モフモフ報告ブルブル編

文字数 1,279文字

 ダームとベネットがヘイデルの中で話を聞いて回るも、めぼしい情報は得られなかった。この為、二人は問題の洞窟に一番近い門の前まで向かった。

「やはり、直接調査をする方が手っ取り早いか……」
「だけど、僕達だけで向かうのも危険なんでしょ? だからアークさんも、あんな風に言ってくれたんだよね?」
 ダームの問いにベネットは頷き、晴れ渡った空を見上げた。すると、勢いを付けたフォックが、彼女の胸に飛び込んでくる。

「凄いの! 凄いのが居た!」
 ベネットの服に捉まると、フォックは膨らませていた尾を力無くおろした。それから、フォックは震えながらベネットの胸に顔を埋め、大きな声で話し続ける。

「洞窟の、前。最初は何もないって思ったのに、何か伸びてきて。怖いから、逃げてきた!」
 フォックは、ベネットの服に捉まったまま、顔を上げた。一方、ベネットはフォックの頭を優しく撫で、召喚獣の心を落ち着かせようとする。

「だから、怖いのしか分からなかった」
 フォックは切なそうに体の力を抜き、ずり落ちそうになった所をベネットが抱き上げる。ベネットは、そのままフォックを自らの顔の高さまで持ち上げ、涙を浮かべる召喚獣の顔を見た。

「見てきてくれただけで充分だ」
 ベネットは、柔らかな毛の生えたフォックと額を合わせ、目を瞑った。ベネットは、数分の間フォックが得た情報を額を介して手に入れ、全ての情報を得た所でフォックを胸の高さまで下ろす。

「成る程、これは厄介な相手の様だ」
 ベネットの言葉でダームは首を傾げ、役目を終えたフォックは抱き抱えられたまま丸くなった。

「あの攻撃方法は、以前に見たことがある。この前、出くわした時は洞窟内に逃げられたが……裏を返せば、ザウバーが居る状態であれば、こちらが有利なのだろう」
 その話に、ダームは記憶を探る様に片目を瞑った。そして、彼が今まで出会ったことのある魔族を振り返ってゆき、ベネットの話す対象が思い当たった様子で目を開いた。

「それって、デザトの近くにも出てきた魔族? 何人かの魔族には会ったけど、逃げられたのって、あの魔族だよね?」
 その問いにベネットは頷き、ダームと目線を合わせた。

「そうだ。素早く複数の方向に攻撃出来る魔族、ヴァリスだ。転移魔法を使えるザウバーなら、やり方次第で隙を作れるだろう。だが、それでも戦闘準備はしておくべき油断ならぬ相手だ」
「確かに、ザウバーなら魔法で魔族を倒せた。僕は何も出来なかったけど、ザウバーが居ればあの魔族も……」
 ダームは目を伏せ、使い込まれた剣の鞘を握った。そして、静かに目を瞑ると、長く息を吐く。

「だから、ザウバーと合流するまで、僕達でやれることをやろう。アークさんも言っていたけど、ザウバーの転移魔法があれば、一瞬でヘイデルに戻れる」
 ダームは目を開き、胸に手を当てた。彼は、そうしてからベネットの目を見、口を開く。

「だけど、もしヘイデルが、ヘイデルの人達が連れ去られて被害に遭い始めたら、僕は耐えられる自信がない」
 少年は、震える声で気持ちを伝えた。また、この時、彼らに向かって走り寄る獣の姿があった。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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