青年の悪夢
文字数 2,022文字
食事を終えた後、ザウバーはベッド上の資料を読んでは、ベネットが用意した箱に収めていった。そうして、十分なスペースが確保出来たところで、ザウバーはベッドに体を横たえる。
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「ねえ、ザウバー。木の実ばっかりじゃ、お腹が空いちゃうよね?」
問われた少年は頷き、話し手は笑顔を浮かべる。
「だから、ほら、見てご覧? 家の近くに簡単な造りの釜戸を作ったんだ。石を積み上げただけのものだけど、薪を用意すれば後は美味しく肉を焼ける」
「お肉?」
「そうだよ。試しに焼いてみようか」
「うん!」
「薪はもう組んであるから……焔の精霊よ、我に手を貸したまえ」
呪文が唱えられた時、薪の下に集められた葉や小枝に炎が宿った。その炎は段々と大きくなり、徐々に薪を焦がしてゆく。
「凄い!」
「ザウバーも、練習すれば何時かは出来る様になるよ。さて、肉はこれ」
そう話す者の手には何時しか串に刺された肉が有った。その瞬間を目の当たりにした少年は、目を輝かせて興奮する。
「凄いや兄さん! どうやったら、そんなこと出来るの?」
それを聞ききつつも兄は肉を焼き始め、肉を置く位置が定まったところで弟の頭を軽く叩いた。
「それは秘密。魔法使いにはね、教えても良いなって思える魔法と絶対に教えたく無い魔法。力を認めた相手なら教えても良い魔法、封印すべき危険な魔法……まあ、色々とあるんだけと、物を移動させる魔法は、失敗すると大変なことになるから、沢山のことを学んで多くの経験をしてからじゃないと」
兄は説明しながらも肉の向きを変え、その表面には火が通った。
「先ずは、適当な細い枝を落として、地面に落ちる前に掴んでご覧?」
「うん」
少年は、兄の言った通りに近くにある木の枝を魔法で落とした。しかし、上手く掴むことは出来ず、少年の回りには小枝が散らかっただけだった。
「手本を見せるね」
そう言うなり。少年の兄は魔法を使い、落ちた枝を簡単に掴んだ。彼は、枝を掴むと新たな魔法を使い、枝の先を尖らせてみせた。
「はい、これはザウバーにあげる。だから、尖った方を上に向けて持って?」
少年は兄の指示を受け入れ、枝の根元に近い側を握った。
「風魔法には、こんな使い方もあるから、良く見ておくと良い」
兄が言った時、釜戸で焼かれていた肉の表面は目視出来ない刃で削がれた。削がれた肉は宙を舞い、弟の持つ枝に刺さる。
兄が魔法を使う度に焼けた部分の肉は削がれ、それは焼けていない肉が露出するまで続いた。
「さあ、冷めない内に食べて。肉はまだ焼いているから、僕の分は気にしなくて良い」
「うん」
弟は兄の行為を素直に受け入れ、焼いたばかりの肉を一枚ずつ食べた。少年の顔には赤味が帯びていき、それを見た兄は笑顔を浮かべる。
肉を焼いては削いで食べ、何時しか用意された肉は殆ど骨だけになった。兄は、その状態の塊からも魔法で肉を削ぎ、開いた口を上に向けて残りを平らげる。
「さて、火を消そうか」
兄が呟いた後、巻き起こる風で肉を焼いていた炎は消えた。兄は、まだ熱い釜戸に食べ残した骨を投げ捨て、弟を見る。
「次は、肉を用意するところからやろう。それが出来る様になれば、生きるのも大分楽になる」
兄は和やかに笑い、弟も笑顔になった。
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「前に言った通り、今度は肉を用意するところからやろう」
兄の提案に弟は頷いてみせた。しかし、その表情は暗い。
「不安?」
弟は頷き、そのまま地面を見つめた。
「大丈夫。ザウバーが魔法を使うまではしなくても良い。ただ、僕が狩りをするところを、目を逸らさずに見ること。僕は何時かザウバーから離れることになる。その時までに出来るようになれば良いから」
幼い弟は顔を上げ、目を潤ませながら兄を見上げた。
「離れるのは直ぐにじゃない。だけど、誰だって別れの時は訪れる。その時に、困らない為に……ああ、ほら、あの木の枝の根元。巣作りが始まったね」
兄は作られつつある鳥の巣を指差した。すると、弟はその近くに居る鳥を見て泣くのをやめた。
「油断しているから、あれはやりやすい。覚えておくと良い」
兄は魔法を使い、巣毎鳥を地面に落とした。地面に叩きつけられた鳥は気絶し、それを見た弟は顔を引き攣らせる。
「こうやって狩りを済ませたら、直ぐに
笑顔を浮かべながら、兄は鳥の命を奪った。切り落とされた首からは温かな血が落ち、それは地面に染みていく。
弟が震えていることも気にせず、兄は鳥の脚を掴んで血抜きを始める。また、呪文も唱えることなく、しかし魔法によって羽毛は引き抜かれて宙を舞い、それは弟の頬を撫でた。
「さあ、後は焼くだけだね」
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「うわあああ!」
ザウバーは叫びながら目を覚ました。彼は、胸元を押さえながら周囲を見回すが、そこは夜の闇に包まれていた。
