No title
文字数 2,031文字
ダームらは、遺跡を慎重に調べていった。すると、奥まった場所に、瓦礫に埋もれる様な形で階段があった。
その階段は、降りるには不安な位に崩れていた。しかし、そこにも魔法が掛けられているのか、地下に続く道は照らされている。
古く通気性も良くはない場所の割に、その階段に嫌な臭い等は無かった。その違和感に気付かぬダームは、地下に続く階段を見下ろし、それから仲間の方を振り返る。
「降りようと思うけど、大丈夫かな?」
それを聞いたザウバーは、地下に続く階段を眺めた。その幅は大人が通るには狭いが、少年の体ならば通るにも問題は無いように思えた。
「進む先が大丈夫かどうかなんて、何時だって進まなきゃ分からねえ」
青年の答えにダームは頷き、慎重に階段を降り始めた。階段は崩れている箇所も多いが、身軽な少年は難なく地下へ降りていく。
一方、彼の仲間は遅れを取りつつも階段を降り、少年は階段を降りきったところで周囲を見回した。そのフロアは、冷たく薄暗かった。しかし、光源が用意されているのか、暗闇に包まれてはいない。
ダームは、階段から数歩進んだ位置で立ち止まった。その頃、階段を降りきったザウバーが地下に到着する。
「ようやく、来てくれたね」
その声と共に、階段の出口に黒い靄が生じた。その靄は階段の出口を覆い、階段からは何か重い物が崩れ落ちる音が生じた。
その音を聞くなり階段の有った方を振り返ったダームは、天井の崩れた階段を見て絶句した。少年は、崩れた天井を持ち上げてどかそうとするが、それはびくともしない。
「ねえ、ザウバー手伝っ」
少年が言い終わらぬ内に、その体は黒い靄に包まれた。すると、少年は目を開いたままその場で倒れ、動かなくなる。
「ダーム?」
ザウバーは、少年に手を差し伸べようとした。しかし、それよりも前に、彼は何かしらの魔法でその場から弾き飛ばされる。
「ねえ、ザウバー? 僕達の再会に、他人は要らないよね?」
名を呼ばれたザウバーは、声のする方に顔を向ける。すると、そこには、幼い日々に見上げ続け、忘れる筈の無い存在が在った。
「嘘だろ……そんな筈」
ザウバーは地面に両手をつき、掠れた声を絞り出した。その目線は地下で待ち構えていた人物に捕らわれ、額からは汗が流れ落ちる。
その人物は長い黒髪を伸ばし、後頭部で軽く纏めていた。また、髪よりも黒いローブを纏い、それは地面につきそうな程に長い。
厚手の生地で作られたローブは、胸元で握り拳程の大きさのあるブローチで留められている。そして、そのブローチには濃い紫色の宝石が塡められ、特殊な技術で内部に文字が刻まれていた。
髪やローブの色とは対象的に、その者の肌は白かった。また、目元は厚い前髪で隠れ、その目線は何処に向いているのか分からない。
ただ、露出している箇所から判断するに、それは若者に見えた。それも、立ち上がれないままでいるザウバーよりも若く見えた。
「目線の高さの差すら懐かしいね。あの頃は、とっても楽しかったよ」
それを聞いたザウバーは、地面に膝をついたまま手を握りしめた。それから、彼は自分の考えを否定する様に頭を激しく振る。
ザウバーの呼吸は段々と早くなり、体は震え始めた。しかし、その目線は変わらぬまま話し手を捕らえている。
「何も出来ない子供を見下すのは楽しい。それを甘い言葉で懐柔するのは、もっと楽しい」
話し手は、乾いた笑い声を出した。一方、ザウバーからは苦しそうな声が漏れる。
ザウバーには、最早仲間を心配する余裕は無かった。現実で起きていることを考えるだけで、彼はいっぱいいっぱいだった。
「ねえ、何で黙ったままなの? 昔は、色んなことを質問してきたのに」
それを聞いたザウバーは、下唇を強く噛んだ。彼は言葉を発することなく、ただ発言者を見上げている。
「あ、そっか。あの時、記憶を奪ったままだったね。今、その記憶を戻してあげるよ」
発言者は、ザウバーの頭に向けて掌を向けた。すると、ザウバーは目を見開き、口元を押さえて胃の内容物を吐き出した。
「そう、それで良い。憐れで弱い子供を見ているのは凄く楽しい」
発言者は艶やかに笑い、倒れている少年を見る。そして、ダームを指差すと、楽しそうに話し出した。
「今頃、あの子供も苦しんでいるだろうね。夢で僕達の記憶を見せているから」
荒い呼吸を繰り返しながら、ザウバーはダームの方へ顔を向けた。この時、ダームは未だ地面に倒れたままで、意識を取り戻す様子すらない。
「わざわざ、こんな所にまで来て、何も出来ないまま。子供の無力さは、僕にとっては……だ」
この時、ザウバーの頭上からは冷たい水が注がれた。これにより、ザウバーの黒髪は濡れ、質量を増した髪は頬に貼り付く。
「さて、これから君が知らないその後のことを見に行こうか。なあに、心配は要らない。僕がエスコートしてあげるから」
