そこら辺の草で回復劇場

文字数 2,253文字

「ところで、ヘイデルで魔力回復薬は手に入るのか?」
 ザウバーは、ベネットを見ながら問い掛けた。一方、ベネットは目を細め、暫く考えてから話し出す。

「何処で販売しているかまでは分からない。だが、治療目的として大きな病院には用意があるだろう。また、警備兵の施設にも、攻撃魔法を使える者の為に備えがあるだろうな。どちらも、あくまで目的があってこその備蓄だ。手に入れ様とするなら、販売店を調べることからになる」
 回答を聞いたザウバーは目を瞑り、低い声で言葉を漏らす。

「魔族と戦うなら、薬で魔力を回復出来た方が確実なんだけどな……グルートみたいに材料が手に入れば、作れるんだが」
「じゃあ、材料から用意しちゃえば? 僕はそう言うことには詳しく無いけど、材料って大体草だったよね? 僕の村で花を咲かせてくれたザウバーなら、草も生やせるんじなない?」
 少年の提案にザウバーは溜め息を吐いた。

「お前、薬の材料を草で纏めんなよ。種類や量を間違えるだけで、薬の効果は出ねえんだからな」
 そう言いながらも、ザウバーは満足そうな笑みを浮かべる。

「だが、やってみる価値はある。採取した後に乾燥させる手間もあるが、店を探して回るよりは確実だ」
 そう言うやいなや、ザウバーは空の籠を抱えて家の外に出た。彼は、暫くしてから中身を満たした籠を持ってダイニングに戻る。

「でかしたなダーム! この調子で、魔族対策にも良い作戦を考えてくれ」
 ザウバーは、切り取ってきた草を種類毎に糸で纏め始めた。その様子を見たベネットは、呆れた様子でザウバーを見る。

「せめて食事を終えてから試そうとは思わなかったのか?」
 その問いにザウバーは歯を見せて笑う。

「善は急げ、って言うだろ? 作業が早い方が、早く回復薬も完成するしな。吊して乾燥させるだけだから、大して時間も掛からねえ」
 彼が言った通り、直ぐに薬草は種類毎に縛られ、それは風通しの良い軒下に干された。ザウバーは、作業を終えると食事を再開し、かき込むように食べ終えると使った食器を片付けた。

「量は多めにしておきたいよな!」
 ザウバーは再度籠を持って外に出、薬草を纏めては干していった。彼は干す場所が無くなるまでそれを続け、ダームが淹れた食後の茶も楽しみ始める。

「ねえザウバー、回復薬ってどれ位で完成するの?」
「何日で乾燥が終わるか次第だな。材料が揃えば、後は前に作った時とそこまで変わらねえ。薬草を乾燥させる前は嵩があるが、乾燥させて粉にしちまえば、後は湿気ない様に処置が出来れば保管しておける。ただ、どうしても扱いが難しいからな、専門的に作り続けている薬師に比べたら俺の作る回復薬はどうしたって劣る。だからこそ、余裕が必要なんだよ」
 ザウバーは、両手の掌を上に向けた。彼は、そのポーズのまま長く息を吐く。

「材料が同じでも、変わるものなの?」
 そう問われたザウバーは、軽く笑ってダームを見た。

「料理だって、材料が同じでも作る人間が変われば変わるだろ。店で食べる料理は、燃料費や働いている奴らの賃金が上乗せされているとは言え、不味かったら客は金を払いたくないだろ? 旨いから客は店に来るし、不味ければ店はいずれ潰れる。薬もそうだ。店を構えて売るからには、売れるだけの調薬スキルがある。大学で学びはしたものの、旅ばっかりで調薬の回数が少ない俺より、店を出している奴の調薬が上手くなきゃ駄目だろ」
 ザウバーの説明を聞いたダームは、暫くの間考えてから肯いた。

「ま、それでも何も無いよりは安心だ。前回はそれで窮地を脱した様なもんだしな」
 ザウバーは笑ってみせるが、ベネットは呆れた表情になった。彼女は、軽い溜め息を吐くと、ザウバーの顔を見た。

「まさかとは思うが、フェアラへ向かった時の様に、自分だけ洞窟へ向かおうとしていないだろうな?」
 ベネットの問いにザウバーは面食らった様子を見せた。だが、ザウバーは軽く笑うと、自らの考えを話し出す。

「回復薬が必要な位、魔族が強いだけだよ。お前だって、グリューンを消滅させた後に倒れただろ? それ位の術を使わなければ倒せない存在が魔族だ。魔族を倒した後でこっちが倒れて身動き取れないんじゃあ、馬鹿みてえだろ」
 ザウバーは軽く笑い、話を続ける。

「それに、魔族によってはこちらの魔力を吸ってくるかも知れねえからな。本来、人間の魂……要は命を奪うと共に魔力も吸収するらしいが、魔族にはその力が有る。準備出来る時間が有るなら、準備もするさ」
 何時になく真面目なザウバーの様子に、ダームとベネットは顔を見合わせた。

「さて、洞窟にちょっかいを出すにもアークやヘイデル教会側を説得する何かが必要だ。その何かは、ちょっかいを出したいダームが考えろ。俺は調べ終えていない資料を調べる」
 ザウバーは、そう言うなりダイニングを去った。他方、ダームは呆気に取られながらも口を開く。

「珍しく真面目なことを言うなあって思ったけど、やっぱりザウバーはザウバーって言うか」
 少年は、次の言葉が思い浮かばないのか、もどかしそうに指先を動かしている。

「次の目的地も決まっていないしな。ザウバーが転移して勝手な行動を取らないなら、それで構わないだろう」
 ベネットの考えを聞いたダームは軽く笑い、笑いながら涙を浮かべる。

「確かに! 何処に居るか判っているだけ、良い方だね」
 ひとしきりの雑談の後、ダームとベネットは洞窟の問題を解決する為の案を話し合った。しかし、決定的な解決策も浮かばぬまま、太陽は南から西に傾き始める。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み