少年の心の奥
文字数 2,455文字
(起きたら変わってるなんて、やっぱり無いか)
ダームは空を見上げ、目を細めた。
(一人は寂しい……か)
ダームは背中を伸ばし、何度か肩を回す。そして、服の下から短剣を取り出すと、そこから伸びる光を追い掛け始めた。
そのうち、ダームは一人で歩く不安を紛らわせようとしてか、歌を口ずさみ始めた。とは言え、そうしたところで何も変わらず、彼は大きな溜め息を吐いて立ち止まる。
その後、ダームは両腕を開閉させながら深呼吸し、頬を叩いた。それから、少年は進むべき方へ顔を向け、しっかりとした足取りで進み続ける。
ダームが歩き続けているうちに辺りは暗くなり、彼は短剣を仕舞って休もうとした。だが、目を瞑った瞬間に声が聞こえ始め、少年は目を開いて声の主が誰かを確かめようとする。
すると、丈の短い服を着た少年の姿が在り、ダームを見下ろしていた。その少年は、口を開くと呟くように言葉を漏らす。
「暗いのは……怖いよ」
ダームの前に立つ少年は言い、それを聞いた者は悲しそうな表情を浮かべる。ダームは、少年を見上げたまま言葉を発することはなく、ただ少年の話を聞いていた。
「一人は嫌だ……寂しいよ」
少年がそう言った時、ダームの口は大きく動いた。しかし、またしても彼の喉から声は出ず、蒼い目の少年はダームの前から立ち去った。
すると、途端にダームの声は出る様になり、彼は力の限り声を張る。
「待って!」
そう叫ぶと自らの喉をさすり、ダームは跳ねるように立ち上がった。
「暗いのは怖いよ? だけど、僕と居れば一人ぼっちじゃないから!」
そこまで言ったところでダームは胸に手を当て、そのまま大きく息を吸い込んだ。
「だから、戻ってきて話そう! そうしたら、きっと寂しさは軽くなるから」
自らの考えを言い終わった時、ダームは背後に気配を感じる。しかし、何故か彼は振り向く事は出来ず、背後からは暗い声が聞こえてきた。
「無理だよ……だって、僕は昔の君だから」
それを聞いたダームと言えば、口元を微かに痙攣させる。しかし、思い当たる節が有ったのか、落ち着いた声で話し始めた。
「そっか。昔の僕は、夜が怖くて堪らなかった。一人で居るのは寂しかった」
ダームはゆっくりとした呼吸を繰り返し、大きく息を吸い込んだ。
「でも、今は違う。ザウバーもベネットさんも居る……だからこそ、僕は帰りたい!」
そう言い切った時、ダームの体は自由に動く様になった。しかし、彼が後方を振り返った時には誰の姿も無く、ダームは肩を落として溜め息を吐いた。
「落ち込んでいる場合じゃない。三日後には、マルンに戻るって約束したから」
自分へ言い聞かせるように言うと、ダームは服の下から短剣を取り出す。彼は、暗闇の中を一筋の光を頼りに進んでいき、そうしている内に夜は明けていった。
完全に夜が明けた時、ダームは森を抜け出すことが出来た。森を抜けた先は明るい砂浜で、さらさらとした白い砂は少年が歩く度に流動する。
砂浜に立つダームが遠くを見やると、そこもまた白い砂ばかりの地だった。この為、少年は目を瞑って深呼吸をし、何時まで続くとも分からない移動へ気合を入れる。
明るい場所では、短剣が発する光は捉え辛かった。しかし、足元から舞い上がる砂で光は散乱し、ぼんやりながらもそれが指す方向は確認できる。この為、ダームはそれを頼りに歩き続けようと決心した。
ダームが砂地を歩いていると、その足は段々と砂に埋まっていった。彼の足が埋まる程に使う体力は大きくなり、少年の息は荒くなっていく。
それでもダームは歩き続け、元居た場所へ戻ろうとした。しかし、歩き続けても戻れる様子は無く、彼は目を瞑って大きく息を吐き出した。
その瞬間、少年の足首は何かに掴まれ、彼は咄嗟に目を開いて足元を見下ろした。すると、その足首には白い手の形をしたものが纏わりついていた。
ダームは、足を上げてそれから逃れようと試みた。しかし、彼を掴むそれは力を緩めず、それどころか反対側の膝をも掴まれてしまう。
