ダームのことが羨ましいとまで言い始める。
そうして和やかな時間が過ぎていき、二人の少年の前にリアンの用意した夕食が運ばれてくる。リアンの作った料理は野菜中心の質素なものばかりだったが、そのどれもが温かな湯気を立ち上らせていた。また、料理の盛られた皿は木製で、それが食卓に更なる温かみを与えている。
「いただきます」
フレンは、そう言うや否や料理を食べ始め、リアンはダームに遠慮なく食べる様伝えた。厚意を受けたダームはリアンへ礼を言い、料理に口を付ける。
「有り合わせの材料だけど、お口に合うかしら?」
食べ始めたダームを見たリアンは、柔らかな笑みを浮かべながら問い掛けた。彼女の質問を聞いたダームは小さく頷き、口に含んだ食物を嚥下する。
「とても美味しいです。それに、何だか懐かしい」
そう伝えると、ダームは微笑しながらリアンの目を見つめる。この時、ダームの瞳には涙が浮かんでおり、なんらかの感情の揺れがあったことが窺えた。
「良かった。じゃあ、お腹いっぱい食べて頂戴ね」
リアンは、そう言うとダームの目を見た。ダームはリアンに礼を言い、目の前に用意された料理を、次々に口に入れていく。その後、三人での食事は和やかに進んでいき、机上に用意された料理は全て空になった。
リアンは、空の皿を集めると立ち上がり、静かに台所へ向かっていく。この際、ダームは皿洗いを申し出るが、リアンは断った。リアンの台詞を聞いたダームは素直に肯定の返事をなし、友人と目線を合わせる。
「ゆっくりしていけって。お客なんだしさ」
そう伝えると、フレンは笑顔を浮かべてみせた。一方、友人の台詞を聞いたダームは小さく頷き、笑い返す。
「で、お前はこれからどうするの? ここまで来たってことは、やっぱ戻って来る?」
ダームは、フレンの問いに目を丸くし、友人へ返すべき答えを模索する。しかし、直ぐには決められないのか、悲しそうな表情を浮かべて口を開いた。
「ごめん。直ぐには決められない」
そう言うとダームは苦笑し、軽く鼻の頭を掻く。
「帰れるなら、そうしたいって思ってた。生きてる人が居て嬉しかったし、前みたいな生活に戻れるかなとも思った」
フレンは友人の話を静かに聞き、ダームは恥ずかしそうに微笑んでみせる。
「でも、色んな所に行って、色んなことが有って、辛い時も有るけどみんな優しくて」
ダームは、そこまで話すと目を伏せ、何度か手の甲で瞼を擦った。
「だから、僕は」
「二人共、お風呂の準備が出来たから冷めないうちに入って」
その時、ダームの声を遮る様にリアンの声が響く。フレンは、彼女に対して返事をなすと、眼前に居るダームの肩を軽く叩いた。
「風呂に入って、ゆっくり考えればいいよ。着替えは、俺の貸してやるから」
そう言って微笑むと、フレンは立ち上がってダームの背中を叩いた。ダームは、そんな友人に礼を言い、笑顔を浮かべながら立ち上がる。その後、フレンは友人を浴室に案内し、ダームは入浴すべく服を脱ぎ始めた。
服を脱ぎ終えたダームは、ゆっくりと浴室の戸を開ける。ダームが入ろうとする浴室は狭く、体を洗うにも不便な程であった。ダームは、体を軽く洗うと湯船に浸かり、目を瞑りながら息を吐き出す。彼が浸かっている湯船は小さく、ダームは膝を抱えながら入浴していた。
「嬉しいけど、いきなりは決められないよ」
目を瞑ったまま呟くと、少年は膝を引き寄せる。ダームは、そのままの姿勢で入浴を続け、数分が経った頃に浴室を出た。脱衣場には、フレンの用意した服が置かれ、それを覆う様にタオルが乗せられている。ダームは、白いタオルを手に取ると、それを広げて体に付いた水分を拭き取っていった。
一通り体を拭き終えたダームは、タオルを肩に掛け、下から順に衣服を身に付けていく。そして、全ての服を着込むと、湿ったタオルを抱えてフレンを探し始めた。程なくして、彼はフレンを見付け、礼を言ってからタオルについて質問する。質問を受けたフレンはタオルを受け取り、脱衣場の隅に置かれた籠へ投げ込んだ。
