空気読まない系ウィザード
文字数 3,962文字
「どうやら、マルンに到着した様だ」
ベネットは、少年の体越しに馬車のドアを見た。すると、馬車のドアは御者によって開かれ、ダームは降車する。その後、ベネットも馬車を降り、ドアを閉めてから少年の顔を一瞥した。
「さて」
そう呟くと、ベネットは目の前に在る建物を見つめる。その建物は堅木を基礎として作られ、壁は漆喰で塗り固められていた。また、屋根に瓦が並べられており、木製の戸は手を掛ける為に一部が削られている。ベネットは、アークが書いた手紙を取り出し、眼前のドアを数回叩く。すると、屋内から嗄れた声が聞こえ、ゆっくりとした足音が二人の元へ近付いてきた。
暫くして足音が止まった時、木製の戸は掠れた音を立てて横に開く。戸を開けた者は初老の男性で、玄関先に立つ訪問者をまじまじと見つめた。
「こんにちは、町長さん。今日は、ヘイデル警備兵総司令、アーク・シタルカーより書状を預かってまいりました」
ベネットは封筒を手渡し、町長はその封を無言で開ける。その後、町長は封筒に入れられた手紙を取り出して黙読し、読み終わるなり口を開いた。
「捕まえておくのも労力が掛かりますからね。ヘイデルが引き取ってくれるなら、助かりますわ」
町長は手紙を畳み、封筒の中へ戻した。一方、ベネットは礼を述べ、落ち着いた口調で話を切り出す。
「ところで、捕らえられている男性が、私の知人である可能性が有ります。もし、私の知人であった場合には、その者は無罪放免となりますでしょうか?」
町長は腕を組み、眉根を寄せた。彼は、数分そうした後で頷き、低い声で言葉を発する。
「知人ならな。ヘイデルにもあんたにも恩は有る。頼みを無碍には出来んよ」
町長は、そう言うと後ろ手に家の戸を閉めた。ベネットは胸を撫で下ろし、ダームも安心した様子で息を吐く。
「案内するから、付いて来るといい」
町長は歩き始め、ダームとベネットは後を追った。町長は、暫く歩いた後で立ち止まり、自警団と書かれた門を一瞥する。
「先ずは、当人に会ってみるといい。知人なら、そのまま連れて行けばいい。捕まえたという書類は処分するから」
町長の言葉を聞いたダームは、不思議そうに首を傾げた。しかし、ベネットらがその仕草に気付くことは無く、三人は無言で文字の刻まれた門を通過する。門を通った先に窓の少ない建物が在り、その中から物音は聞こえなかった。また、建物の周囲に雑草は生えておらず、頻繁に手入れがなされている様だった。
「ヘイデルと違って、兵を育ててはいないからね。多少でも腕に覚えのある町民が、交代で見張りや警備をしているのさ」
町長は、そう伝えると入口を開け、建物の中へ進んでいった。ダームとベネットが彼の後を追っていくと、一人の女性が牢の見張りをしていた。女性は、町長に挨拶をするとダームやベネットに目線を送り、困惑の色を見せながら会釈する。町長は、建物の奥を覗いてから女性に向き直り、ゆっくりと言葉を発した。
「ヘイデルからのお使いだよ。もしかしたらだけど、捕まえている男の知り合いでもあるらしい」
町長は、そこまで言ったところで目を細め、穏やかな声で説明を続けた。
「この方達の知り合いかどうかで、ヘイデルに引き渡すか解放するか変わる。何にせよ、ここから罪人は居なくなるからね。交代で見張る必要は無くなる」
町長は、そこまで話したところで女性の肩を軽く叩いた。対する女性ははっきりした声で返事をし、町長らが通りやすいよう部屋の端に移動する。
「この奥に牢がある。ヘイデルに比べたら、規模も強度も劣るがね」
そう言って苦笑し、町長は建物の奥に進んで行く。建物の奥にこぢんまりとした通路が在り、その左右にそれぞれ二つの牢が存在していた。牢は、縦に長い鉄の棒を何本も並べて作られており、窓が無いせいか酷く暗い。また、手前に在る牢は開いており、三人は静かに奥へ進んで行った。町長は、壁に突き当たったところで立ち止まり、左側に在る牢へ向き直る。