これにより、ダームは思うように身動きが取れなくなってしまった。この為、少年は何とかして白い手を外そうと自らの手をそれへ向けた。すると、白い手は素早くダームの手首を掴もうとし、少年は尻もちをついた。
すると、白い手はダームの肩を強く掴み、尻もちをついた衝撃で地面の砂は大きく舞った。宙を舞う砂は白い手の周りに集まっていき、それは最終的に人の形をなしていった。砂で出来た人形は少年へ顔を寄せ、嘆く様な声で言葉を発した。
「なんで僕ばっかり」
そう言うと、砂で出来た人形は悲しそうに目尻を下げる。
「みんな、家に帰ればパパやママが居るのに僕には居ない」
それを聞いたダームは辛そうな表情を浮かべ、白い手を振り払おうとした。しかし、少年の手は酷く震え、力を入れることすら叶わない。そうこうしている内にも白い人形は話を続け、ダームの表情は暗くなっていった。
「みんなが羨ましいよ……だって、一人じゃないんだから」
それを聞いたダームは地面に手をつき、目を伏せて唇を震わせる。
「ベネットさんにはアークさん達が居るし……ザウバーだって」
この時、少年は強く目を瞑り、唇を噛んだ。それは苦しみをどうにか耐えている様であり、悔しさを感じているようでもあった。
「なんで僕は一人なんだろう。なんでみんなには誰かが居るんだろう」
その言葉を聞いた途端、少年の体からは力が抜ける。そして、彼の体は砂に埋まり始め、白い人形は尚も言葉を続けていった。
「一緒に旅をしているけど、僕だけ話についていけない。年だって、二人と違う」
この時、砂は少年の太腿をも飲み込もうとしており、ダームはそれに抵抗をしようとはしなかった。そのせいか、白い砂は更に少年を覆っていき、淡々とした声は尚も続いた。
「戦う時だって、僕だけ足手まといだし……二人は、僕を必要となんてしてないんだ」
ダームは微かに眉間を痙攣させ、目尻から一筋の涙を流した。その瞬間、人形からではない声が少年へと届く。
ダームは空を見上げ、目を細めた。
(一人は寂しい……か)
ダームは背中を伸ばし、何度か肩を回す。そして、服の下から短剣を取り出すと、そこから伸びる光を追い掛け始めた。
そのうち、ダームは一人で歩く不安を紛らわせようとしてか、歌を口ずさみ始めた。とは言え、そうしたところで何も変わらず、彼は大きな溜め息を吐いて立ち止まる。
その後、ダームは両腕を開閉させながら深呼吸し、頬を叩いた。それから、少年は進むべき方へ顔を向け、しっかりとした足取りで進み続ける。
ダームが歩き続けているうちに辺りは暗くなり、彼は短剣を仕舞って休もうとした。だが、目を瞑った瞬間に声が聞こえ始め、少年は目を開いて声の主が誰かを確かめようとする。
すると、丈の短い服を着た少年の姿が在り、ダームを見下ろしていた。その少年は、口を開くと呟くように言葉を漏らす。
「暗いのは……怖いよ」
ダームの前に立つ少年は言い、それを聞いた者は悲しそうな表情を浮かべる。ダームは、少年を見上げたまま言葉を発することはなく、ただ少年の話を聞いていた。
「一人は嫌だ……寂しいよ」
少年がそう言った時、ダームの口は大きく動いた。しかし、またしても彼の喉から声は出ず、蒼い目の少年はダームの前から立ち去った。
すると、途端にダームの声は出る様になり、彼は力の限り声を張る。
「待って!」
そう叫ぶと自らの喉をさすり、ダームは跳ねるように立ち上がった。
「暗いのは怖いよ? だけど、僕と居れば一人ぼっちじゃないから!」
そこまで言ったところでダームは胸に手を当て、そのまま大きく息を吸い込んだ。
「だから、戻ってきて話そう! そうしたら、きっと寂しさは軽くなるから」
自らの考えを言い終わった時、ダームは背後に気配を感じる。しかし、何故か彼は振り向く事は出来ず、背後からは暗い声が聞こえてきた。
「無理だよ……だって、僕は昔の君だから」
