魔族と言う強者の存在

文字数 1,500文字

「そうだ、これからの予定なんだけど」
 料理が半分程平らげられた頃、ダームが真剣な表情を浮かべて話し始めた。彼の皿にはまだ肉が残っているが、話す時は食べることをやめている。

「ヘイデル近くの洞窟に魔族が居るらしくて、ザウバーが居れば勝てると考えているんだ」
 ダームはザウバーの目を見つめ、手を握りしめた。

「だけど、ザウバーが、また資料を調べに行きたいなら」
「いや、資料は後でも調べに行ける」
 ザウバーは、ダームの話を遮る様に話し始めた。そして、使っていたカトラリーをダームの方に向けると、更なる言葉を続ける。

「そもそも、ヘイデル関連ならアークが居るだろ。で、アークの性格からして、手出しされるのは望ましい事じゃねえ」
 その指摘に、ダームは口を大きく開けた。その後、少年は暫くの間呆けた表情を浮かべてから、言葉を発する。

「もしかして、僕達のことを隠れて見ていた?」
 ダームの疑問に対し、ザウバーは軽く笑ってみせた。そして、持っていたカトラリーを皿に置くと、片目を瞑る。

「ってことは、既に提案して断られたってとこか。アークは、責任感の塊みてえなところがあるからな。見ていなくたって、奴のやること位予想出来る。基本的に、アークは他人に危険なことをさせるのを好まない。特に、情が沸いてしまった相手なら尚更だ」
 それを聞いたダームは閉口し、目を伏せる。

「大体にして、俺は下手にヘイデルに入れないんだろ? それこそ、アークに見つかったら、面倒なことになる」
「じゃあ、ヘイデルには行かないで、ここから直接転移するのは?」
 ダームの話を聞いたザウバーは溜め息を吐き、首を横に振った。ザウバーは、そのまま黙っていた為、代わりにベネットが話し始める。

「相手は魔族だ。それも、二度も討伐し損ねている。いざという時に退避する為にも、ザウバーの魔力は出来る限り温存しておきたい。何より、転移した先にどんな魔物が居るかも不明だ。転移した時、魔族が何処に居るかもまた分からない。状況が分からない以上、危険と分かっている場所への転移は無謀だろう」
 その説明にザウバーは頷き、話し始める。

「大体にして、一番近い街がヘイデルってだけで、歩いて移動するなら時間が必要な距離だ。何時まで魔族が居座っているか判からねえが、ヘイデルに攻撃が来ないなら焦る程のことでもねえだろ」
「だけど、フェアラは酷い目に遭ってた!」
 ダームの叫びを聞いたザウバーは溜め息を吐き、腕を組む。

「フェアラとは、洞窟との距離が違うだろ。それに、デザトでのことも思い出してみろ。あの時も、洞窟の近くで魔族に遭遇したが、デザト自体には魔族被害は無かった」
「だからって!」
 それだけ言って、ダームは目を伏せた。少年は、続ける言葉が浮かばないのか、唇を噛んで黙る。

「少なくとも、感情的になった状態で魔族に勝てると思うな。俺だって万能じゃねえ。現に、呪われて魔力が減ったしな。こんな事は初めてだから、完全回復までどれ位掛かるかすら判らねえ」
 ザウバーは頭を後ろに倒し、天井を見た。

「魔法を使って消費した魔力なら、使った魔法に応じて予想はつく。だが、今回はそうじゃねえから、俺も下手なことは言えない」
 ザウバーの話を聞いたダームは、何も言えないままでいた。この為、彼らの居る部屋は静寂に包まれる。

「結論が出ないなら、各々考えた後でまた話し合えば良い。先ずは料理を食べて休もう。そうすれば、ザウバーの魔力は回復するし、新たな考えが浮かぶかも知れない」
 そう言ってベネットは食事を再開し、ダームやザウバーもそれに倣った。そうして、彼等は黙って食事を終え、重い空気の中で後片付けを済ませた。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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