( ˘ω˘)スヤァしている野郎は寝かせておこう

文字数 2,784文字

 買い物に出てから数時間後、ダーム達は滞在中の家へ戻った。すると、テーブルに伏して寝る青年の姿が在り、それに気付いたダームは溜め息を吐く。そして、持っていた紙の箱をテーブルに置くと、眠っているザウバーの顔を覗き込んだ。
 
「寝ちゃってる……どうする?」
 ダームは、振り返ってベネットの目を見た。ベネットは青年を見下ろし、それからザウバーの手元に在る紙をじっと見つめる。そして、その紙を指先で摘んで持ち上げると、そこに記入された文を黙読した。
 
「やるべき事はやっている。寝かせておけばいい」
 そう返すと、ベネットは抱えていた紙袋をテーブルに置く。それから、彼女は箱に魔物の被毛を入れ、蓋を閉じた。その後、彼女は紙袋から白色のリボンを取り出し、蓋が外れないよう、しっかりと結び付ける。
 
「後は、報告書だな」
 ベネットはザウバーが記入した用紙を二つ折りにし、箱とリボンの隙間に差し込んだ。彼女は、そうした後で棚から藍色と乳白色の蝋燭を取り出し、それを立てて机上に置く。そして、首に掛けていたペンダントの一つを外すと、それについていたトップを見つめた。それは、円柱の中程をくびれさせた形で、円形をした端の部分に金色をした金属が使われている。ダームは興味深そうにペンダントのトップを見、口を開いた。
 
「それは何?」
 疑問を聞いたベネットは微笑み、手に持っていた物をダームに手渡す。
「重いよ。ずっと掛けてたら、辛く無い?」
 少年は思ったことを口にし、ベネットは彼の疑問に答え始める。
 
「重く無いと言えば嘘になるが……それは、人を介して封書を渡す際に必要だからな。刻まれた紋章によって、身分を証明することが出来る」
 その説明にダームは首を傾げ、ベネットは話を続ける。

「例えば、ここの町長に渡した封書もそうだ。アークの署名に、ヘイデルの紋章を使った蝋封。それにより、差出人が誰であるかを証明出来る」
 ベネットは、そう話したところでペンダントを受け取り、青い蝋燭に火を点けた。そして、溶けた蝋を報告書の端に垂らすと、それが固まらぬ内に紋章の刻まれた面を押しつける。
 
「先ずは、ヘイデル教会に所属していることを示す紋章」
 そう言って青い蝋燭の火を消し、ベネットは乳白色の蝋燭に火を灯す。そして、溶けた蝋を先程の対角に垂らすと、先程とは違う紋章をそこに刻んだ。
「そして、これはOTOのものだ。これがアークの手に渡りさえすれば、二つの紋章から私が関わっていると分かる」
 ダームは感心した様子で頷き、二つの紋章を見つめる。そこには、それぞれ十字架を中心に据えた紋章が刻まれており、それを確認した少年は細く息を吐き出した。
 
「見たことが有るデザインだ」
 少年の話を聞いたベネットは頷き、青い蝋封を指し示す。
「これは、ヘイデルのあちこちで目にするからな。それに、警備兵の制服にも使用されている」
 説明を聞いた少年は納得した様に頷き、その仕草を見た者は立ち上がる。そして、魔物の一部が入った箱を持ち上げると、少年の目を見て口を開いた。
 
「準備が終わったことだし、これを渡してこようと思う。ダームは、ザウバーに何か掛けてやれ」
 指示を聞いたダームと言えば、数秒の間を置いてから頷いた。その後、少年は掛けるものを探しに寝室へ向かい、ベネットはそれを見送ってから家を出る。

 ベネットが家に戻った時、ザウバーの背中に厚手の布団が掛けられていた。その布団は床に届きそうな位置まで垂れ、それに気付いたベネットは微苦笑する。布団を掛けた当人と言えば、青年と近い椅子に座っていた。
 
「お帰りなさい、ベネットさん」
 そう伝えるとダームは微笑み、音をたてない様に立ち上がる。
「ただいま、ダーム」
 ベネットは小さく息を吸い込み、話を続けた。
 
「時間が時間だし、食事の準備をしてしまおう。ダーム、良かったら手伝ってくれないか?」
 ベネットは首を傾げ、少年は無言で頷く。その後、二人は揃って台所へ向かい、数十分掛けて食事の準備を終えた。ベネットは料理を器に盛り付け、ダームはそれを仲間が寝ている部屋へ運んでいく。

 少年が部屋と台所を何往復もした時、青年は目を覚ました。目覚めたザウバーは大きな欠伸をし、テーブルの上を見た。すると、その状態は眠る前と変わっており、青年は慌てた様子で立ち上がる。この際、彼の背中に掛けられていた布団は落ち、ダームは目を丸くした。
 
「どうしたの、ザウバー? いきなり立ち上がって」
 ダームは、そう問うとスープ皿を机上に置く。対するザウバーはテーブルを指差し、震える声で話し始めた。

「折角書いた報告書が無くなって」
 青年の話を聞いたダームは小さく笑い、青年が寝ている間に何をしたか簡単に伝える。すると、ザウバーは気が抜けてしまったのか、椅子にくずおれた。
 
「そうそう、起きたなら布団を片付けて。僕は料理を運んでくるから」
 ザウバーの気持ちを知ってか知らずか、ダームはそう言うなり部屋を出る。一方、彼の台詞を聞いた者は、周囲を見回してから布団を抱えた。その後、ザウバーは寝室へ向かい布団を戻した。布団を片付けた後、彼は仲間を手伝う為に台所へ向かう。そして、食事の準備を終えると、先程まで寝ていた椅子に腰を下ろした。この時、ダームやベネットも椅子に座っており、少年は嬉しそうに言葉を発する。
 
「久しぶりに三人での食事だね。それも、出会った町で、出来立ての料理」
 ダームは、そう言うと並べられた料理を見やる。テーブルには、様々な野菜を使ったサラダや温かなスープがあり、柔らかなパンも並べられていた。また、程良く焼けた肉や良く冷えた水も並んでおり、それは移動中に食べられないものばかりだった。
 
「出来立てっていうなら、珍しくも無いだろ。俺と違って町に居たんだし」
 そう言い放つと、ザウバーは少年の目を見つめた。対するダームは首を傾げ、不思議そうに言葉を返す。
「ザウバーが戻るまで、こんなに豪華じゃ無かったよ? ザウバーが一人で戦っているのを知っているのに、僕たちだけ良いものを食べられないから」
 ザウバーは目を丸くし、ベネットは無言で頷いた。
 
「勝手に出ていったなら構わんが、今回は違うからな。私達だけ良い思いをするのも、変な話だろう」
 ベネットは、そう言うと小さく息を吐き出した。
「そうそう。だから、話は後にして、冷めない内に食べちゃおう」
 そう言うと、ダームは明るい笑みを浮かべてみせる。この際、彼の台詞を聞いた二人は頷き、少年らは食事を始めた。ダームは、食事をしながら青年に話し掛け、ザウバーは倒した魔物のことを少年に伝える。少年は興味深そうに話を聞き、彼らは楽しそうに食事を続けた。そうして穏やかに時は過ぎ、何事も無いまま夜を迎える。この為、彼らはベッドで横になり、そのまま朝まで起きることは無かった。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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