不可解な魔物
文字数 2,507文字
デザトの街を出て暫くすると、その足元は乾ききった砂になった。その上、目印になりそうなものは少なく、さらさらとした砂は三人の体力を奪っていく。この為、少年の呼吸は次第に荒くなり、数時間歩いた所で大きく息を吐き出した。
「足元が砂だと、疲れない?」
「確かにな。足を踏み出す度に埋まってしまうから、歩くのに余計な力を使う」
ベネットは溜め息を吐き、話を聞いたザウバーは大きく頷く。
「しかも、変わり映えない風景だと、進んでいるかも分からねえ。一先ず、ここらで一休みするか」
青年の仲間は肯定の返事をし、三人は地面に座って休み始めた。彼らは、十分程そうした後で立ち上がり、砂の上を歩き続ける。暫くして、彼らは草花の茂る一帯を発見する。また、その一帯の中心には、小さな湖が在った。
少年は、草花を踏まぬ様に湖へ近付き、しゃがみ込んで水を飲む。ダームは、喉を鳴らして水を飲むと、満足そうに口を拭った。一方、それを見たザウバーは、訝し気な表情を浮かべる。
「ろくに確かめもせず、がぶがぶ飲みやがって。毒でも入っていたらどうすんだ」
「毒は無いと思うよ? だって、回りに生えている草が、活き活きしてるもの」
ダームは軽く周囲を見回した。彼の周囲には、色の濃い草や、明るい色の花が沢山生えている。ベネットは両手で水を掬って口に含み、その味を確かめてから飲み込んだ。
「苦かったり、酸味掛かっていたりはしないな」
ベネットは、そう言うと湖の水を口に含む。青年は頭を掻き、気まずそうに湖を見た。彼は、そうした後で湖岸に膝をつき、湖に手を浸してから水を掬った。ダームは、青年が水を口にした時を見計らって話し掛ける。
「美味しいでしょ?」
ザウバーは頷き、何度か水を掬った。彼は、充分な水を摂取した後で立ち上がり、街の在る方を振り返る。その方角には、砂地が続くばかりで、青年は大きく息を吐き出した。
「しっかし、あれだな。こういう場所が無けりゃ、行き倒れる奴が続出するな」
「うん。飲める水が有って、何か涼しい。それに、花が咲いていると、心が落ち着く」
そう言って、ダームは深呼吸を繰り返した。彼は、そうした後で目を瞑り、花の香りを胸一杯に吸い込んだ。
「確かにな。地図によれば、この様な場所が他にも有るらしい。無理をせず、一つ一つ回って行こう」
ダームは薄目を開けて頷き、ザウバーは目線を動かして周囲を見る。
「地図に無いオアシスも有るんだよな。デザトに住んでいる奴らしか知らないのが」
「デザトの方々にとっては、作物の取れる貴重で重要な場所だ。軽々と教える訳にはいかないだろう」
ベネットは空を見上げた。彼女の見上げた空に雲は少なく、綺麗な青が広がっている。
「ここいらに住む奴らにとっては、生命線みたいなもんだ」
そう言って、青年は背中を伸ばした。その後、三人は暗くなったところで睡眠をとる。夜が開けた時、三人は軽く食べて湖の水で顔を洗った。彼らは、そうした後で砂地に足を踏み入れ、僅かな目印を頼りに進んでいく。彼らが砂地を歩いていると、徐々に背後の空間が歪み始めた。それに気付いた青年は後方を確認し、慌てた様子で言い放つ。
「走れ!」
そう言って、ザウバーは仲間の背中を押した。すると、彼に促される形で、ダーム達は進む速度を上げる。暫く走った後、彼らの背後から砂埃が起こり、少年は走りながら後方を振り返った。
「何……あれ?」
ダームの目線の先に大きな魔物の腕が在り、その指先に鋭い爪が生えていた。しかし、腕以外に魔物の体は現れておらず、それが少年の恐怖を煽っている。また、黒い体毛は砂によって白くなり、砂粒は日の光を浴びて輝いていた。
「話は後だ。とにかく、やられないように気を付けろ!」
青年は魔物に向き直り、ダームは困惑しながらも剣を抜く。ベネットは無言のまま魔物の様子を窺い、警戒しながら左手を勢い良く振り下ろした。すると、身の丈程の十字架が現れ、ベネットはその先を魔物に向ける。
