青年のみた夢
文字数 1,425文字
----------
「この年にもなって、まだ兆候が見られないなんて」
「コイツは、とんだ失敗作だな」
「……は、同じ年で何属性もの魔法を使えたと言うのに」
「甘やかし過ぎたんじゃないか?」
「まさか! 食事も教育もなにもかも、……と変わらないものを与えたのに!」
「見た目だけは……にそっくりだと言うのにな。魔法の才能だけがまるで違う」
(また、僕のせいで……)
「外に行こうか? 今日はとっても天気が良い」
(そうだね、とっても天気が良いから)
「ほら、庭の木の実、もう食べられそうだ。毎年、この木には美味しい実が生るけど、ああやって生産性のない話ばかりする二人は気付いた事がない。あの二人はね、自分達が気持ち良くなれることしか見ていないんだよ?」
「そうなの?」
「そうだよ。だから、自分達のせいで息子の可能性を潰している事に気付かない。魔法ってのはね、生まれ付いての魔力がなければどうにもならない。だけど、魔力を持って生まれたなら、やりたい事があって、その目的に向けてどんな魔法が必要か……その為に想像しやすい呪文があるけど、そう言うのは学校でやることだから」
「じゃあ、学校に行けば……」
「そうだね。魔力持ちなら、きっと基本的な魔法が使える様になる。だけど、良いかいザウバー? あの木の実を見て?」
「うん」
「木の実って、木の枝からぶら下がっているでしょ? それを切り離したら、落ちてくると思わない?」
「そうだね」
「じゃあ、実際にやってみようか」
「えっ?」
「ほら、どれでも良いから木の実を見て?」
「う、うん」
「そうしたら、木の枝から木の実に伸びる部分を、風で切り裂く想像をする」
「うん」
「そうだな、冬に見られるつむじ風を思い出そうか。あれの小さい……」
(つむじ風、つむじ風……)
「あ、これは豊作だ。枝毎落ちてきた」
「失敗?」
「まさか。ザウバーの魔法のおかげで、沢山の木の実が食べられる。ほら、もう手の届く位置に木の実がある。好きなだけ食べると良い?」
「兄さんは食べないの?」
「食べるよ? だけど、それを落としたのはザウバーだ。それに見ていてごらん、僕は僕で一番美味しい木の実を落として食べるから」
「うん」
「風の精霊よ、我に力を貸したまえ……」
「凄い! ちゃんと木の実だけ落ちて来た!」
「そうだね。僕はずっとこうやって木の実を食べてきたから。ザウバーも、何時かは出来るようになるよ」
「そう、かな?」
「出来るようになる。但し、それは練習してこそだよ? 先ずは木の実を外して食べちゃって? 僕は僕で美味しい奴を選んで食べるから」
「うん!」
----------
「もう、枝に残った木の実はない?」
「……と思う」
「じゃあ、さっき使った魔法を落とした枝にかけてみよう。今度は、粉々にする気持ちで」
「粉々に?」
「そう、粉々に。あの二人に、ばれない為に」
「分かった!」
「……上手だね。君は、細かい操作が必要な魔法より、攻撃魔法が合っているのかも」
「攻撃魔法が?」
「可能性だよ。小さいうちは、出来ない事よりやりやすいことからやる方が楽しい。そうだ、粉々にした枝、強い風で吹き飛ばしてみようか?」
「うん!」
---------
「ザウバー! 起きて!」
ダームの声でザウバーは目を覚まし、ベッドに上体を預けたまま周囲を見た。
「ヘイデル近くの洞窟がまた大変なんだ。とにかく起きて、詳しいことを話すから」
ザウバーは少年に促される様に立ち上がり部屋を出た。そして、二人はベネットの待つ部家へ向かう。
「この年にもなって、まだ兆候が見られないなんて」
「コイツは、とんだ失敗作だな」
「……は、同じ年で何属性もの魔法を使えたと言うのに」
「甘やかし過ぎたんじゃないか?」
「まさか! 食事も教育もなにもかも、……と変わらないものを与えたのに!」
「見た目だけは……にそっくりだと言うのにな。魔法の才能だけがまるで違う」
(また、僕のせいで……)
「外に行こうか? 今日はとっても天気が良い」
(そうだね、とっても天気が良いから)
「ほら、庭の木の実、もう食べられそうだ。毎年、この木には美味しい実が生るけど、ああやって生産性のない話ばかりする二人は気付いた事がない。あの二人はね、自分達が気持ち良くなれることしか見ていないんだよ?」
「そうなの?」
「そうだよ。だから、自分達のせいで息子の可能性を潰している事に気付かない。魔法ってのはね、生まれ付いての魔力がなければどうにもならない。だけど、魔力を持って生まれたなら、やりたい事があって、その目的に向けてどんな魔法が必要か……その為に想像しやすい呪文があるけど、そう言うのは学校でやることだから」
「じゃあ、学校に行けば……」
「そうだね。魔力持ちなら、きっと基本的な魔法が使える様になる。だけど、良いかいザウバー? あの木の実を見て?」
「うん」
「木の実って、木の枝からぶら下がっているでしょ? それを切り離したら、落ちてくると思わない?」
「そうだね」
「じゃあ、実際にやってみようか」
「えっ?」
「ほら、どれでも良いから木の実を見て?」
「う、うん」
「そうしたら、木の枝から木の実に伸びる部分を、風で切り裂く想像をする」
「うん」
「そうだな、冬に見られるつむじ風を思い出そうか。あれの小さい……」
(つむじ風、つむじ風……)
「あ、これは豊作だ。枝毎落ちてきた」
「失敗?」
「まさか。ザウバーの魔法のおかげで、沢山の木の実が食べられる。ほら、もう手の届く位置に木の実がある。好きなだけ食べると良い?」
「兄さんは食べないの?」
「食べるよ? だけど、それを落としたのはザウバーだ。それに見ていてごらん、僕は僕で一番美味しい木の実を落として食べるから」
「うん」
「風の精霊よ、我に力を貸したまえ……」
「凄い! ちゃんと木の実だけ落ちて来た!」
「そうだね。僕はずっとこうやって木の実を食べてきたから。ザウバーも、何時かは出来るようになるよ」
「そう、かな?」
「出来るようになる。但し、それは練習してこそだよ? 先ずは木の実を外して食べちゃって? 僕は僕で美味しい奴を選んで食べるから」
「うん!」
----------
「もう、枝に残った木の実はない?」
「……と思う」
「じゃあ、さっき使った魔法を落とした枝にかけてみよう。今度は、粉々にする気持ちで」
「粉々に?」
「そう、粉々に。あの二人に、ばれない為に」
「分かった!」
「……上手だね。君は、細かい操作が必要な魔法より、攻撃魔法が合っているのかも」
「攻撃魔法が?」
「可能性だよ。小さいうちは、出来ない事よりやりやすいことからやる方が楽しい。そうだ、粉々にした枝、強い風で吹き飛ばしてみようか?」
「うん!」
---------
「ザウバー! 起きて!」
ダームの声でザウバーは目を覚まし、ベッドに上体を預けたまま周囲を見た。
「ヘイデル近くの洞窟がまた大変なんだ。とにかく起きて、詳しいことを話すから」
ザウバーは少年に促される様に立ち上がり部屋を出た。そして、二人はベネットの待つ部家へ向かう。