決戦の前に
文字数 1,826文字
ヘイデルに転移した後、三人はアークの居場所を探した。アークは、三人の訪問に驚いた様子を見せるが、ただならぬ雰囲気の彼らを見て事情を察した。
その後、アークは部下に仕事の指示を出し、自室に三人を案内する。それから、三人をソファに座らせて人数分の紅茶を用意した。
「事情を話せば長くなるが、アークの伝手で闇属性の魔法耐性を付与する装備は手に入るか?」
その問に、アークは考え込む様子を見せた。彼は、暫く考えた後で絞り出す様に話し始める。
「伝手が無いことは無いですが、ご希望に添える程の物が用意出来るとは思えませんね。直ぐに手に入る様なものは、効果も薄いですから」
アークの話を聞いたザウバーは、やや体を前に傾けた。
「俺の魔法を完成に封じるモンは作れたのにか?」
ザウバーの方へ顔を向け、アークは苦笑する。
「それは、貴方の魔力の波長が分かっていたからに他なりません。あれは、他の人に付けたところで大した効果は有りませんよ」
アークは、どこか呆れた様子で首を振った。一方、ザウバーは人差し指を立ててアークに向ける。
「だが、あの短時間でそれを作ったアークなら、俺と良く似た波長を持つ誰かの魔力なら、何とか出来るんじゃねえの?」
アークは目を丸くし、話の続きを待った。この後、ザウバーは自らの兄が魔王の力を喰らったこと。また、それが可能な程に闇属性の魔力を保持し、使いこなしていることを話した。
「まさか、貴方の兄がそんなことをしていたとは……簡単には信じられませんね」
アークは深い溜め息を吐き、横目でダームとベネットを見る。
「僕も、信じたくはないよ。だけど、向かった遺跡でザウバーに良く似た人に出会って……そこからの記憶は曖昧だけど、ザウバーが嘘を吐いているとも思えない」
少年は、ゆっくりながらも自らの意見を話した。この為、アークは苦しそうに息を吐く。
「ダームがそう感じたなら、やはりザウバーの縁者なのでしょうね。ですが、そうなると戦闘になった時に躊躇いが出ませんか、ザウバー?」
アークの問に、ザウバーはゆっくりと首を横に振った。
「元々、死んでいると思っていた相手だ。何より、俺の力ではアレは倒せねえ。魔王の力を喰らった以上、ダームの持つ剣でしかアレには攻撃すら出来ねえ」
ザウバーは深い溜め息を吐き、横目で仲間を見た。
「それに、ベネットに不死の呪いを解いて貰わなきゃ、幾ら攻撃をしたところで無意味だ。俺が感じているのは、躊躇いより無力感だ。戦闘になった時に俺が出来ることは、アレからの攻撃から二人を守ること。いざという時に撤退を選べること位だ」
その話にダームは心配そうな表情を浮かべた。その後、部屋は重い空気の中、沈黙が続いた。
長い沈黙の後、ダームは意を決した様子で口を開いた。
「僕は、もしアークさんの協力が無くたって戦う。上手く説明は出来ないけど、そうでなきゃ、今までの旅の意味も無くなる気がするから」
それを聞いたアークは、細く息を吐いた。
「ダームに、そう言われてしまっては、私も最善を尽くすしかありませんね。その方が、リスクを減らせるのですから」
その後、アークは材料が有るかを確認し、数日間は待たせてしまうことを三人に告げた。この為、三人はそれぞれに準備を進めていく。
そうして、アークは人数分の装備を作り上げ、ダーム達に手渡した。それから、アークは三人の無事を祈り、自らの仕事場へ向かった。
ダーム達は、アークから受け取った装備を身に付け、顔を合わせた。ザウバーは、仲間に心の準備が済んだかを聞き、肯定の返事を得た後で転移魔法を使う。
ザウバーの魔法によって、三人は人気のない遺跡の前に転移した。その遺跡の周辺には相変わらず生き物の気配はなく、物音もしなかった。
ダーム達は、直ぐに遺跡に入ることはしなかった。代わりに、ザウバーは遺跡を見つめて悲しそうな表情を浮かべる。
「どうせ、忘れられた場所だ」
そう呟くと、ザウバーは遺跡の入り口に向けて掌を向けた。彼はそうしてから目を瞑り、静かに呼吸を整えた。
「地の聖霊よ、愚かなる我に破壊の力を貸したまえ」
落ち着いた声でザウバーが言った時、遺跡は地面に吸い込まれる様に降下した。遺跡は、その屋根までもが地面の下に埋まり、乾いた地面が代わりに現れる。
