需要のある売り物と欲しがる者の存在

文字数 1,853文字

「今日は、捕らえるのが危険な分、高く売れる生き物を探しに行こう」
 兄の言葉に弟は首を傾げ、何処か不安そうに身を縮めた。

「危険とは言っても、

使

だよ? まあ、僕達に一切の危険が言えば嘘になるけどね」
 兄は軽く笑い、話を続ける。

「毒を持つ生き物だから、攻撃されたら命が危ない。だけど、その肉は栄養価が高く、金は潤沢に有っても体力の衰えた様な人なら、その効能を目当てに大枚をはたく。それでいて、保管するにも幅を取らない。ただ、見つけにくいし、個体数も多くない。けど、知識さえあれば」
 兄は、魔法を使って近くの枯れ葉を巻き上げた。すると、その下に隠れていた生き物達は、慌てて別の隠れ場所を目指す。

「こうやって、何処を探せばどんな生き物が暮らしているか、それはどうやったら狩れるのか……それを把握しているだけで、狩りの成功率は上がる」
 そう言うなり、兄は別の呪文を唱え始めた。彼が魔法を発動させた時、近くの木の枝からは頭を落とされた細長い生き物が落下する。

「木の枝に巻き付いて、小さな生き物を狙っているクリーパーなら、そこを良く観察すると良い。それに、ザウバーはもうそれを出来る力がある。下手に大きな生き物を狙うより、暖かい季節ならこのやり方が稼ぎ易いだろう」
 兄は、地に落ちた生き物を、尾の部分を持って摘まみ上げた。彼は、命を奪ったばかりの生き物を弟の眼前で釣るし、軽く揺らす。

「この生き物の毒は、咬まれさえしなければ問題ない。毒腺は毒腺で欲しがる人も居るけど……

もある。だから、危険を避ける為にも、頭を落として狩ると良い。売れるのは、肉や皮に需要があるから。食べでのない頭を落としても価値は変わらない」
 兄は、生き物を掴んでいた手をおろし、弟の目を見る。

「じゃあ、ザウバーもやってみようか。直ぐに見つからないだろうから、僕はこれを小屋に干してくる。だから、ここから余り離れないでね?」
 弟は頷き、兄は小屋へ向かっていった。

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「どうだい、ザウバー? 獲物はみつかった?」
 その問いに弟は首を振り、兄は小さく頷く。

「クリーパーは、殆ど音も立てないし体温も気温と大差ないからね。見つけたら運が良かった位の気持ちで行こう。代わりに、素材として売れる小物を狩るのも良い」
 兄は木々を見上げ、弟は兄の目線を追った。すると、そこには小動物が居たが、二人が魔法を使うことは無かった。

「食べられる量だけを狩る。そうすれば、生態系のバランスを崩すこともない。食べもしないし、売れもしない生き物は無視していこう」
 弟は頷き、兄弟は木漏れ日の中を歩いた。しかし、目的とする生き物に出会うことは無く、弟は肩を落とす。

「こういう時もある。さあ、今日は帰ろう」
 兄は弟の肩を叩き、弟はとぼとぼと歩き始めた。

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「そろそろ、防御魔法を使える様になろうか。攻撃魔法よりイメージが難しいかも知れないけど、使えれば便利だ。理不尽な攻撃だって防げる」
 兄は、落ちていた石を弟に渡す。

「手本を見せるね、その石を僕に向けて投げてみて?」
 弟は戸惑い、手に持った石を見た。

「大丈夫。もし当たったって、ザウバーの力で投げた程度じゃ怪我しないから」
 兄はからからと笑い、弟は石を兄へ向けて投げた。その石は、兄に当たることなく空中で弾かれ、ザウバーの足元に落ちる。

「ね、こうやって防御魔法を使えれば、怪我をすることも減る。そうだな、攻撃に対して盾で防ぐイメージ。先ずは、それが出来ないとなんだ。だけど、出来ても攻撃に合わせて発動出来ないと無意味だからね。それは練習するしかない」
 兄は石を拾い上げ、にこりと笑った。

「じゃあ、練習しようか? 当たっても痛くない程度に放るから、魔法を使ってみよう」
 兄は直ぐに石を投げ、それは弟の胸元に当たった。兄弟は、その練習を続け、何百回と繰り返した後で弟の魔法が発動する。しかし、それは投石を防げず、弟の服には新たな汚れが付着した。

「魔法を使えたし、今日はこれ位にしておこう。食べ物を探しに行きたいしね」
 兄は、魔法を使って弟の服に付いた汚れを払った。弟は疲れた様子で大きな呼吸をしているが、それを兄が心配する様子はない。

「僕は、来年には此処を去る。それまでに……」
 兄の声は至極小さく、それが弟の耳に届くことは無かった。

「やるべきことは山積みだな」
 兄は独りごち、歩き始めた。弟は慌てて兄の後を追い、二人は当面の食糧を得る為に狩りを始めた。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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