「ここだ。暗くて、良く分からんかも知れんが」
町長の話を聞いたダームは、直ぐに牢の中を覗き込んだ。すると、そこに居た者は少年に近付いていき、目を細めて顔を確認する。彼は、そうした後で口角を上げ、笑みを浮かべて話し始めた。
「遅かったな、ダーム。ここの場所は難し過ぎたか?」
ダームは溜め息を吐き、呆れた様子で言葉を発する。
「遅かったな……じゃないよ」
少年は、そこまで話した所でベネットの顔を見上げた。ダームは、そうした後でベネットに場所を譲る。
「ダームの言う通りだ。アークが、不法侵入で捕まった馬鹿が居る。そう知らせてくれなければ、真っ直ぐここには来なかっただろう」
ベネットは、そこまで伝えたところで顎に手を当て、話を続けていった。
「それに、アークの口添えが無ければ、これからも捕まったままだった筈だ。アークに感謝せねばならんな」
そう言い放つと話し手は冷笑し、町長は牢の鍵穴を見つめる。
「知り合いの様ですし、鍵を開けますか」
町長は、そう言うと牢の並ぶ場所から離れようとした。一方、牢の中に居る青年は自慢気に笑い、低い声で言葉を発する。
「開ける必要はねえよ」
そう言うなり彼は呪文を唱え始め、町長の目の前に移動した。この時、町長は驚きのせいか後方に倒れ始め、ダームはその背中を咄嗟に支える。
「魔法を使うのは良いけど、場所を選びなよ!」
少年は、町長の肩越しに青年を睨み付けた。
「悪かったな。他に、移動出来そうな場所が思いつかなくて」
「二人共、そういう問題では無いだろう」
ベネットは、青年を押し退けて町長の前に立った。その後、彼女は頭を下げ、声の調子を落として言葉を紡ぐ。
「驚かせてしまって申し訳ございません。この者、魔術の腕は一流ですが、常識に欠けているのです」
そこまで話したところでベネットは顔を上げ、言葉を続ける。
「ですが、先程の約束は守りますので、再度捕らえるような」
「大丈夫だ、気にしなくていい」
町長は、ベネットの話を遮る様に言い、微笑みながら話を続ける。
「怪我はしなかったしね。魔物を倒してくれるなら町も助かる」
町長は、そう言うとザウバーの顔を見上げた。
「では、頼みましたよ。私は家に戻りますから」
そう言い残して町長は建物の外に出、自らの家へ戻っていった。一方、残された者達は顔を見合わせ、ベネットは一旦外に出ようと提案する。すると、仲間達は提案を受け入れ、三人は屋外へ移動した。
「魔法で出られたのに、何でそうしなかったの?」
「出ても、お前がいつ来るか分かんねえし。ここならタダ飯も食えるから、二人が来るまで様子見してようと思ってよ。ところで、約束だのなんだの言ってたけど何の話だ?」
そう問うと、青年はベネットに向き直った。対するベネットは小さく息を吸い込み、青年の問いに答え始める。
「ヘイデルとマルンの間に魔物が出るらしい。アークの提案で、捕まっている誰か……その誰かがザウバーで無ければ、ヘイデルに護送する手筈だった。そうでなければ、捕まった愚か者を解放しやすくする為に、魔物の討伐を約束したのだ」
青年は眉間に皺を寄せ、理解出来ない様子で長い息を吐いた。その様子を見たダームは、青年の顔を見上げて話し始める。
「要するに、ザウバーは魔物を倒せば良いんだよ。武装していると出てこないみたいだから、アークさんも困ってて……それで、武器を持たずに魔物を倒せるザウバーを頼ろうって」
少年の説明を聞いたザウバーは、どこか納得のいかない様子で言葉を発する。
「んなもん、アークにだって出来るだろ。第一、あれだけデカい街なんだから、魔術師なんていくらでも」
「つべこべ言うな。貴様が捕まらなければ、ここまでややこしい話にはならなかった」
