立ち止まらぬ勇気
文字数 2,480文字
少年は、白と灰色が入り混じった床に横たわっていた。その床はひんやりと冷たく、ダームはその気持ち良さに起きることを忘れかける。とは言え、何時までも地に伏している訳にも行かず、彼はゆっくり立ち上がった。すると、ダームの側に仲間が横たわっており、彼らも立ち上がった。また、床と言えそうなものは、彼らを中心に環状に広がっている。
しかし、その床は十歩歩けば途切れる広さで、それ以上の空間には何も無かった。暗く淀んだものが周囲に在るばかりで、壁や道は見当たらない。この為、ダームは息を飲み、ゆっくりとした呼吸を繰り返した。
「今度はなんだろ? 進めるのかも分からない」
苦笑すると、ダームはゆっくり周囲を見回した。すると、彼らの居る場所と同じ位の円が、暗い空間に浮かび上がる。その円は近くに無く、少年は首を傾げて円を見つめる。しかし、その円は十数秒程で消えてしまい、少年は低い声を漏らした。
「近くにあるなら違うのに」
そう言って溜め息を吐くと、少年は気怠るそうに目を瞑る。すると、先程より近い場所に円は現れ、それを見たザウバーは口を開いた。
「さっきよりは、近くに出来たみてえだぞ」
そう言うと、青年は生じた円を指差した。しかし、それは少年が目を開いてから直ぐに消えてしまい、ダームは残念そうに肩を落とす。
「そんなに落ち込むなって。次に近くに出来たら直ぐに飛び移る。心構えが出来て、良かったじゃねえか」
ザウバーは、そう言うと少年の頭を軽く叩いた。対するダームは無言で頷き、拳を握る。
「確かにそうだよね。慌てて渡って、バラバラになるのは嫌だ」
ダームが話している内に、新たな円が現れた。しかし、それは彼の死角にあり、気付くことはなかった。
「だから、今度近くに」
そこまで言った瞬間、歩いて渡れる距離に円が生じる。この為、ダームは仲間の手をそれぞれ掴み、新たに生じた円へ向かって走り出した。その後、円が消える前に移動を終え、ダームは仲間から手を離して一息つく。彼の乗る円が消えることはなかったが、先程まで乗っていた場所は音もなく消えた。それに初めて気付いたのは後方を振り返ったベネットで、彼女は呟く様に言葉を発する。
「成程、後退は許されないと言うことか」
それを聞いたダームは振り返り、先程まで居た円が消えてしまった事実に気付いた。
「本当だ。これじゃ、戻るに戻れない」
そう言って溜め息を吐くと、ダームは周囲を見回した。
「今更悔やんでも仕方ねえだろ。第一、あそこに留まったって、脱出出来る訳でもねえ」
ザウバーは、そう返すと周りを見回した。しかし、渡れる位置に円は生じず、彼ははっきりとした声で話し出す。
「提案なんだけどよ」
ダーム達は青年の方に顔を向け、話し手は自らの考えを述べていく。
「それぞれ違う方向を向いて手を繋ぐ。渡れそうなのが出たら、声を上げて手を引く。手を引かれた奴は、引かれた方に向いて移動……これで、見落とすってことはなくなる筈だ」
青年の話を聞いたダームは大きく頷き、ベネットも肯定の返事をした。この為、三人はそれぞれ仲間と手を繋ぎ、自分の担当する方向を注意深く見つめた。すると、暫く経ってから少年の見ている方向に円が生じ、ダームは声を上げてそれを知らせる。その後、彼らは連れ立って少年の見つけた円に向かい、その後も同じ様な行動を繰り返していった。それを何十回と繰り返した先に洞窟の入口があり、ダームはどこか安心した様子で息を吐く。
「これって、ゴールってことで良いのかな?」
それを聞いた仲間は、導かれる様に洞窟の先を見つめた。しかし、その先は暗くて判別出来ず、ザウバーは溜め息混じりに言葉を発する。
「さあな」
ダームは低い声を漏らし、ベネットの顔を見上げた。
「一段落ついてはいるのだろう。しかし、まだ安心出来ん」
