生きる為に行うこと

文字数 2,147文字

「今日は、薪を準備してみようか?」
「薪の準備?」
「そう、薪の準備。火を熾して肉を焼くにも、薪が必要だから。そうだね、太めの枝を落とすことから始めようか」
「うん!」
 近くに在った木々の枝は次々に落とされ、それは折り重なて藪の様になった。

「次は、細い部分とそれなりに太い部分に別けよう。細い部分も、焚き付けに使える」
「分かった!」
 弟は兄の指示に素直に従い、直ぐに枝は分別された。

「良くやったね、ザウバー。後は日陰で乾燥させておこう」
「乾燥? 直ぐには使えないの?」
「まだ、水分が多いからね。今のままじゃ、上手く燃えないんだ」
「そっか。じゃあ暫くは駄目なんだ」
「うん。だから、使ったら使った分、薪を用意しておくと良い。そうすれば、慌てること無く使えるからね」
 そう言うなり、兄は魔法を使って木の枝を保管場所まで移した。

「さて、枝と一緒に食べられそうな木の実も落ちたみたいだし、拾って食べちゃおう」
「うん!」

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「今日は、火を熾してみようか。魔法自体は僕が発動させるけど、燃えやすい様に薪を並べてご覧?」
「分かった!」
 弟は、見様見真似で小枝を敷き詰め、それを囲うように薪を並べた。それは、兄がやったものよりは不格好なものだったが、大きな違いは無かった。

「じゃあ、火をつけるね」
 兄の魔法で小枝には火が熾り、それは徐々に薪を燃やしていった。その燃え方は均等ではなかったが、直ぐに消えることもなかった。

「初めてやったにしては上出来だね。さて、お肉だけど、今日は直ぐに焼けるかな」
 兄は串刺しにした小鳥を火にかけた。すると、それは直ぐに芳ばしい匂いを周囲に放ち、兄は焼けた小鳥を弟に差し出す。

「ちょっと羽根の処理が甘かったかも知れないけど、嫌だったら自分で狩りをして、処理をする時に対処すれば良い。まあ、焼いたら気にならないとは思うけど」
 兄は自らの分の小鳥に齧り付き、弟は吹いて冷ましてから小鳥を食べ始めた。小さな生き物の食べられる部分は少なく、兄は何度か小鳥を焼いた。

「やっぱり、狩るのが簡単な鳥は、食べた気もしないな」
 兄は呟き、噛み砕けなかった骨を吐き出す。

「そうだ。次は、もう少し大きな獲物を狙おう。少し足を伸ばせば良いだけだから」
 兄は笑みを浮かべ、弟は無言で頷いた。

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「見てご覧、地面に掘られた穴を。あの中には、肉は美味しくて、柔らかな毛皮はお金に換えられる生き物が居るんだよ?」
 兄の話に、弟は地面近くの穴を覗き込んだ。しかし、その穴は暗く、奥深くを見ることは叶わなかった。

「これも、魔法を使えば狩れる。穴の中を這うようなイメージで風を巻き起こして……奥側から、土を崩して穴を埋めてやる。すると」
 その時、穴からは丸みを帯びた獣が複数飛び出した。それらの獣は、穴を出るなり魔法で命を奪われ、兄は獣の後肢を持って弟へ見せる。

「穴から生き物が出てくるから、直ぐに仕留める。最初は難しいだろうけど」
 そこまて話したところで、兄は震えている弟の顔を覗き込んだ。

「どうしたのザウバー? 何で震えているの?」
 その問いに弟は答えず、震えたまま目を瞑った。

「もしかして、可哀想って思った? 残酷だって思った?」
 弟は無言で頷き、兄は溜め息を吐く。

「不思議だね、枝を切ることには躊躇わなかったのに」
 兄の話に、弟は顔を上げる。弟の瞳には涙が浮かんでいたが、兄がそれを心配することはなかった。

「植物だって生きている。確かに、枝を切った位じゃ死なないけど。でも生きているんだ」
 兄は手にしていた獣を弟に渡し、地面に伏したままだった獣の後肢を掴んだ。

「生きる為に他の生き物の命を奪う。それ位、獣もやっている。ただ、人間だけが

を持っているだけだ」
 兄は持てるだけの獣を持ち上げ、弟を見下ろす。

「獣は生きる為に他の命を奪う。ただ魔族だけは、快楽の為に人間を弄び魂だけを喰らう」
「魔族?」
「姿形は人間に似ているけど、様々な(ことわり)が違う存在のことだよ。その糧は人間の魂だけで、それも負の感情が大きい程に腹を満たせるらしい。それに、魔力持ちの人間の魂だと、取り込んだだけ魔族の魔力の上限が上がるらしい。だから、魔法使いは狙われやすいとも聞くね」
 弟は兄の話を真面目に聞き、魔族についての説明は続く。

「魔族には、人間の魂しか必要ないから、残った人間の体を飢えた獣が貪ることもあるそうだ。そして、魔族の食い残しを食べた獣は、いずれ魔物になると言う」
「魔物に?」
「そう、魔物だ。獣達は、本来植物か自分より小さい獣を食べるものだけど……魔物化したら、人間を狙うようになるらしい。恐ろしい存在だら、専門的に倒す人も居るんだって」
「そっか」

「流石に、人間側が複数で武器を持てば勝てる魔物が殆どだけどね。中には力を得て強くなった魔物も居るから……いや、この話は後にしよう。空気の匂いが変わった。雲も出てきたし雨が降りそうだからもう帰ろう」
「分かった」
 
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 朝になり、ザウバーは目を覚ます。時間としては十分に寝たにも関わらず、彼の顔には疲労が浮かんでいた。
 ザウバーは、立ち上がると腕を上方へ伸ばし、体を覚醒させようとする。そうしてから、彼は顔を洗いに部屋を出た。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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