久しぶりの安息
文字数 2,664文字
「その魔法を使うなら、言ってからにしてよ」
そう漏らすと、ダームは青年の顔をじっと見つめる。しかし、ザウバーに反省する様子はなく、ダームは周囲を見回した。すると、彼の蒼い瞳には、何度か訪れた寝室が映し出された。そこが何処であるか気付いたダームは、驚いた様子で話し出す。
「マルンの小屋?」
ザウバーはそれを肯定し、直ぐにベッドへ横たわった。この時、ダームは彼に声を掛けるが、既に青年は眠りに落ちていた。
「やっぱり、疲れていたのかな?」
ダームは、そう言うとベネットの顔を見上げる。ベネットは無言で頷き、廊下へ繋がるドアを指し示した。その後、二人はリビングへ移動した。
「当人に聞いてみないことには、定かで無い。だが、倒れた後で魔法を使うということは、相当の無理をしたのだろう」
彼女は、そう言うと溜め息を吐き、呆れた様子で言葉を続ける。
「魔法が上手く発動したから良いものの、失敗していたらどうなっていたことか」
ダームは苦笑いを浮かべ、テーブルの横に置かれた椅子へ腰を下ろす。
「そうしてくれたお陰でここに来れた訳だし……気を失ったザウバーだって、安全な場所で休めて良かったんじゃない?」
ダームの考えを聞いた者は微笑し、口を閉じたまま頷いた。彼女は、その後で玄関の方へ顔を向け、呟く様に言葉を紡いだ。
「せっかく戻ってきたのだし、今日はご馳走を作るか」
ベネットは少年を見下ろし、笑顔を浮かべた。
「留守を頼む。私は、食材を買いに出掛けてくる」
願いを聞いたダームは、明るい声で受け入れた。この為、ベネットは安心して買い物に出掛け、数時間が経った後で買い物を終える。ベネットは、両手に荷物を抱えて戻った。彼女は、購入したものをテーブルに置くと一息つき、寝室のある方向を一瞥する。
「まだ、起きてはいないだろうな」
そう言って息を吐くと、ベネットは椅子に腰を下ろした。この時、ダームは机上の紙袋へ手を伸ばした。そして、少年は二つある紙袋のうち手前に置かれたものを引き寄せ、その中を覗き込む。
「卵とチーズと……後は、ベーコン?」
ダームは顔を上げ、対面に居る者の顔を見つめた。一方、彼に問われたベネットは頷き、購入した品物について話し出す。
「折角だから、移動中に手に入りにくいものを選んできた。この辺りで取れる果物や、柔らかなパンも買ってある」
そう言うと、ベネットはもう一つの紙袋を指差した。その仕草を見た少年は、紙袋の中を覗き込む。中には白色のパンが入っており、その下から赤や橙色の果物が覗いていた。その袋からバターや果物の甘い香りが立ち上り、それを覗いた少年の腹は小さく鳴る。その音を聞いたベネットは、少年の目を見つめた。
「ザウバーが何時起きても良い様に準備しておこう。食欲があるのならば、栄養を摂った方が良い」
そう言って立ち上がると、ベネットは卵の入った袋を持ち上げた。彼女は、それを持ったまま調理台に向かい、その動きを見た少年も立ち上がる。その後、ダームとベネットは食事の準備を始め、殆ど終わった時にダームは青年を起こしに向かった。寝室に入ったダームは、青年の肩を軽く揺する。
「起きて。料理が冷めない内に」
ダームが何度か呼び掛けた時、青年は眠そうに眼を覚ました。ザウバーは何とか目を開けて少年を見上げ、擦れた声で言葉を発する。
「分かった。顔洗って目を覚ましたら、俺も行く」
青年は、起き上がって大きな欠伸をする。そして、両腕を大きく上に伸ばすと、洗面所へ向った。この際、ダームは彼を無言で見送り、それからベネットの元へ戻った。その後、少年は慣れた様子で食器の用意をし、料理は皿に盛られ始めた。そして、テーブルの上に様々な料理が並べられ、並べ終えたところで彼は椅子に腰を下ろす。
テーブルの中心にはパン入りの籠が置かれ、その横に瑞々しい果物が置かれていた。また、手前にスープや卵を焼いた料理が置かれ、厚切りのベーコンは温かいまま皿に乗せられていた。少年は目を輝かせ、フォークを持って口を開く。
「それじゃ、いただきます!」
そう言うなり、ダームは厚切りベーコンにフォークを刺した。彼は、油の滴るそれを口一杯に頬張り、幸せそうな表情を浮かべて咀嚼する。少年は、目を細めてその旨みを味わい、口に含んだものを嚥下してから話し始めた。