「そんな気、使わなくて良いから。友達だろ?」
そう言うとフレンは笑顔を浮かべ、ダームの肩を何度か叩く。彼の台詞を聞いたダームは照れくさそうに笑い、嬉しそうに頷いた。
「じゃ、俺も入って来る」
フレンは、それだけ言うとダームの前から居なくなる。ダームは、そんな友人を見送ると、夕食時に座っていた場所に腰を下ろした。ダームが入浴を終えてから数分後、フレンは勢い良く友人の背中にのしかかった。この時、フレンの髪は濡れたままで、何粒もの水滴がダームの体に滴り落ちる。
「フレン、重いって」
ダームは、そう言いながら顔を後方へ向け苦笑する。しかし、フレンはダームの台詞などお構い無しに、更に体重をかけていった。
「そうか?」
それだけ言うと、フレンはダームから離れ、髪を拭き始める。一方、重さから解放されたダームと言えば、フレンの方に向き直りながら口を開いた。
「そうだよ。いきなり体重掛けられたら重いって」
ダームは笑顔を浮かべ、前方からフレンの体にのし掛かる。対するフレンは、器用に後ずさると、そのまま勢い良くしゃがみ込んだ。この際、彼に体重を預けていたダームはバランスを崩して倒れ、軽く鼻を床にぶつける。それを見たフレンは思わず吹き出し、ダームは鼻を押さえながら立ち上がった。
「ごめん、ごめん。まさかぶつかると迄は」
フレンは、そこまで話すと笑い始め、笑い声を聞いたダームは不機嫌そうに声を漏らした。この時、ダームの鼻は打撲により赤くなっていたが、幸いにも出血は無かった。
「良いよ。痛く無いし」
ダームは、そう言うと苦笑いを浮かべながら立ち上がる。
「あの日から、色んな所怪我したし、この位の痛み」
そこまで話すと、ダームは何故か浮かない表情を浮かべ目を伏せる。フレンは、そんな友人の変化を感じたのか、心配そうに口を開いた。
「ごめん! 薬探して」
「違うんだ、フレン」
ダームは、友人の話を遮る様に言い、フレンの肩を軽く掴む。
「痛いんじゃなくて、色々思い出しちゃって」
そこまで伝えると、ダームは手を離して笑う。
「怖かったんだ。何もかも無くなったって絶望した。自分も死ぬんじゃないかって思った」
ダームは、そう説明すると目を瞑り、呼吸を整える。
「今でも、たまに思い出す。ごめん……何を言いたいか、僕にも分からなくなっちゃった」
そう話すとダームは苦笑し、彼の台詞を聞いたフレンは静かに息を吐き出した。
「俺は、その場所に居なかったから偉いことは言えないけど……生き残ったお前が苦しんでいたら、死んだ奴らも辛いと思う」
フレンは、ダームの肩を軽く叩いた。
「この町だって、命を掛けて戦ってくれた人が居るから無事だった」
フレンは、しっかりした声で話し続けていく。
「だから、助かったお前が生き続けなくてどうするんだよ」
そこまで話すと、フレンはダームの頭を軽く叩いた。ダームは、上目遣いでフレンの顔を見ると、微笑しながら小さく頷く。
「そうそう。みんなの分まで頑張らないと」
フレンは、そう言うと腕を組み、自信あり気に胸を張った。そんな折り、少年らの前にリアンが現れ、笑顔を浮かべながら口を開く。
「二人共、そろそろ遅いし寝なさいね。明日だって話は出来るんだから」
そう告げると、リアンはフレンの目を見つめた。すると、フレンは彼女の言葉を受け入れ、ダームの手首を掴んで寝室へ向かい始める。寝室には、小さなベッドが二台詰め込まれ、ベッド以外には何も置かれていない様だった。フレンは、向かって左のベッドに寝転がると、その端へ移動する。
「狭くてごめんな。なるべく詰めるから」
フレンは、言いながらベッドの開いたスペースを軽く叩いた。一方、友人の仕草を見たダームは首を振り、フレンの示した場所で横になる。
「怒られないように話そうぜ?」
そう話すと、フレンは横に居るダームの目を見つめた。対するダームは楽しそうに頷き、二人は小声で談笑を始める。彼らの談笑は、リアンが寝室に来るまで続き、話すことを止めた二人は直ぐに眠りに落ちてしまった。