諸刃となる力

文字数 1,421文字

 「危険なのは、僕たちだけだと思っていたのに」
 ダームは悔しそうに唇を噛む。一方、ザウバーはベネットの体を抱き上げると呪文を唱え、三人は小さな宿屋の前に転移した。この時、ダームは驚いた様子で青年を見上げ、何処に転移したのか問おうとする。

 しかし、そうする前にザウバーは宿屋へ入り、そそくさと手続きを始めてしまった。それを見たダームは、不満げながらも後を追う。そして、青年が借りた部屋に入るなり、疑問を口にした。
 
「なんで、相談せずに魔法を使うの? それに、何処なのここ?」
 少年は部屋を見回し、大きく息を吐き出した。その部屋には、ベッドが二つ置かれ、その間に使い古されたクローゼットが置かれている。また、ベッド間に低めのテーブルも在り、そこに焼き菓子が用意されていた。
 
「相談するだけ時間の無駄だ」
 ザウバーは、そう返すと倒れた仲間をベッドに寝かせる。彼は、部屋に在った全ての布団をベネットに掛け、ダームに向き直った。
 
「力を使い過ぎたせいか、やたらに体温が低かった。なら、出来るだけ早く温めなきゃまずい」
 ザウバーは、そこまで説明すると少年の肩を軽く叩いた。

「だから、より早く温める為に添い寝してやれ。俺は、調理場を借りて、熱い飲み物を作ってくる」
 それだけ言うと、ザウバーは部屋を出ようとした。一方、ダームは彼の名を呼んで呼び止め、慌てた様子で話し始める。
 
「待ってよ。そんな説明じゃ」
「低体温は何かと危険なんだよ。体温の高いお前がくっついてりゃ、暖房代わりになる」
 言葉を遮って話すと、青年は直ぐに部屋を出た。一方、少年は怪訝そうな表情を浮かべながらもベッドに潜り込み、ベネットに寄り添う形で横になる。

 十分程経った時、ザウバーは湯気の立つ飲み物を持って部屋に戻った。彼はテーブルにそれを置き、仲間の顔を覗き込む。すると、少年は眠っており、それを見たザウバーは小さく笑う。その後、彼はベネットの首筋に向けて手を伸ばし、体温が戻っているかを確かめようとした。しかし、そうするよりも前にベネットは目を開き、それに気付いたザウバーは素早く手を引く。
 
「気付いたか」
 そう言うと、青年はテーブルに置いたカップを手に取り、ベネットの目の前に差し出した。

「起きられるか?」
 ベネットは上体を起こし、差し出されたカップを無言で受け取る。そして、そのカップに口を付けると、目を瞑ってそれを飲み込んだ。
 
「甘いな」
 青年は口角を上げ、自慢気に説明を始める。

「砂糖をたっぷり入れたからな。体温が下がっている時にゃ、甘くて温かいもんが効く」
 そう返すと青年は得意気に笑い、ベネットの持つカップを見下ろした。

「気に食わなくても、とりあえず飲んどけ。糖分を補給しなきゃ、体温も上がらねえ」
 ベネットは無言で頷き、カップに入れられた飲み物を一口飲む。
 
「飲み慣れないが、嫌いでは無い。気を遣ってくれたこと、感謝する」
 そう言うと、ベネットは仲間の顔を見上げて微笑する。対するザウバーは気恥ずかしそうに頭を掻き、開いているベッドに腰を下ろした。
 
「飲んだら休んどけ。その内、夕食も出る」
 そう言って青年は笑みを浮かべ、ベネットに渡したカップが空になる時を待った。数分経ってカップが空になった時、彼はベネットからそれを受け取り部屋を出る。この際、ベネットは青年を見送り、それからゆっくりと上体を倒して横になった。彼女は、そうした後で目を瞑り、そのまま眠りに落ちていく。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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