ひと時の休息

文字数 2,552文字

 太陽が殆ど隠れてしまった刻、三人は目的とする場所に辿り着く。この時、砂地の中にある水源は、輝きだした星を映していた。小さな湖を見つけたダームはそこに駆け寄り、冷涼な水を手で掬った。彼は、そうした後で水を飲み、細く息を吐く。
 
「美味しいなあ」
 ダームは、何度か水を飲んだところで口元を拭い、満足そうに空を見上げた。すると、暗くなり始めた空に幾つかの星が輝き、少年は笑顔を浮かべる。
 
「真っ暗になる前に着けて良かった。ここなら、砂のところよりゆっくり休める」
 少年の話を聞いた二人は頷き、自らの荷物を地面に下ろした。

「水場が有りゃ、水の心配をしなくていいしな。それに、喰いもんが砂まみれにならなくて済む」
 青年はしゃがみ込み、荷物から食料を取り出し始める。
 
「でも、あれだな。環境のせいで食いもんの調達がしにくいのは厄介だ」
 ザウバーは、固いパンを取り出して仲間へ渡していく。ダームやベネットは彼に礼を言い、貴重な食物を食べ始めた。少年は、パンを噛みしめながら食していき、食べ終えたところで湖の水を飲みに行く。彼は、そうした後で地面に座り込み、溜め息混じりに話し始めた。
 
「やっぱり、物足りない。何時もなら、木の実を食べたり、倒した魔物を食べたり出来るのに」
 ダームは食料の入った袋を見つめる。その袋には、何日か分のパンなどが入れられ、オレンジ色のチーズや缶詰も入っていた。

「仕方ねえだろ。実のなる木は生えてねえし、魔物はでけえのが一体出ただけだ。夜は寝るだけなんだから、我慢しとけ」
 ザウバーは、食料の入った袋を閉じた。ダームは口を尖らせ、やや不満そうに話し出す。
 
「確かに移動はしないけど……魔物について話し合わなきゃだから、寝るだけじゃないよ?」
 ザウバーは苦笑し、ベネットの顔を一瞥する。すると、ベネットは小さく頷き、自らの考えを話し始めた。

「ダームの考えも一理ある。だが、食料が手に入りにくい以上、朝や昼に栄養のあるものを摂った方が良い」
 少年は残念そうな表情を浮かべ、その表情を見たベネットは話を続ける。
 
「街に戻ったら好きなだけ食べれば良い。多少空腹でも、寝てしまえばは気にならん」
 その話を聞いたダームは、湖の方へ向かって行った。そして、その水をたらふく飲むと、どこか満足そうに仲間の元へ戻る。
 
「水を沢山飲んだら、大丈夫そう」
 少年は、そう言って腰を下ろし、仲間の顔を見つめた。すると、二人は揃って湖の方に向かい、ダームがした様に水を飲む。その後、三人は荷物を中心にして座り、顔を見合わせてから話し始めた。
 
「突然現れたあれって、結局なんなのかな? 脚だけ、頭だけ現れて。あんなのが街に出たらと思うと凄く怖い」
 ダームは、そう言うと身を振るわせた。
 
「一度戦っただけでは分からないが、相当大きな魔物であるのだけは確かだ。ダームの言う通り、街に出現しなければ良いのだが」
「多分、俺が依頼で倒した魔物と同種だろうな。出現の仕方と言い、大きさと言い……今回は残った体がねえし、前のは倒す勢いで形が崩れちまったから、推測でしかねえけど」
 青年は疲れた様子で欠伸をする。彼は、そうした後で目を瞑り、手の甲で目尻を何度か擦った。
 
「結局、出現条件は分かんねえままだ。ま、倒したのが一体でも、ここら辺での被害は減るだろ」 
「だが、初めに出現した所とは、多少ながらも違う場所に魔物の頭部が現れた。これから、少なくとも二つの可能性が挙げられる」
 ベネットは、聞き取りやすい様にゆっくり話し始め、ダームとザウバーは声のした方に顔を向けた。
 
「一つ目は、魔物は二体居たが倒したのは一体のみ。始めに出た腕と、次に出現した頭部は別個体という可能性」
 ベネットは、そこまで言った所で口を閉じ、大きく息を吸いこんだ。
 
「二つ目は、魔物は一体のみで、腕と頭部は同一個体。こちらから魔物の居る空間は感知できないが、あちらからは見えている。おかげで、私達の背後に回ることが出来たと言う可能性」
 二つ目の可能性を聞いたザウバーは、低い声で言葉を返す。
 
「ちょっと待て。魔物が居る所から見えているなら、奴らは何処でも獲物を狩り放題じゃねえか」
 ベネットは小さく頷き、青年の居る方に顔を向ける。

「如何なる場所でも、見えているならな。偶然、あちらの空間との境目が曖昧になった場所……そう言った場所でしか現れない。現れることが出来ないのかも知れん」
 ベネットの意見を聞いた青年は、乱暴に頭を掻いた。彼は、新たな言葉が浮かばないのか黙っており、その代わりと言わんばかりに少年が口を開く。
 
「じゃあ、首がすっごく長い魔物って可能性は? 魔物は、一体しか居なくて」
「それにしたって、魔物が背後に回ってんだ。こっちの様子が見えていて、出てくる場所も直ぐに変えられるとか冗談じゃねえ」
 そう返すと、青年は大きな欠伸をする。一方、やる気のなさそうな青年の態度に気付いたダームは目を細め、やや声を荒げて言葉を発した。
 
「真面目に話してよ。魔物に一番詳しそうなのはザウバーなのに」
 ダームは、そう言うとわざとらしい溜め息を吐く。一方、少年の話を聞いたザウバーは小さく笑い、少年の方へ目線を動かした。

「詳しかねえよ。数える位しか戦ってねえし」
 青年は夜空を見上げ、ゆっくり息を吐き出した。
 
「本当、訳分かんねえ。魔術について学んでも、聖霊の力を手に入れても、分かんねえ」
 ザウバーは目を瞑り、話すことを止める。一方、彼の話を聞いた少年は訝しそうな表情を浮かべ、首を傾げて話し始めた。

「分かんねえ分かんねえって言われたら、余計に分からないんだけど……って言うか、熱でも有るんじゃない? 何か変だよ」
 ダームは、そう言うなり立ち上がり、青年の額に手を触れた。しかし、青年の体温は高くなく、ダームは手を離した。

「慣れない環境で、疲れが出たのかも知れないな。今日は、もう休んだ方が良い。見張りは私がしておく」
 すると、彼女の提案を聞いた青年は頷き、申し訳無さそうに言葉を発した。
 
「悪りいな。今日は、お言葉に甘えさせて貰うわ」
 ザウバーは、そう言うなり横になり、荷物を枕にして眠り始めた。一方、少年は少しの間を置いてからベネットに近付き、小さな声で話し出した。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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