それを聞いたダームと言えば、口元を微かに痙攣させる。しかし、思い当たる節が有ったのか、落ち着いた声で話し始めた。
「そっか。昔の僕は、夜が怖くて堪らなかった。一人で居るのは寂しかった」
ダームはゆっくりとした呼吸を繰り返し、大きく息を吸い込んだ。
「でも、今は違う。ザウバーもベネットさんも居る……だからこそ、僕は帰りたい!」
そう言い切った時、ダームの体は自由に動く様になった。しかし、彼が後方を振り返った時には誰の姿も無く、ダームは肩を落として溜め息を吐いた。
「落ち込んでいる場合じゃない。三日後には、マルンに戻るって約束したから」
自分へ言い聞かせるように言うと、ダームは服の下から短剣を取り出す。彼は、暗闇の中を一筋の光を頼りに進んでいき、そうしている内に夜は明けていった。
完全に夜が明けた時、ダームは森を抜け出すことが出来た。森を抜けた先は明るい砂浜で、さらさらとした白い砂は少年が歩く度に流動する。
砂浜に立つダームが遠くを見やると、そこもまた白い砂ばかりの地だった。この為、少年は目を瞑って深呼吸をし、何時まで続くとも分からない移動へ気合を入れる。
明るい場所では、短剣が発する光は捉え辛かった。しかし、足元から舞い上がる砂で光は散乱し、ぼんやりながらもそれが指す方向は確認できる。この為、ダームはそれを頼りに歩き続けようと決心した。
ダームが砂地を歩いていると、その足は段々と砂に埋まっていった。彼の足が埋まる程に使う体力は大きくなり、少年の息は荒くなっていく。
それでもダームは歩き続け、元居た場所へ戻ろうとした。しかし、歩き続けても戻れる様子は無く、彼は目を瞑って大きく息を吐き出した。
その瞬間、少年の足首は何かに掴まれ、彼は咄嗟に目を開いて足元を見下ろした。すると、その足首には白い手の形をしたものが纏わりついていた。
ダームは、足を上げてそれから逃れようと試みた。しかし、彼を掴むそれは力を緩めず、それどころか反対側の膝をも掴まれてしまう。
これにより、ダームは思うように身動きが取れなくなってしまった。この為、少年は何とかして白い手を外そうと自らの手をそれへ向けた。すると、白い手は素早くダームの手首を掴もうとし、少年は尻もちをついた。
すると、白い手はダームの肩を強く掴み、尻もちをついた衝撃で地面の砂は大きく舞った。宙を舞う砂は白い手の周りに集まっていき、それは最終的に人の形をなしていった。砂で出来た人形は少年へ顔を寄せ、嘆く様な声で言葉を発した。
「なんで僕ばっかり」
そう言うと、砂で出来た人形は悲しそうに目尻を下げる。
「みんな、家に帰ればパパやママが居るのに僕には居ない」
それを聞いたダームは辛そうな表情を浮かべ、白い手を振り払おうとした。しかし、少年の手は酷く震え、力を入れることすら叶わない。そうこうしている内にも白い人形は話を続け、ダームの表情は暗くなっていった。
「みんなが羨ましいよ……だって、一人じゃないんだから」
それを聞いたダームは地面に手をつき、目を伏せて唇を震わせる。
「ベネットさんにはアークさん達が居るし……ザウバーだって」
この時、少年は強く目を瞑り、唇を噛んだ。それは苦しみをどうにか耐えている様であり、悔しさを感じているようでもあった。
「なんで僕は一人なんだろう。なんでみんなには誰かが居るんだろう」
その言葉を聞いた途端、少年の体からは力が抜ける。そして、彼の体は砂に埋まり始め、白い人形は尚も言葉を続けていった。
「一緒に旅をしているけど、僕だけ話についていけない。年だって、二人と違う」
この時、砂は少年の太腿をも飲み込もうとしており、ダームはそれに抵抗をしようとはしなかった。そのせいか、白い砂は更に少年を覆っていき、淡々とした声は尚も続いた。
「戦う時だって、僕だけ足手まといだし……二人は、僕を必要となんてしてないんだ」
ダームは微かに眉間を痙攣させ、目尻から一筋の涙を流した。その瞬間、人形からではない声が少年へと届く。