「私が術を使おう。ザウバーの魔力が尽きたら、いざという時に逃げられない」
ベネットの提案を聞いた青年は頷き、ダームは剣を構えたまま肯定の返事をなす。仲間の了承を得たベネットは、魔物を見据えたまま呼吸を整え、低い声で呪文を唱え始めた。この時、既に魔物は腕を上げ始め、ダームはベネットを守る様にその前へ移動する。
「ホーリークロス!」
ベネットが呪文を唱え終えると、魔物の腕は光の十字架によって貫かれる。すると、十字架の突き刺さった腕は消え、空間の歪みは小さくなっていった。ところが、代わりに彼女の背後の空間が歪み始め、そこから魔物の鼻先が現れる。魔物の鼻先からは湿った呼気が吹き出し、それに気付いたベネットは直ぐに後方を振り返る。この時、大きくなった歪みから魔物の口元が覗いており、三人は魔物から間合いを取る様に後退した。
ベネットは、そうした後で気持ちを落ち着け、先程唱えた呪文を呟いていく。ついに魔物の頭部が現れた時、ベネットは術を発動させた。すると、魔物の頭部は腕と同様に貫かれ、声を上げることなく消滅する。その後、空間の歪みは完全に消え、新しく生じることは無かった。それ故、ベネット達は武器を納め、疲れた様子で息を吐く。
「なんだったのあれ……気味が悪い」
ダームは、そう言うと仲間の顔を見る。
「魔物だろ。ちまちま出て来るところと言い、爪の感じと言い、俺がアークの指示で倒した奴と同種だろうな」
そう言うと、青年はベネットの顔を一瞥する。
「魔法によっちゃ魔物の体が残らねえから、確証はない。頭に術を掛けたから、生きてはいねえだろうけど」
彼の言葉を受けたベネットは、数秒の間を置いてから頷いた。彼女は、そうした後で今まで進んでいた方向に目線を送り、落ち着いた声色で言葉を返す。
「ヘイデルの時と違い、証拠は必要無い。場所が場所だ、少ない労力で倒す方が賢明ではないか? それと……出来れば、議論は水場についてからにしたい」
ベネットは、そう言うとダームやザウバーの目を見た。すると、彼らは肯定の返事をなし、三人はオアシスに向かって歩き始める。
「足元が砂だと、疲れない?」
「確かにな。足を踏み出す度に埋まってしまうから、歩くのに余計な力を使う」
ベネットは溜め息を吐き、話を聞いたザウバーは大きく頷く。
「しかも、変わり映えない風景だと、進んでいるかも分からねえ。一先ず、ここらで一休みするか」
青年の仲間は肯定の返事をし、三人は地面に座って休み始めた。彼らは、十分程そうした後で立ち上がり、砂の上を歩き続ける。暫くして、彼らは草花の茂る一帯を発見する。また、その一帯の中心には、小さな湖が在った。
少年は、草花を踏まぬ様に湖へ近付き、しゃがみ込んで水を飲む。ダームは、喉を鳴らして水を飲むと、満足そうに口を拭った。一方、それを見たザウバーは、訝し気な表情を浮かべる。
「ろくに確かめもせず、がぶがぶ飲みやがって。毒でも入っていたらどうすんだ」
「毒は無いと思うよ? だって、回りに生えている草が、活き活きしてるもの」
ダームは軽く周囲を見回した。彼の周囲には、色の濃い草や、明るい色の花が沢山生えている。ベネットは両手で水を掬って口に含み、その味を確かめてから飲み込んだ。
「苦かったり、酸味掛かっていたりはしないな」
ベネットは、そう言うと湖の水を口に含む。青年は頭を掻き、気まずそうに湖を見た。彼は、そうした後で湖岸に膝をつき、湖に手を浸してから水を掬った。ダームは、青年が水を口にした時を見計らって話し掛ける。
「美味しいでしょ?」
ザウバーは頷き、何度か水を掬った。彼は、充分な水を摂取した後で立ち上がり、街の在る方を振り返る。その方角には、砂地が続くばかりで、青年は大きく息を吐き出した。
「しっかし、あれだな。こういう場所が無けりゃ、行き倒れる奴が続出するな」
「うん。飲める水が有って、何か涼しい。それに、花が咲いていると、心が落ち着く」
