闇をも喰らう聖剣
文字数 2,731文字
「ザウバー! 疲れたのは分かるけど、寝るならベッドで寝てよ」
ダームの言葉が聞こえていないのか、青年は目を瞑ったままだった。この為、ダームは青年を背負い、寝室まで運んでいく。その後、ダームは眠ったままの仲間をなんとかしてベッドに乗せた。そして、ザウバーの体に布団をかけると、額に浮かんだ汗を拭う。
ダームは、暫くの間その場に佇み、玄関から物音がしたところで寝室を出た。少年は、物音がした方へ向かっていき、その途中でベネットと再会する。
「おかえりさない、ベネットさん」
「ただいま、ダーム」
ダームは、数日振りに在った仲間へ笑顔を向け、それから持ち帰った物へ目線を向けた。
「ザウバーが、気になる資料を選んで持ってきたんだ。魔術関連だから僕は触れないし、ザウバーは寝ちゃった」
そう伝えると苦笑し、ダームは本やクリスタルの置かれた机の前に立つ。
「だけど、ザウバーや僕が分からない事でも、ベネットさんなら分かるかもって」
それを聞いたべネットは、机上に置かれた本を見下ろす。
「得意分野が違うからな。だが、魔術に一番詳しいのは、それを専門的に学ぶ大学を出たザウバーだ」
言いながら、ベネットは一番上に置かれた本を捲り、目を細める。
「魔術書と言うのは厄介だ。書かれている言語は、系統により多岐に渡る」
ベネットは溜め息を吐き、ダームは首を傾げた。
「本から情報を得るのはザウバーに任せよう。元々、ザウバーの兄が所持していた書籍だ。一番詳しいのも奴だろう」
本を置き、ベネットは少年を見下ろした。
「あ、そうだ! 良く分からないものに触るな……って言われたものがあった」
ダームは、そう言って手を叩き、厚手の布で丁寧に包まれた塊を指差した。その塊は丸く、上部でしっかりと布が結ばれている。
「直接触れたらまずいかも知れないからって、ザウバーが包んだんだ。ザウバーなら、怪しいものに触らなくても、魔法で移動させられるから」
ベネットは頷き、ダームが指し示した塊に手を伸ばした。それから、慎重に結び目を解き、中のものを確認する。
中には、銀の台座で支えられた球体が有った。その球体は透明で、覗き込む者達の顔を映している。
「これは……成る程、資格無き者には、見ることすら叶わぬか」
ベネットは、呟く様に声を漏らした。彼女は、少年の目を見つめて微笑み、柔らかな声で問い掛ける。
「短剣を貸してはくれないか?」
その問いにダームは目を丸くし、胸元に手を当てた。少年は、少しの迷いを見せた後で短剣を服の下から出し、ベネットへ手渡す。
「ありがとう、ダーム。これから起こることは、信じ難いことかも知れない。だが、どんなことにもやるべき時がある」
ベネットは、困惑した様子の少年の頭に手を置き、軽く撫でた。それから、彼女は短剣をしっかりと握りしめ、台座の上に置かれた球体を真っ直ぐに見た。
ベネットは、短剣を鞘から引き抜くと球体の上に翳し、短剣の鞘を台座の間近に置いた。そうしてから、ベネットはそっと目を瞑り、大きく息を吸い込んだ。
「光の聖霊と契約せし者によって命ず。穢れを知らぬ宝玉よ、今こそ本来の姿を顕し、闇をも喰らう聖剣となれ」
その時、球体は白い光を帯び、その光は直ぐに部屋を満たした。球体から生じる光は徐々に強くなり、ダームは思わず目を瞑る。
少年が恐る恐る目を開いた時、その目線の先に球体は無かった。また、彼の所持品である短剣も消え去り、ダームは慌てた様子で室内を見回す。
「説明も無しに進めて悪かった。だが、戦闘経験を積んだ今のダームなら、扱うことが可能だろう」
ベネットは、言い終えるや否や長剣をダームに差し出した。その長剣の刃は透明で、しっかりとした柄には銀の装飾がなされている。また、柄には様々な色の宝石が埋め込まれ、幾何学的な文字を形成していた。
「えっと……これは、僕が持つってことで良いのかな?」
少年の言葉にベネットは頷き、ダームは長剣を受け取った。すると、柄の文字は明滅し、少年の手に合わせて形を変える。
「それが、あの短剣の本来の姿だ。悪意で破壊されぬ様、必要となるパーツを、別の場所に保管しておいたのだろう」
それを聞いたダームは剣を見下ろし、透明の刃をまじまじと眺めた。透き通る刃は彼の表情を映し、少年は驚いた様子で顔を上げる。
「だが、完成させたところで、使える者が持たねば意味がない。また、そのまま持ち歩くには余りにも無防備だ」
