少年を待つ者
文字数 1,936文字
「あの馬鹿……戻ったら一発ぶん殴る」
聞き慣れた声でダームは目を開き、素早く周りを見回した。しかし、彼が見ることの出来る範囲に声の主は居らず、少年は何かへ縋る様に声をあげる。
「ザウバー? 近くに居るの? だったら」
そこまで話した時、ダームの口は白い手で塞がれた。それ故、言葉は途切れるが、少年は目一杯体を動かして砂で出来た手を外そうとする。すると、白い手は彼の口から外れ、ダームは大きく息を吸い込んだ。
「僕、間違ってた。羨ましがってばかりじゃなくて、これから新しい繋がりを増やしていけば良い。だから、だから!」
目を瞑り、少年は力の限り声を上げる。
「僕は戻りたい、僕の居場所はそこに在るから!」
ダームが言い放った瞬間、彼の体は強い光に包まれる。この為、少年は反射的に手で目を覆い、光が収まってから目を開いた。
すると、彼の体は砂から解放され、目の前には木製の机が現れた。また、ダームの左横にはザウバーの姿が在り、青年は本を手に持ったまま目を丸くしている。
その後、ザウバーは持っていた本を棚に戻し、少年の後頭部を強く叩いた。一方、ダームは自分を叩いた相手を見上げ、大きな瞬きをしてから立ち上がる。
ダームは立ち上がるなり青年に抱き付き、ザウバーの胸元に顔を埋めて声を発する。
「良かった……待っててくれた」
ダームは、そう言うと両腕に力を込めた。この際、ザウバーは彼の行動が理解出来ないのか、不審そうに少年を見下ろしている。
「三日経ったし、居なくなっていたらどうしようって」
それを聞いた青年は訝しそうな表情を浮かべ、ダームを見下ろした。
「何言ってんだ? 三日どころか、ここに来てからは日が暮れてもいねえぞ?」
ザウバーの話を聞いた者は顔を上げ、青年は立てた親指で窓を指す。すると、ダームは青年が示した方へ顔を向け、無言で窓の外をぼんやりと眺めた。
ダームが窓を見た時、そこからは暖かな光が射し込んでいた。
「そう言えば、なんにも食べて無いのにお腹が減ってないや……飲まず食わずで、一日中歩いていたのに」
少年は、そう呟くと口を閉じ、難しい表情を浮かべて小さく唸る。一方、ザウバーは彼の言っていることが分からないのか、大きく息を吐いてから言葉を発した。
「で、お前は今まで何処で何をしてたんだよ。居なくなったと思ったら、いきなり現れやがって」
問われた者は気まずそうに笑い、目を逸らす。そして、左手の人差し指で頬を掻くと、ダームは途切れ途切れに言葉を発した。
「それが、僕にも良く分からなくって。とりあえず、森……ではあったと思うんだけど」
ダームは、そこまで言ったところで言葉を切り、少しの間を置いてから話を続ける。
「なんかこう、薄暗くって。それで、そこを抜けたら砂ばっかりになって……そこへ行く前に、二回は夜になった筈なんだけど」
片目を瞑り、少年は尚も話を続けていく。
「でも、ザウバーは日が暮れてもいないって言うから……あれは夜じゃ無かったかもだし。何て言うか、説明をしようにも……僕自身混乱してて難しいかも」
説明を聞いた青年は頭を掻き、どこか呆れた様子で話し始めた。
「だったら、一旦休んだ方が良いだろ。気持ちが落ち着くまで椅子に座って休んでりゃ良い」
「うん、ザウバーの言う通り休んでみる。直ぐ説明出来そうに無いから」
ダームがそこまで伝えた時、彼の腹からは空気が漏れる様な音が生じた。そのせいか少年は頬を赤らめ、どこか気まずそうに言葉を加える。
「安心したら、急にお腹が空いたみたい」
青年は軽く笑い、ダームが座り易いよう手近に在る椅子を引いた。
「じゃ、飯にするか。食糧を入れた荷物は俺が持ってくるから、ダームはそこに座って待ってろ」
少年は、その指示に従って椅子に座り、青年は部屋の隅に置かれた荷物を取りに行く。ザウバーは、程なくしてダームの側に戻り、そこで荷物の封を開けた。
「パンだの干し肉だの……喉が渇きそうなものばっかりだな」
言いながら、ザウバーは少年にパンを手渡した。一方、ダームは礼を言ってそれを受け取り、青年の顔を見上げて問い掛ける。
「ザウバーは食べないの? 折角だし、一緒に休憩しようよ」
ザウバーは手に持っていた物を机上に置き、それから長く息を吐く。
「時間が惜しいけど少し休むか」
そう言うと、青年は目線を動かして他の椅子を探そうとした。しかし、彼は椅子を見つけるよりも前に、テーブル上の変化に気付き目を細める。
以前、彼が本を置いた場所にそれはなく、代わりに下半分を銀で支えられたクリスタルの球体が在った。その宝玉は、静かにテーブル上に鎮座し、青年はそれを見つめたまま動かなくなる。すると、それに気付いたダームが、青年の見ている方へ目線を向けた。
