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文字数 2,312文字
ザウバーが消えた遺跡の地下で、ダームは意識を失ったままだった。少年は地面に倒れたまま、時折苦しそうな声を漏らしている。
ダームは苦しそうな表情になりながらも、体を動かすことは無かった。また、その目は開いたままであり、瞬きはするものの焦点は定まっていない。
そうして時は過ぎ、少年の体が冷え始めた時だった。階段の在った場所から、動くものが現れたのは。
「起きて!」
「ねえってば!」
温かな獣達は、ダームの体を前脚で叩きながら話し掛けている。しかし、少年が返答をしない為、獣達はしびれを切らした様子で少年の手に噛み付いた。
「むー!」
「んー!」
獣達は、力の限り少年の手を噛んだ。しかし、それでも反応が無い為に、獣達は豪奢な尻尾でダームの顔を撫でる。
すると、少年は盛大なくしゃみをし、目を覚ました。彼は、驚いた様子で状況を確認しようとするが、視界はひたすらに尻尾の毛だった。
「あ、起きたー?」
「やっと起きたー?」
少年は体を起こし、話し掛けている獣達を見た。そして、その獣達の頭を両手で撫でると、その温もりを確かめる。
「大変だったんだよ」
「ここまで降りてくるのは」
獣達は、ここに至るまでのことをダームに伝えた。天井が崩れてしまった階段は、その小さな体で通るのも難儀したこと。また、人間の大きさでは、到底通れないことを少年に伝えた。
「だからね、ベネットがここまで来るのは無理だって」
「だから、代わりに僕達がそれを伝えに来た」
ダームは頷きながら獣達の話を聞いていた。それから、少年は獣達に話し掛ける。
「それで、ベネットさんは大丈夫なの? 落ちてきた階段の天井で怪我してない?」
それを聞いた獣達は、顔を見合わせる。
「怪我はしてないよ」
「ただ、ここの空気が駄目なんだって」
「歩くだけでも、凄く力を奪われるって」
「だから、階段を降りる前のところで、しゃがみ込んでたんだって」
獣達はダームの目を見上げ、話を続ける。
「だから、ベネットは遺跡の外で待ってるんだって」
「遺跡の外なら、力を奪われることもなかったからって」
「それでね、待ち合わせ場所を間違え無いように」
「遺跡の外に出たら、僕達が案内するんだ」
それを聞いたダームは、これまでに起きたことと、脱出経路が分からないことを獣達に伝えた。すると、獣達は自慢げに胸を張る。
「なーに、言ってんの!」
「探索は!」
「フォックと!」
「ルルの!」
「「得意なことだよ!」」
それを聞いたダームは笑顔になり、フォックとルルに探索を頼んだ。ダームは、自分自身でも出口は無いかを探し、そうしている内にミイラ化した遺体を発見する。
ダームは、恐る恐る遺体を観察するが、その年齢や性別は分からなかった。少年は、その遺体を見ながら悪夢を思い出し、自分の体を強く抱き締める。
「見付けたよー!」
「登れたら上の階に行けそうな穴!」
明るい声に気付いたダームは、その声の方向に向かった。すると、その頭上には大きな穴の開いた天井があり、少年の体であれば通るのは簡単に思えた。
「お手本みせるね!」
そう言うなり、フォックは器用に壁を登っていった。そして、天井の穴を通って上階に上がると、そこから顔だけを出してみせる。
「頑張ってね!」
フォックを追うように、ルルも壁を登った。そうして、獣達は上階からダームを見下ろし、少年の到着を待ち始める。
ダームは、壁の突起部に手足を掛け、慎重に壁を登っていった。その速度は獣達よりは遅かったが、少しずつ天井に向かっていく。
少年は、天井の穴に手を掛け、力を振り絞って地上階に上がった。そうして、上がった先の階で彼は横たわり、一時の休息を取る。
