怪我の功名
文字数 3,034文字
「それより、早いとこ聖霊を見つけねえと。臭い場所には、面倒臭い奴が現れやがるし」
ベネットは無言で頷き、溜め息を吐く。
「なるべく会いたくなかった相手だ。今のところ、洞窟を根城にしているようだが……街を襲う様になったら、何としてでも倒さねばなるまい」
ベネットは、そこまで話したところで目を瞑り、何度かゆっくりとした呼吸を繰り返した。
「それと、聖霊は、洞窟の近くに居ない可能性が高い。魔族は、聖霊に近付けないと聞いたことがある」
その話を聞いたザウバーは、怪訝そうな表情を浮かべて片目を瞑る。しかし、青年が言葉を発することはなく、代わりに少年が話し始めた。
「じゃあ、無駄足だったってこと? 何日も掛けてここまで来たのに」
ダームは疲れた様子で肩を落とす。一方、ベネットは暫くの間を置いてから、少年の方へ顔を向けた。
「あくまで、可能性が高いだけだ。それに、まだ探索していない場所もある」
そう返すと、ベネットは仲間の目を見つめた。すると、ダームは何か思い出した様子で顔を上げ、青年の顔を見た。
「ザウバーが魔法を使う時に、せいれーが……って言わなかったっけ? ほら、一瞬で移動出来る魔法」
少年は右手の人差し指を立てた。彼は、そうした後で立てた指を回し、微笑しながら話を続ける。
「だったら、呼び掛けたら応えてくれるかも。ほら、地面って何処にでもあるし」
ダームは、右手の指先で床を指した。そして、彼は仲間の目線が下に向いたのを確認すると、ゆっくりとした口調で説明をする。
「光と闇はどっちかしかないし、火は熾さなきゃ無い。水や動物や植物は、ここの周りみたいに無い場所にはない」
ダームは、そこまで話したところで口角を上げ、どこか楽しそうに言葉を紡ぐ。
「だけど、地面は何処にでもある。鳥みたいに空を飛べるなら別だけど、僕達の下には何時もある」
そう言ったところで、ダームは青年の方に向き直る。
「だから、何処に聖霊が居るかはっきりしないのかも」
ダームは微苦笑し、小さく首を傾げてみせた。
「えっと……とりあえず、呼び掛けてみる?」
少年の話を聞いたザウバーは、呆れた様子で言葉を返す。
「結局、何が言いたいんだよ。自分で理解していないことを説明したって、他人には通じないぜ?」
少年は黙り込み、気まずそうに目線を下に向ける。二人のやり取りを聞いていたベネットは、少しの間考えた後で口を開いた。
「ザウバーの言う事も尤もだ。しかし、ダームの意見を無下にするのも忍びない」
ベネットは、そう言うと青年の目を見つめ、自らの考えを伝え続けた。
「草木聖霊も、近くに居たのに気付かなかった。私達が気付けないだけで、側に居る可能性もあるだろう。あくまでも可能性であって、確証は無いが」
「分かったよ。まだ見つかってもいねえし、試してみるか」
ザウバーは片目を瞑り、横目で少年の顔を見た。
「だが、やるとしても休んでからだ。俺はとにかく、ダームは休め。治ったとは言え、怪我したのには変わりねえんだから」
ザウバーは少年を無理矢理ベッドに寝かせる。対するダームは対抗しようとするが、疲れのせいか思う様にいかなかった。
「無理すんな。聖霊を見つけたって、お前が倒れたら元も子もねえ」
ダームは口先を尖らせ、上体を捻って枕に顔を埋める。
「確かに、そうかも知れないけど」
言って、少年は腰を動かし、自らの背中を上に向けた。
「僕だって、何か役に立ちたかった。怪我をして足手まといになるんじゃなくて」
青年は溜め息を吐き、気怠そうに頭を掻く。一方、ベネットは心配そうに少年を見下ろしていた。数分の沈黙があった後、ザウバーは少年の尻の上に腰を下ろす。突然座られた者は頭をもたげ、怪訝そうに口を開いた。
