闇に溶ける魔族
文字数 2,041文字
オアシスを離れた三人は、再度砂ばかりの地を歩いていた。
日が暮れ始めた頃、三人は地面の固い場所に到達する。そこの大気も乾燥しており、草花は数える程しか生えていない。そのせいか、少年は歩きながら溜め息を吐き、仲間の顔を見上げた。
「歩き易くはなったけど……これって、何処まで続くんだろ?」
「見る限り、近くには何もねえ。地図も適当だし、進んで確かめるしかねえな」
その返答に少年は肩を落とし、もう一人の仲間を見つめた。すると、ベネットは周囲を見回し、難しそうな表情を浮かべる。
「地図には、砂地での目印やオアシスの場所しか載っていなかった。そこから先は、需要が無いからだろう」
ベネットはそう話すと息を吐き、ダームは苦笑いを浮かべた。
「とにかく、食料が残り少なくなったら撤退するしか無い。行き倒れてしまったら、元も子もないからな」
彼女の考えを聞いたザウバーは頷き、顔を上げて遠くを見る。
「行ける所まで行ってみようぜ? まだ、数日分の食い物がある」
青年の話を聞いた仲間は肯定の返事をし、三人は日が完全に落ちるまで歩き続けた。そして、軽い夕食を摂ると交代で眠りに付き、朝になったところで探索を再開する。
彼らが太陽の昇った方角を参考にして進んで行くと、前方に洞窟らしきものが見えてくる。この為、少年はどこか不安げに目を細め、ベネットの服を引いて口を開いた。
「ベネットさん。あれって洞窟みたいだけど、おばさんが言っていたやつなのかな?」
問い掛けられた者は前方を見つめ、そこに在るものを確認した。
「断定は出来ないが、おそらくな。他の洞窟は見当たらなかった」
「だとしたら、警戒しねえと。何が起きるか知らねえが、向かった奴らが帰って来ないのは本当だろうし」
青年の意見を聞いたベネットは頷き、少年は目を細めて遠くを見る。
「何か起きている様には見えないけど……砂嵐なら、何時起こるか分からないもんね」
そう言って、少年は細く息を吐いた。彼らは、その後も洞窟について話しながら歩き、数分歩けば洞窟に入れる位置にまで到達する。洞窟の前の地面は所々削れており、無風のせいか空気は淀んでいた。この為、ダームは口元を押さえて顔を顰め、立ち止まってから口を開いた。
「なんだか気持ち悪い」
少年の話を聞いた仲間は立ち止まり、警戒しながら洞窟を見た。すると、洞窟内の暗闇から黒い影が伸び、それが三人の方へ向かって伸びていく。それ故、三人は反射的にそれを避け、次の攻撃に身構えながら洞窟内を見た。
しかし、暗い洞窟内の様子ははっきりせず、楽しそうな笑い声だけが響き始める。その声は段々と大きくなり、ついに洞窟内から一人の男が現れた。その男の髪は闇を溶かした様に黒く、口元に添えられた指に生える爪は尖っている。また、紫色の瞳はベネットを捉え、彼は口元を緩ませて話し始めた。
「新しい獲物が来たと思ったら、凄い御馳走だね。女の子自体、ここまで来てくれることが殆ど無いし」
男性は、そう言うと左手をベネットへ向ける。すると、彼の足元から黒い触手が伸びていき、それがベネットを捕らえようとした。しかし、ベネットは攻撃の届く前に呪文を唱え、それによって黒い触手は消え去った。この際、少年は戦う為に剣を抜き、ザウバーとベネットは男性を見据えた。
「やっぱり、人質が必要かな?」
ダームの影が揺らぎ、そこから生じた黒い蔓が少年の体を拘束する。ダームは、絡みつく物から解放されようと、何とかして剣を動かそうとした。ところが、彼に絡みつくそれは剣で切れず、蔓に押された反動で自らの体を傷つけてしまう。
この為、少年の足元に温かな血が流れ落ち、ダームはその痛みで顔を顰めた。一方、その状態に気付いたベネットは呪文を唱え、少年を黒い蔓から解放する。彼女は、そうしてから回復呪文を唱え、ダームは苦笑いを浮かべながら血に塗れた胸を撫でた。
「ヴァリスと言ったか。前に会った時は、してやられたが……今回は、そう上手くは行かせない」
ベネットは男性を睨み付け、ヴァリスは口角を上げて言葉を発した。
「そうだよね。この間はライチェも居たし、二対二だった」
そう言って空を仰ぐと、ヴァリスの影は怪しく揺らいだ。その後、影は段々大きくなり、ヴァリスの体を包み込む。その影は、ゆっくりと洞窟の中へ向かい、その暗闇と同化した。ヴァリスを包んだ影が暗闇に消えた時、少年は目を丸くして剣を落とす。
ダームは、そうした後で剣を拾おうとするが、緊張のせいかバランスを崩して転んでしまった。その様子を見た青年は溜め息を吐き、ヴァリスが消えた場所を見て舌打ちをする。ザウバーは、そうした後で仲間を見やり、吐き捨てる様に言い放った。
「一旦戻るぞ。ダームがそんな状態じゃ、洞窟に入るのは危険だ」
そう言うや否や青年は転移呪文を唱え始め、何か言われる前に術を発動させる。この為、三人はデザトに在る宿屋の前へ移動を終え、魔法を使い終えた者は疲れた様子で息を吐いた。
