サウバーにかけられた呪詛
文字数 2,147文字
ダームとザウバーが仲間の待つ部家へ入ると、そこには難しい表情をして椅子に座るベネットの姿があった。ベネットは、部屋に入ったザウバーを見るなり、口を開く。
「一体、何の調査をしてきた?」
その問いにザウバー は首をかしげ、音をたてながら椅子に座った。
「そりゃ、兄貴が残していった資料の」
「手鏡を持ってくる。自分の姿を映してみろ」
ベネットは、そういうなり部屋を出、その背中をダームは見送った。少年は、不思議そうな表情を浮かべながらザウバーの顔を見る。
「ベネットさん、一体……」
ダームは、そこまで言ったところで言葉を切り、ザウバーの首の横を指差した。ダームが指差す先には、黒く変色し、引き攣れた皮膚が有った。その黒く変色した箇所は、怪しく光りながら脈打っている。
「ザウバー、本当に何をしてきたの?」
少年は震える声で問い掛け、ザウバーの首に手を伸ばした。その時、手鏡を持ったベネットが部屋に戻ってくる。
「ダーム、下手に触らない方が良い。それが何なのか、まだ分かりきっていない」
ベネットは、ダームへ警告してからザウバーに手鏡を渡した。手鏡を受け取ったザウバーは、先ず自らの顔を鏡に映した。ザウバーは、そうしてからダームが指差した首を鏡に映し出す。
「何だ、これ?」
自らの変化に気付いたザウバーは、鏡越しに自らの首を眺めた。そこには、毒々しい色に変化した皮膚が在った。
「たから、何の調査をしてきたのか聞いたのだ。原因が判れば、対処方も絞れる」
ベネットは、ザウバーの前に置かれた椅子に座った。一方で、それを見たダームがベネットの横の椅子に腰を下ろす。
「調査つったって、ダームと行った時と同じ様に資料を……いや、本棚の裏に気になる部分が有ったから、それも調べ様として……けど、まだしっかりとは調べられてねえ」
ザウバーはテーブルに肘をつき、長く息を吐き出した。彼は、そうしてから目を瞑り、記憶を探る。
「そうだ、そこから微妙に調子が悪い。力が奪われている感覚だ」
ザウバーは再度長く息を吐き出した。そして、彼は目を開くと、ベネットの顔を見る。
「だろうな、魔力減少の呪詛がかけられている。並みの魔力量なら、起きていることすらままならない類の呪詛だ」
その話を聞いたザウバーは眉間に皺を寄せ、片眉を上げた。
「兄貴が使っていた本棚だぜ? 何でそんな呪詛が……」
「貴重な資料が多いなら、盗難防止策としてやった可能性もあるだろう? あまりにも本が取り出された場合にのみ発動する呪詛。盗難対策を施すこと自体は珍しくもない」
ザウバーは低い声を漏らし、ベネットは更なる説明を加える。
「魔力量の多いザウバーだから動けているが、殆どの者なら魔力が枯渇して動けなくなるだろうからな。争うことなく、資料の所有者が怪我する事も無く、盗難犯を捕獲するには賢いやり方だ」
「俺は盗難犯扱いかよ」
ザウバーはテーブルの上に上体を伏した。一方、その動きを見たベネットは深い溜め息を吐く。
「あくまで、防犯対策としての呪詛の可能性を話しただけだ。命まで奪うものではない様だし、良心的な呪詛だろう」
「呪詛は呪詛だろ」
ザウバーは、それだけ言うと上体を起こした。彼は、椅子の背もたれに背中を付け、天井を仰ぐ。
「それで? 本を本棚に戻せば解呪出来るのか?」
ザウバーの問いに、ベネットは首を横に振る。
「呪詛とは、そんな単純なものでは無いだろう? 大体にして、魔術や呪詛に関しては専門的に学んだザウバーの方が詳しい筈だ」
その返答にザウバーは苦笑し、右手で目元を覆った。
「それに、資料を本棚へ戻しに行くにも、魔力が必要だろう。だから」
ベネットはダームの方へ体を向けた。そして、少年の肩に手を乗せると、にこやかな笑みを浮かべて見せる。
「ダームを頼ろう。ダームが新たに手にした力であれば、その呪詛も解呪出来る」
その言葉で、ダームは驚いた様子を見せた。ダームは、ベネットの顔を見てからザウバーの首を見、小さな声で話し出す。
「僕、呪詛とか解呪とか全然分からないんだけど」
少年は苦笑いを浮かべ、指先で頬を掻いた。
「分からなくても構わない。新しい剣にはその力があるし、その力を扱えるのはダームだけだ」
ベネットはそう言うと立ち上がり、部屋の隅に置かれた縄を手に取った。
「とは言え、呪いの核をザウバーから離さぬことにはそれも危険だ。だから」
ベネットはザウバーの背後に回り込み、手にした縄を使って青年の体を椅子に縛り付けた。
「何を」
「呪詛を解く際に、本人の意思と関係なく暴れることがあると聞く。それを防ぐ為に簡単な対策位はする」
そう言うなり、ベネットはザウバーの足を椅子の足に固定した。ザウバーと言えば逆らう気力も無いのか、されるがままだった。
「さて、簡単だが準備は済んだ。私はザウバーにかけられた呪詛の核を引き出す。ダーム、それがザウバーから完全に離れたら剣で切り裂いてくれ。くれぐれも、ザウバーから出てきた何かが、完全に離れてからだ」
ダームは、椅子に縛り付けられたザウバーを見た。それから、少年はザウバーの首をしっかりと見つめる。
