総司令の説教タイム

文字数 2,636文字

 ザウバーとアークは、会話せずに廊下を歩いていた。そして、分かれ道に来たところでアークが口を開く。
「ダームは話し出すと止まらないでしょうし、私の部屋に行きますか?」
 提案を聞いたザウバーは肯定の返事をする。
 
「かしこまりました。では、案内しますね」
 アークはそう言うと歩く速度を上げ、ザウバーは遅れぬ様に彼を追った。彼らは、その後も会話の無いまま進んで行き、アークが住む建物の前に到着する。その建物は、五階建てで横に長く、その周囲は鉄柵で囲まれていた。

 建物へ繋がる通路には平らな石が敷き詰められ、それらの石は白に近い灰色をしている。アークは、敷き詰められた石を踏みながらエントランスに近付くと、重々しい金属で作られたドアに手を触れた。すると、そのノブ付近から金属の擦れ合う音が生じ、それを聞いたアークはドアノブを掴む。その後、ノブを掴んだアークはドアを明け、後方に居るザウバーの方へ顔だけを向ける。
 
「どうぞ」
 アークは、それだけ言うと笑顔を作る。彼の台詞を聞いたザウバーは建物内に入り、少し進んだ先で立ち止まった。一方、アークは建物に入るとドアを閉め、青年を先導する様に歩き始める。その後、二人は無言で建物内を進んで行き、アークは「501」と書かれた部屋の前で立ち止まった。
 
「ここです。鍵を開けますから、少々お待ち下さいね」
 アークは、ポケットから鍵を取り出して鍵穴に入れる。彼は鍵を回し、ドアノブに手を掛けて手前に引いた。

 アークは、ドアを押さえながら青年の目を見る。彼の仕草を見たザウバーは部屋へ入り、アークは鍵を抜いて部屋に入った。アークの部屋には、来客用と思しきローテーブルが用意されていた。また、それを囲う様にソファが置かれ、その上に柔らかそうな布が掛けられている。木製のテーブルには、甲板の下に小物を置く為の場所が有り、そこに紙やペンなどの筆記用具が置かれていた。

 また、テーブルやソファに目立った汚れは無く、それが家主の性格を表している様だった。部屋の右側には、上着を掛ける為のハンガーが用意され、それは複数あるペグの一つに纏められている。入り口の対面にある窓は暗褐色のカーテンで覆われ、外界の光はうっすらとしか入って来なかった。この為、アークは照明を点け、部屋の光源を確保する。その後、アークは青年の方へ顔を向け、口を開いた。
 
「好きな場所に座って下さい。あと、紅茶と珈琲、どちらになさいます?」
 家主の話を聞いたザウバーは、ソファの右手前に腰を下ろした。彼は暫く考えた後、微苦笑しながらアークの顔を見上げる。
 
「いや、どっちも要らねえ」
 そう返すと、ザウバーは目線をテーブルへ落とし、手を組んだ。彼の様子を見たアークは、僅かに目を細める。

「じゃ、ココアで。重要が無いから中々減らないんですよね、あれ」
 アークは、そう言うと反応を待つことなく部屋の左奥へ向かっていった。そこには、他の部屋へ続く廊下が在り、その先はザウバーのいる位置から見えにくい。その所為か、ザウバーは力無く天井を見上げ、つまらなそうに溜め息を吐いた。
 
 部屋の奥に消えてから十分程経った時、アークは金属製のトレイに二つのカップを乗せて戻った。二つのカップは白を基調にした陶器製で、その縁や取っ手に金の装飾が施されている。また、やや粘性のある液体が注がれ、そこから白い湯気が立ち上っていた。アークは、トレイをテーブルの上に置き、カップをザウバーの前に差し出す。その後、彼はソファに腰を下ろすと、自らの前にもう一つのカップを置いた。
 
「さて、一息つきましょうか」
 アークは、そう言うとカップに口を付ける。ザウバーは、渡されたカップに何度も息を吹きかけ、そこに注がれた飲料を冷ましていった。

「ところで」
 アークの言葉にザウバーは顔を上げ、発言者の目を見つめる。一方、彼の目線に気付いたアークは、更なる言葉を続けた。
 
「フェアラで何があったのですか? 既に報告は聞いています。ですが、折角の機会ですし、あの場に居た方にも聞いておきたいと思いまして」
 アークは、そう言うとカップを下ろし、ザウバーの目を真っ直ぐに見た。

「フェアラでの事……俺も、上手く説明出来る自信はねえぞ?」
 ザウバーは、そう返すと小さく息を吐き出した。彼の台詞を聞いたアークは小さく頷き、そのまま話の続きを待つ。
 
「なる程。一人で解決しようとして失敗した挙げ句、仲間を窮地に立たせたと」
 アークは、そう話すと溜め息を吐き、何度かテーブルを人差し指で叩いた。彼の様子を見たザウバーは苦笑し、そのまま口元を引き攣らせる。

「そんな風に言うこと」
「でも、事実でしょう?」
 アークは、ザウバーが言い終わらぬ内に話し出し、再度大きな溜め息を吐いた。彼の言葉を聞いたザウバーと言えば、気まずそうに目線を泳がせる。
 
「大体、後先考えずに転移魔法を使うのも頂けません。貴方、この街でどういうイメージを持たれているのか、分かっています?」
 その問いにザウバーは閉口し、発言者は呆れた風に目を細めた。
 
「特に、教会関係者には嫌われ者ですよ。理由は、説明するまでもないでしょうが」
 そう伝えると、アークは首を横に振る。その後、彼はカップに口を付け、注がれたココアを一口飲んだ。
 
「今回は、転移先に居たのが私でしたから事なきを得ました。ですが、他の方に会っていたら、どうなっていたことか」
 そう言い放つと、アークは気怠るそうに天井を見上げ、息を吐き出した。彼は、暫くの間そうした後、顔の位置を戻して目を瞑る。

「一応言っておきますが、気を付けて下さいね」
 そう伝えると、アークはココアを飲み干した。忠告された者は無言で頷き、ココアを飲み干す。
 
「そろそろ、ダームの話も終わりましたかね? 大きめの帽子を貸しますので、二人の元へ向かいましょう」
 アークは青年の目を覗き込み、笑顔を浮かべる。ザウバーは肯定の返事をなし、アークは空のカップを持って応接間から消えた。暫くして戻ったアークは、鍔が大きめの帽子を持っていた。彼は、群青色の帽子をザウバーの頭に乗せ、無言で玄関の方へ向かっていく。この為、ザウバーは慌ててアークの後を追い、歩きながら帽子の位置を直した。

 アークは、青年が追い付いたところで玄関を開け、順に部屋の外へ出た。その後、ドアを施錠したアークは、微笑んでから歩き始めた。ザウバーは後を追い、二人はダームとベネットの居る場所へ向かっていく。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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