力を得た反動と新しい力

文字数 1,593文字

「帰ってきたって考えて良いのかな?」
 そう問い掛けると、少年は空を見上げた。彼の見上げた空は青く、太陽はさんさんと輝いている。そのせいか気温は高く、暑さにやられたのか青年は膝をつく。
 
「ザウバー!」
 ダームは、そう叫ぶなり腰を折り、青年の顔を覗き込んだ。この時、ザウバーは額に脂汗を浮かべ、苦しそうに目を瞑っていた。
 
「大丈夫? 僕に出来ることがあったら」
 少年がそこまで言った時、ザウバーは目を開いた。しかし、彼は何か言うことすら出来ず、横向きに倒れてしまう。この為、ダームは直ぐにしゃがみ込み、青年の肩を強く揺らした。しかし、その刺激にザウバーは反応を示さず、ベネットは少年の手を掴んだ。
 
「あまり動かさない方が良いかも知れない。ここへ来る前に不調の様子はみられかったし、聖霊の力を得た反動ならば休んでいれば回復する筈だ」
 ベネットは、そこまで言ったところで膝をつき、ザウバーの額に手を触れた。その後、彼女は青年の首筋まで手を動かし、動脈の上で拍動を調べる。
 
「少し熱が高い様にも思えるが……それよりも、脈の速さが気になるな」
 ダームは首を傾げ、ベネットは言葉を加えた。

「激しい運動をしてもいないのに、心臓が跳ねる様に動いていたらおかしいだろう?」
 その解説を聞いたダームは無言で頷き、自らの考えを話し始める。
 
「確かに変かも。びっくりしてドキドキした時も、少し経ったら収まるし」
 言いながら、少年は自らの胸に手を当てた。そして、そのまま青年の姿を見下ろすと、心配そうに言葉を発する。

「大丈夫かな?」
 ダームは、そう言って周囲を見回す。
 
「確かに、このまま留まるのは賢くない」
 ベネットは溜め息を吐き、目を瞑った。

「倒れたのが私であれば、奴は迷うことなく転移魔法を使うのだろう」
 ダームは頷き、目を細めた。
 
「確かに、あの魔法は便利だよね。でも、あの魔法を使える人は少ないみたいだし、僕達にだって出来ることが有る筈」
 少年は、そう言って荷物を置き、何か役立つものはないかと探し始めた。しかし、彼の所持品は着替えや食料だけで、危機を打開出来そうな物は見つからなかった。
 
「一気に体力回復! みたいなアイテムがあれば良いのに」
 ベネットは、何か思い出した様子で目を開いた。そして、青年の顔を見下ろすと、彼の荷物の位置を確認した。

「そう言えば、以前その様な薬を作っていたな」
 そう言うと、ベネットは青年の荷物に手を伸ばした。しかし、彼女がそれに手を触れた時、その手首を誰かが掴む。
 
「勝手に人の荷物を開けんな。それに、あの時作ったのは飲み薬だ。意識が無い相手に使うなよ」
 青年は、そう言うと余裕の笑みを浮かべてみせた。しかし、彼は横たわったまま起き上がろうとせず、横臥姿勢のまま言葉を続ける。
 
「それとも何か? 口移しで飲ませてくれるのか?」
 ベネットは溜め息を吐き、立ち上がって首を振った。

「さあな。だが、気が付いたなら、その必要もあるまい」
 淡々と返すと、ベネットは青年の荷物を掴み、眼前に置く。
 
「貴様の言う通り、私は薬に詳しくない。だから、自分で選べ」
 ダームは驚いた様子でべネットの顔を見上げた。しかし、彼女の表情に悪意はなく、少年は小さく息を吐く。

「生憎、効きそうな薬はねえ」
 そう言って笑うと、青年はゆっくり起き上がった。そして、確かめる様に肩を回し、腰に手を当てる。その後、彼は上体を捻り、何度かそうした後で背中を反らせた。ダームは彼の動きを無言で見つめ、ザウバーは腰から手を離して開閉させる。
 
「とりあえず、おかしなところは無いみてえだ」
 青年は目を瞑り、大きく息を吸い込んだ。

「力を試してみねえとな」
 そう言うなり、ザウバーは呪文を唱え始めた。そして、その詠唱が終わった時、三人の体は褐色の光に包まれる。ダームは眩しそうに目を瞑り、その光が収まったところで目を開いた。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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