日が暮れ始めた頃、三人は地面の固い場所に到達する。そこの大気も乾燥しており、草花は数える程しか生えていない。そのせいか、少年は歩きながら溜め息を吐き、仲間の顔を見上げた。
「歩き易くはなったけど……これって、何処まで続くんだろ?」
「見る限り、近くには何もねえ。地図も適当だし、進んで確かめるしかねえな」
その返答に少年は肩を落とし、もう一人の仲間を見つめた。すると、ベネットは周囲を見回し、難しそうな表情を浮かべる。
「地図には、砂地での目印やオアシスの場所しか載っていなかった。そこから先は、需要が無いからだろう」
ベネットはそう話すと息を吐き、ダームは苦笑いを浮かべた。
「とにかく、食料が残り少なくなったら撤退するしか無い。行き倒れてしまったら、元も子もないからな」
彼女の考えを聞いたザウバーは頷き、顔を上げて遠くを見る。
「行ける所まで行ってみようぜ? まだ、数日分の食い物がある」
青年の話を聞いた仲間は肯定の返事をし、三人は日が完全に落ちるまで歩き続けた。そして、軽い夕食を摂ると交代で眠りに付き、朝になったところで探索を再開する。
彼らが太陽の昇った方角を参考にして進んで行くと、前方に洞窟らしきものが見えてくる。この為、少年はどこか不安げに目を細め、ベネットの服を引いて口を開いた。
「ベネットさん。あれって洞窟みたいだけど、おばさんが言っていたやつなのかな?」
問い掛けられた者は前方を見つめ、そこに在るものを確認した。
「断定は出来ないが、おそらくな。他の洞窟は見当たらなかった」
「だとしたら、警戒しねえと。何が起きるか知らねえが、向かった奴らが帰って来ないのは本当だろうし」
青年の意見を聞いたベネットは頷き、少年は目を細めて遠くを見る。
「何か起きている様には見えないけど……砂嵐なら、何時起こるか分からないもんね」
そう言って、少年は細く息を吐いた。彼らは、その後も洞窟について話しながら歩き、数分歩けば洞窟に入れる位置にまで到達する。洞窟の前の地面は所々削れており、無風のせいか空気は淀んでいた。この為、ダームは口元を押さえて顔を顰め、立ち止まってから口を開いた。
「なんだか気持ち悪い」
少年の話を聞いた仲間は立ち止まり、警戒しながら洞窟を見た。すると、洞窟内の暗闇から黒い影が伸び、それが三人の方へ向かって伸びていく。それ故、三人は反射的にそれを避け、次の攻撃に身構えながら洞窟内を見た。
しかし、暗い洞窟内の様子ははっきりせず、楽しそうな笑い声だけが響き始める。その声は段々と大きくなり、ついに洞窟内から一人の男が現れた。その男の髪は闇を溶かした様に黒く、口元に添えられた指に生える爪は尖っている。また、紫色の瞳はベネットを捉え、彼は口元を緩ませて話し始めた。
「新しい獲物が来たと思ったら、凄い御馳走だね。女の子自体、ここまで来てくれることが殆ど無いし」
男性は、そう言うと左手をベネットへ向ける。すると、彼の足元から黒い触手が伸びていき、それがベネットを捕らえようとした。しかし、ベネットは攻撃の届く前に呪文を唱え、それによって黒い触手は消え去った。この際、少年は戦う為に剣を抜き、ザウバーとベネットは男性を見据えた。
「やっぱり、人質が必要かな?」
ダームの影が揺らぎ、そこから生じた黒い蔓が少年の体を拘束する。ダームは、絡みつく物から解放されようと、何とかして剣を動かそうとした。ところが、彼に絡みつくそれは剣で切れず、蔓に押された反動で自らの体を傷つけてしまう。
この為、少年の足元に温かな血が流れ落ち、ダームはその痛みで顔を顰めた。一方、その状態に気付いたベネットは呪文を唱え、少年を黒い蔓から解放する。彼女は、そうしてから回復呪文を唱え、ダームは苦笑いを浮かべながら血に塗れた胸を撫でた。
「ヴァリスと言ったか。前に会った時は、してやられたが……今回は、そう上手くは行かせない」
ベネットは男性を睨み付け、ヴァリスは口角を上げて言葉を発した。
「そうだよね。この間はライチェも居たし、二対二だった」
そう言って空を仰ぐと、ヴァリスの影は怪しく揺らいだ。その後、影は段々大きくなり、ヴァリスの体を包み込む。その影は、ゆっくりと洞窟の中へ向かい、その暗闇と同化した。ヴァリスを包んだ影が暗闇に消えた時、少年は目を丸くして剣を落とす。
ダームは、そうした後で剣を拾おうとするが、緊張のせいかバランスを崩して転んでしまった。その様子を見た青年は溜め息を吐き、ヴァリスが消えた場所を見て舌打ちをする。ザウバーは、そうした後で仲間を見やり、吐き捨てる様に言い放った。
「一旦戻るぞ。ダームがそんな状態じゃ、洞窟に入るのは危険だ」
そう言うや否や青年は転移呪文を唱え始め、何か言われる前に術を発動させる。この為、三人はデザトに在る宿屋の前へ移動を終え、魔法を使い終えた者は疲れた様子で息を吐いた。