教え導く者
文字数 1,945文字
夕食を済ませたザウバーは、薬草の乾燥具合を確かめた。すると、細い草の幾らかは乾燥を終えており、ザウバーは薬草の下処理を始める。
ザウバーは、綺麗に洗って乾燥させた瓶を取り出し、そこへ刻んだ薬草を入れた。それから、外気に触れぬよう密閉し、薬草の使わなかった部分は机上に残された。
(これはこれで、食事に混ぜれば効能がある。ダームが居たらうるせえだろうが、だからこそ今の内に使うべきだな)
ザウバーは、使わなかった薬草の端を小さな食器に集め、ダイニングを去った。細かい作業を終えたザウバーは、体を温める為に入浴をする。この際、手首や足首にはめられた香草は外され、ザウバーは入浴の後で自室に香草を持ち帰った。
(さて、持ち帰った資料を眺めておくか)
ザウバーは、髪を乾かさない内に資料を読み始めた。そうして夜は更けていき、ザウバーはきりの良い所で床についた。
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「さて、そろそろ大物も狩ってみよう。大物は、毛皮や牙が高値で売れる。勿論、売る為には処理が必要だけど、お金を得るには必要なことだ。ちゃんと出来ないと駄目だよ?」
「うん」
「じゃあ、やってみようか。もう、動物の急所が何処に有るかは予想が付くだろう? 次に大物を見掛けたら狩ってみて。但し、小物と違って群れられたらこちらが危ない。攻撃魔法を使うのは、単体で居る時にだけだ」
「分かった!」
兄弟は獣道を進み、兄よりも大きな獣を見つけた。大きな獣には口元から除く程に大きな牙が生え、それを使って土を掘り返している。兄は、その獣を指差すと、直ぐに呪文を唱えた。すると、獣の首は大きく裂かれ、その切り口からは血が迸る。
攻撃を受けた獣は、攻撃者を探す様に回りを睨んだ。しかし、直ぐに脳まで血液が巡らなくなり、獣はフラつきながら地面に倒れた。
それを見た弟は、直ぐに獣に近付こうとした。しかし、兄は弟の服を掴み、弟の動きを制止する。
「駄目だよ? 手負いの獣は、残った力で何をするか分からない。じっと観察して、全く動かなくなるまで待つ。ザウバーは、まだ防御魔法を使えないから尚更だ」
注意を受けたザウバーは、兄の顔を見て肯いた。そうして、獣が一切の動きをしなくなるまで二人で待ち、それから兄が動き出す。
「さて、持ち帰って処理をしよう。ザウバーは後ろ脚を持って」
ザウバーはその指示に素直に従い、兄は獣の前脚と頭部を抱えた。その後、兄弟は木材を継ぎ合わせただけの小屋に移動した。彼等は、持ち帰った獣を小屋の床に置き、兄は弟にナイフを手渡す。
「毛皮の剥がし方は、小型の獣と大差ない。ただ、大きな獣程力が要るし、図体が大きな分、腕を体の深い部分まで差し込まないとならない。だからこそ、手間も掛かるしやりたがらない人が多い。それでいて、厚みと強度のある毛皮は需要が有るからね。綺麗に処理出来れば高く売れる。だから、先ずは慣れてご覧? 上手く行くまで何度でも付き合うから」
兄の話を聞いた弟は、渡されたナイフをしっかりと握り、魔法で切り裂かれた傷から皮を剥がし始めた。その手付きは辿々しく、うっかり傷つけた血管から獣の血が流れた。しかし、弟にそれを気にする余裕はなく、兄がそれを見咎めることも無かった。
命を奪われた獣の体が冷え切った頃、弟は毛皮の半分程を骨から剥がしていた。その出来は悪く、皮側に脂肪や肉が多く付着し、それは作業を進める程に酷くなった。
漸く毛皮の全てを取り去った時、弟の手は血に塗れ、獣の脂肪でベタついていた。兄は、一仕事終えた弟を労い、魔法を使って弟の手に付いた汚れを落とした。
「良くやったね、ザウバー。皮に色々残っているけど、皮を破いてしまうよりずっと良い。皮から取ろうと思えば肉や脂肪は刮げるけど、一度破いてしまった毛皮は価値が下がる。肉を小分けにするのはやっておくから、今は休んで」
弟は、兄の言う通りに小屋の隅で休み始めた。一方、兄は魔法を使って瞬時に肉を切り分け、その幾らかを焼くために小屋を出る。
暫くして、小屋の外からは弟を呼ぶ兄の声が響く。名を呼ばれた弟は兄の元へ向かい、差し出された肉を受け取った。
「大きな獣程、熟成した方が美味しいけど、慣れない作業でお腹が減ったでしょ?」
その問いに弟は肯き、兄は満足そうな笑みを浮かべる。
「じゃあ、ご飯にしよう。お腹を満たして休んだら、次は皮の処理を教えるからね。本当は、皮が柔らかなうちの処理が良いらしいけど、初回だしね」
そう言うなり、兄は自分用に焼いた肉を食べ始めた。すると、弟も焼きたての肉に齧り付き、兄弟は狩ったばかりの獣肉で腹を満たした。