そう返すと、ベネットは無言で後方を振り返った。そこにはただ暗闇が在るばかりで、引き返すことは不可能だった。
「いずれにせよ、私たちには進むしか出来ない。ならば、終点を見つけるまで、進み続けよう」
その意見にダームは頷き、青年は声に出して肯定する。そして、彼らは暗い洞窟に歩みを進めると、転ばぬようゆっくり歩き続けた。数十分歩いた頃、先頭を歩いていたザウバーが立ち止まった。この為、少年は首を傾げ問い掛ける。
「どうしたの? 急に立ち止まって」
そう言うと、ダームは青年の背中越しに前方を見た。すると、そこは行き止まりで、少年は肩を落とす。
「一本道だったのに通れないなんて……引き返さなきゃなのかな」
しかし、青年がそれに応えることは無かった。少年が後方を振り返ると、突然地面が大きく揺れ出し、そこで彼らの意識は途切れた。再び三人が目を覚ました時、地下へ落とされる前に見た石碑が在った。その石碑には、褐色の宝玉が埋まっており、それは地上に居た時より輝いている。目覚めた三人が石碑を見つめていると、唐突にそれは砕けて消える。しかし、宝玉だけは残ったままで、更に強い光を発し始めた。
「何これ、眩し」
ダームは、そう言うなり目を瞑り、ザウバーとベネットは自らの手で光を遮った。彼らがそうしていると、宝玉から低く落ち着いた言葉が発せられる。
「立ち止まることなく訪れるとは素晴らしい。普通の人間なら、出来ない芸当だ」
そこで声は一旦途切れ、宝玉の光は弱まっていく。この為、ダームは恐る恐る片目を開き、宙に浮く宝玉を見つめた。
「揺るがない志、見せてもらった。望み通り、力を貸してやろう」
その瞬間、青年の体は褐色の光に包まれた。その光が消えた時、宝玉から声が響く。
「立ち止まるな、進め。力を持つ者でなければ成せぬことだ」
声が途切れた時、三人の足元は崩れ始めた。そして、立っていられない程に地が崩れた時、彼らの意識は途切れてしまう。三人が目を覚ました時、地下へ落とされる前に見た石碑が在った。しかし、それに宝玉は嵌められておらず、窪みが残されているだけだった。この為、少年は不思議そうに周囲を見回し、それから仲間の顔を見つめる。
しかし、その床は十歩歩けば途切れる広さで、それ以上の空間には何も無かった。暗く淀んだものが周囲に在るばかりで、壁や道は見当たらない。この為、ダームは息を飲み、ゆっくりとした呼吸を繰り返した。
「今度はなんだろ? 進めるのかも分からない」
苦笑すると、ダームはゆっくり周囲を見回した。すると、彼らの居る場所と同じ位の円が、暗い空間に浮かび上がる。その円は近くに無く、少年は首を傾げて円を見つめる。しかし、その円は十数秒程で消えてしまい、少年は低い声を漏らした。
「近くにあるなら違うのに」
そう言って溜め息を吐くと、少年は気怠るそうに目を瞑る。すると、先程より近い場所に円は現れ、それを見たザウバーは口を開いた。
「さっきよりは、近くに出来たみてえだぞ」
そう言うと、青年は生じた円を指差した。しかし、それは少年が目を開いてから直ぐに消えてしまい、ダームは残念そうに肩を落とす。
「そんなに落ち込むなって。次に近くに出来たら直ぐに飛び移る。心構えが出来て、良かったじゃねえか」
ザウバーは、そう言うと少年の頭を軽く叩いた。対するダームは無言で頷き、拳を握る。
「確かにそうだよね。慌てて渡って、バラバラになるのは嫌だ」
ダームが話している内に、新たな円が現れた。しかし、それは彼の死角にあり、気付くことはなかった。
「だから、今度近くに」
そこまで言った瞬間、歩いて渡れる距離に円が生じる。この為、ダームは仲間の手をそれぞれ掴み、新たに生じた円へ向かって走り出した。その後、円が消える前に移動を終え、ダームは仲間から手を離して一息つく。彼の乗る円が消えることはなかったが、先程まで乗っていた場所は音もなく消えた。それに初めて気付いたのは後方を振り返ったベネットで、彼女は呟く様に言葉を発する。
