遺跡の中

文字数 1,106文字

「とうとう、ここまで来ちまったな」
 呟く様にザウバーは話し始めた。

「思えば遠回りしちまったが……それも」
 そこまで話したところで青年は口を閉じた。この為、不思議な表情でダームが話し始める。

「どうしたのザウバー? 変なところで話すのを止めないでよ」
 それを聞いたザウバーは苦笑し、小さく息を吐いた。

「悪いな、この感情をどう言葉にしたいのか、自分でも分からねえ」
 青年は後頭部を掻き、眼前の遺跡を真っ直ぐに見る。

「ま、思いはどうあれ、やることは変わらねえ」
 ザウバーは、遺跡の入り口を指差した。その入り口は瓦礫で足下が不安定ではあるが、通れない程では無い。また、遺跡の中はほんのり明るく、辛うじて通路が分かる様になっていた。

「中に入るぞ!」
 その声を合図とするように、ダームが遺跡に足を踏み入れる。遺跡の床は、天井や壁が崩れたものが散らばっていた。しかし、それを少年は軽く飛び越えていく
 少年が遺跡を先に進むと、その内部がいきなり明るくなった。この為、ダームは驚いた表情で仲間の顔を見る。

「ここが創られた時の仕組みが残っていたんだろうな。組まれた魔術のランク次第で、長いこと使う人が居なくても、簡単な照明システムは残っていて……まあ不思議じゃねえ」
 ザウバーは、遺跡の壁を軽く見回した。すると、壁に埋め込まれた宝石が周囲を照らしていた。
 その宝石の周囲には、細かい文字の刻まれた金属があしらわれていた。ザウバーはその文字を読み取ろうとするが、余りにも小さい文字の為、彼が宝石に掛けられた術を知ることは出来なかった。

「これだけ、あちこちが朽ちている様な場所でも、遠い昔に誰かが暮らしていたってことだな。そうでなきゃ、わざわざ明かりを灯す仕組みを考える必要もねえ」
 その話に、少年は頷いた。

「なんだか、不思議だね。ここに来るまでかなり長旅だったし……ここがずっと放置されているのは、移動をしている間に嫌でも分かった」
 ダームはヒビの入った天井を見上げた。そこには、誰かが暮らしていた痕跡は見当たらない。

「だけど、誰かが造らなければこの建物も無いもんね」
 少年は細く息を吐き、慎重に通路らしき場所を歩む。

「どんな暮らしをしていたかは分からないけど……何かが起きて、人はここに住まなくなったんだよね」
 ダームは心苦しそうに言葉を漏らした。

「僕の育った場所だって……もし、ザウバーが来なかったら」
 小さな声でダームは言い、それを聞いたザウバーは少年の肩を軽く叩く。

「永遠に遺るものの方が少ねえよ。この場所で感傷に浸っている余裕はねえ。進むぞ」
 それを聞いたダームは、少しの間を置いてから頷いた。そして、彼らは遺跡を進み続けた。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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