書類による処理も管理職の仕事でした

文字数 2,597文字

 ダームらが朝食をとっていた時、家のドアを叩く音がした。その音を聞いたベネットは玄関に向かい、解錠をしてドアを開く。すると、ヘイデル警備兵の姿が在った。
 
「朝早くから、失礼いたします! シタルカー総司令からの書状を届けに参りました、ニック・ホーストンと申します」
 訪問者は頭を下げ、ベネットへ手紙を渡した。一方、ベネットはそれを受け取ると封筒に書かれた名を確認し、小さく息を吸い込んだ。
 
「御苦労様。確かに受け取ったと伝えてくれ」
 ニックははっきりとした声で返事をなし、再び深々と頭を下げた。彼は、そうした後で立ち去り、ベネットはニックを見送った後でドアを閉める。ベネットが仲間の居る部屋へ戻ると、彼女を待つダームの姿が在った。彼はベネットの姿を見るなり立ち上がり、その手に持つ封筒に目線を落とす。この際、ダームの仕草に気付いたベネットは微笑し、封筒を持ち上げて話し始めた。
 
「アークから書状だそうだ。大方、あの魔物についてだろう」
 ベネットは椅子に座り、少年も席に着く。ベネットは封筒から便箋を取り出し、そこに書かれた文を読み始めた。彼女は、十分程掛けてそれを読むと、内容を纏めて話し始める。
 
「討伐及び報告、大変助かりました。魔物の遺体はヘイデルで回収し、調査中です。マルンへの報告はこちらで行いますのでご安心下さい……だそうだ」
 ベネットは、読み終わった手紙をザウバーに手渡す。青年はそれを受け取って読み始め、読み終えたところでベネットへ返した。すると、ダームは手紙に向かって手を伸ばし、それに気付いたベネットは少年へ便箋を渡す。
 
「難しい」
 ダームは、そう言いながらも読み続け、読み終えたところで大きく息を吐き出した。そして、手紙をベネットに返すと、テーブルに置かれていた牛乳を一気に飲み干す。

「堅い文で書かれているからな。読み慣れていない者には、難しく思えるのも無理は無い」
 ベネットは便箋を畳んで封筒に戻した。彼女はその封筒を机上に置き、仲間の顔を交互に見る。
 
「なんにせよ、この辺りで為すべき事は終えた。旅支度をして、新たな聖霊を探しに行こう」
 彼女の話を聞いた二人は頷き、食事後には準備を始める。彼らは、準備を終えたところで話し合い始め、風聖霊が居るだろう場所へ向かうと決めた。また、始めに向かう町までの距離から明朝に出立することを決め、彼らは早めに休んで長旅に備える。
 
 ダーム達は、日が開けた頃に家を出、新たな町へ向かっていく。その道中、彼らは何体かの魔物に出会うが、怪我を負うことなく撃退していった。また、日暮れ前には町に到着し、三人は宿泊出来る場所を探し始める。

 三人の居る町は大きく無く、数階建ての宿が二つ在るのみだった。この為、彼らは宿泊費の安い方で手続きをし、移動の疲れを取ることに決める。彼らは夕食を終えたところで話し合い始め、これからも町や村を経由しながら聖霊の噂のある場所へ向かうと決めた。

 その後、ダーム達は二十日以上も歩き続け、噂の場所へ最も近い村に到着する。彼らの到着した村は小さく、宿泊出来る施設は一つも無かった。また、食料を売る店も少なく、少年は肩を落として溜め息を吐く。
 
「目的地が近いし、準備が出来るところがあれば良いのに」
 そう言うと、ダームは疲れた様子でしゃがみ込んだ。

「少しはやる気出せ。第一、お前は何を準備したいんだよ」
「食べ物とか。あと、ゆっくり休んで、不測の事態に備えてみたり?」
「なんで最後が疑問系なんだよ。ま、食い物が集まらないのは痛いな」
 ザウバーは、そう言うなり村を見回す。すると、彼の周囲には数件の民家しか無く、青年は残念そうに息を吐き出した。
 
「最悪、前の町に戻ることになるだろう。空腹の状態では、魔物と戦わなければならない時に不利になる」
 ベネットは、そう言うと食料の入った袋を見下ろした。その袋には、数日分の食料が入っている。
 
「まあな。だが、魔法を使えば直ぐに戻れる。ここで買えなかったら、俺が揃えてくるよ」
 青年は、そう返すと笑みを浮かべた。彼の話を聞いた二人は頷き、今居る村の店を回った。すると、幸いにも充分な食料が有り、三人はそれを買い揃えていった。そして、大木の下で睡眠をとると、聖霊の噂がある場所へ向かい始める。
 
 彼らは小道を進んでいたが、道は村から離れたところで無くなってしまう。それでも、三人は立ち止まることなく進み続け、暗くなったところで野宿をする。彼らは、夜が明けたところで移動を再開し、昼頃に大きな岩がそびえる場所に到着する。その岩の大きさは頂上が見えない程で、幅も相当なものだった。また、周囲の空気は乾燥しており、ダームは口元を押さえて咳をする。
 
「ここが本当にそうなのかな。強い風が吹いている様には思えないけど」
 少年は岩を見上げ、残念そうに溜め息を吐く。一方、彼の仲間は顔を見合わせ、ザウバーは左右に目線を送ってから話し始めた。
 
「一先ず、一回りしてみようぜ? 今までだって、簡単には行かなかった」
 そう提案すると、ザウバーは少年の肩を軽く叩く。彼は、そうした後で目線を右に動かすと、大きな岩に沿って歩き始めようとする。
 
「待て。目印となるものを覚えておくか、作っておかないと、迷う羽目になりかねん」
 そう呼び止めると、ベネットは青年の肩を軽く掴んだ。一方、ザウバーは不思議そうに声の主を見つめ、首を傾げた。

「帰る時はどうにでもなんだろ。道が分からなくなったら魔法を使えば良い」
「それだけでは無い。どこから調べ始めたか分からねば、一周したかどうか分からないだろう」
 ベネットの言葉を聞いたダームは頷き、ザウバーは少し考えてから肯定の返事をした。そして、少年は靴底を使って地面に円を描き、仲間の顔を交互に見る。この際、ベネットは少年の目を見つめ返し、優しい声で話し始めた。
 
「それも良いが、雨が降った場合に流されてしまう」
 ダームは低い声を漏らし、暫く考えた後で剣を抜く。

「じゃあ、これはどう?」
 そう言って、少年は岩に右向きの矢印を刻んだ。ダームは、そうした後で剣を納め、自慢気な笑みを浮かべてみせる。
 
「そうだな。これなら分かり易いし、消えにくいだろう」
 ベネットは、そう言うと微笑し、少年は矢印の向く方向へ歩き始めた。ザウバーやベネットは少年の後を追い、三人は岩に沿って進み始める。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

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