遺跡の在った場所は、その存在を知るものでさえ今や分からない程に風景と一体化していた。しかし、そこから漂う負の気配は、薄まりはしても消えはしなかった。
その後、アークは部下に仕事の指示を出し、自室に三人を案内する。それから、三人をソファに座らせて人数分の紅茶を用意した。
「事情を話せば長くなるが、アークの伝手で闇属性の魔法耐性を付与する装備は手に入るか?」
その問に、アークは考え込む様子を見せた。彼は、暫く考えた後で絞り出す様に話し始める。
「伝手が無いことは無いですが、ご希望に添える程の物が用意出来るとは思えませんね。直ぐに手に入る様なものは、効果も薄いですから」
アークの話を聞いたザウバーは、やや体を前に傾けた。
「俺の魔法を完成に封じるモンは作れたのにか?」
ザウバーの方へ顔を向け、アークは苦笑する。
「それは、貴方の魔力の波長が分かっていたからに他なりません。あれは、他の人に付けたところで大した効果は有りませんよ」
アークは、どこか呆れた様子で首を振った。一方、ザウバーは人差し指を立ててアークに向ける。
「だが、あの短時間でそれを作ったアークなら、俺と良く似た波長を持つ誰かの魔力なら、何とか出来るんじゃねえの?」
アークは目を丸くし、話の続きを待った。この後、ザウバーは自らの兄が魔王の力を喰らったこと。また、それが可能な程に闇属性の魔力を保持し、使いこなしていることを話した。
「まさか、貴方の兄がそんなことをしていたとは……簡単には信じられませんね」
アークは深い溜め息を吐き、横目でダームとベネットを見る。
「僕も、信じたくはないよ。だけど、向かった遺跡でザウバーに良く似た人に出会って……そこからの記憶は曖昧だけど、ザウバーが嘘を吐いているとも思えない」
少年は、ゆっくりながらも自らの意見を話した。この為、アークは苦しそうに息を吐く。
「ダームがそう感じたなら、やはりザウバーの縁者なのでしょうね。ですが、そうなると戦闘になった時に躊躇いが出ませんか、ザウバー?」
アークの問に、ザウバーはゆっくりと首を横に振った。
「元々、死んでいると思っていた相手だ。何より、俺の力ではアレは倒せねえ。魔王の力を喰らった以上、ダームの持つ剣でしかアレには攻撃すら出来ねえ」
ザウバーは深い溜め息を吐き、横目で仲間を見た。
「それに、ベネットに不死の呪いを解いて貰わなきゃ、幾ら攻撃をしたところで無意味だ。俺が感じているのは、躊躇いより無力感だ。戦闘になった時に俺が出来ることは、アレからの攻撃から二人を守ること。いざという時に撤退を選べること位だ」
その話にダームは心配そうな表情を浮かべた。その後、部屋は重い空気の中、沈黙が続いた。
長い沈黙の後、ダームは意を決した様子で口を開いた。
「僕は、もしアークさんの協力が無くたって戦う。上手く説明は出来ないけど、そうでなきゃ、今までの旅の意味も無くなる気がするから」
それを聞いたアークは、細く息を吐いた。
「ダームに、そう言われてしまっては、私も最善を尽くすしかありませんね。その方が、リスクを減らせるのですから」
その後、アークは材料が有るかを確認し、数日間は待たせてしまうことを三人に告げた。この為、三人はそれぞれに準備を進めていく。
そうして、アークは人数分の装備を作り上げ、ダーム達に手渡した。それから、アークは三人の無事を祈り、自らの仕事場へ向かった。
ダーム達は、アークから受け取った装備を身に付け、顔を合わせた。ザウバーは、仲間に心の準備が済んだかを聞き、肯定の返事を得た後で転移魔法を使う。
ザウバーの魔法によって、三人は人気のない遺跡の前に転移した。その遺跡の周辺には相変わらず生き物の気配はなく、物音もしなかった。
ダーム達は、直ぐに遺跡に入ることはしなかった。代わりに、ザウバーは遺跡を見つめて悲しそうな表情を浮かべる。
「どうせ、忘れられた場所だ」
そう呟くと、ザウバーは遺跡の入り口に向けて掌を向けた。彼はそうしてから目を瞑り、静かに呼吸を整えた。
「地の聖霊よ、愚かなる我に破壊の力を貸したまえ」
落ち着いた声でザウバーが言った時、遺跡は地面に吸い込まれる様に降下した。遺跡は、その屋根までもが地面の下に埋まり、乾いた地面が代わりに現れる。
遺跡の在った場所は、その存在を知るものでさえ今や分からない程に風景と一体化していた。しかし、そこから漂う負の気配は、薄まりはしても消えはしなかった。