発言者とザウバーは、淡い光に包まれた。すると、数秒後には遺跡の地下から二人の姿は消える。
その階段は、降りるには不安な位に崩れていた。しかし、そこにも魔法が掛けられているのか、地下に続く道は照らされている。
古く通気性も良くはない場所の割に、その階段に嫌な臭い等は無かった。その違和感に気付かぬダームは、地下に続く階段を見下ろし、それから仲間の方を振り返る。
「降りようと思うけど、大丈夫かな?」
それを聞いたザウバーは、地下に続く階段を眺めた。その幅は大人が通るには狭いが、少年の体ならば通るにも問題は無いように思えた。
「進む先が大丈夫かどうかなんて、何時だって進まなきゃ分からねえ」
青年の答えにダームは頷き、慎重に階段を降り始めた。階段は崩れている箇所も多いが、身軽な少年は難なく地下へ降りていく。
一方、彼の仲間は遅れを取りつつも階段を降り、少年は階段を降りきったところで周囲を見回した。そのフロアは、冷たく薄暗かった。しかし、光源が用意されているのか、暗闇に包まれてはいない。
ダームは、階段から数歩進んだ位置で立ち止まった。その頃、階段を降りきったザウバーが地下に到着する。
「ようやく、来てくれたね」
その声と共に、階段の出口に黒い靄が生じた。その靄は階段の出口を覆い、階段からは何か重い物が崩れ落ちる音が生じた。
その音を聞くなり階段の有った方を振り返ったダームは、天井の崩れた階段を見て絶句した。少年は、崩れた天井を持ち上げてどかそうとするが、それはびくともしない。
「ねえ、ザウバー手伝っ」
少年が言い終わらぬ内に、その体は黒い靄に包まれた。すると、少年は目を開いたままその場で倒れ、動かなくなる。
「ダーム?」
ザウバーは、少年に手を差し伸べようとした。しかし、それよりも前に、彼は何かしらの魔法でその場から弾き飛ばされる。
「ねえ、ザウバー? 僕達の再会に、他人は要らないよね?」
名を呼ばれたザウバーは、声のする方に顔を向ける。すると、そこには、幼い日々に見上げ続け、忘れる筈の無い存在が在った。
「嘘だろ……そんな筈」
ザウバーは地面に両手をつき、掠れた声を絞り出した。その目線は地下で待ち構えていた人物に捕らわれ、額からは汗が流れ落ちる。
その人物は長い黒髪を伸ばし、後頭部で軽く纏めていた。また、髪よりも黒いローブを纏い、それは地面につきそうな程に長い。
厚手の生地で作られたローブは、胸元で握り拳程の大きさのあるブローチで留められている。そして、そのブローチには濃い紫色の宝石が塡められ、特殊な技術で内部に文字が刻まれていた。
髪やローブの色とは対象的に、その者の肌は白かった。また、目元は厚い前髪で隠れ、その目線は何処に向いているのか分からない。
ただ、露出している箇所から判断するに、それは若者に見えた。それも、立ち上がれないままでいるザウバーよりも若く見えた。
「目線の高さの差すら懐かしいね。あの頃は、とっても楽しかったよ」
それを聞いたザウバーは、地面に膝をついたまま手を握りしめた。それから、彼は自分の考えを否定する様に頭を激しく振る。
ザウバーの呼吸は段々と早くなり、体は震え始めた。しかし、その目線は変わらぬまま話し手を捕らえている。
「何も出来ない子供を見下すのは楽しい。それを甘い言葉で懐柔するのは、もっと楽しい」
話し手は、乾いた笑い声を出した。一方、ザウバーからは苦しそうな声が漏れる。
ザウバーには、最早仲間を心配する余裕は無かった。現実で起きていることを考えるだけで、彼はいっぱいいっぱいだった。
「ねえ、何で黙ったままなの? 昔は、色んなことを質問してきたのに」
それを聞いたザウバーは、下唇を強く噛んだ。彼は言葉を発することなく、ただ発言者を見上げている。
「あ、そっか。あの時、記憶を奪ったままだったね。今、その記憶を戻してあげるよ」
発言者は、ザウバーの頭に向けて掌を向けた。すると、ザウバーは目を見開き、口元を押さえて胃の内容物を吐き出した。
「そう、それで良い。憐れで弱い子供を見ているのは凄く楽しい」
発言者は艶やかに笑い、倒れている少年を見る。そして、ダームを指差すと、楽しそうに話し出した。
「今頃、あの子供も苦しんでいるだろうね。夢で僕達の記憶を見せているから」
荒い呼吸を繰り返しながら、ザウバーはダームの方へ顔を向けた。この時、ダームは未だ地面に倒れたままで、意識を取り戻す様子すらない。
「わざわざ、こんな所にまで来て、何も出来ないまま。子供の無力さは、僕にとっては……だ」
この時、ザウバーの頭上からは冷たい水が注がれた。これにより、ザウバーの黒髪は濡れ、質量を増した髪は頬に貼り付く。
「さて、これから君が知らないその後のことを見に行こうか。なあに、心配は要らない。僕がエスコートしてあげるから」
発言者とザウバーは、淡い光に包まれた。すると、数秒後には遺跡の地下から二人の姿は消える。