そう言い放つと、ベネットはザウバーの目を真っ直ぐに見つめる。この際、ダームは彼女の意見を受け入れる様に頷き、ザウバーは溜め息を吐いた。
「分かったよ。やれば良いんだろ、やれば」
その台詞を聞いたベネットは頷き、ダームは大きく頷いてから口を開く。
「そうこなくっちゃ! 魔物を倒すのが、牢屋から出られる交換条件みたいだったけど……なんだかんだ言って、断れないのがザウバーだし」
ダームは、そう言うと歯を見せて笑った。一方、ザウバーは肩を落とし、何処か疲れた様子で息を吐く。
「それを先に言えよ」
青年は、そう言って片目を瞑り、気怠るそうに息を吐いた。
「勝手に結ばれたとは言え、約束は約束だ」
ザウバーは、そう言ったところでベネットの目を見つめ、小さく首を傾げてみせる。
「で、魔物はどの辺りに出るんだ? それが分からなきゃ、討伐するにも時間が掛かる」
「正確な場所は分からないが、この町とヘイデルを繋ぐ道のこちら側に出るらしい。魔物の姿は、死人に口無し……とでも言ったところか。深く大きな傷跡から、相当大きな獣ではないかと推測されている」
ベネットは、そこまで説明したところで呼吸を整え、自らの考えを加えていく。
「推測された通り大きな獣なら、見つけやすい。だが、今まで警備兵に見付かっていない辺り、油断のならない相手だ」
そこまで伝えたところで、ベネットは青年の目を見つめた。ザウバーは暫く考えた後で頷き、ベネットは安堵の表情を浮かべる。
「相手が相手だけに長期戦になる。一人なら十日は保つ食料などを用意してきたから、それが積んである馬車へ向かうぞ」
そう言うなりベネットは歩き始め、ダームは直ぐに後を追った。ザウバーは少しの間を置いてから追いかけ、三人は馬車の前に到着する。ベネットは、座席の下から食料の入った袋を取り出し、ザウバーに渡す。青年はそれを抱えて歩き始め、徒歩でヘイデルに向かった。
ベネットは、少年の体越しに馬車のドアを見た。すると、馬車のドアは御者によって開かれ、ダームは降車する。その後、ベネットも馬車を降り、ドアを閉めてから少年の顔を一瞥した。
「さて」
そう呟くと、ベネットは目の前に在る建物を見つめる。その建物は堅木を基礎として作られ、壁は漆喰で塗り固められていた。また、屋根に瓦が並べられており、木製の戸は手を掛ける為に一部が削られている。ベネットは、アークが書いた手紙を取り出し、眼前のドアを数回叩く。すると、屋内から嗄れた声が聞こえ、ゆっくりとした足音が二人の元へ近付いてきた。
暫くして足音が止まった時、木製の戸は掠れた音を立てて横に開く。戸を開けた者は初老の男性で、玄関先に立つ訪問者をまじまじと見つめた。
「こんにちは、町長さん。今日は、ヘイデル警備兵総司令、アーク・シタルカーより書状を預かってまいりました」
ベネットは封筒を手渡し、町長はその封を無言で開ける。その後、町長は封筒に入れられた手紙を取り出して黙読し、読み終わるなり口を開いた。
「捕まえておくのも労力が掛かりますからね。ヘイデルが引き取ってくれるなら、助かりますわ」
町長は手紙を畳み、封筒の中へ戻した。一方、ベネットは礼を述べ、落ち着いた口調で話を切り出す。
「ところで、捕らえられている男性が、私の知人である可能性が有ります。もし、私の知人であった場合には、その者は無罪放免となりますでしょうか?」
町長は腕を組み、眉根を寄せた。彼は、数分そうした後で頷き、低い声で言葉を発する。
「知人ならな。ヘイデルにもあんたにも恩は有る。頼みを無碍には出来んよ」
町長は、そう言うと後ろ手に家の戸を閉めた。ベネットは胸を撫で下ろし、ダームも安心した様子で息を吐く。
「案内するから、付いて来るといい」
