強く吹く風
文字数 2,605文字
岩の周りを歩き始めてから数時間、ダームの耳に乾いた風の音が届く。その音は進むに連れて大きくなり、ダームは岩の隙間から強風が吹いている場所を見つけた。目的となる場所を見つけた少年は、直ぐにその場所へ駆け寄った。しかし、彼は駆け寄るなり風によって吹き飛ばされ、見たザウバーは少年の腕を掴もうとする。
残念なことにザウバーの手は届かず、ダームは吹き飛ばされてしまった。少年はその勢いによって転び、右半身を下にしたまま辛そうな声を漏らす。それでも、少年は十秒も待たずに体を起こし、重心を低く保って仲間の元に戻った。
「油断しちゃった」
少年は恥ずかしそうに苦笑する。この時、ダームの髪は風によって乱れ、頬や手の甲から血が滲んでいた。また、地面に擦れた服は破れている箇所もあり、そこから柔らかな肌が覗いている。
ベネットは、心配そうにダームの目を見つめ、呪文を唱えた。すると、直ぐに傷は塞がり、ダームは礼を述べる。その後、少年は強風の吹いている方を見やり、掠れた声で話し始めた。
「離れた場所からなら進めると思うけど、どうしよっか? 調べたら、何かあるかも知れないし」
そう話してから、ダームは仲間の顔を見上げる。すると、ザウバーが風の吹く方へ進んで行き、風の威力が弱まった辺りで立ち止まった。彼は、そうした後で風が吹き出している隙間を見つめ、暫くしてから息を吐き出す。
「このまま進むぞ。ここに手掛かりは無さそうだ」
青年は、そう言うや否や歩みを進め、ダームは不思議そうに後を追う。ベネットは、風の吹き出す場所をじっと見つめ、それからダームの後に続いた。そうして三人は探索を続けていき、再び風の吹き出す場所を見つけ出す。その風の強さは先程より強く、地面が削れている程だった。また、風音も強く、ダームは不機嫌そうな表情を浮かべる。
「さっきより強いけど、どう?」
少年は仲間の顔を見上げた。すると、青年は足元に有った小石を拾い、風の吹いている場所へ向けて投げた。その小石は風に乗って勢い良く飛んでいき、それを見たダームは目を丸くする。
「通れ無さそうな気がしてきた」
そう呟くと、少年は半歩後ずさる。青年は、風が吹き出ている隙間を見つめ、暫くそうした後で強く目を瞑った。
「離れりゃ、通れねえこともねえよ。ここの隙間が、人も通れそうなのは気になるが……ここからじゃ、奥まで見られねえから判断つかねえ」
ザウバーは岩から離れ、風が弱まった所で風の吹き出す場所を見つめる。そこには、一人ならぎりぎり通れそうな隙間が有り、それを確認したザウバーは目を瞑って腕を組んだ。その様子を見たダームは、不思議そうに青年の元へ近付く。少年は岩の方を見つめると、大きな瞬きをした。
「幅を見ただけなら、通れそうだけど」
ダームは、そこまで言ったところで咳きこみ、岩に背を向ける。
「これだけ風が強くちゃ無理だよ」
そう言うと、少年は気怠るそうに目を瞑る。一方、青年はゆっくり片目を開き、溜め息交じりに言葉を発した。
「だよな」
それだけ言うと、ザウバーは進み始める。彼の仲間は後を追い、三人は尚も調査を続けていった。岩に沿って進み続けると、またしても強い風が吹き出している場所が在った。その風は先程より強く、回避しようにも風の吹く先は崖だった。この為、ダームはその場に座り込み、手元に生えていた草を毟り取る。その後、ダームは毟った草を前方に投げ、投げられた草は風に飛ばされて崖下へ落ちた。それを見た少年は溜め息を吐き、膝に手を当てて立ち上がる。
「これは、流石に通れないよ」
ダームは、そう言うと仲間の反応を待った。しかし、彼の声は風音によってかき消され、二人が反応を示すことは無い。それ故、ダームは先程より大きな声を発し、仲間に自分の意見を伝えようとする。すると、呼び掛けに気付いたのか、仲間達はダームの顔を見つめた。とは言え、何を言っているか迄までは伝わらず、少年は諦めた様子で口先を尖らせる。
その後、少年は来た方向に戻って手招きをし、風の音が小さくなる場所迄誘導しようとした。ザウバーとべネットは彼を追い、会話が出来る程度に静かな場所で立ち止まる。
