荒々しい試練
文字数 2,450文字
「では、確認をしてくる」
ベネットはそう言い残し、ファーガは助走をつけて飛び上がる。羽根を持つ白馬は力強く羽ばたき、岩の高さよりも上へ向かって行った。岩の上部が見える高さまで飛んだ時、ファーガは羽ばたきながら空中に留まった。ベネットは巨大な岩を馬上から眺め、白馬に話し掛ける。
「もう少し高く飛んでくれ」
ファーガはより高く飛び、ベネットの視界は広がった。すると、岩の先に無風の空間があり、べネットはそこへ向かうようファーガに告げる。ファーガが岩を越えて進むと、開けた場所が在った。その場所は殆どの方向を岩で覆われており、中心部に祭壇らしきものが在る。
祭壇を確認したベネットは、ファーガに祭壇を避けて降りるよう伝えた。ファーガはゆっくり地面に降り立ち、それからダームらを迎えに空へ飛び立つ。残されたベネットは、四角い石が積み重ねられた構造物を見た。構造物の中心に翠色の大石が浮かんでおり、その大きさは人の頭部の数倍ある。また、その石は縦に長い球体で、太陽の光を浴びて輝いていた。
ベネットは、輝く石を見つめてから空を見上げ、仲間の到着を待つ。数分後、上方にファーガが現れ、少年らを乗せた白馬はベネットの前に降り立った。ダーム達が降りると、白馬は直ぐに空へ飛び立つ。
「こんなところが有ったなんて……上手く言えないけど、何か有りそう」
少年は宙に浮く石を見つめ、一歩一歩近付いて行った。しかし、数歩進んだところで石から風がまき起こり、少年は風に煽られる形で後退する。
この際、少年は目を瞑って顔を覆い、風が収まった所で目を開いた。すると、ダームの目に、小鳥の様な生物が映し出された。その生物の体は透き通っており、石の色を受けてか薄い緑色をしていた。
「辿り着く者が居るとは」
宙に浮かぶ生物は、体に見合わぬ低い声で言うと羽根を広げ、ダームの顔を見つめる。
「我が名はマイト、風を司る者。少年よ、辿り着いたのは褒めてやろう。しかし、我の力を預ける器では無い」
マイトは、そう言うと羽根を閉じ、僅かに嘴を上へ向けた。すると、渦を巻いた風がダームへ向かって吹き、少年の体は後方へ吹き飛ばされる。それを見たザウバーは少年の元へ駆け寄り、仲間の体を支えようとした。しかし、彼自身も強い風に巻き込まれ、その勢いによって転んでしまう。
「期待外れか。ここまで来られるのなら、軽くかわせると思ったのだが」
風聖霊は目を瞑り、碧色の石へ足を下ろした。
「まあ、良い。力を受け止めきれ無ければ死ぬまでだ」
マイトは、そう言ったところで翼を広げ、自身を中心とした風を巻き起こす。この為、立ち上がり掛けていた青年は背中を下にして転び、ダームは転んだ姿勢のまま目を瞑る。しかし、ベネットは足に力を入れて持ち堪え、目を細めてマイトを見据える。すると、聖霊はベネットに向き直り、低い声で言葉を紡いだ。
「良い瞳だ。カニファの加護を受けているだけはあるな」
マイトは目を瞑り、首を傾げる。聖霊は、数十秒そうした後で目を開き、ベネットの目を見据えた。
「仲間を危険に曝しても、試練を受ける気は有るか?」
ベネットは、不安そうに仲間を見た。ダームやザウバーは土に塗れながらも立ち上がり、ベネットの顔を見る。
「僕なら大丈夫!」
「ここまで来て、やらねえとか言うなよ?」
二人の言葉を受けたベネットは、無言のまま口角を上げた。そして、大きく息を吸い込むと、はっきりとした声で言い放つ。
「試練を受けよう。受けぬ方が、仲間を裏切ることになる」
ダームは笑顔を浮かべ、服についた汚れを払った。ザウバーは少年の背後に立つと肩を掴み、そのまま聖霊に背中を向ける。
「良かろう。ならば、我の元に来るが良い」
ベネットはマイトに近付いて行き、ダームはそれを見ようとした。しかし、青年はそれを遮る様に少年の腕を掴み、力尽くでダームの動きを封じる。
「目を瞑って大人しくしてろ。さっきより強いのが来る」
