顕現する為の力

文字数 1,149文字

 それから数時間が経ち、三人の居る部屋に夕食が届けられる。届けられた料理はどれも温かく、ザウバーは安堵の表情を浮かべた。青年は、ベッドで寝ている仲間を起こし、夕食が届いたことを伝える。それを聞いた二人と言えば、礼を言いつつ起き上がった。

 この際、ダームはまだ眠そうに瞼を擦り、大きな欠伸をして涙を流した。一方でベネットは腕を上方に伸ばし、料理の置かれたテーブルを横目で見る。彼女は、そうしてからテーブルの前に座り、それに気付いた少年はベネットの隣に腰を下ろした。
 
 その後、彼らは顔を見合わせ、食事を始める。そして、料理が半分程に減った頃、ザウバーはベネットの顔を見つめて話し始めた。

「体は大丈夫か?」
 彼の問いを聞いたベネットは頷き、落ち着いた口調で答えを返す。
 
「お陰様でな。一人だったら、倒れたままどうなっていたか分からん」
 ベネットは目を細め、ダームは咀嚼中の食物を飲み込んだ。

「倒れたのを見た時は驚いたけど、大丈夫そうで良かった」
 少年は、そう言うと横に座る仲間の顔を見つめる。一方、それに気付いたベネットは彼を見た。
 
「心配を掛けてすまなかった。倒れてはしまったものの、充分に休んだおかげで調子は良い」
「そう言えば、風の聖霊はどうなったの? 消えちゃったみたいだけど」
 そう問い掛けると、ダームは首を傾げてみせた。ベネットは机上に置かれた紅茶を一口飲み、聖霊について説明を始める。

「顕現する力が尽きて眠っただけだ。回復すれば、また人にも見える様になる」
 ベネットは、そこまで話したところで目を細め、尚も話を続けていく。
 
「砕けたものは、マイトが体外に力を溜めていたものらしい。試験にその力を使い切り、役目を終えたのかも知れんな」
 少年は呆けた表情を浮かべ、目を瞑った。

「聖霊も、力尽きることって有るんだね。なんか、不思議な感じ」
 少年の話を聞いたベネットは、優しく微笑む。
 
「聖霊が形を為すのに、相当の力が要るからな。目の前で消えてしまっても、なんら不思議は無い」
 説明を聞いた青年は首を傾げ、怪訝そうな表情を浮かべて話し始めた。

「確かに、聖霊が姿を現すのに、膨大な力が要る……ってのは聞いたことが有る。だけど、あんな短時間しか保たないもんなのか?」
 疑問を聞いたベネットは、数拍の間考えてから答えを返した。
 
「風は、元々人の目に映らぬものだ。他の聖霊に比べ、多くの力が必要だったのだろう。もっとも、これは推測に過ぎない」
 そう返すと、ベネットはザウバーの目を真っ直ぐに見つめる。対する青年は無言で頷き、何か言うこと無く食事を続けた。その後、食事を終えた三人はそれぞれに休んで過ごし、翌日の朝に宿を出る。そして、移動に必要な食料を買い揃えると、今後のことを話し合う為にマルンへ向かった。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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