「何をいきなり……って言うか、重いんだけど」
青年はわざとらしい欠伸をし、腕を伸ばしてから仰向けになった。
「本当なんなの?」
青年の行動に驚いたダームは、手足を上下に動かした。しかし、青年によける様子は無く、少年は大きく息を吐いた。
「ウジウジしだしたから、ベッド代わりにしてやろうってな。俺が乗ってりゃ、寝るしか出来ねえだろうし」
ダームは溜め息を吐き、目を瞑った。
「何それ。確かに、動けないけど」
ダームは、続けて何か言おうと口を開くが、静かなままだった。そのせいか、ザウバーやベネットも何も言わず、部屋は静寂に包まれる。数分静寂が続いた後、横になっていた少年は寝息を立て始めた。この為、青年はゆっくり起き上がり、寝てしまった少年の体に布団を掛けた。ザウバーは、そうしてから開いたベッドで横になり、腕を伸ばして目を瞑る。
「俺も少し寝るわ。飯の時間まで、まだあるだろうし」
そう言うと、ザウバーは大きな欠伸をして目を瞑った。その後、二人が起きた頃に食事が運ばれ、三人は料理を口にする。そして、翌日のことについて話すと、体力を温存する為に体を休めた。夜が明けた時、三人はそれぞれに起き出して探索の準備を整えた。そして、朝食を済ませると、砂ばかりの地へ向かって行く。彼らが歩く地は、砂ばかりのせいか生物は殆ど居なかった。同じ様な光景の中を数十分程歩いた時、少年は立ち止まって地面を見つめた。
「そろそろ呼び掛けてみない? 街からちょっとは離れたし」
青年は無言で頷き、何処か投げやりに声をあげる。
「数多の生命を支える地の聖霊よ、我の声に応えたまえ」
しかし、その声に対する反応は無く、ザウバーは少年の背中を叩いて小さく笑った。
「残念だったな。考えが間違っていて」
その一言を聞いた者は、不満気に溜め息を吐いた。そして、両腕を横に伸ばすと、口先を尖らせて話し出す。
「試したのは一回だけだし、まだ分かんないじゃん。それに、そんなやる気の無い話し方じゃ、反応したくなかっただけかも知れないよ?」
ダームは、そう返すと乾いた地面を見下ろした。
「だったら、お前が手本を見せてみろ。語り掛けるったって、何処に居るかも分からないのを相手にするのは、難しいんだぜ?」
ザウバーは、そう話すと首を振った。対するダームは地面を見つめ、それから腕を横に伸ばす。
「地聖霊って、大きくて暖かいんじゃないかな。この辺りに広がる大地みたいに」
少年は、そう言ったところで軽く目を瞑った。そして、彼は息を大きく吸い込むと、ゆっくり言葉を紡ぎ始める。
「聖霊さん、僕達には力が必要です。だから」
ダームは、そこまで話したところで目を開き、顔を左に向けた。
「あっちみたい」
呟く様に言うと、ダームは顔を向けていた方向に進み始める。一方、彼の仲間は顔を見合わせ、それから少年の後を追った。三人が砂ばかりの地を歩いていくと、その先に灰色をした石碑が見えてくる。石碑は縦に長い形をしており、その中程に褐色をした宝玉が埋まっていた。また、石碑に文字が刻まれていたが、太陽光の元では判別しにくかった。
「如何にも、何か有りそうだな」
ザウバーは、そう言うと腰を折って石碑を見つめる。彼は、そのまま導かれる様に腕を伸ばし、褐色の球体に手を振れた。すると、石碑を中心として低く重い音が響き始め、立っていられない程の揺れが起き始めた。この為、彼らは四つん這いになり、揺れが収まる時を静かに待った。
しかし、揺れが収まるよりも前に地面へ亀裂が入り、それは段々と大きくなる。その亀裂は、数秒しない内にダームらを飲み込み、三人は暗い地下へ落ちていった。
