美味しそうな夕食と特製回復薬

文字数 1,546文字

「それは、子供の頃は私のお古と言うお古を、着せられていたからなのよねえ?」
 そう言いながら、ルキアは夕食を置く場所を探した。病室内のテーブルは畳まれた状態で置かれ、それに一番近い位置に居たダームは、慌ててテーブルを用意する。

「流石に大人になってからはやらなくなったけど、行く当ての無い子供服って、割とそんな感じじゃない?」
 ルキアは、ダームが用意したテーブルに料理を置いた。そして、負荷の掛かっていた手首を振ると、料理を並べ始める。
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「確かに、子供服はサイズが合わなくなって着られなくなっても、まだ服自体は使えることがありますからね。近しい間柄なら、同者が合意すれば良くある話なのではないでしょうか?」
 アークは、ベッド上からルキアが用意した料理を眺めた。それは、チーズがたっぷり乗せられたラザニアで、濃厚な香りを病室に放っている。

「さて、冷め切らない内に食べちゃいましょう。あ、今回の飲み物は私の特別製だけど、嫌だったら病院の売店で買ってね」
 ルキアは、冗談めかしていい、液体入りの瓶をテーブルに置いた。その液体は、濃い緑色をいており、光の加減では茶色にも見える。

「治療に使う薬には出来ないけど、まあまあ質の良い薬草を使ったお茶。料理の脂っこさをさっぱり流す様に配合してあるけど、苦いから無理そうなら砂糖も使ってね」
 ルキアは、ダームの居る方へ砂糖の入った小さな陶器を置く。この時、既にテーブル周りに椅子は用意され、ルキアは一番近い椅子に腰を下ろした。

 この為、ダームとベネットも椅子に座り、温かな夕食の時間が始まった。夕食を食べる三人は楽しそうに会話をし、アークだけがスタッフによって運ばれた病院食を静かに食べていた。

 その後、ルキアは早めに食事を済ませると立ち上がり、アークに掌程の大きさを持つ瓶を渡す。その瓶の中には、濃い茶色をした液体が詰められ、濃淡が流動して見えた。

「アークには、特製回復薬をプレゼント。効果のある薬草の薬効成分を、これでもかとじっくり抽出。その成分を壊さぬ様に濃縮した、やたら苦い特製回復薬です」 
 その説明にアークは苦笑した。対するルキアは楽しそうな笑顔を浮かべている。

「就寝前にお飲み下さい。薬効が薄れぬよう、他の飲み物は厳禁です」
 ルキアは、アークへの説明を終えると、ダーム達の居る方へ体を向けた。

「じゃ、私は仕事に戻るわね。また後でここにも来るから、食器とかは纏めてくれさえいればその時に回収する」
 そう言うなり、ルキアはアークの病室から去った。その後、病室は静かになり、ダームは夕食を食べ終えたところでアークの傍に向かう。

「ルキアさんに薬を貰ったみたいだけど、何だか凄い色だね」
 ダームは、ベッドサイドに置かれた瓶を眺め、長く息を吐く。

「薬草の良い成分を、じっくりと煮込んで作られたらしいですからね。お茶でも、長く抽出すると色が濃くなるでしょう? それをルキアはやってくれたのです」
 アークは、ルキアから渡された瓶を光に翳した。しかし、その中の液体は光を遮り、瓶の縁や蓋だけが光を拡散している。

「確かに、お茶ってに煮込む程濃くなるね。あれはあれで美味しいけど……お茶によっては、凄く苦くて残しちゃう」
 少年は苦笑し、舌を出して見せた。一方、アークは目を細め、薬の入った瓶を両手で包み込む。

「苦みは、若い程に敏感と言われますからね。ダームが苦手なのは仕方のないことです」
 その話を聞いたダームは、ゆっくり首を傾げた。しかし、彼が疑問を口にするより前に、アークの夕食を片付ける為に病院スタッフが入室する。

 病院スタッフは、アークが使い終えた食器を片付け、ベッドテーブルを拭いて退室した。この際、ダームとアークの会話は途切れ、アークの病室は静かになった。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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