自己犠牲のメンタルは時に近しい人を苛立たせる

文字数 1,475文字

「仕方なかったのですよ。強い魔法で無ければ、あの魔物にはまともにダメージを与えられない。せめて、ヘイデルに馬車が入るまで、魔物を抑えておければ被害は出ない……と、考えたのですが」
 アークは掠れた声で話し出し、ダームは静かに話を聞いている。

「魔物が一体だけであれば、私が引き付けている間に馬車を安全な場所まで」
「それよ! 何でアークが引き付けている間でしか選択肢がないの? 素早く指示を出せるアークが馬車を誘導していた方が、あんな惨事にまではならなかったでしょうに」
 ルキアは、アークの話を遮る形で声を上げた。この為、アークは何も言えなくなり、肩を落とした。

「あの馬車で運んでいたのが、薬の材料だった。おかげで、アークの魔力を回復出来る薬は御座いません。人員を割いた割にあの結果。反省なさいませ?」
 ルキアの口調が迷走し始めた頃、アークは苦笑いを浮かべるしか出来なかった。

「まだ暫くの分は有るけど、それも警備兵がまた怪我をしたら一気に減るし……次の馬車が来るまでに、警備兵の体制を考え直しておいて? 一度に怪我をされると、他の患者にも迷惑になるから」
 ルキアは空いたままの椅子に勢い良く腰を下ろした。それはルキアの感情を表している様で、アークは益々体を縮めた。

「ねえ、ルキアさん。確かに馬車はヘイデルに入れなかったし、壊されていた。だけど、無事な積荷って無いかな? あそこに居た魔物は僕達が倒したし、馬車としては使えなくても少しずつ薬の材料を持って来られるかも」
 ダームの話を聞いたルキアは、目を丸くした。ルキアは、ダームの方に顔を向け、話が信じられない様子で話し始める。

「兵士が集まって倒せなかった魔物を倒したの?」
「うん。その時は、もう魔物も何度か攻撃を受けていた後だから弱っていたし……ベネットさんの魔法もあったから」
 ダームの説明で、ルキアは納得したように頷いた、一方、それを間近で聞いていたアークは、ダームの方に顔を向ける。

「情けないですね。私はこんな状態で。やはり、考えを改め」
「自分だけで背負うなって言っているのだけど?」
 アークの話を遮る様に、ルキアは声を上げた。この為、アークは話すことを諦めた。

「幾ら魔物にダメージが入っていたって、二人だけで倒すなんて……これなら、積荷を確認して貰う仕事も頼めるかしら?」
 ダームは目を輝かせ、ルキアはにこりと笑った。

「但し、もう暗くなるから明日ね? それまでは、ここでアークが逃げないように監視していて頂戴。夜のご飯は、これから私が買ってくるから」
 ルキアは立ち上がり、ポケットからメモを取り出した。

「何か食べたいものはある? 持ち帰り出来る料理に限られるけど、病院の回りには色々とお店があるから融通利くわよ?」
 ルキアの問いに、ダームは腕を組んで唸り始めた。この為、ルキアは目線をベネットへと向ける。

「持ち帰り出来る料理となると、サンドイッチ辺りが」
「そう言うのじゃなくて、食べたいもの! なんなら、希望すれば作ってくれるお店もあるから」
 それを聞いたダームは、椅子から腰を浮かせた。

「じゃあ、大きいお肉! あと、チーズたっぷりのパン!」
 それを聞いたルキアはメモを取り、ベネットの顔を見る。

「温かなスープが食べたい、具沢山でダームも満足出来る様な」
 ルキアはベネットの希望も書き取り、それからメモをポケットに戻す。

「じゃあ、買い物してくるわね。そうそう、しつこい様だけど、アークに回復魔法の使用は禁止!」
 そう言い残し、ルキアは病室を去った。その後、アークの病院は水を打った様に静まりかえる。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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