そう言って、ダームは深呼吸を繰り返した。彼は、そうした後で目を瞑り、花の香りを胸一杯に吸い込んだ。
「確かにな。地図によれば、この様な場所が他にも有るらしい。無理をせず、一つ一つ回って行こう」
ダームは薄目を開けて頷き、ザウバーは目線を動かして周囲を見る。
「地図に無いオアシスも有るんだよな。デザトに住んでいる奴らしか知らないのが」
「デザトの方々にとっては、作物の取れる貴重で重要な場所だ。軽々と教える訳にはいかないだろう」
ベネットは空を見上げた。彼女の見上げた空に雲は少なく、綺麗な青が広がっている。
「ここいらに住む奴らにとっては、生命線みたいなもんだ」
そう言って、青年は背中を伸ばした。その後、三人は暗くなったところで睡眠をとる。夜が開けた時、三人は軽く食べて湖の水で顔を洗った。彼らは、そうした後で砂地に足を踏み入れ、僅かな目印を頼りに進んでいく。彼らが砂地を歩いていると、徐々に背後の空間が歪み始めた。それに気付いた青年は後方を確認し、慌てた様子で言い放つ。
「走れ!」
そう言って、ザウバーは仲間の背中を押した。すると、彼に促される形で、ダーム達は進む速度を上げる。暫く走った後、彼らの背後から砂埃が起こり、少年は走りながら後方を振り返った。
「何……あれ?」
ダームの目線の先に大きな魔物の腕が在り、その指先に鋭い爪が生えていた。しかし、腕以外に魔物の体は現れておらず、それが少年の恐怖を煽っている。また、黒い体毛は砂によって白くなり、砂粒は日の光を浴びて輝いていた。
「話は後だ。とにかく、やられないように気を付けろ!」
青年は魔物に向き直り、ダームは困惑しながらも剣を抜く。ベネットは無言のまま魔物の様子を窺い、警戒しながら左手を勢い良く振り下ろした。すると、身の丈程の十字架が現れ、ベネットはその先を魔物に向ける。
「私が術を使おう。ザウバーの魔力が尽きたら、いざという時に逃げられない」
ベネットの提案を聞いた青年は頷き、ダームは剣を構えたまま肯定の返事をなす。仲間の了承を得たベネットは、魔物を見据えたまま呼吸を整え、低い声で呪文を唱え始めた。この時、既に魔物は腕を上げ始め、ダームはベネットを守る様にその前へ移動する。
「ホーリークロス!」
ベネットが呪文を唱え終えると、魔物の腕は光の十字架によって貫かれる。すると、十字架の突き刺さった腕は消え、空間の歪みは小さくなっていった。ところが、代わりに彼女の背後の空間が歪み始め、そこから魔物の鼻先が現れる。魔物の鼻先からは湿った呼気が吹き出し、それに気付いたベネットは直ぐに後方を振り返る。この時、大きくなった歪みから魔物の口元が覗いており、三人は魔物から間合いを取る様に後退した。
ベネットは、そうした後で気持ちを落ち着け、先程唱えた呪文を呟いていく。ついに魔物の頭部が現れた時、ベネットは術を発動させた。すると、魔物の頭部は腕と同様に貫かれ、声を上げることなく消滅する。その後、空間の歪みは完全に消え、新しく生じることは無かった。それ故、ベネット達は武器を納め、疲れた様子で息を吐く。
「なんだったのあれ……気味が悪い」
ダームは、そう言うと仲間の顔を見る。
「魔物だろ。ちまちま出て来るところと言い、爪の感じと言い、俺がアークの指示で倒した奴と同種だろうな」
そう言うと、青年はベネットの顔を一瞥する。
「魔法によっちゃ魔物の体が残らねえから、確証はない。頭に術を掛けたから、生きてはいねえだろうけど」
彼の言葉を受けたベネットは、数秒の間を置いてから頷いた。彼女は、そうした後で今まで進んでいた方向に目線を送り、落ち着いた声色で言葉を返す。
「ヘイデルの時と違い、証拠は必要無い。場所が場所だ、少ない労力で倒す方が賢明ではないか? それと……出来れば、議論は水場についてからにしたい」
ベネットは、そう言うとダームやザウバーの目を見た。すると、彼らは肯定の返事をなし、三人はオアシスに向かって歩き始める。