町長は歩き始め、ダームとベネットは後を追った。町長は、暫く歩いた後で立ち止まり、自警団と書かれた門を一瞥する。
「先ずは、当人に会ってみるといい。知人なら、そのまま連れて行けばいい。捕まえたという書類は処分するから」
町長の言葉を聞いたダームは、不思議そうに首を傾げた。しかし、ベネットらがその仕草に気付くことは無く、三人は無言で文字の刻まれた門を通過する。門を通った先に窓の少ない建物が在り、その中から物音は聞こえなかった。また、建物の周囲に雑草は生えておらず、頻繁に手入れがなされている様だった。
「ヘイデルと違って、兵を育ててはいないからね。多少でも腕に覚えのある町民が、交代で見張りや警備をしているのさ」
町長は、そう伝えると入口を開け、建物の中へ進んでいった。ダームとベネットが彼の後を追っていくと、一人の女性が牢の見張りをしていた。女性は、町長に挨拶をするとダームやベネットに目線を送り、困惑の色を見せながら会釈する。町長は、建物の奥を覗いてから女性に向き直り、ゆっくりと言葉を発した。
「ヘイデルからのお使いだよ。もしかしたらだけど、捕まえている男の知り合いでもあるらしい」
町長は、そこまで言ったところで目を細め、穏やかな声で説明を続けた。
「この方達の知り合いかどうかで、ヘイデルに引き渡すか解放するか変わる。何にせよ、ここから罪人は居なくなるからね。交代で見張る必要は無くなる」
町長は、そこまで話したところで女性の肩を軽く叩いた。対する女性ははっきりした声で返事をし、町長らが通りやすいよう部屋の端に移動する。
「この奥に牢がある。ヘイデルに比べたら、規模も強度も劣るがね」
そう言って苦笑し、町長は建物の奥に進んで行く。建物の奥にこぢんまりとした通路が在り、その左右にそれぞれ二つの牢が存在していた。牢は、縦に長い鉄の棒を何本も並べて作られており、窓が無いせいか酷く暗い。また、手前に在る牢は開いており、三人は静かに奥へ進んで行った。町長は、壁に突き当たったところで立ち止まり、左側に在る牢へ向き直る。
「ここだ。暗くて、良く分からんかも知れんが」
町長の話を聞いたダームは、直ぐに牢の中を覗き込んだ。すると、そこに居た者は少年に近付いていき、目を細めて顔を確認する。彼は、そうした後で口角を上げ、笑みを浮かべて話し始めた。
「遅かったな、ダーム。ここの場所は難し過ぎたか?」
ダームは溜め息を吐き、呆れた様子で言葉を発する。
「遅かったな……じゃないよ」
少年は、そこまで話した所でベネットの顔を見上げた。ダームは、そうした後でベネットに場所を譲る。
「ダームの言う通りだ。アークが、不法侵入で捕まった馬鹿が居る。そう知らせてくれなければ、真っ直ぐここには来なかっただろう」
ベネットは、そこまで伝えたところで顎に手を当て、話を続けていった。
「それに、アークの口添えが無ければ、これからも捕まったままだった筈だ。アークに感謝せねばならんな」
そう言い放つと話し手は冷笑し、町長は牢の鍵穴を見つめる。
「知り合いの様ですし、鍵を開けますか」
町長は、そう言うと牢の並ぶ場所から離れようとした。一方、牢の中に居る青年は自慢気に笑い、低い声で言葉を発する。
「開ける必要はねえよ」
そう言うなり彼は呪文を唱え始め、町長の目の前に移動した。この時、町長は驚きのせいか後方に倒れ始め、ダームはその背中を咄嗟に支える。
「魔法を使うのは良いけど、場所を選びなよ!」
少年は、町長の肩越しに青年を睨み付けた。
「悪かったな。他に、移動出来そうな場所が思いつかなくて」
「二人共、そういう問題では無いだろう」
ベネットは、青年を押し退けて町長の前に立った。その後、彼女は頭を下げ、声の調子を落として言葉を紡ぐ。
「驚かせてしまって申し訳ございません。この者、魔術の腕は一流ですが、常識に欠けているのです」