「大丈夫?」
「ぶー?」
それに応える余裕は少年に無かった。しかし、数分間休んだ後で、少年は額の汗を拭いながら立ち上がる。
その後、ダームはフォック達に案内されるまま遺跡内を歩いた。そうして、少年はベネットと再会する。
「案内完了!」
「任務完了!」
フォックとルルは、ベネットの胸元に飛び込んだ。そして、そのままフォック達は撫でモフられる。
「あのね、ベネットさん。ザウバーの魔法で戻れ無かったのには理由があって」
ダームは、地下で起きた出来事を話し始めた。しかし、少年が覚えていることは殆どなく、ただザウバーが見当たらないことだけがはっきりとしていた。
「そうか……書き置き等も無かったのだな?」
「多分、無かった。だけど、ちゃんと探そうと思ってはいなかったから、見逃していたかも知れない」
ダームの話を聞いたベネットは、撫でている獣達を見下ろした。それから、優しい声でフォック達に話し掛ける。
「フォック、ルル、何か気になる物は無かったか?」
その問に、フォック達は首を傾げた。
「んー」
「どうだろ?」
「だけどね」
「大丈夫!」
フォックは、自らの頭部をベネットの額に押しつけた。その後、ルルも同様の動作をし、撫でモフられやすい位置に戻る。
「少なくとも、ダームの倒れていた近くには、何もザウバーの行き先の手掛かりは無いようだな」
フォック達を撫でながらベネットは話し始めた。
「と、なると……ここに留まり続けるか、直ぐに撤退するかを考えねばならない。食料が手に入りにくい場所だ。ザウバーが居なければ、転移魔法で移動は出来ないからな」
その話を聞いたダームは、苦しそうな表情になった。少年は、暫く悩んだ後で息を吐き、口を開いた。
「撤退しよう。ベネットさんは遺跡に入ると辛いんでしょう? それなのに、何時戻るか分からないザウバーをここで待つのは危険過ぎる」
少年は両手を握りしめた。一方、ベネットはダームの意見を受け入れ、二人は最寄りの人里まで移動を始める。
ダームは苦しそうな表情になりながらも、体を動かすことは無かった。また、その目は開いたままであり、瞬きはするものの焦点は定まっていない。
そうして時は過ぎ、少年の体が冷え始めた時だった。階段の在った場所から、動くものが現れたのは。
「起きて!」
「ねえってば!」
温かな獣達は、ダームの体を前脚で叩きながら話し掛けている。しかし、少年が返答をしない為、獣達はしびれを切らした様子で少年の手に噛み付いた。
「むー!」
「んー!」
獣達は、力の限り少年の手を噛んだ。しかし、それでも反応が無い為に、獣達は豪奢な尻尾でダームの顔を撫でる。
すると、少年は盛大なくしゃみをし、目を覚ました。彼は、驚いた様子で状況を確認しようとするが、視界はひたすらに尻尾の毛だった。
「あ、起きたー?」
「やっと起きたー?」
少年は体を起こし、話し掛けている獣達を見た。そして、その獣達の頭を両手で撫でると、その温もりを確かめる。
「大変だったんだよ」
「ここまで降りてくるのは」
獣達は、ここに至るまでのことをダームに伝えた。天井が崩れてしまった階段は、その小さな体で通るのも難儀したこと。また、人間の大きさでは、到底通れないことを少年に伝えた。
「だからね、ベネットがここまで来るのは無理だって」
「だから、代わりに僕達がそれを伝えに来た」
ダームは頷きながら獣達の話を聞いていた。それから、少年は獣達に話し掛ける。
「それで、ベネットさんは大丈夫なの? 落ちてきた階段の天井で怪我してない?」
それを聞いた獣達は、顔を見合わせる。
「怪我はしてないよ」
「ただ、ここの空気が駄目なんだって」
「歩くだけでも、凄く力を奪われるって」
「だから、階段を降りる前のところで、しゃがみ込んでたんだって」
