管理職の疲労と苛立ち
文字数 2,022文字
ヘイデルに到着後、ダームとベネットは直ぐにアークを探し始めた。この時、警備兵の施設は騒がしく、何かしらの事故か事件が起きたことを示していた。
この為、二人は少し離れた場所から様子を窺い、その場から出方を相談する。しかし、警備兵の会話から、近くの洞窟に魔族が現れたことが直ぐに知れた。この為、状況を理解した二人は、物陰に隠れながら相談を始める。
「魔族って、魔物より強いんだよね?」
「そうだな。魔力が強いだけでなく、多くの魔物が持っていない知性もある」
ダームは、暫く俯いていた。彼は、そうしてから掌を見つめ、口を開く。
「だったら……だったらさ、何か手伝えないかな? 僕達、前に魔族と会っているから、そうじゃない人に比べたら」
少年は、開いていた手を下ろして強く握った。彼は、そうしてからベネットの目を真っ直ぐに見つめる。
「そうだな。だが、先ずは情報を得よう。下手に手出しをしては迷惑になる」
それを聞いた少年は頷き、聞こえて来る声に耳を澄ませた。すると、「魔物の出現を封じた筈の洞窟」へ向かった者が帰還しないこと。また、辛うじて逃げ帰った者も、帰還した直後に亡くなったことが知れた。
「魔物の出現を封じた筈の洞窟って……やっぱり、アークさんに話を聞かないと」
ダームが声を出した時、まるでその声に呼ばれたかの様にアークが近付いてきた。
「お久しぶりです、ダーム。申し訳御座いませんが、今は緊急事態が発生しておりまして」
「それは、なんとなくだけど分かった。だから、僕達に出来ることがあったら言って欲しい」
ダームの提案を聞いたアークは難しい表情を浮かべ、首を捻る。
「お気持ちは有り難いのですが、これはヘイデルの問題です」
「ならば、私の従者として参加させよう。それならば、その程度の問題は解決するだろう」
ベネットの提案を聞いたアークは息を長く吐き、それから諦めた様子で微笑する。
「そうですね、そう言われてしまっては私に拒否権など有りません。ですが、今の所この件について詳細情報は入って来ておりません。何分、調査に出向いた者は、全て亡き者になってしまいまして」
アークは辛そうな表情を浮かべ、目を伏せる。
「ですので、編隊を変えて調査に向かいたいところではありますが、街の警備をおろそかにする訳にもいかず。洞窟周辺を立ち入り禁止区域として、被害を抑えている状況です」
説明を聞いたダームは頷き、それからアークの顔を見た。
「じゃあ、この前みたいに」
「お止め下さい。前回は偶然転移魔法を使用できる術師が居たから帰還出来た。そんな綱渡りを、再度行う訳にはいきません」
アークの話を聞いたダームは首を傾げ、浮かんだ疑問を口にする。
「待ってよ、アークさん。転移魔法って言っても、あの時はまだザウバーがその魔法を使えるって知らなかったでしょ? だったら、あの時は何で洞窟の調査をやろうと思ったの?」
少年の疑問を受けたアークは、軽く目を瞑った。アークは、疲れた様子で溜め息を吐くと、目を開いて少年を見下ろす。
「まさか、最深部まで行けるとは思ってもいませんでしたからね。たったの三人。しかも、一人は子供。どこかで引き返す羽目になるだろうと。引き返したとしても、幾らかの調査にはなるだろうと。私の誤算だったのですよ、最深部まで向かえたのは」
淡々と話すアークの眼は暗く、ダームは瞬きの回数を増やした。
「じゃあ、なんで装備を僕に買い与えてまで洞窟に向かったの? 本当は封印出来るなんて思っていなかったのに」
「簡単なことです。勝手に向かわれて亡くなったら、それを見過ごした私の責任になりますから。それに比べれば、自ら監視し、いざとなったら引き返す。どこの誰とも知れぬ二人が根を上げて諦めたら私の勝ち。街を守るのは、何も魔物からだけではありませんから」
アークの話を聞いたダームは目を丸くし、それから拳を強く握った。
「そんなの考えたく無かったけど……僕達って疑われていたの?」
「疑うまではしなくとも、信じる要素も無かったでしょう? 何分、あの時は初対面。まあ、ダームの言葉に私を動かす何かがあったのも否めませんが」
その話にダームは幾らか緊張を緩め、仲間の顔を見る。
「あまり虐めてやるなアーク。万全の体勢で調査に向かいたいならそう言え」
ベネットの話にアークは苦笑いを浮かべ、軽く頬を掻いた。
「まあ、否定は出来ません。ですが、あまり向こう見ずな行動をして欲しくないのもまた事実。前回とは違い、洞窟に近付かなければ攻撃者は無力な様ですから」
「その割には、騒いでいる様だが?」
その指摘にアークは言葉を失った。
「まあ良い。勝手に力だけは使わせて貰おう。調査に向いた者を召喚すれば、ヘイデルに居ながら情報は得られる」