この為、ザウバーはベッドに横たわったまま深呼吸をし、目を瞑った。そして、彼はまた眠りに落ちる。
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「ねえ、ザウバー。木の実ばっかりじゃ、お腹が空いちゃうよね?」
問われた少年は頷き、話し手は笑顔を浮かべる。
「だから、ほら、見てご覧? 家の近くに簡単な造りの釜戸を作ったんだ。石を積み上げただけのものだけど、薪を用意すれば後は美味しく肉を焼ける」
「お肉?」
「そうだよ。試しに焼いてみようか」
「うん!」
「薪はもう組んであるから……焔の精霊よ、我に手を貸したまえ」
呪文が唱えられた時、薪の下に集められた葉や小枝に炎が宿った。その炎は段々と大きくなり、徐々に薪を焦がしてゆく。
「凄い!」
「ザウバーも、練習すれば何時かは出来る様になるよ。さて、肉はこれ」
そう話す者の手には何時しか串に刺された肉が有った。その瞬間を目の当たりにした少年は、目を輝かせて興奮する。
「凄いや兄さん! どうやったら、そんなこと出来るの?」
それを聞ききつつも兄は肉を焼き始め、肉を置く位置が定まったところで弟の頭を軽く叩いた。
「それは秘密。魔法使いにはね、教えても良いなって思える魔法と絶対に教えたく無い魔法。力を認めた相手なら教えても良い魔法、封印すべき危険な魔法……まあ、色々とあるんだけと、物を移動させる魔法は、失敗すると大変なことになるから、沢山のことを学んで多くの経験をしてからじゃないと」
兄は説明しながらも肉の向きを変え、その表面には火が通った。
「先ずは、適当な細い枝を落として、地面に落ちる前に掴んでご覧?」
「うん」
少年は、兄の言った通りに近くにある木の枝を魔法で落とした。しかし、上手く掴むことは出来ず、少年の回りには小枝が散らかっただけだった。
「手本を見せるね」
そう言うなり。少年の兄は魔法を使い、落ちた枝を簡単に掴んだ。彼は、枝を掴むと新たな魔法を使い、枝の先を尖らせてみせた。
「はい、これはザウバーにあげる。だから、尖った方を上に向けて持って?」
少年は兄の指示を受け入れ、枝の根元に近い側を握った。
「風魔法には、こんな使い方もあるから、良く見ておくと良い」
兄が言った時、釜戸で焼かれていた肉の表面は目視出来ない刃で削がれた。削がれた肉は宙を舞い、弟の持つ枝に刺さる。
兄が魔法を使う度に焼けた部分の肉は削がれ、それは焼けていない肉が露出するまで続いた。
「さあ、冷めない内に食べて。肉はまだ焼いているから、僕の分は気にしなくて良い」
「うん」
弟は兄の行為を素直に受け入れ、焼いたばかりの肉を一枚ずつ食べた。少年の顔には赤味が帯びていき、それを見た兄は笑顔を浮かべる。
肉を焼いては削いで食べ、何時しか用意された肉は殆ど骨だけになった。兄は、その状態の塊からも魔法で肉を削ぎ、開いた口を上に向けて残りを平らげる。
「さて、火を消そうか」
兄が呟いた後、巻き起こる風で肉を焼いていた炎は消えた。兄は、まだ熱い釜戸に食べ残した骨を投げ捨て、弟を見る。
「次は、肉を用意するところからやろう。それが出来る様になれば、生きるのも大分楽になる」
兄は和やかに笑い、弟も笑顔になった。
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「前に言った通り、今度は肉を用意するところからやろう」
兄の提案に弟は頷いてみせた。しかし、その表情は暗い。
「不安?」
弟は頷き、そのまま地面を見つめた。
「大丈夫。ザウバーが魔法を使うまではしなくても良い。ただ、僕が狩りをするところを、目を逸らさずに見ること。僕は何時かザウバーから離れることになる。その時までに出来るようになれば良いから」
幼い弟は顔を上げ、目を潤ませながら兄を見上げた。
「離れるのは直ぐにじゃない。だけど、誰だって別れの時は訪れる。その時に、困らない為に……ああ、ほら、あの木の枝の根元。巣作りが始まったね」
兄は作られつつある鳥の巣を指差した。すると、弟はその近くに居る鳥を見て泣くのをやめた。
「油断しているから、あれはやりやすい。覚えておくと良い」
兄は魔法を使い、巣毎鳥を地面に落とした。地面に叩きつけられた鳥は気絶し、それを見た弟は顔を引き攣らせる。
「こうやって狩りを済ませたら、直ぐに
楽にさせて
あげようね」笑顔を浮かべながら、兄は鳥の命を奪った。切り落とされた首からは温かな血が落ち、それは地面に染みていく。
弟が震えていることも気にせず、兄は鳥の脚を掴んで血抜きを始める。また、呪文も唱えることなく、しかし魔法によって羽毛は引き抜かれて宙を舞い、それは弟の頬を撫でた。
「さあ、後は焼くだけだね」
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「うわあああ!」
ザウバーは叫びながら目を覚ました。彼は、胸元を押さえながら周囲を見回すが、そこは夜の闇に包まれていた。
この為、ザウバーはベッドに横たわったまま深呼吸をし、目を瞑った。そして、彼はまた眠りに落ちる。