不可解な書物
文字数 1,957文字
「準備は終わったし、そろそろ行くか」
そう言うなり呪文を唱え始め、ザウバー達は別の場所へ転移を終えた。彼らの移動先は薄暗い部屋の中で、沢山の書物や石版等が集められている。また、様々な場所に埃が積もっており、それを吸い込んでしまったダームは大きなくしゃみをした。ザウバーは部屋の空気を入れ換える為に窓を開け、ダームは窓から顔を出して大きな呼吸を繰り返した。
「始めに掃除した方が良いかも」
ダームは室内を振り返り、手近に有った本の埃を払った。一方、青年は他の窓を開けに向かっていた。
「んなことしてたら時間が掛かる。お前がやりたいなら止めねえが」
そう言ってから、ザウバーは少年から離れた位置に在る窓を開ける。すると、その窓から風が吹き込み、埃を巻き上げながらダームの方へ吹き抜けた。この為、少年は激しく咳き込み、涙目で仲間を見つめる。その後、ダームは目を瞑り、呆れと諦めが混じった声で言葉を紡いだ。
「僕が読めない本も有るだろうし、軽く掃除するよ」
ダームは荷物からタオルを取り出し、口元を覆う。そして、埃に埋もれていたはたきを摘まみ上げると、その汚れを窓の外に落とした。それを使って、ダームは棚や本に積もった埃を落としていく。一方、ザウバーは彼から離れた場所で本を手に取り、その表紙の埃を手で払う。青年は、そうした後で本の題名を確認し、時に熟読しながら情報を探していった。
ダームは掃除を続け、手が届かない場所以外の埃を落としきった。この為、少年は箒を握りしめ、床に溜まった埃を集め始める。埃を塵取りに集めてから野外へ捨て、ダームは掃除を終えた。ダームは手に付いた汚れを軽く払い、それから腕を天井に向けて大きく伸ばす。そして、彼は口を覆っていたものを外して荷物の上に置き、ザウバーを見た。
この時、ザウバーは調べ終えた本を周囲に高く積み上げており、ダームはゆっくり息を吐き出した。少年は、ザウバーが手を付けていない書物を捲り、その内容を確認しようとする。しかし、その書物は、ダームには読めない言語で書き綴られており、彼は溜め息混じりに本を閉じた。
その後も、ダームは本を開いては閉じるを繰り返し、表紙が堅木で作られた本を見つける。その本は、縁が銀で覆われ、表題はどこにも見当たらなかった。変わりに、円や直線が絡み合う魔法陣が描かれ、その中心に丸く削られたクリスタルが嵌められている。
少年は、導かれる様にクリスタルに手を触れた。すると、クリスタルから細く白い光が何本も生じ、それは湾曲しながらダームの体を包み込む。突然の出来事に、少年は声を上げようと口を開いた。しかし、彼が声を出そうと試みても叶わず、同室に居るザウバーですら気付かない。ダームは、何とかして青年に気付いて貰おうとするが、諦めて本を離そうとしたところで部屋から姿を消してしまった。
少年の支えが無くなった本は落下し、その音を聞いたザウバーは、音のした方へ顔を向ける。
「ダーム、丁寧に」
ザウバーは、そこまで言って言葉を切り、部屋の中を見回した。しかし、ダームの姿は無く、彼は慌てた様子で声を荒げる。
「ダーム! 聞こえるなら返事しろ。勝手に出歩いても、つまんねえぞ?」
その問いに応える者はなく、青年は音のした方へ歩いて行く。彼は、そこで床に落ちた本を発見し、膝を曲げて拾った。
「勝手に落ちたのか? それにしたって」
青年は、そう呟いたところで本の表紙を凝視する。すると、表紙に嵌められたクリスタルには、見慣れた少年の姿が映し出されていた。ザウバーは目を擦り、先程より顔を近付けて覗き込む。
「冗談じゃねえぞ」
そう言って、ザウバーはクリスタルを指先でなぞった。しかし、彼が触れてもダームの時の様な事は起こらず、代わりに表紙を縁取っていた銀が動き始めた。その銀は、表紙を這う様に動き、堅木の上で幾つもの文字を形作る。その文字は小指の爪程の大きさで、本を持つ者は銀色の文を読み始めた。
ザウバーが言った途端、表紙上の銀は新たな文を紡ぎ始める。
読み上げると、またしても表紙上の文字は変わり、青年は反射的に音読する。
青年は眉間に皺を寄せ、新たな文が紡がれるのを待った。しかし、一向に文字は変化せず、彼は持っていた本をテーブルに置く。青年が本を置いた後、表紙の文字は崩れ、銀が表紙の縁を覆っていった。それを見た者は苛立った様子でテーブルを叩き、その反動で本は揺れる。その後、ザウバーはその本が在ったであろう場所を見ていくが、そこにダームを呼び戻す手掛かりは無かった。この為、青年は自棄になった様子で頭を掻き、テーブルに置いた本を睨みつけた。