ベネットは、そう言い残すとアークに背を向けて歩き出した。ダームは戸惑いながらもベネットの後を追う。アークは思わず腕を伸ばしたものの二人を呼び止めるまではしなかった。
この為、二人は少し離れた場所から様子を窺い、その場から出方を相談する。しかし、警備兵の会話から、近くの洞窟に魔族が現れたことが直ぐに知れた。この為、状況を理解した二人は、物陰に隠れながら相談を始める。
「魔族って、魔物より強いんだよね?」
「そうだな。魔力が強いだけでなく、多くの魔物が持っていない知性もある」
ダームは、暫く俯いていた。彼は、そうしてから掌を見つめ、口を開く。
「だったら……だったらさ、何か手伝えないかな? 僕達、前に魔族と会っているから、そうじゃない人に比べたら」
少年は、開いていた手を下ろして強く握った。彼は、そうしてからベネットの目を真っ直ぐに見つめる。
「そうだな。だが、先ずは情報を得よう。下手に手出しをしては迷惑になる」
それを聞いた少年は頷き、聞こえて来る声に耳を澄ませた。すると、「魔物の出現を封じた筈の洞窟」へ向かった者が帰還しないこと。また、辛うじて逃げ帰った者も、帰還した直後に亡くなったことが知れた。
「魔物の出現を封じた筈の洞窟って……やっぱり、アークさんに話を聞かないと」
ダームが声を出した時、まるでその声に呼ばれたかの様にアークが近付いてきた。
「お久しぶりです、ダーム。申し訳御座いませんが、今は緊急事態が発生しておりまして」
「それは、なんとなくだけど分かった。だから、僕達に出来ることがあったら言って欲しい」
ダームの提案を聞いたアークは難しい表情を浮かべ、首を捻る。
「お気持ちは有り難いのですが、これはヘイデルの問題です」
「ならば、私の従者として参加させよう。それならば、その程度の問題は解決するだろう」
ベネットの提案を聞いたアークは息を長く吐き、それから諦めた様子で微笑する。
「そうですね、そう言われてしまっては私に拒否権など有りません。ですが、今の所この件について詳細情報は入って来ておりません。何分、調査に出向いた者は、全て亡き者になってしまいまして」
アークは辛そうな表情を浮かべ、目を伏せる。
「ですので、編隊を変えて調査に向かいたいところではありますが、街の警備をおろそかにする訳にもいかず。洞窟周辺を立ち入り禁止区域として、被害を抑えている状況です」
説明を聞いたダームは頷き、それからアークの顔を見た。
「じゃあ、この前みたいに」
「お止め下さい。前回は偶然転移魔法を使用できる術師が居たから帰還出来た。そんな綱渡りを、再度行う訳にはいきません」
アークの話を聞いたダームは首を傾げ、浮かんだ疑問を口にする。
「待ってよ、アークさん。転移魔法って言っても、あの時はまだザウバーがその魔法を使えるって知らなかったでしょ? だったら、あの時は何で洞窟の調査をやろうと思ったの?」
少年の疑問を受けたアークは、軽く目を瞑った。アークは、疲れた様子で溜め息を吐くと、目を開いて少年を見下ろす。
「まさか、最深部まで行けるとは思ってもいませんでしたからね。たったの三人。しかも、一人は子供。どこかで引き返す羽目になるだろうと。引き返したとしても、幾らかの調査にはなるだろうと。私の誤算だったのですよ、最深部まで向かえたのは」
淡々と話すアークの眼は暗く、ダームは瞬きの回数を増やした。
「じゃあ、なんで装備を僕に買い与えてまで洞窟に向かったの? 本当は封印出来るなんて思っていなかったのに」
「簡単なことです。勝手に向かわれて亡くなったら、それを見過ごした私の責任になりますから。それに比べれば、自ら監視し、いざとなったら引き返す。どこの誰とも知れぬ二人が根を上げて諦めたら私の勝ち。街を守るのは、何も魔物からだけではありませんから」
アークの話を聞いたダームは目を丸くし、それから拳を強く握った。
「そんなの考えたく無かったけど……僕達って疑われていたの?」
「疑うまではしなくとも、信じる要素も無かったでしょう? 何分、あの時は初対面。まあ、ダームの言葉に私を動かす何かがあったのも否めませんが」
その話にダームは幾らか緊張を緩め、仲間の顔を見る。
「あまり虐めてやるなアーク。万全の体勢で調査に向かいたいならそう言え」
ベネットの話にアークは苦笑いを浮かべ、軽く頬を掻いた。
「まあ、否定は出来ません。ですが、あまり向こう見ずな行動をして欲しくないのもまた事実。前回とは違い、洞窟に近付かなければ攻撃者は無力な様ですから」
「その割には、騒いでいる様だが?」
その指摘にアークは言葉を失った。
「まあ良い。勝手に力だけは使わせて貰おう。調査に向いた者を召喚すれば、ヘイデルに居ながら情報は得られる」
ベネットは、そう言い残すとアークに背を向けて歩き出した。ダームは戸惑いながらもベネットの後を追う。アークは思わず腕を伸ばしたものの二人を呼び止めるまではしなかった。