ザウバーがそう言った時、ベネットはマイトの眼前に到着していた。一方、聖霊は羽根を広げて浮き上がり、ベネットを見下ろして話し始める。
「それに両手を触れろ。我が離して良いと言うまで」
聖霊は翼を閉じ、小さな嘴を下に向ける。ベネットは碧色の石へ手を伸ばし、深呼吸しながら手を触れた。すると、その石を中心として風が起こり、ダームとザウバーは体を丸めてそれに耐えた。しかし、石の周辺だけ風は無く、ベネットは黙ったまま聖霊を見上げる。
「力を欲するなら、それを扱えると証明してみせろ」
ベネットは目を瞑り、ゆっくりとした呼吸を繰り返す。そうしている間にも風は強さを増していき、ダームらは辛うじてその場に留まっていた。しかし、既に上手く呼吸は出来ず、少年は辛そうに涙を浮かべる。
十数分程経った時、ダームは堪え切れずに倒れてしまう。少年は、倒れながらもつま先に力を込めて這いつくばり、それ以上飛ばされぬよう試みた。そうしている内にも風は強くなり、ついに青年も吹き飛ばされ始める。
ザウバーは、歯を食いしばって踏ん張ろうとした。彼がそうしている間に、少年は地面に転がったまま飛ばされていく。ところが、その風は唐突に止み、不意をつかれた青年は勢い良く転んでしまう。彼が、転んだ姿勢のままベネットを見ると、その近くで色を無くした石が浮かんでいた。
そのせいか、彼の位置からは聖霊の姿を確認出来ず、ザウバーはよろめきながらベネットの方へ向かって行く。この時、ダームはゆっくりと体を起こしており、四つん這いの体勢で仲間の様子を見つめていた。
青年がベネットの近くまで来た時、宙に浮く石は粉々に砕けた。それと同時に聖霊は姿を消し、ベネットは意識を失って倒れてしまう。それを見たザウバーはベネットに駆け寄り、少年も立ち上がって仲間の元に駆け寄った。その後、青年はベネットの体を起こし、名を呼んだ。しかし、彼女がそれに反応を示すことは無く、ダームは心配そうにベネットの顔を覗き込む。
ベネットはそう言い残し、ファーガは助走をつけて飛び上がる。羽根を持つ白馬は力強く羽ばたき、岩の高さよりも上へ向かって行った。岩の上部が見える高さまで飛んだ時、ファーガは羽ばたきながら空中に留まった。ベネットは巨大な岩を馬上から眺め、白馬に話し掛ける。
「もう少し高く飛んでくれ」
ファーガはより高く飛び、ベネットの視界は広がった。すると、岩の先に無風の空間があり、べネットはそこへ向かうようファーガに告げる。ファーガが岩を越えて進むと、開けた場所が在った。その場所は殆どの方向を岩で覆われており、中心部に祭壇らしきものが在る。
祭壇を確認したベネットは、ファーガに祭壇を避けて降りるよう伝えた。ファーガはゆっくり地面に降り立ち、それからダームらを迎えに空へ飛び立つ。残されたベネットは、四角い石が積み重ねられた構造物を見た。構造物の中心に翠色の大石が浮かんでおり、その大きさは人の頭部の数倍ある。また、その石は縦に長い球体で、太陽の光を浴びて輝いていた。
ベネットは、輝く石を見つめてから空を見上げ、仲間の到着を待つ。数分後、上方にファーガが現れ、少年らを乗せた白馬はベネットの前に降り立った。ダーム達が降りると、白馬は直ぐに空へ飛び立つ。
「こんなところが有ったなんて……上手く言えないけど、何か有りそう」
少年は宙に浮く石を見つめ、一歩一歩近付いて行った。しかし、数歩進んだところで石から風がまき起こり、少年は風に煽られる形で後退する。
この際、少年は目を瞑って顔を覆い、風が収まった所で目を開いた。すると、ダームの目に、小鳥の様な生物が映し出された。その生物の体は透き通っており、石の色を受けてか薄い緑色をしていた。
「辿り着く者が居るとは」
宙に浮かぶ生物は、体に見合わぬ低い声で言うと羽根を広げ、ダームの顔を見つめる。
「我が名はマイト、風を司る者。少年よ、辿り着いたのは褒めてやろう。しかし、我の力を預ける器では無い」