ベネットは無言で頷き、溜め息を吐く。
「なるべく会いたくなかった相手だ。今のところ、洞窟を根城にしているようだが……街を襲う様になったら、何としてでも倒さねばなるまい」
ベネットは、そこまで話したところで目を瞑り、何度かゆっくりとした呼吸を繰り返した。
「それと、聖霊は、洞窟の近くに居ない可能性が高い。魔族は、聖霊に近付けないと聞いたことがある」
その話を聞いたザウバーは、怪訝そうな表情を浮かべて片目を瞑る。しかし、青年が言葉を発することはなく、代わりに少年が話し始めた。
「じゃあ、無駄足だったってこと? 何日も掛けてここまで来たのに」
ダームは疲れた様子で肩を落とす。一方、ベネットは暫くの間を置いてから、少年の方へ顔を向けた。
「あくまで、可能性が高いだけだ。それに、まだ探索していない場所もある」
そう返すと、ベネットは仲間の目を見つめた。すると、ダームは何か思い出した様子で顔を上げ、青年の顔を見た。
「ザウバーが魔法を使う時に、せいれーが……って言わなかったっけ? ほら、一瞬で移動出来る魔法」
少年は右手の人差し指を立てた。彼は、そうした後で立てた指を回し、微笑しながら話を続ける。
「だったら、呼び掛けたら応えてくれるかも。ほら、地面って何処にでもあるし」
ダームは、右手の指先で床を指した。そして、彼は仲間の目線が下に向いたのを確認すると、ゆっくりとした口調で説明をする。
「光と闇はどっちかしかないし、火は熾さなきゃ無い。水や動物や植物は、ここの周りみたいに無い場所にはない」
ダームは、そこまで話したところで口角を上げ、どこか楽しそうに言葉を紡ぐ。
「だけど、地面は何処にでもある。鳥みたいに空を飛べるなら別だけど、僕達の下には何時もある」
そう言ったところで、ダームは青年の方に向き直る。
「だから、何処に聖霊が居るかはっきりしないのかも」
ダームは微苦笑し、小さく首を傾げてみせた。
「えっと……とりあえず、呼び掛けてみる?」
少年の話を聞いたザウバーは、呆れた様子で言葉を返す。
「結局、何が言いたいんだよ。自分で理解していないことを説明したって、他人には通じないぜ?」
少年は黙り込み、気まずそうに目線を下に向ける。二人のやり取りを聞いていたベネットは、少しの間考えた後で口を開いた。
「ザウバーの言う事も尤もだ。しかし、ダームの意見を無下にするのも忍びない」
ベネットは、そう言うと青年の目を見つめ、自らの考えを伝え続けた。
「草木聖霊も、近くに居たのに気付かなかった。私達が気付けないだけで、側に居る可能性もあるだろう。あくまでも可能性であって、確証は無いが」
「分かったよ。まだ見つかってもいねえし、試してみるか」
ザウバーは片目を瞑り、横目で少年の顔を見た。
「だが、やるとしても休んでからだ。俺はとにかく、ダームは休め。治ったとは言え、怪我したのには変わりねえんだから」
ザウバーは少年を無理矢理ベッドに寝かせる。対するダームは対抗しようとするが、疲れのせいか思う様にいかなかった。
「無理すんな。聖霊を見つけたって、お前が倒れたら元も子もねえ」
ダームは口先を尖らせ、上体を捻って枕に顔を埋める。
「確かに、そうかも知れないけど」
言って、少年は腰を動かし、自らの背中を上に向けた。
「僕だって、何か役に立ちたかった。怪我をして足手まといになるんじゃなくて」
青年は溜め息を吐き、気怠そうに頭を掻く。一方、ベネットは心配そうに少年を見下ろしていた。数分の沈黙があった後、ザウバーは少年の尻の上に腰を下ろす。突然座られた者は頭をもたげ、怪訝そうに口を開いた。