「美味しい!」
ダームの瞳は輝き、ベネットは笑顔を浮かべる。
「それは良かった。移動中は、水分の少ない食材ばかりになってしまうからな」
そう返すと、ベネットは青年の姿を横目で見た。この時、彼に不調の様子は無く、彼女は直ぐに少年の方へ目線をやる。
「だよね。美味しい匂いをさせてると、どんどん生き物が集まってくるし」
そう言って息を吐き、少年はベーコンを食べた。その後も少年は食事を続けていき、果物に手を伸ばした。
「そろそろ、これを」
そう言って、彼は紅色の果物を掴み手元に寄せる。その果物の大きさは握り拳程度で、ダームは直ぐにその果実に齧り付いた。少年の齧った個所から甘い果汁が滴り落ち、柔らかな白い果肉が覗いている。ダームは、滴る果汁を舐め取ると咀嚼し始め、果物を食べ終えたところで話し始めた。
「ずっと乾燥した場所にいたから、余計に美味しく感じる」
そう話すと、ダームは手に残った果汁を舐めとった。
「そうだな。ああも乾燥した場所に居ると、瑞々しいものがより美味しく感じられる」
それを聞いたダームは大きく頷き、今度は黄色をした果物に手を伸ばす。すると、それを見ていた青年は苦笑し、片目を瞑って言葉を発した。
「本当、お前は良く食うな。食った方がでかくなれるだろうけど」
ダームは、果物を持ったまま、青年の顔を見た。彼は、そうしたまま果物の皮を剥き、笑みを浮かべる。
「それで大きくなれるなら、尚更食べたくなる」
そう言うなり、ダームはねっとりと甘い果肉を口に含む。そして、目を瞑って咀嚼すると、幸せそうに頬を赤らめた。
「ザウバーも食べたらどうだ? 倒れた後なのだし、栄養を摂った方が良い」
青年は軽く笑い、残っている果物に目線をやった。
「じゃ、お言葉に甘えて」
言いながら良く熟れた果物を手に取り、ザウバーはベネットの目を見た。
「で、お前は食わねえの?」
問われた者は首を振り、理由を加える。
「買い物の際に、味見を勧められてな。十分楽しませて貰った」
そう返すと、ベネットは目を細めて微笑んだ。すると、ダームは羨ましそうに息を吐き、ザウバーは安心した様子で果物を食べ始める。
そう漏らすと、ダームは青年の顔をじっと見つめる。しかし、ザウバーに反省する様子はなく、ダームは周囲を見回した。すると、彼の蒼い瞳には、何度か訪れた寝室が映し出された。そこが何処であるか気付いたダームは、驚いた様子で話し出す。
「マルンの小屋?」
ザウバーはそれを肯定し、直ぐにベッドへ横たわった。この時、ダームは彼に声を掛けるが、既に青年は眠りに落ちていた。
「やっぱり、疲れていたのかな?」
ダームは、そう言うとベネットの顔を見上げる。ベネットは無言で頷き、廊下へ繋がるドアを指し示した。その後、二人はリビングへ移動した。
「当人に聞いてみないことには、定かで無い。だが、倒れた後で魔法を使うということは、相当の無理をしたのだろう」
彼女は、そう言うと溜め息を吐き、呆れた様子で言葉を続ける。
「魔法が上手く発動したから良いものの、失敗していたらどうなっていたことか」
ダームは苦笑いを浮かべ、テーブルの横に置かれた椅子へ腰を下ろす。
「そうしてくれたお陰でここに来れた訳だし……気を失ったザウバーだって、安全な場所で休めて良かったんじゃない?」
ダームの考えを聞いた者は微笑し、口を閉じたまま頷いた。彼女は、その後で玄関の方へ顔を向け、呟く様に言葉を紡いだ。
「せっかく戻ってきたのだし、今日はご馳走を作るか」
ベネットは少年を見下ろし、笑顔を浮かべた。
「留守を頼む。私は、食材を買いに出掛けてくる」
願いを聞いたダームは、明るい声で受け入れた。この為、ベネットは安心して買い物に出掛け、数時間が経った後で買い物を終える。ベネットは、両手に荷物を抱えて戻った。彼女は、購入したものをテーブルに置くと一息つき、寝室のある方向を一瞥する。
「まだ、起きてはいないだろうな」
そう言って息を吐くと、ベネットは椅子に腰を下ろした。この時、ダームは机上の紙袋へ手を伸ばした。そして、少年は二つある紙袋のうち手前に置かれたものを引き寄せ、その中を覗き込む。
「卵とチーズと……後は、ベーコン?」