腹を満たした後、兄は小屋の汚れをも魔法で落とした。弟は、その様子を無言で見守り、それから尊敬の眼差しを兄へ向ける。
ザウバーは、綺麗に洗って乾燥させた瓶を取り出し、そこへ刻んだ薬草を入れた。それから、外気に触れぬよう密閉し、薬草の使わなかった部分は机上に残された。
(これはこれで、食事に混ぜれば効能がある。ダームが居たらうるせえだろうが、だからこそ今の内に使うべきだな)
ザウバーは、使わなかった薬草の端を小さな食器に集め、ダイニングを去った。細かい作業を終えたザウバーは、体を温める為に入浴をする。この際、手首や足首にはめられた香草は外され、ザウバーは入浴の後で自室に香草を持ち帰った。
(さて、持ち帰った資料を眺めておくか)
ザウバーは、髪を乾かさない内に資料を読み始めた。そうして夜は更けていき、ザウバーはきりの良い所で床についた。
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「さて、そろそろ大物も狩ってみよう。大物は、毛皮や牙が高値で売れる。勿論、売る為には処理が必要だけど、お金を得るには必要なことだ。ちゃんと出来ないと駄目だよ?」
「うん」
「じゃあ、やってみようか。もう、動物の急所が何処に有るかは予想が付くだろう? 次に大物を見掛けたら狩ってみて。但し、小物と違って群れられたらこちらが危ない。攻撃魔法を使うのは、単体で居る時にだけだ」
「分かった!」
兄弟は獣道を進み、兄よりも大きな獣を見つけた。大きな獣には口元から除く程に大きな牙が生え、それを使って土を掘り返している。兄は、その獣を指差すと、直ぐに呪文を唱えた。すると、獣の首は大きく裂かれ、その切り口からは血が迸る。
攻撃を受けた獣は、攻撃者を探す様に回りを睨んだ。しかし、直ぐに脳まで血液が巡らなくなり、獣はフラつきながら地面に倒れた。
それを見た弟は、直ぐに獣に近付こうとした。しかし、兄は弟の服を掴み、弟の動きを制止する。
「駄目だよ? 手負いの獣は、残った力で何をするか分からない。じっと観察して、全く動かなくなるまで待つ。ザウバーは、まだ防御魔法を使えないから尚更だ」
注意を受けたザウバーは、兄の顔を見て肯いた。そうして、獣が一切の動きをしなくなるまで二人で待ち、それから兄が動き出す。
「さて、持ち帰って処理をしよう。ザウバーは後ろ脚を持って」
ザウバーはその指示に素直に従い、兄は獣の前脚と頭部を抱えた。その後、兄弟は木材を継ぎ合わせただけの小屋に移動した。彼等は、持ち帰った獣を小屋の床に置き、兄は弟にナイフを手渡す。
「毛皮の剥がし方は、小型の獣と大差ない。ただ、大きな獣程力が要るし、図体が大きな分、腕を体の深い部分まで差し込まないとならない。だからこそ、手間も掛かるしやりたがらない人が多い。それでいて、厚みと強度のある毛皮は需要が有るからね。綺麗に処理出来れば高く売れる。だから、先ずは慣れてご覧? 上手く行くまで何度でも付き合うから」
兄の話を聞いた弟は、渡されたナイフをしっかりと握り、魔法で切り裂かれた傷から皮を剥がし始めた。その手付きは辿々しく、うっかり傷つけた血管から獣の血が流れた。しかし、弟にそれを気にする余裕はなく、兄がそれを見咎めることも無かった。
命を奪われた獣の体が冷え切った頃、弟は毛皮の半分程を骨から剥がしていた。その出来は悪く、皮側に脂肪や肉が多く付着し、それは作業を進める程に酷くなった。
漸く毛皮の全てを取り去った時、弟の手は血に塗れ、獣の脂肪でベタついていた。兄は、一仕事終えた弟を労い、魔法を使って弟の手に付いた汚れを落とした。
「良くやったね、ザウバー。皮に色々残っているけど、皮を破いてしまうよりずっと良い。皮から取ろうと思えば肉や脂肪は刮げるけど、一度破いてしまった毛皮は価値が下がる。肉を小分けにするのはやっておくから、今は休んで」
弟は、兄の言う通りに小屋の隅で休み始めた。一方、兄は魔法を使って瞬時に肉を切り分け、その幾らかを焼くために小屋を出る。
暫くして、小屋の外からは弟を呼ぶ兄の声が響く。名を呼ばれた弟は兄の元へ向かい、差し出された肉を受け取った。
「大きな獣程、熟成した方が美味しいけど、慣れない作業でお腹が減ったでしょ?」
その問いに弟は肯き、兄は満足そうな笑みを浮かべる。
「じゃあ、ご飯にしよう。お腹を満たして休んだら、次は皮の処理を教えるからね。本当は、皮が柔らかなうちの処理が良いらしいけど、初回だしね」
そう言うなり、兄は自分用に焼いた肉を食べ始めた。すると、弟も焼きたての肉に齧り付き、兄弟は狩ったばかりの獣肉で腹を満たした。
腹を満たした後、兄は小屋の汚れをも魔法で落とした。弟は、その様子を無言で見守り、それから尊敬の眼差しを兄へ向ける。