「何をいきなり……って言うか、重いんだけど」
青年はわざとらしい欠伸をし、腕を伸ばしてから仰向けになった。
「本当なんなの?」
青年の行動に驚いたダームは、手足を上下に動かした。しかし、青年によける様子は無く、少年は大きく息を吐いた。
「ウジウジしだしたから、ベッド代わりにしてやろうってな。俺が乗ってりゃ、寝るしか出来ねえだろうし」
ダームは溜め息を吐き、目を瞑った。
「何それ。確かに、動けないけど」
ダームは、続けて何か言おうと口を開くが、静かなままだった。そのせいか、ザウバーやベネットも何も言わず、部屋は静寂に包まれる。数分静寂が続いた後、横になっていた少年は寝息を立て始めた。この為、青年はゆっくり起き上がり、寝てしまった少年の体に布団を掛けた。ザウバーは、そうしてから開いたベッドで横になり、腕を伸ばして目を瞑る。
「俺も少し寝るわ。飯の時間まで、まだあるだろうし」
そう言うと、ザウバーは大きな欠伸をして目を瞑った。その後、二人が起きた頃に食事が運ばれ、三人は料理を口にする。そして、翌日のことについて話すと、体力を温存する為に体を休めた。夜が明けた時、三人はそれぞれに起き出して探索の準備を整えた。そして、朝食を済ませると、砂ばかりの地へ向かって行く。彼らが歩く地は、砂ばかりのせいか生物は殆ど居なかった。同じ様な光景の中を数十分程歩いた時、少年は立ち止まって地面を見つめた。
「そろそろ呼び掛けてみない? 街からちょっとは離れたし」
青年は無言で頷き、何処か投げやりに声をあげる。
「数多の生命を支える地の聖霊よ、我の声に応えたまえ」
しかし、その声に対する反応は無く、ザウバーは少年の背中を叩いて小さく笑った。
「残念だったな。考えが間違っていて」
その一言を聞いた者は、不満気に溜め息を吐いた。そして、両腕を横に伸ばすと、口先を尖らせて話し出す。
「試したのは一回だけだし、まだ分かんないじゃん。それに、そんなやる気の無い話し方じゃ、反応したくなかっただけかも知れないよ?」
ダームは、そう返すと乾いた地面を見下ろした。
「だったら、お前が手本を見せてみろ。語り掛けるったって、何処に居るかも分からないのを相手にするのは、難しいんだぜ?」
ザウバーは、そう話すと首を振った。対するダームは地面を見つめ、それから腕を横に伸ばす。
「地聖霊って、大きくて暖かいんじゃないかな。この辺りに広がる大地みたいに」
少年は、そう言ったところで軽く目を瞑った。そして、彼は息を大きく吸い込むと、ゆっくり言葉を紡ぎ始める。
「聖霊さん、僕達には力が必要です。だから」
ダームは、そこまで話したところで目を開き、顔を左に向けた。
「あっちみたい」
呟く様に言うと、ダームは顔を向けていた方向に進み始める。一方、彼の仲間は顔を見合わせ、それから少年の後を追った。三人が砂ばかりの地を歩いていくと、その先に灰色をした石碑が見えてくる。石碑は縦に長い形をしており、その中程に褐色をした宝玉が埋まっていた。また、石碑に文字が刻まれていたが、太陽光の元では判別しにくかった。
「如何にも、何か有りそうだな」
ザウバーは、そう言うと腰を折って石碑を見つめる。彼は、そのまま導かれる様に腕を伸ばし、褐色の球体に手を振れた。すると、石碑を中心として低く重い音が響き始め、立っていられない程の揺れが起き始めた。この為、彼らは四つん這いになり、揺れが収まる時を静かに待った。
しかし、揺れが収まるよりも前に地面へ亀裂が入り、それは段々と大きくなる。その亀裂は、数秒しない内にダームらを飲み込み、三人は暗い地下へ落ちていった。