獣達はダームの目を見上げ、話を続ける。
「だから、ベネットは遺跡の外で待ってるんだって」
「遺跡の外なら、力を奪われることもなかったからって」
「それでね、待ち合わせ場所を間違え無いように」
「遺跡の外に出たら、僕達が案内するんだ」
それを聞いたダームは、これまでに起きたことと、脱出経路が分からないことを獣達に伝えた。すると、獣達は自慢げに胸を張る。
「なーに、言ってんの!」
「探索は!」
「フォックと!」
「ルルの!」
「「得意なことだよ!」」
それを聞いたダームは笑顔になり、フォックとルルに探索を頼んだ。ダームは、自分自身でも出口は無いかを探し、そうしている内にミイラ化した遺体を発見する。
ダームは、恐る恐る遺体を観察するが、その年齢や性別は分からなかった。少年は、その遺体を見ながら悪夢を思い出し、自分の体を強く抱き締める。
「見付けたよー!」
「登れたら上の階に行けそうな穴!」
明るい声に気付いたダームは、その声の方向に向かった。すると、その頭上には大きな穴の開いた天井があり、少年の体であれば通るのは簡単に思えた。
「お手本みせるね!」
そう言うなり、フォックは器用に壁を登っていった。そして、天井の穴を通って上階に上がると、そこから顔だけを出してみせる。
「頑張ってね!」
フォックを追うように、ルルも壁を登った。そうして、獣達は上階からダームを見下ろし、少年の到着を待ち始める。
ダームは、壁の突起部に手足を掛け、慎重に壁を登っていった。その速度は獣達よりは遅かったが、少しずつ天井に向かっていく。
少年は、天井の穴に手を掛け、力を振り絞って地上階に上がった。そうして、上がった先の階で彼は横たわり、一時の休息を取る。
「大丈夫?」
「ぶー?」
それに応える余裕は少年に無かった。しかし、数分間休んだ後で、少年は額の汗を拭いながら立ち上がる。
その後、ダームはフォック達に案内されるまま遺跡内を歩いた。そうして、少年はベネットと再会する。
「案内完了!」
「任務完了!」
フォックとルルは、ベネットの胸元に飛び込んだ。そして、そのままフォック達は撫でモフられる。
「あのね、ベネットさん。ザウバーの魔法で戻れ無かったのには理由があって」
ダームは、地下で起きた出来事を話し始めた。しかし、少年が覚えていることは殆どなく、ただザウバーが見当たらないことだけがはっきりとしていた。
「そうか……書き置き等も無かったのだな?」
「多分、無かった。だけど、ちゃんと探そうと思ってはいなかったから、見逃していたかも知れない」
ダームの話を聞いたベネットは、撫でている獣達を見下ろした。それから、優しい声でフォック達に話し掛ける。
「フォック、ルル、何か気になる物は無かったか?」
その問に、フォック達は首を傾げた。
「んー」
「どうだろ?」
「だけどね」
「大丈夫!」
フォックは、自らの頭部をベネットの額に押しつけた。その後、ルルも同様の動作をし、撫でモフられやすい位置に戻る。
「少なくとも、ダームの倒れていた近くには、何もザウバーの行き先の手掛かりは無いようだな」
フォック達を撫でながらベネットは話し始めた。
「と、なると……ここに留まり続けるか、直ぐに撤退するかを考えねばならない。食料が手に入りにくい場所だ。ザウバーが居なければ、転移魔法で移動は出来ないからな」
その話を聞いたダームは、苦しそうな表情になった。少年は、暫く悩んだ後で息を吐き、口を開いた。
「撤退しよう。ベネットさんは遺跡に入ると辛いんでしょう? それなのに、何時戻るか分からないザウバーをここで待つのは危険過ぎる」
少年は両手を握りしめた。一方、ベネットはダームの意見を受け入れ、二人は最寄りの人里まで移動を始める。