病室ご飯タイム

文字数 1,924文字

 ルキアが病室を去った後、ダームは何かを伝えようと口を開いた。しかし、それが言葉となって発せられることは無く、病室は沈黙につつまれた。
 沈黙が続いた後、アークはベッドの上で体勢を直し、ベッドから背中を離す。

「情けないところを見せてしまいましたね。ダームには、見せたく無かった姿です」
 アークは自嘲気味に笑い、ダームは首を横に振った。

「情けなくなんてない! 誰だって、失敗する時はあるから、情けなくなんてないよ」
 ダームは椅子から腰を浮かせ、アークに顔を近付けた。一方、アークは僅かに目を細め、息を吐く。

「そう……ですね。ダームの言う通り、誰でも失敗する。ただ後悔だけしている方が、ずっと情けない」
 小さな声でアークは言い、再び病室は静寂に包まれた。それから暫くして、病院のスタッフが簡易テーブルを設置しに病室へやってくる。

 スタッフは、邪魔にならない位置にテーブルを置くと退室し、入れ替わる様にルキアが入室した。ルキアは、大きな籐籠と紙箱を抱えながら、病院に置かれたテーブルの位置を確認する。

 ルキアは、籐籠と紙箱をそれぞれテーブルの端に置き、ダームとベネットの顔を見る。そして、ルキアは紙箱からきつね色に焼かれた肉を取り出すと、上方に掲げてからテーブルに並べた。

 ルキアが何を買ってきたか見たダームは、直ぐにテーブルの方へと向かった。ダームは、料理を並べるのを手伝い、空になった紙箱を抱えた。

「ベッドサイドのテーブルに避けておいて。食事が終わったら、ちゃんと回収するから」
 ルキアの指示で、ダームは空の箱をベッドサイドに置かれたテーブルに置いた。そうこうしているうちに料理は持ち込まれたテーブルに並べられ、ベネットは椅子をテーブルの回りに移動させる。

「さて、私達は食事にしましょうか。アークは、病院が」
 タイミングを見計らったかの様に、アーク用の病院食が届けられた。病院食の量は少なめだったが、栄養を考えて作られた食事は豪華にも見える。

 ルキアは、アーク用の食事を眺めた後で、自らが買ってきたばかりの料理を見下ろした。それから、アークに一番近い椅子に腰を下ろすと、ダームやベネットに座るよう伝えた。

 この為、ダームとベネットはそれぞれ空いた椅子に座り、ルキアが空のコップを配置した。そして、ルキアは籐籠から飲み物の入った瓶を出して見せ、好きなだけ飲むように伝えた。

「では、アークの料理も届いたことだし、頂きましょう」
 ルキアは手を叩き合わせ、自らのコップにワインを注いだ。そして、何故かコップをアークに見せつけてから、ワインを飲み干す。

「遠慮しないで食べてね。むしろ、料理を冷やしてしまう方が嫌だから、遠慮無用!」
 それを聞いたダームは、食べやすい様に切られた肉を口に運んだ。そして、幸せそうに料理を噛み締めると、コップに橙色のジュースを注いだ。

「美味しい! 僕が作ったものとは大違いだ!」
 そう言うなり、ダームは新たな肉を口に運ぶ。ダームは、用意された料理を満遍なく腹に収め、時折ジュースを飲みながら食事を進めた。

 一方、大人達はそれぞれに食事を進め、ルキアはアークの様子を窺いながら食べていた。ルキアに見られる度にアークの動作はぎこちなくなり、怪我をしていることもあって何度か料理を零していた。

 それでも、アークは病院食を綺麗に食べ終え、それを見たルキアがワインを勧めた。しかし、アークはそれを直ぐには飲まず、苦笑いを浮かべる。

「大丈夫よ、アルコールの入っていないものを買ってきたから。ほら、匂いが違うでしょう?」
 アークは、コップを持ち上げて注がれた液体の匂いを嗅いだ。彼は、そうしてから恐る恐るワインを口にし、味を確かめてから嚥下する。

「アルコールは入っていないけど、ジュースって訳でもないのよねえ。つまり、ワインの体に良い成分を酔わずに摂取出来る! 酔いたい人には不要のものだけど、体に良くて美味しければ、充分よねえ?」
 味を確かめたアークは残りのワインを飲み干した。それを見たルキアは満足そうな笑みを浮かべ、コップを回収する。

「さて、料理は殆ど空になったし、飲み残したワインも消費出来た。やっぱり、若い子の食事は食べっぷりが良くて見ていて楽しいわ。だから、時々で良いから奢らせなさい。アークも、こんな状態じゃなきゃ一緒にテーブルを囲みましょう」
 ルキアは、空いた皿を紙箱に戻し、残った料理や飲み物だけをテーブルに残した。そして、軽く片目を瞑ると、ダームとベネットを見た。

「私は、お皿を返して来るわね。取り分け用の皿やコップは私物だから、回収は何時でも大丈夫だけど、お店のものはそうもいかないから」
 そう言うなり、ルキアは病室を去った。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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