「成程、後退は許されないと言うことか」
それを聞いたダームは振り返り、先程まで居た円が消えてしまった事実に気付いた。
「本当だ。これじゃ、戻るに戻れない」
そう言って溜め息を吐くと、ダームは周囲を見回した。
「今更悔やんでも仕方ねえだろ。第一、あそこに留まったって、脱出出来る訳でもねえ」
ザウバーは、そう返すと周りを見回した。しかし、渡れる位置に円は生じず、彼ははっきりとした声で話し出す。
「提案なんだけどよ」
ダーム達は青年の方に顔を向け、話し手は自らの考えを述べていく。
「それぞれ違う方向を向いて手を繋ぐ。渡れそうなのが出たら、声を上げて手を引く。手を引かれた奴は、引かれた方に向いて移動……これで、見落とすってことはなくなる筈だ」
青年の話を聞いたダームは大きく頷き、ベネットも肯定の返事をした。この為、三人はそれぞれ仲間と手を繋ぎ、自分の担当する方向を注意深く見つめた。すると、暫く経ってから少年の見ている方向に円が生じ、ダームは声を上げてそれを知らせる。その後、彼らは連れ立って少年の見つけた円に向かい、その後も同じ様な行動を繰り返していった。それを何十回と繰り返した先に洞窟の入口があり、ダームはどこか安心した様子で息を吐く。
「これって、ゴールってことで良いのかな?」
それを聞いた仲間は、導かれる様に洞窟の先を見つめた。しかし、その先は暗くて判別出来ず、ザウバーは溜め息混じりに言葉を発する。
「さあな」
ダームは低い声を漏らし、ベネットの顔を見上げた。
「一段落ついてはいるのだろう。しかし、まだ安心出来ん」
そう返すと、ベネットは無言で後方を振り返った。そこにはただ暗闇が在るばかりで、引き返すことは不可能だった。
「いずれにせよ、私たちには進むしか出来ない。ならば、終点を見つけるまで、進み続けよう」
その意見にダームは頷き、青年は声に出して肯定する。そして、彼らは暗い洞窟に歩みを進めると、転ばぬようゆっくり歩き続けた。数十分歩いた頃、先頭を歩いていたザウバーが立ち止まった。この為、少年は首を傾げ問い掛ける。
「どうしたの? 急に立ち止まって」
そう言うと、ダームは青年の背中越しに前方を見た。すると、そこは行き止まりで、少年は肩を落とす。
「一本道だったのに通れないなんて……引き返さなきゃなのかな」
しかし、青年がそれに応えることは無かった。少年が後方を振り返ると、突然地面が大きく揺れ出し、そこで彼らの意識は途切れた。再び三人が目を覚ました時、地下へ落とされる前に見た石碑が在った。その石碑には、褐色の宝玉が埋まっており、それは地上に居た時より輝いている。目覚めた三人が石碑を見つめていると、唐突にそれは砕けて消える。しかし、宝玉だけは残ったままで、更に強い光を発し始めた。
「何これ、眩し」
ダームは、そう言うなり目を瞑り、ザウバーとベネットは自らの手で光を遮った。彼らがそうしていると、宝玉から低く落ち着いた言葉が発せられる。
「立ち止まることなく訪れるとは素晴らしい。普通の人間なら、出来ない芸当だ」
そこで声は一旦途切れ、宝玉の光は弱まっていく。この為、ダームは恐る恐る片目を開き、宙に浮く宝玉を見つめた。
「揺るがない志、見せてもらった。望み通り、力を貸してやろう」
その瞬間、青年の体は褐色の光に包まれた。その光が消えた時、宝玉から声が響く。
「立ち止まるな、進め。力を持つ者でなければ成せぬことだ」
声が途切れた時、三人の足元は崩れ始めた。そして、立っていられない程に地が崩れた時、彼らの意識は途切れてしまう。三人が目を覚ました時、地下へ落とされる前に見た石碑が在った。しかし、それに宝玉は嵌められておらず、窪みが残されているだけだった。この為、少年は不思議そうに周囲を見回し、それから仲間の顔を見つめる。