「あの先には進めないって思う。風は強いし、崖はあるし」
少年は残念そうに溜め息を吐く。対するベネットは岩を見上げ、ザウバーは口を開いた。
「まさか、そこを登ってみようとか言いだすんじゃねえだろうな?」
ベネットは呆れた様子で溜め息を吐き、青年の目を見つめた。
「貴様じゃあるまいし。ただ、別の道を選ぶのも、一つの策だと思っただけだ」
そう返すと、ベネットは自らの考えを説明し始めた。
「この岩は、大きな円の形をしていると予想されている。それと、既に見回った場所だけでも、風の吹く場所が複数あった」
ダームは不思議そうに首を傾げ、ザウバーは岩を横目で見る。
「引き返し、違う場所を調べる方法もある。しかし、今や風の吹き出す場所が複数有るのも確認出来ている。ならば、その風が吹き出している大元……それが、どの様なものか気にならないか?」
ダームは小さく頷き、目線を上に向けた。
「確かに気になる。でも、あの強い風に逆らって進むのって、無理じゃない?」
少年はベネットの目を見つめ、首を傾げた。
「あそこを通る必要は無い。空から、どうなっているかを確認すれば良いのだから」
ベネットは目を瞑り、そのまま精神を集中する。
「銀翼を持つ聖なる神獣よ、我が前に現れ力を示せ……エキューサス!」
ベネットが詠唱を終えると、その前に白馬が現れる。白馬の背中には、光を受けて輝く銀色の翼が有り、長い尾も同じ様に輝いていた。
「お久しぶりです。本日は、どの様な御用で?」
そう問うと、白馬はベネットの肩に鼻先を乗せた。ベネットは白馬の鼻筋を優しく撫で、目線を横にやる。
「飛ばなければ確認出来ない場所が在る。ファーガを頼る以外、術は無い」
ベネットは腕を伸ばし、ファーガの鬣を静かに撫でる。
「大体の事情は分かりました。ところで、今回は誰からお運びすれば?」
ベネットは小さく息を吸い込み、自らの胸に手を当てる。
「上方から、岩がどうなっているかを確認したい。先ずは私一人を運んでくれ」
ベネットは、そう返すと後退し、ファーガの顔を正面から見つめる。話を聞いた白馬は頷き、ベネットはファーガの背中に飛び乗った。
残念なことにザウバーの手は届かず、ダームは吹き飛ばされてしまった。少年はその勢いによって転び、右半身を下にしたまま辛そうな声を漏らす。それでも、少年は十秒も待たずに体を起こし、重心を低く保って仲間の元に戻った。
「油断しちゃった」
少年は恥ずかしそうに苦笑する。この時、ダームの髪は風によって乱れ、頬や手の甲から血が滲んでいた。また、地面に擦れた服は破れている箇所もあり、そこから柔らかな肌が覗いている。
ベネットは、心配そうにダームの目を見つめ、呪文を唱えた。すると、直ぐに傷は塞がり、ダームは礼を述べる。その後、少年は強風の吹いている方を見やり、掠れた声で話し始めた。
「離れた場所からなら進めると思うけど、どうしよっか? 調べたら、何かあるかも知れないし」
そう話してから、ダームは仲間の顔を見上げる。すると、ザウバーが風の吹く方へ進んで行き、風の威力が弱まった辺りで立ち止まった。彼は、そうした後で風が吹き出している隙間を見つめ、暫くしてから息を吐き出す。
「このまま進むぞ。ここに手掛かりは無さそうだ」
青年は、そう言うや否や歩みを進め、ダームは不思議そうに後を追う。ベネットは、風の吹き出す場所をじっと見つめ、それからダームの後に続いた。そうして三人は探索を続けていき、再び風の吹き出す場所を見つけ出す。その風の強さは先程より強く、地面が削れている程だった。また、風音も強く、ダームは不機嫌そうな表情を浮かべる。
「さっきより強いけど、どう?」
少年は仲間の顔を見上げた。すると、青年は足元に有った小石を拾い、風の吹いている場所へ向けて投げた。その小石は風に乗って勢い良く飛んでいき、それを見たダームは目を丸くする。
「通れ無さそうな気がしてきた」
そう呟くと、少年は半歩後ずさる。青年は、風が吹き出ている隙間を見つめ、暫くそうした後で強く目を瞑った。
