良薬は口に苦しの極み

文字数 1,267文字

 夕食を終えてから、三人は魔族対策について話し合った。しかし、全てを決定するより前に、仕事を終えたルキアがやってくる。

「盛り上がっている様だけど、私達は消灯時間より前に撤収するわよ」
 ルキアは、ベネットの肩に手を乗せた。それから、ルキアはダームの方に顔を向ける。

「ダーム君は、昨日に引き続きアークの監視をお願いね。逃走しないかに加えて、ちゃんと寝る前に薬を飲みきるかも見ていて頂戴ね」
 院長は、ダームににこやかな笑顔を向けた。この為、ダームはルキアに笑顔で返す。

「うん。アークさんがちゃんと休んでいるか見ているね。薬もちゃんと飲むかも」
 その後、ダームとルキアは右手を頭より高い位置で叩き合わせた。それから、ルキアはベネットの方を向き、回収すべき物を持って退室する。

 ダームとアークの残された部屋には、少年が寝る為のベッドが用意された。また、消灯時間が近いことがスタッフから告げられ、アークはルキアに渡された瓶を手に持った。

「さて、全く飲む気の起きない色合いですが」
 そう声を漏らすアークを、ダームは真っ直ぐに見つめていた。少年は、ルキアの言い付けを律儀に守り、アークの顔と手元を交互に監視している。

「院長命令には従わなくては」
 そう言うなり、アークは瓶の中の液体を一気に飲み干した。アークは、液体を嚥下した後で強く目を瞑り、手探りで瓶の蓋を閉めた。

 この際、ダームは落ち着かない様子で動き、アークの姿を様々な方向から見た。暫くして、アークは目を開き、空になった瓶をベッドサイドに置いた。アークの目は潤んでおり、そこから薬の刺激の強さが滲み出ていた。

「アークさん、大丈夫?」
 アークはその問い掛けに答えようとした。しかし、言葉が浮かんでこないのか、ダームの方を向いたまま苦笑いを浮かべている。

 そうこうしている内に消灯時間になり、病室の灯りは消えた。この為、ダームとアークは互いの表情を確認することが出来なくなる。

「えっと、お休みなさい」
 ダームは困惑しながらも言い、仄かに光っている足元の照明を頼りに簡易ベッドに横になった。また、アークも布団を被って横になり、二人は夢の世界に落ちていった。

 朝が来て、ダームは目を覚ました。しかし、アークが起きていないことを横目で見ると、二度寝を始める。

 病院スタッフが動き始めた頃、ダームは再度目を覚ました。彼は、ベッドの上で伸びをし、涙を流しながら欠伸をする。

 ダームは、ベッドから下りると眠そうに頭を掻いた。そうしてから、少年はアークが居るベッドの方を見る。

 アークは、未だに眠ったままだった。この為、ダームはアークを起こさない様に簡易ベッドを病室の端に移動させた。

 病院スタッフが病室を回る時間が近付いた時、アークは漸く目を覚ました。しかし、目覚めが良くないのか、何処を見るでもなく呆けている。

 アークは、気怠そうに掛け布団を上体からはいだ。しかし、起き上がることはせず、目も虚ろだった。

 アークの状態に気付いたダームは、心配そうにアークの傍に立った。それから、少年はアークの顔を覗き込む。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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