「うん。ちゃんと見て、その時が分かるようにする」
ダームは、新たに手に入れた剣を出現させ、その柄をしっかりと握った。
「一体、何の調査をしてきた?」
その問いにザウバー は首をかしげ、音をたてながら椅子に座った。
「そりゃ、兄貴が残していった資料の」
「手鏡を持ってくる。自分の姿を映してみろ」
ベネットは、そういうなり部屋を出、その背中をダームは見送った。少年は、不思議そうな表情を浮かべながらザウバーの顔を見る。
「ベネットさん、一体……」
ダームは、そこまで言ったところで言葉を切り、ザウバーの首の横を指差した。ダームが指差す先には、黒く変色し、引き攣れた皮膚が有った。その黒く変色した箇所は、怪しく光りながら脈打っている。
「ザウバー、本当に何をしてきたの?」
少年は震える声で問い掛け、ザウバーの首に手を伸ばした。その時、手鏡を持ったベネットが部屋に戻ってくる。
「ダーム、下手に触らない方が良い。それが何なのか、まだ分かりきっていない」
ベネットは、ダームへ警告してからザウバーに手鏡を渡した。手鏡を受け取ったザウバーは、先ず自らの顔を鏡に映した。ザウバーは、そうしてからダームが指差した首を鏡に映し出す。
「何だ、これ?」
自らの変化に気付いたザウバーは、鏡越しに自らの首を眺めた。そこには、毒々しい色に変化した皮膚が在った。
「たから、何の調査をしてきたのか聞いたのだ。原因が判れば、対処方も絞れる」
ベネットは、ザウバーの前に置かれた椅子に座った。一方で、それを見たダームがベネットの横の椅子に腰を下ろす。
「調査つったって、ダームと行った時と同じ様に資料を……いや、本棚の裏に気になる部分が有ったから、それも調べ様として……けど、まだしっかりとは調べられてねえ」
ザウバーはテーブルに肘をつき、長く息を吐き出した。彼は、そうしてから目を瞑り、記憶を探る。
「そうだ、そこから微妙に調子が悪い。力が奪われている感覚だ」
ザウバーは再度長く息を吐き出した。そして、彼は目を開くと、ベネットの顔を見る。
「だろうな、魔力減少の呪詛がかけられている。並みの魔力量なら、起きていることすらままならない類の呪詛だ」
その話を聞いたザウバーは眉間に皺を寄せ、片眉を上げた。
「兄貴が使っていた本棚だぜ? 何でそんな呪詛が……」
「貴重な資料が多いなら、盗難防止策としてやった可能性もあるだろう? あまりにも本が取り出された場合にのみ発動する呪詛。盗難対策を施すこと自体は珍しくもない」
ザウバーは低い声を漏らし、ベネットは更なる説明を加える。
「魔力量の多いザウバーだから動けているが、殆どの者なら魔力が枯渇して動けなくなるだろうからな。争うことなく、資料の所有者が怪我する事も無く、盗難犯を捕獲するには賢いやり方だ」
「俺は盗難犯扱いかよ」
ザウバーはテーブルの上に上体を伏した。一方、その動きを見たベネットは深い溜め息を吐く。
「あくまで、防犯対策としての呪詛の可能性を話しただけだ。命まで奪うものではない様だし、良心的な呪詛だろう」
「呪詛は呪詛だろ」
ザウバーは、それだけ言うと上体を起こした。彼は、椅子の背もたれに背中を付け、天井を仰ぐ。
「それで? 本を本棚に戻せば解呪出来るのか?」
ザウバーの問いに、ベネットは首を横に振る。
「呪詛とは、そんな単純なものでは無いだろう? 大体にして、魔術や呪詛に関しては専門的に学んだザウバーの方が詳しい筈だ」
その返答にザウバーは苦笑し、右手で目元を覆った。
「それに、資料を本棚へ戻しに行くにも、魔力が必要だろう。だから」
ベネットはダームの方へ体を向けた。そして、少年の肩に手を乗せると、にこやかな笑みを浮かべて見せる。
「ダームを頼ろう。ダームが新たに手にした力であれば、その呪詛も解呪出来る」
その言葉で、ダームは驚いた様子を見せた。ダームは、ベネットの顔を見てからザウバーの首を見、小さな声で話し出す。
「僕、呪詛とか解呪とか全然分からないんだけど」
少年は苦笑いを浮かべ、指先で頬を掻いた。
「分からなくても構わない。新しい剣にはその力があるし、その力を扱えるのはダームだけだ」
ベネットはそう言うと立ち上がり、部屋の隅に置かれた縄を手に取った。
「とは言え、呪いの核をザウバーから離さぬことにはそれも危険だ。だから」
ベネットはザウバーの背後に回り込み、手にした縄を使って青年の体を椅子に縛り付けた。
「何を」
「呪詛を解く際に、本人の意思と関係なく暴れることがあると聞く。それを防ぐ為に簡単な対策位はする」
そう言うなり、ベネットはザウバーの足を椅子の足に固定した。ザウバーと言えば逆らう気力も無いのか、されるがままだった。
「さて、簡単だが準備は済んだ。私はザウバーにかけられた呪詛の核を引き出す。ダーム、それがザウバーから完全に離れたら剣で切り裂いてくれ。くれぐれも、ザウバーから出てきた何かが、完全に離れてからだ」
ダームは、椅子に縛り付けられたザウバーを見た。それから、少年はザウバーの首をしっかりと見つめる。
「うん。ちゃんと見て、その時が分かるようにする」
ダームは、新たに手に入れた剣を出現させ、その柄をしっかりと握った。