「離れりゃ、通れねえこともねえよ。ここの隙間が、人も通れそうなのは気になるが……ここからじゃ、奥まで見られねえから判断つかねえ」
ザウバーは岩から離れ、風が弱まった所で風の吹き出す場所を見つめる。そこには、一人ならぎりぎり通れそうな隙間が有り、それを確認したザウバーは目を瞑って腕を組んだ。その様子を見たダームは、不思議そうに青年の元へ近付く。少年は岩の方を見つめると、大きな瞬きをした。
「幅を見ただけなら、通れそうだけど」
ダームは、そこまで言ったところで咳きこみ、岩に背を向ける。
「これだけ風が強くちゃ無理だよ」
そう言うと、少年は気怠るそうに目を瞑る。一方、青年はゆっくり片目を開き、溜め息交じりに言葉を発した。
「だよな」
それだけ言うと、ザウバーは進み始める。彼の仲間は後を追い、三人は尚も調査を続けていった。岩に沿って進み続けると、またしても強い風が吹き出している場所が在った。その風は先程より強く、回避しようにも風の吹く先は崖だった。この為、ダームはその場に座り込み、手元に生えていた草を毟り取る。その後、ダームは毟った草を前方に投げ、投げられた草は風に飛ばされて崖下へ落ちた。それを見た少年は溜め息を吐き、膝に手を当てて立ち上がる。
「これは、流石に通れないよ」
ダームは、そう言うと仲間の反応を待った。しかし、彼の声は風音によってかき消され、二人が反応を示すことは無い。それ故、ダームは先程より大きな声を発し、仲間に自分の意見を伝えようとする。すると、呼び掛けに気付いたのか、仲間達はダームの顔を見つめた。とは言え、何を言っているか迄までは伝わらず、少年は諦めた様子で口先を尖らせる。
その後、少年は来た方向に戻って手招きをし、風の音が小さくなる場所迄誘導しようとした。ザウバーとべネットは彼を追い、会話が出来る程度に静かな場所で立ち止まる。
「あの先には進めないって思う。風は強いし、崖はあるし」
少年は残念そうに溜め息を吐く。対するベネットは岩を見上げ、ザウバーは口を開いた。
「まさか、そこを登ってみようとか言いだすんじゃねえだろうな?」
ベネットは呆れた様子で溜め息を吐き、青年の目を見つめた。
「貴様じゃあるまいし。ただ、別の道を選ぶのも、一つの策だと思っただけだ」
そう返すと、ベネットは自らの考えを説明し始めた。
「この岩は、大きな円の形をしていると予想されている。それと、既に見回った場所だけでも、風の吹く場所が複数あった」
ダームは不思議そうに首を傾げ、ザウバーは岩を横目で見る。
「引き返し、違う場所を調べる方法もある。しかし、今や風の吹き出す場所が複数有るのも確認出来ている。ならば、その風が吹き出している大元……それが、どの様なものか気にならないか?」
ダームは小さく頷き、目線を上に向けた。
「確かに気になる。でも、あの強い風に逆らって進むのって、無理じゃない?」
少年はベネットの目を見つめ、首を傾げた。
「あそこを通る必要は無い。空から、どうなっているかを確認すれば良いのだから」
ベネットは目を瞑り、そのまま精神を集中する。
「銀翼を持つ聖なる神獣よ、我が前に現れ力を示せ……エキューサス!」
ベネットが詠唱を終えると、その前に白馬が現れる。白馬の背中には、光を受けて輝く銀色の翼が有り、長い尾も同じ様に輝いていた。
「お久しぶりです。本日は、どの様な御用で?」
そう問うと、白馬はベネットの肩に鼻先を乗せた。ベネットは白馬の鼻筋を優しく撫で、目線を横にやる。
「飛ばなければ確認出来ない場所が在る。ファーガを頼る以外、術は無い」
ベネットは腕を伸ばし、ファーガの鬣を静かに撫でる。
「大体の事情は分かりました。ところで、今回は誰からお運びすれば?」
ベネットは小さく息を吸い込み、自らの胸に手を当てる。
「上方から、岩がどうなっているかを確認したい。先ずは私一人を運んでくれ」
ベネットは、そう返すと後退し、ファーガの顔を正面から見つめる。話を聞いた白馬は頷き、ベネットはファーガの背中に飛び乗った。