幼馴染の権限をしれっと使おうとする兵

文字数 2,152文字

「お帰り、ダーム。良い服は見つかったか?」
 ベネットの問いに、ダームは買ったばりの服を、買い物袋から取り出してみせた。買われたばかりの服は綺麗で、ほつれや汚れは無かった。

「ヘイデルには沢山お店が在って迷ったけど、迷った分だけ良い物を買えたよ」
 ダームは、買ってきた服や防具を一つ一つベネットとアークに見せていった。少年は、ひとしきり買い物してきたものを見せると、綺麗に畳んで袋に戻す。

「着替えるのは、体を綺麗にしてからにする。何処かで洗えたら良いんだけど」
 ダームの話に、アークは病室を見回した。それから、使い古された冊子をベッドサイドの棚から取り出し、数頁を捲る。

 それから、アークは病院の間取りが描かれた頁を開き、それをダームの方に向けた。アークは、そうしてから浴室の場所を指で指し、口を開く。

「ルキアに話を通せば、患者の使わない時間ならば利用出来る筈です。消灯時間の後になるか、それより少し前になるかは分かりませんが、ルキアが許可すれば病院内で体を洗えますよ」
 その提案にダームは驚いた様子を見せた。そして、冊子を覗き込んで浴室の場所を確認する。

「病院の浴室を、僕が使うのは気が引けるけど……汚れたまま病院に居るのも良くないって思うんだよね」
 この時、まるで監視でもしていたかの様に病院の院長がアークの病室に入った。

「あらあら、何の相談をしているのかな?」
 ルキアは、楽しそうにアークとダームの方へ歩いていった。それから、アークの持つ冊子を見、ルキアは首を傾げる。

「怪我で何度も入院したアークが、その冊子を確認する必要は無さそうだけどねえ?」
 軽く笑いながら言い、院長は患者の顔を見る。すると、アークは少年へ目線をやりながら話し始めた。

「ダームが、着替える前に体を洗いたいそうなので、病院の浴室を使えないだろうか……と、話していたのですよ。ルキアに頼めば、患者が使わない時間であれば、浴室を使えるだろうと思いまして」
 アークの話に、ルキアは頷いてみせた。それから、院長はダームの方に顔を向け、片目を瞑る。

「今日、この後の時間には予約も入っていない筈だし、使った後に片付けてくれさえすれば、好きなだけ使って頂戴ね。その代わりと言ってはなんだけど、夜間のアークの監視をお願い」
 院長は、ダームに話をつけると、軽くアークの診察をした。その間、ダームは買ったばかりの服を眺め、そこから上下一揃えを手に持った。

「じゃあ、夜にアークさんを見張る為にも、今のうちに着替えてくるね」
 ダームは、そう言ってからアークの病室を出た。院長と言えば、アークの治り具合を確認した後でベネットの方に体を向ける。

「まあ、私達は一緒に入浴するとして、夕食はここに運んで来るわね」
 それだけ伝えると、ルキアはアークの病室を去った。部屋に残されたアークとベネットは、他愛ない会話をしながらダームの帰還を待つ。

 数十分程して、新しい服に着替えたダームがアークの病室に戻ってきた。少年の髪や顔は綺麗に洗われ、汚れているのは手に持った服だけだった。

 ダームは、なるべく小さく畳んでから、ヘイデルに来た時の服を荷物に詰めた。そうしてから、少年は新しい服をアークとベネットに見せる。

「どうかな? 次は何時買えるか分からないから、大きめでしっかりした服を選んだんだけど」
 そう言いながら、ダームは腕を伸ばしたりその場で回転してみせた。彼が着る服はやや大きめではあったが、それがダームの動きを遮ることは無かった。

「良い買い物をしましたね。ヘイデルに悪い店は無いと考えていますが、ちゃんと良い服を売るお店を見つけた様で良かったです」
 アークの話にダームは頷き、新しく買った防具も装備してみせた。その防具は、ダームの脛や胸元をしっかりと守っていた。また、どちらもダームのサイズに合っており、重量で少年の素早さを奪うこともしていない。

 ダームは、防具を装備した状態でどれだけ動けるかを見せる様に、幾らか動いて見せた。服が大きめになったにも関わらず、ダームの動きは軽やかで、それを見たアークは感嘆の声を漏らす。

「妥協せず、しっかりした選択をしてきたのですね。合わない武器や防具は、いざという時に枷になる。ダームが選んだ防具には、その心配がない」
 アークは目を瞑って、細く息を吐いた。彼の傷は未だ治らず、院長が外出許可を出す様子もない。

「私は、自分で防具を選んだことは無いからな。その善し悪しは分からないが、アークがそこまで言うのは凄いことなのだろう」
 ベネットの話に、ダームは首を傾げる。

「選んだことは無いなら、今身に付けているものはどうしたの?」 
 ダームの疑問に、ベネットは答えを返していく。

「全てがヘイデル教会からの支給品だな。選んだ服と言えば、プリトスで勧められるままに買ったものくらいか。それも、勧められたものを購入しただけだから、自分で選んだと言うには語弊があるな」
 その話に、ダームは考え込んだ様子を見せた。そして、少年は浮かんだ疑問を口にする。

「今の服が支給されたものだとして、子供の頃は? まさか、小さい頃から」
 ダームの話を遮る形で、夕食を抱えたルキアが入室した。また、ルキアは会話の一部を聞いていたのか、ベネットの代わりに答えを返す。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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