聞き慣れた声でダームは目を開き、素早く周りを見回した。しかし、彼が見ることの出来る範囲に声の主は居らず、少年は何かへ縋る様に声をあげる。
「ザウバー? 近くに居るの? だったら」
そこまで話した時、ダームの口は白い手で塞がれた。それ故、言葉は途切れるが、少年は目一杯体を動かして砂で出来た手を外そうとする。すると、白い手は彼の口から外れ、ダームは大きく息を吸い込んだ。
「僕、間違ってた。羨ましがってばかりじゃなくて、これから新しい繋がりを増やしていけば良い。だから、だから!」
目を瞑り、少年は力の限り声を上げる。
「僕は戻りたい、僕の居場所はそこに在るから!」
ダームが言い放った瞬間、彼の体は強い光に包まれる。この為、少年は反射的に手で目を覆い、光が収まってから目を開いた。
すると、彼の体は砂から解放され、目の前には木製の机が現れた。また、ダームの左横にはザウバーの姿が在り、青年は本を手に持ったまま目を丸くしている。
その後、ザウバーは持っていた本を棚に戻し、少年の後頭部を強く叩いた。一方、ダームは自分を叩いた相手を見上げ、大きな瞬きをしてから立ち上がる。
ダームは立ち上がるなり青年に抱き付き、ザウバーの胸元に顔を埋めて声を発する。
「良かった……待っててくれた」
ダームは、そう言うと両腕に力を込めた。この際、ザウバーは彼の行動が理解出来ないのか、不審そうに少年を見下ろしている。
「三日経ったし、居なくなっていたらどうしようって」
それを聞いた青年は訝しそうな表情を浮かべ、ダームを見下ろした。
「何言ってんだ? 三日どころか、ここに来てからは日が暮れてもいねえぞ?」
ザウバーの話を聞いた者は顔を上げ、青年は立てた親指で窓を指す。すると、ダームは青年が示した方へ顔を向け、無言で窓の外をぼんやりと眺めた。
ダームが窓を見た時、そこからは暖かな光が射し込んでいた。
「そう言えば、なんにも食べて無いのにお腹が減ってないや……飲まず食わずで、一日中歩いていたのに」
少年は、そう呟くと口を閉じ、難しい表情を浮かべて小さく唸る。一方、ザウバーは彼の言っていることが分からないのか、大きく息を吐いてから言葉を発した。
「で、お前は今まで何処で何をしてたんだよ。居なくなったと思ったら、いきなり現れやがって」
問われた者は気まずそうに笑い、目を逸らす。そして、左手の人差し指で頬を掻くと、ダームは途切れ途切れに言葉を発した。
「それが、僕にも良く分からなくって。とりあえず、森……ではあったと思うんだけど」
ダームは、そこまで言ったところで言葉を切り、少しの間を置いてから話を続ける。
「なんかこう、薄暗くって。それで、そこを抜けたら砂ばっかりになって……そこへ行く前に、二回は夜になった筈なんだけど」
片目を瞑り、少年は尚も話を続けていく。
「でも、ザウバーは日が暮れてもいないって言うから……あれは夜じゃ無かったかもだし。何て言うか、説明をしようにも……僕自身混乱してて難しいかも」
説明を聞いた青年は頭を掻き、どこか呆れた様子で話し始めた。
「だったら、一旦休んだ方が良いだろ。気持ちが落ち着くまで椅子に座って休んでりゃ良い」
「うん、ザウバーの言う通り休んでみる。直ぐ説明出来そうに無いから」
ダームがそこまで伝えた時、彼の腹からは空気が漏れる様な音が生じた。そのせいか少年は頬を赤らめ、どこか気まずそうに言葉を加える。
「安心したら、急にお腹が空いたみたい」
青年は軽く笑い、ダームが座り易いよう手近に在る椅子を引いた。
「じゃ、飯にするか。食糧を入れた荷物は俺が持ってくるから、ダームはそこに座って待ってろ」
少年は、その指示に従って椅子に座り、青年は部屋の隅に置かれた荷物を取りに行く。ザウバーは、程なくしてダームの側に戻り、そこで荷物の封を開けた。
「パンだの干し肉だの……喉が渇きそうなものばっかりだな」
言いながら、ザウバーは少年にパンを手渡した。一方、ダームは礼を言ってそれを受け取り、青年の顔を見上げて問い掛ける。
「ザウバーは食べないの? 折角だし、一緒に休憩しようよ」
ザウバーは手に持っていた物を机上に置き、それから長く息を吐く。
「時間が惜しいけど少し休むか」
そう言うと、青年は目線を動かして他の椅子を探そうとした。しかし、彼は椅子を見つけるよりも前に、テーブル上の変化に気付き目を細める。
以前、彼が本を置いた場所にそれはなく、代わりに下半分を銀で支えられたクリスタルの球体が在った。その宝玉は、静かにテーブル上に鎮座し、青年はそれを見つめたまま動かなくなる。すると、それに気付いたダームが、青年の見ている方へ目線を向けた。