ベネットは、そう伝えると長剣を見下ろした。彼女は、そうしてからダームの顔を見、はっきりとした声で説明を始める。
「剣を掴んだまま、唱えてみろ」
少年は柄を握る手に力を込め、ベネットはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「聖なる剣よ、我が呼ぶまで眠れ」
数秒の間を置いてから少年は頷き、手を震わせながら口を開いた。
「聖なる剣よ、我が呼ぶまで眠れ」
ダームが言い終えた時、剣は彼の手から消えた。この為、少年は慌てて自らの掌を見つめ、それから近くに立つ仲間の顔を見る。
「消えたのではない。ここではない空間に保管しただけだ」
その説明だけで少年が納得出来る筈もなく、ダームは声も出さずに口を開閉させた。
「説明するより、実際に体感して確認した方が良いな。剣を取り出す時の言葉はこうだ」
ベネットは、ダームが聞く体勢になるのを待ってから伝える。
「我は欲する、剣の力を」
少年は、緊張で湧き上がって来たものを嚥下し、無意識の内に手を握り締めた。彼は、その剣を握っている時の位置に手を据え、聞いたばかりの言葉を紡いだ。
「我は欲する、剣の力を」
すると、長剣がどこからともなく現れ、ダームの手中に収まった。ダームは、現れた剣をしっかり握り、その存在を確かめる様に刃を見つめる。
「凄い。これなら、移動する時はしまっておけるし、敵が現れても」
その時、少年の腹が情けない音を発した。
「だが、便利な分、力も使う。慣れない内は尚更だ」
ベネットは、そう伝えると調理台のある方を見た。
「アークから色々な食材を渡された。調べごとの間は、軽食しか摂っていなかっただろう? 空腹ならば、しっかりとした食事を摂った方が良い」
対する少年は、恥ずかしそうに微笑みながら頷いた。そして、二人は共に調理を始め、出来上がったところで料理をテーブルに並べる。
二人は、他愛ない会話をしながら食事をし、食べ終えた頃に青年が起きて部屋に来た。寝ぼけ眼のザウバーは、空になりかけた皿をぼんやりと見つめ、それに気付いた少年は首を傾げる。
「一応、ザウバーの分も作っておいたけど食べる?」
青年は頷き、自らの分を調理台へ取りに行った。それから、ザウバーはもそもそと食事を始め、その動きは腹が満ちるに連れて早くなる。
ダームの言葉が聞こえていないのか、青年は目を瞑ったままだった。この為、ダームは青年を背負い、寝室まで運んでいく。その後、ダームは眠ったままの仲間をなんとかしてベッドに乗せた。そして、ザウバーの体に布団をかけると、額に浮かんだ汗を拭う。
ダームは、暫くの間その場に佇み、玄関から物音がしたところで寝室を出た。少年は、物音がした方へ向かっていき、その途中でベネットと再会する。
「おかえりさない、ベネットさん」
「ただいま、ダーム」
ダームは、数日振りに在った仲間へ笑顔を向け、それから持ち帰った物へ目線を向けた。
「ザウバーが、気になる資料を選んで持ってきたんだ。魔術関連だから僕は触れないし、ザウバーは寝ちゃった」
そう伝えると苦笑し、ダームは本やクリスタルの置かれた机の前に立つ。
「だけど、ザウバーや僕が分からない事でも、ベネットさんなら分かるかもって」
それを聞いたべネットは、机上に置かれた本を見下ろす。
「得意分野が違うからな。だが、魔術に一番詳しいのは、それを専門的に学ぶ大学を出たザウバーだ」
言いながら、ベネットは一番上に置かれた本を捲り、目を細める。
「魔術書と言うのは厄介だ。書かれている言語は、系統により多岐に渡る」
ベネットは溜め息を吐き、ダームは首を傾げた。
「本から情報を得るのはザウバーに任せよう。元々、ザウバーの兄が所持していた書籍だ。一番詳しいのも奴だろう」
本を置き、ベネットは少年を見下ろした。
「あ、そうだ! 良く分からないものに触るな……って言われたものがあった」
ダームは、そう言って手を叩き、厚手の布で丁寧に包まれた塊を指差した。その塊は丸く、上部でしっかりと布が結ばれている。
「直接触れたらまずいかも知れないからって、ザウバーが包んだんだ。ザウバーなら、怪しいものに触らなくても、魔法で移動させられるから」
ベネットは頷き、ダームが指し示した塊に手を伸ばした。それから、慎重に結び目を解き、中のものを確認する。
中には、銀の台座で支えられた球体が有った。その球体は透明で、覗き込む者達の顔を映している。
「これは……成る程、資格無き者には、見ることすら叶わぬか」
