本棚ごと持ち帰るにも魔法は便利

文字数 1,600文字

 仲間の居ない家で目を覚ましたザウバーは、気怠そうに欠伸をする。彼は、着替えすらせぬままダイニングへ向かい、湯を沸かし始めた。

 そうしてから、ザウバーは朝食の準備を始め、眠そうな表情で食事を始めた。食後、ザウバーは濃いめに淹れた紅茶で喉を潤し、使い終わった食器を洗い始める。

(調べていない資料はどれ位有ったっけな。関係無さそうな資料を戻したら、一切調べていない本棚毎持ち帰るのもありか?)
 ザウバーは、食器を洗いながら難しい表情を浮かべ、洗い終えたところで外に出た。彼は、聖霊の力を使って香草を生やすと、それを収穫して屋内に戻った。

 そうしてから、ザウバーは香草を丁寧に編み込み手首や足首にはめた。また、それ以外にも香草を編んで、彼が使っている部屋に持ち帰る。

(一先ず、戻すべき資料は本棚に戻して……後のことは、それから考えるか)
 ザウバーは転移魔法を使い、読み終えた資料毎兄の書斎に移動する。彼は、転移した後直ぐに持ち出していた資料を元の場所へ戻した。

 この際、前回と同様に編み込んだ香草は枯れて朽ち、その幾らかが床に落ちた。しかし、それは本を本来の場所へ戻すまでのことで、一仕事終えたザウバーは額の汗を拭いながら本棚から離れた。

(先ずは、散らかった草を外に出して)
 ザウバーは部屋の窓を開け、風を起こす魔法を使って床のゴミを外に出した。彼は、そうしてから部屋を眺め、枯れてしまった香草の上から、予め編み込んでおいた香草を巻く。

(ダームが居た時に調べた本棚は、取り出した本の埃まで綺麗になっているから分かる。持ち帰って調べた本も、出来るだけ綺麗にしてから箱に詰めておいた。つまり、埃が本に積もっている箇所がまだ調べていない)
 ザウバーは、調べ終えていない本棚の前に立ち、その棚の中心辺りから何冊かの本を抜き取った。ザウバーは、抜き取った本を抱え、本の厚みの分開いたスペースから本棚の奥を覗く。

(あの本棚と違って、何の紋様もない)
 ザウバーは、抜き取った本を本棚に戻すと、他の場所の本も抜き取って本棚の奥を観察した。彼が見る限り、その本棚は木で作られた簡素なもので、目立った模様や文字は書かれていなかった。

 この為、ザウバーは本棚に抜き取った本を戻し、手首にはめた香草を見た。彼が新しくはめた香草に変化は無く、爽やかな香りを周囲に放っている。

(呪いの類は、この本棚には無いみてえだ。もし、持ち帰って何かが起きたとしても……本棚毎の方が纏めて直ぐに戻せる)
 ザウバーは小さく笑い、転移魔法を使う為の呪文を唱えた。その後、彼は眼前に在った本棚と共に転移を終え、マルンにある小屋に帰還した。

 ザウバーは、手首にはめた香草を見、枯れてしまった方のそれを外した。彼は外した香草を室内のテーブルに置き、はめたままの香草を観察する。

(特に変化は無し……か。試しに、棚の一つ分を出してもみるか)
 ザウバーは、持ち帰った本棚の一番上の棚から本を取り出してはテーブルに乗せた。一段分全ての本を取り出してから、ザウバーは装備したままの香草を見る。

(この本棚には術の類は掛かってないみてえだな。尤も、本を取り出しただけて何かが起きるなら、ダームにも不調が起きていたかも知れねえが)
 ザウバーは、本棚の空いた段を魔法を使って綺麗にし、それから取り出した本を調べ始めた。彼は、一段目の本を調べ終えた後で二段目の本を全て取り出し、その段も綺麗にしてから本を読み始めた。

 二段目を調べ終えた頃、ザウバーはダイニングに向かい昼食を摂った。その昼食はささやかなものだったが、ザウバーは休憩も兼ねてゆっくりと食事を摂った。

(集中するには静かな方が有難いが、そろそろヘイデルで何が起きたか不安になるな)
 ザウバーは、薬草を使った茶を甘くしてから飲み干し、温かな息を吐いた。そうして、十分な休憩をとった後、彼は持ち帰った資料の調査を再開する。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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