ダームは顔を上げ、対面に居る者の顔を見つめた。一方、彼に問われたベネットは頷き、購入した品物について話し出す。
「折角だから、移動中に手に入りにくいものを選んできた。この辺りで取れる果物や、柔らかなパンも買ってある」
そう言うと、ベネットはもう一つの紙袋を指差した。その仕草を見た少年は、紙袋の中を覗き込む。中には白色のパンが入っており、その下から赤や橙色の果物が覗いていた。その袋からバターや果物の甘い香りが立ち上り、それを覗いた少年の腹は小さく鳴る。その音を聞いたベネットは、少年の目を見つめた。
「ザウバーが何時起きても良い様に準備しておこう。食欲があるのならば、栄養を摂った方が良い」
そう言って立ち上がると、ベネットは卵の入った袋を持ち上げた。彼女は、それを持ったまま調理台に向かい、その動きを見た少年も立ち上がる。その後、ダームとベネットは食事の準備を始め、殆ど終わった時にダームは青年を起こしに向かった。寝室に入ったダームは、青年の肩を軽く揺する。
「起きて。料理が冷めない内に」
ダームが何度か呼び掛けた時、青年は眠そうに眼を覚ました。ザウバーは何とか目を開けて少年を見上げ、擦れた声で言葉を発する。
「分かった。顔洗って目を覚ましたら、俺も行く」
青年は、起き上がって大きな欠伸をする。そして、両腕を大きく上に伸ばすと、洗面所へ向った。この際、ダームは彼を無言で見送り、それからベネットの元へ戻った。その後、少年は慣れた様子で食器の用意をし、料理は皿に盛られ始めた。そして、テーブルの上に様々な料理が並べられ、並べ終えたところで彼は椅子に腰を下ろす。
テーブルの中心にはパン入りの籠が置かれ、その横に瑞々しい果物が置かれていた。また、手前にスープや卵を焼いた料理が置かれ、厚切りのベーコンは温かいまま皿に乗せられていた。少年は目を輝かせ、フォークを持って口を開く。
「それじゃ、いただきます!」
そう言うなり、ダームは厚切りベーコンにフォークを刺した。彼は、油の滴るそれを口一杯に頬張り、幸せそうな表情を浮かべて咀嚼する。少年は、目を細めてその旨みを味わい、口に含んだものを嚥下してから話し始めた。
「美味しい!」
ダームの瞳は輝き、ベネットは笑顔を浮かべる。
「それは良かった。移動中は、水分の少ない食材ばかりになってしまうからな」
そう返すと、ベネットは青年の姿を横目で見た。この時、彼に不調の様子は無く、彼女は直ぐに少年の方へ目線をやる。
「だよね。美味しい匂いをさせてると、どんどん生き物が集まってくるし」
そう言って息を吐き、少年はベーコンを食べた。その後も少年は食事を続けていき、果物に手を伸ばした。
「そろそろ、これを」
そう言って、彼は紅色の果物を掴み手元に寄せる。その果物の大きさは握り拳程度で、ダームは直ぐにその果実に齧り付いた。少年の齧った個所から甘い果汁が滴り落ち、柔らかな白い果肉が覗いている。ダームは、滴る果汁を舐め取ると咀嚼し始め、果物を食べ終えたところで話し始めた。
「ずっと乾燥した場所にいたから、余計に美味しく感じる」
そう話すと、ダームは手に残った果汁を舐めとった。
「そうだな。ああも乾燥した場所に居ると、瑞々しいものがより美味しく感じられる」
それを聞いたダームは大きく頷き、今度は黄色をした果物に手を伸ばす。すると、それを見ていた青年は苦笑し、片目を瞑って言葉を発した。
「本当、お前は良く食うな。食った方がでかくなれるだろうけど」
ダームは、果物を持ったまま、青年の顔を見た。彼は、そうしたまま果物の皮を剥き、笑みを浮かべる。
「それで大きくなれるなら、尚更食べたくなる」
そう言うなり、ダームはねっとりと甘い果肉を口に含む。そして、目を瞑って咀嚼すると、幸せそうに頬を赤らめた。
「ザウバーも食べたらどうだ? 倒れた後なのだし、栄養を摂った方が良い」
青年は軽く笑い、残っている果物に目線をやった。
「じゃ、お言葉に甘えて」
言いながら良く熟れた果物を手に取り、ザウバーはベネットの目を見た。
「で、お前は食わねえの?」
問われた者は首を振り、理由を加える。
「買い物の際に、味見を勧められてな。十分楽しませて貰った」
そう返すと、ベネットは目を細めて微笑んだ。すると、ダームは羨ましそうに息を吐き、ザウバーは安心した様子で果物を食べ始める。