ベネットは、呟く様に声を漏らした。彼女は、少年の目を見つめて微笑み、柔らかな声で問い掛ける。
「短剣を貸してはくれないか?」
その問いにダームは目を丸くし、胸元に手を当てた。少年は、少しの迷いを見せた後で短剣を服の下から出し、ベネットへ手渡す。
「ありがとう、ダーム。これから起こることは、信じ難いことかも知れない。だが、どんなことにもやるべき時がある」
ベネットは、困惑した様子の少年の頭に手を置き、軽く撫でた。それから、彼女は短剣をしっかりと握りしめ、台座の上に置かれた球体を真っ直ぐに見た。
ベネットは、短剣を鞘から引き抜くと球体の上に翳し、短剣の鞘を台座の間近に置いた。そうしてから、ベネットはそっと目を瞑り、大きく息を吸い込んだ。
「光の聖霊と契約せし者によって命ず。穢れを知らぬ宝玉よ、今こそ本来の姿を顕し、闇をも喰らう聖剣となれ」
その時、球体は白い光を帯び、その光は直ぐに部屋を満たした。球体から生じる光は徐々に強くなり、ダームは思わず目を瞑る。
少年が恐る恐る目を開いた時、その目線の先に球体は無かった。また、彼の所持品である短剣も消え去り、ダームは慌てた様子で室内を見回す。
「説明も無しに進めて悪かった。だが、戦闘経験を積んだ今のダームなら、扱うことが可能だろう」
ベネットは、言い終えるや否や長剣をダームに差し出した。その長剣の刃は透明で、しっかりとした柄には銀の装飾がなされている。また、柄には様々な色の宝石が埋め込まれ、幾何学的な文字を形成していた。
「えっと……これは、僕が持つってことで良いのかな?」
少年の言葉にベネットは頷き、ダームは長剣を受け取った。すると、柄の文字は明滅し、少年の手に合わせて形を変える。
「それが、あの短剣の本来の姿だ。悪意で破壊されぬ様、必要となるパーツを、別の場所に保管しておいたのだろう」
それを聞いたダームは剣を見下ろし、透明の刃をまじまじと眺めた。透き通る刃は彼の表情を映し、少年は驚いた様子で顔を上げる。
「だが、完成させたところで、使える者が持たねば意味がない。また、そのまま持ち歩くには余りにも無防備だ」
ベネットは、そう伝えると長剣を見下ろした。彼女は、そうしてからダームの顔を見、はっきりとした声で説明を始める。
「剣を掴んだまま、唱えてみろ」
少年は柄を握る手に力を込め、ベネットはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「聖なる剣よ、我が呼ぶまで眠れ」
数秒の間を置いてから少年は頷き、手を震わせながら口を開いた。
「聖なる剣よ、我が呼ぶまで眠れ」
ダームが言い終えた時、剣は彼の手から消えた。この為、少年は慌てて自らの掌を見つめ、それから近くに立つ仲間の顔を見る。
「消えたのではない。ここではない空間に保管しただけだ」
その説明だけで少年が納得出来る筈もなく、ダームは声も出さずに口を開閉させた。
「説明するより、実際に体感して確認した方が良いな。剣を取り出す時の言葉はこうだ」
ベネットは、ダームが聞く体勢になるのを待ってから伝える。
「我は欲する、剣の力を」
少年は、緊張で湧き上がって来たものを嚥下し、無意識の内に手を握り締めた。彼は、その剣を握っている時の位置に手を据え、聞いたばかりの言葉を紡いだ。
「我は欲する、剣の力を」
すると、長剣がどこからともなく現れ、ダームの手中に収まった。ダームは、現れた剣をしっかり握り、その存在を確かめる様に刃を見つめる。
「凄い。これなら、移動する時はしまっておけるし、敵が現れても」
その時、少年の腹が情けない音を発した。
「だが、便利な分、力も使う。慣れない内は尚更だ」
ベネットは、そう伝えると調理台のある方を見た。
「アークから色々な食材を渡された。調べごとの間は、軽食しか摂っていなかっただろう? 空腹ならば、しっかりとした食事を摂った方が良い」
対する少年は、恥ずかしそうに微笑みながら頷いた。そして、二人は共に調理を始め、出来上がったところで料理をテーブルに並べる。
二人は、他愛ない会話をしながら食事をし、食べ終えた頃に青年が起きて部屋に来た。寝ぼけ眼のザウバーは、空になりかけた皿をぼんやりと見つめ、それに気付いた少年は首を傾げる。
「一応、ザウバーの分も作っておいたけど食べる?」
青年は頷き、自らの分を調理台へ取りに行った。それから、ザウバーはもそもそと食事を始め、その動きは腹が満ちるに連れて早くなる。