そこまで話したところでベネットは顔を上げ、言葉を続ける。
「ですが、先程の約束は守りますので、再度捕らえるような」
「大丈夫だ、気にしなくていい」
町長は、ベネットの話を遮る様に言い、微笑みながら話を続ける。
「怪我はしなかったしね。魔物を倒してくれるなら町も助かる」
町長は、そう言うとザウバーの顔を見上げた。
「では、頼みましたよ。私は家に戻りますから」
そう言い残して町長は建物の外に出、自らの家へ戻っていった。一方、残された者達は顔を見合わせ、ベネットは一旦外に出ようと提案する。すると、仲間達は提案を受け入れ、三人は屋外へ移動した。
「魔法で出られたのに、何でそうしなかったの?」
「出ても、お前がいつ来るか分かんねえし。ここならタダ飯も食えるから、二人が来るまで様子見してようと思ってよ。ところで、約束だのなんだの言ってたけど何の話だ?」
そう問うと、青年はベネットに向き直った。対するベネットは小さく息を吸い込み、青年の問いに答え始める。
「ヘイデルとマルンの間に魔物が出るらしい。アークの提案で、捕まっている誰か……その誰かがザウバーで無ければ、ヘイデルに護送する手筈だった。そうでなければ、捕まった愚か者を解放しやすくする為に、魔物の討伐を約束したのだ」
青年は眉間に皺を寄せ、理解出来ない様子で長い息を吐いた。その様子を見たダームは、青年の顔を見上げて話し始める。
「要するに、ザウバーは魔物を倒せば良いんだよ。武装していると出てこないみたいだから、アークさんも困ってて……それで、武器を持たずに魔物を倒せるザウバーを頼ろうって」
少年の説明を聞いたザウバーは、どこか納得のいかない様子で言葉を発する。
「んなもん、アークにだって出来るだろ。第一、あれだけデカい街なんだから、魔術師なんていくらでも」
「つべこべ言うな。貴様が捕まらなければ、ここまでややこしい話にはならなかった」
そう言い放つと、ベネットはザウバーの目を真っ直ぐに見つめる。この際、ダームは彼女の意見を受け入れる様に頷き、ザウバーは溜め息を吐いた。
「分かったよ。やれば良いんだろ、やれば」
その台詞を聞いたベネットは頷き、ダームは大きく頷いてから口を開く。
「そうこなくっちゃ! 魔物を倒すのが、牢屋から出られる交換条件みたいだったけど……なんだかんだ言って、断れないのがザウバーだし」
ダームは、そう言うと歯を見せて笑った。一方、ザウバーは肩を落とし、何処か疲れた様子で息を吐く。
「それを先に言えよ」
青年は、そう言って片目を瞑り、気怠るそうに息を吐いた。
「勝手に結ばれたとは言え、約束は約束だ」
ザウバーは、そう言ったところでベネットの目を見つめ、小さく首を傾げてみせる。
「で、魔物はどの辺りに出るんだ? それが分からなきゃ、討伐するにも時間が掛かる」
「正確な場所は分からないが、この町とヘイデルを繋ぐ道のこちら側に出るらしい。魔物の姿は、死人に口無し……とでも言ったところか。深く大きな傷跡から、相当大きな獣ではないかと推測されている」
ベネットは、そこまで説明したところで呼吸を整え、自らの考えを加えていく。
「推測された通り大きな獣なら、見つけやすい。だが、今まで警備兵に見付かっていない辺り、油断のならない相手だ」
そこまで伝えたところで、ベネットは青年の目を見つめた。ザウバーは暫く考えた後で頷き、ベネットは安堵の表情を浮かべる。
「相手が相手だけに長期戦になる。一人なら十日は保つ食料などを用意してきたから、それが積んである馬車へ向かうぞ」
そう言うなりベネットは歩き始め、ダームは直ぐに後を追った。ザウバーは少しの間を置いてから追いかけ、三人は馬車の前に到着する。ベネットは、座席の下から食料の入った袋を取り出し、ザウバーに渡す。青年はそれを抱えて歩き始め、徒歩でヘイデルに向かった。