それぞれの目的地へ

文字数 1,322文字

「落ち込んでいるみたいに見えたけど、大丈夫かな?」
「誰にでも、悔む過去はあるだろう。だが、それで病んでしまう程、弱くは無い筈だ」
 ベネットは、空になった皿を一瞥した。
 
「当人がここに居ない以上、確かめようもない。そもそも、詳しく聞き出せる様な内容でも無い。ザウバーが話してくれる時を待とう」
 そう言うなり、彼女は開いた皿を集めて洗い場へ向かった。それを見た少年は直ぐに立ち上がり、ベネットを手伝い始める。

 その後、洗い物を終えたベネットは湯を沸かし始め、ダームはテーブルを拭いた。そうこうしている内に青年は浴室から戻り、肩に掛けたタオルで髪を拭きながら椅子に座った。
 
「ダームも浴びてきたらどうだ?」
 青年は、そう言うと肩に掛けていたタオルを外す。一方、少年は小さく頷き、浴室に向かおうとした。この際、ザウバーは持っていたタオルを少年に投げ渡し、軽く笑いながら言葉を発する。

「風呂場に行くなら、ついでに干してきてくれ。なんなら、使っても良いぜ?」
 少年は溜め息を吐き、呆れた様子で言葉を返した。
 
「干す位は良いけど。こんな湿ったの、使いたくないよ」
 ダームは歩き出し、直ぐに青年の前から姿を消した。この為、ザウバーは椅子に座り直し、もう一人の仲間に目線を向ける。彼女は、両手に白いカップを持っており、それをテーブルに置くと調理台からポットを持ってきた。ベネットは、淹れた茶をカップに注ぐと椅子に座り、髪が湿ったままの青年を見つめる。
 
「体調は大丈夫そうだな。とは言え、あまりダームに心配を掛けさせるな。私が言えたことでもないが」
 そう言うと、ベネットはカップに手を伸ばした。

「分かったよ。明日はダームと二人きりなんだし、無理しねえようにする」
 そう返すと、青年は淹れたての紅茶を飲み始めた。その後、戻ってきたダームも紅茶を飲み、飲み終えたところで寝室へ向かっていく。
 
 ダームが眠ってから数時間後、彼の仲間もベッドで横になっていた。そして、日が昇った頃に少年は目を覚まし、調理場へ向かって行く。彼は、そこでコップに水を注いで飲み干し、一息ついた様子で息を吐いた。その後、彼は洗面所で顔を洗い、荷物を置いたままの寝室へ戻っていく。ダームは、荷物をベッド上に置くと整理し始め、衣服を畳み直してからしまっていった。
 
 荷物整理は直ぐに終わり、少年は手持ち無沙汰に室内を見回す。その後、彼はベッドに腰掛けて足を揺らし、仲間が起き出してからリビングへ向かった。彼らは、朝食を済ませると手早く片付け、椅子に座って話を始める。
 
「では、互いの用が済み次第ここへ戻る。終わらなくとも、三日後には戻って経過を報告。それで良いな?」
 その問いにザウバーは頷き、隣に座る少年の肩を軽く叩いた。

「大丈夫だ。俺の場合、魔法で移動出来るからな。戻ってきたい時に戻って来られる」
 彼は、そこまで言ったところで少年の顔を見やり、それから余裕の笑みを浮かべてみせる。
 
「と言っても、時間は沢山有った方が良い。直ぐに行ってくるわ」
 青年はそう言うなり立ち上がり、続く様にダームも立ち上がる。その後、ザウバー達は荷物の置いてある部屋へ向かい、ベネットはヘイデルへ向かう支度を始めた。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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