そう言うなり呪文を唱え始め、ザウバー達は別の場所へ転移を終えた。彼らの移動先は薄暗い部屋の中で、沢山の書物や石版等が集められている。また、様々な場所に埃が積もっており、それを吸い込んでしまったダームは大きなくしゃみをした。ザウバーは部屋の空気を入れ換える為に窓を開け、ダームは窓から顔を出して大きな呼吸を繰り返した。
「始めに掃除した方が良いかも」
ダームは室内を振り返り、手近に有った本の埃を払った。一方、青年は他の窓を開けに向かっていた。
「んなことしてたら時間が掛かる。お前がやりたいなら止めねえが」
そう言ってから、ザウバーは少年から離れた位置に在る窓を開ける。すると、その窓から風が吹き込み、埃を巻き上げながらダームの方へ吹き抜けた。この為、少年は激しく咳き込み、涙目で仲間を見つめる。その後、ダームは目を瞑り、呆れと諦めが混じった声で言葉を紡いだ。
「僕が読めない本も有るだろうし、軽く掃除するよ」
ダームは荷物からタオルを取り出し、口元を覆う。そして、埃に埋もれていたはたきを摘まみ上げると、その汚れを窓の外に落とした。それを使って、ダームは棚や本に積もった埃を落としていく。一方、ザウバーは彼から離れた場所で本を手に取り、その表紙の埃を手で払う。青年は、そうした後で本の題名を確認し、時に熟読しながら情報を探していった。
ダームは掃除を続け、手が届かない場所以外の埃を落としきった。この為、少年は箒を握りしめ、床に溜まった埃を集め始める。埃を塵取りに集めてから野外へ捨て、ダームは掃除を終えた。ダームは手に付いた汚れを軽く払い、それから腕を天井に向けて大きく伸ばす。そして、彼は口を覆っていたものを外して荷物の上に置き、ザウバーを見た。
この時、ザウバーは調べ終えた本を周囲に高く積み上げており、ダームはゆっくり息を吐き出した。少年は、ザウバーが手を付けていない書物を捲り、その内容を確認しようとする。しかし、その書物は、ダームには読めない言語で書き綴られており、彼は溜め息混じりに本を閉じた。
その後も、ダームは本を開いては閉じるを繰り返し、表紙が堅木で作られた本を見つける。その本は、縁が銀で覆われ、表題はどこにも見当たらなかった。変わりに、円や直線が絡み合う魔法陣が描かれ、その中心に丸く削られたクリスタルが嵌められている。
少年は、導かれる様にクリスタルに手を触れた。すると、クリスタルから細く白い光が何本も生じ、それは湾曲しながらダームの体を包み込む。突然の出来事に、少年は声を上げようと口を開いた。しかし、彼が声を出そうと試みても叶わず、同室に居るザウバーですら気付かない。ダームは、何とかして青年に気付いて貰おうとするが、諦めて本を離そうとしたところで部屋から姿を消してしまった。
少年の支えが無くなった本は落下し、その音を聞いたザウバーは、音のした方へ顔を向ける。
「ダーム、丁寧に」
ザウバーは、そこまで言って言葉を切り、部屋の中を見回した。しかし、ダームの姿は無く、彼は慌てた様子で声を荒げる。
「ダーム! 聞こえるなら返事しろ。勝手に出歩いても、つまんねえぞ?」
その問いに応える者はなく、青年は音のした方へ歩いて行く。彼は、そこで床に落ちた本を発見し、膝を曲げて拾った。
「勝手に落ちたのか? それにしたって」
青年は、そう呟いたところで本の表紙を凝視する。すると、表紙に嵌められたクリスタルには、見慣れた少年の姿が映し出されていた。ザウバーは目を擦り、先程より顔を近付けて覗き込む。
「冗談じゃねえぞ」
そう言って、ザウバーはクリスタルを指先でなぞった。しかし、彼が触れてもダームの時の様な事は起こらず、代わりに表紙を縁取っていた銀が動き始めた。その銀は、表紙を這う様に動き、堅木の上で幾つもの文字を形作る。その文字は小指の爪程の大きさで、本を持つ者は銀色の文を読み始めた。
「資格無き者は去れ」
ザウバーが言った途端、表紙上の銀は新たな文を紡ぎ始める。
「我は選ばれし者に試練を与える存在」
読み上げると、またしても表紙上の文字は変わり、青年は反射的に音読する。
「他者が関わることは許されぬ」
青年は眉間に皺を寄せ、新たな文が紡がれるのを待った。しかし、一向に文字は変化せず、彼は持っていた本をテーブルに置く。青年が本を置いた後、表紙の文字は崩れ、銀が表紙の縁を覆っていった。それを見た者は苛立った様子でテーブルを叩き、その反動で本は揺れる。その後、ザウバーはその本が在ったであろう場所を見ていくが、そこにダームを呼び戻す手掛かりは無かった。この為、青年は自棄になった様子で頭を掻き、テーブルに置いた本を睨みつけた。