マイトは、そう言うと羽根を閉じ、僅かに嘴を上へ向けた。すると、渦を巻いた風がダームへ向かって吹き、少年の体は後方へ吹き飛ばされる。それを見たザウバーは少年の元へ駆け寄り、仲間の体を支えようとした。しかし、彼自身も強い風に巻き込まれ、その勢いによって転んでしまう。
「期待外れか。ここまで来られるのなら、軽くかわせると思ったのだが」
風聖霊は目を瞑り、碧色の石へ足を下ろした。
「まあ、良い。力を受け止めきれ無ければ死ぬまでだ」
マイトは、そう言ったところで翼を広げ、自身を中心とした風を巻き起こす。この為、立ち上がり掛けていた青年は背中を下にして転び、ダームは転んだ姿勢のまま目を瞑る。しかし、ベネットは足に力を入れて持ち堪え、目を細めてマイトを見据える。すると、聖霊はベネットに向き直り、低い声で言葉を紡いだ。
「良い瞳だ。カニファの加護を受けているだけはあるな」
マイトは目を瞑り、首を傾げる。聖霊は、数十秒そうした後で目を開き、ベネットの目を見据えた。
「仲間を危険に曝しても、試練を受ける気は有るか?」
ベネットは、不安そうに仲間を見た。ダームやザウバーは土に塗れながらも立ち上がり、ベネットの顔を見る。
「僕なら大丈夫!」
「ここまで来て、やらねえとか言うなよ?」
二人の言葉を受けたベネットは、無言のまま口角を上げた。そして、大きく息を吸い込むと、はっきりとした声で言い放つ。
「試練を受けよう。受けぬ方が、仲間を裏切ることになる」
ダームは笑顔を浮かべ、服についた汚れを払った。ザウバーは少年の背後に立つと肩を掴み、そのまま聖霊に背中を向ける。
「良かろう。ならば、我の元に来るが良い」
ベネットはマイトに近付いて行き、ダームはそれを見ようとした。しかし、青年はそれを遮る様に少年の腕を掴み、力尽くでダームの動きを封じる。
「目を瞑って大人しくしてろ。さっきより強いのが来る」
ザウバーがそう言った時、ベネットはマイトの眼前に到着していた。一方、聖霊は羽根を広げて浮き上がり、ベネットを見下ろして話し始める。
「それに両手を触れろ。我が離して良いと言うまで」
聖霊は翼を閉じ、小さな嘴を下に向ける。ベネットは碧色の石へ手を伸ばし、深呼吸しながら手を触れた。すると、その石を中心として風が起こり、ダームとザウバーは体を丸めてそれに耐えた。しかし、石の周辺だけ風は無く、ベネットは黙ったまま聖霊を見上げる。
「力を欲するなら、それを扱えると証明してみせろ」
ベネットは目を瞑り、ゆっくりとした呼吸を繰り返す。そうしている間にも風は強さを増していき、ダームらは辛うじてその場に留まっていた。しかし、既に上手く呼吸は出来ず、少年は辛そうに涙を浮かべる。
十数分程経った時、ダームは堪え切れずに倒れてしまう。少年は、倒れながらもつま先に力を込めて這いつくばり、それ以上飛ばされぬよう試みた。そうしている内にも風は強くなり、ついに青年も吹き飛ばされ始める。
ザウバーは、歯を食いしばって踏ん張ろうとした。彼がそうしている間に、少年は地面に転がったまま飛ばされていく。ところが、その風は唐突に止み、不意をつかれた青年は勢い良く転んでしまう。彼が、転んだ姿勢のままベネットを見ると、その近くで色を無くした石が浮かんでいた。
そのせいか、彼の位置からは聖霊の姿を確認出来ず、ザウバーはよろめきながらベネットの方へ向かって行く。この時、ダームはゆっくりと体を起こしており、四つん這いの体勢で仲間の様子を見つめていた。
青年がベネットの近くまで来た時、宙に浮く石は粉々に砕けた。それと同時に聖霊は姿を消し、ベネットは意識を失って倒れてしまう。それを見たザウバーはベネットに駆け寄り、少年も立ち上がって仲間の元に駆け寄った。その後、青年はベネットの体を起こし、名を呼んだ。しかし、彼女がそれに反応を示すことは無く、ダームは心配そうにベネットの顔を覗き込む。