帰るまでが魔族討伐です
文字数 2,299文字
「大丈夫か、ダーム?」
心配されたダームと言えば、微笑みながら口を開いた。
「何処にも怪我はしていないよ。ただ、魔族と戦って……何とか倒せたけど、やっぱり簡単じゃなかった。だから、あれからずっと体は震えているし、脚がガクガクし過ぎて」
ダームは、自らの脚を見下ろした。それは服の上からでも分かる程に震えており、それは少年の緊張を現している様でもあった。
「だけど、暫く休めば落ちつくから」
ダームは、戦闘に使った剣を仕舞い、大きく息を吐く。そして、震える左手で右の手首を掴んだ。
「では、その間に洞窟の中も浄化しておこう」
ベネットはアークから渡された小瓶を取り出し、その中身を飲み干した。そうしてから、彼女は洞窟の方へ両掌を向ける。
「光聖霊の加護を受けし者によりて命ずる。洞窟内の悪しきもの全てを浄化せよ」
ダームは、地面に腰を下ろしたままベネットの行動を眺めていた。しかし、洞窟入り口は塞がれている為、その中の変化までは確認出来ない。
「これで、中に魔物が居たとしても浄化出来はしたが」
「新たに出現した分が、どうなるかまでは謎だな」
ザウバーは腰に手を当て、気怠そうに息を吐いた。それから、青年は周囲を見回し、ダームを見下ろす。
「特に追撃も無さそうだ。気配まで消せる魔族が隠れていたら厄介だが……まあ、目的の魔族は倒せただろうしな」
この時、ダームは座ったまま周囲を見回した。すると、少年は近くに宝石のあしらわれた指輪を発見する。
その指輪は、少年がはめるには大きく、宝石は闇を溶かし込んだ様な色をしていた。ダームは、その指輪を良く見ようと顔を近付けるが、それをザウバーが制止する。
「待て。ここはあまり人の来ない場所だ。誰の持ち物か分からない物は迂闊に触るな」
それを聞いたダームは目線を上げ、ザウバーの顔を見上げた。
「確かに、此処まで来る人はそんなに居ないだろうけど、ヘイデルから調査に来た人の……あれ? 確かアークさんの話では、行方不明の人も居るって」
少年の話でザウバーは目を丸くし、転移魔法の呪文を唱え始めた。ザウバーが転移魔法を発動させると、彼らはアークの待つ場所へ瞬時に移動する。
「お早いお戻りで」
そう話すアークに怪我はなく、馬車に異変も無かった。この為、ザウバーは安心した様子を見せ、ダームを抱き上げて馬車に放り込んだ。
「魔族自体は、ダームが倒した。だが、色々と不安な点もある。ダームを休ませてもやりたい」
ザウバーは早口でアークに伝え、馬車に乗り込んだ。話を聞いたアークは馬車の中を覗き、ダームの姿を確認する。
この時、ダームは馬車の椅子に座り直しており、その隣にザウバーが腰を下ろしていた。少年の体に傷は見当たらず、顔色も悪くはない。この為、アークは心配が消えた風に息を吐いた。
「強敵相手なら、戦闘に慣れたアークでも疲れてしまうだろう? ダームも、慣れない相手と戦って、心身共に限界に近くなったのだろう」
ベネットは小声でアークに伝え、ダームの正面の席に腰を下ろした。一方、アークは馬車の戸を閉め、御者台に座る。
アークは、ダーム達に声を掛けてから馬車を走らせた。馬車は徐々に速度を上げながらヘイデルへ向かい、その間にダームの震えはすっかり収まった。
ヘイデルについてから、アークは馬車を停める場所を探してゆっくりと馬を歩かせた。アークは、警備兵施設の前に来たところで馬を停止させる。
「私は、馬車を返して、報告も済まさねばなりません。馬車を返す前に、皆さんと何処で待ち合わせをするかなのですが」
アークは言い淀み、ザウバーは諦めた口調で話し始める。
「あーはいはい。俺の評判が悪いから、ヘイデルの何処にも放流出来ねえってことだろ?」
その返答にアークは苦笑するが、何かを言うまではしなかった。
「魔族のことについては、ダームとベネットに話を聞けば充分だろ。ヘイデルで悪評高い俺は、大人しくマルンで待機しておくわ」
そう言うなり、ザウバーは転移魔法を発動させて馬車内から消えた。この際、ダームとベネットは顔を見合わせ、アークは大きく息を吐き出した。
「本来なら、ザウバーにも御礼するべきなのですが」
アークは、何処か残念そうに話し、小さな覗き窓越しに馬車内を見た。それから、アークはダームとベネットの返答を待つかの様に話すことを止める。
「ならば、馬車に積んだまま、使わなかった分の魔力回復薬を礼にすれば良い。ザウバーも魔力回復薬を作れはする様だが、専門的に作っているルキアの技術の方が上だろう。これから何が起こるかも分からないのだし、アークが魔力回復薬を手放したくないなら他を考えるが」
それを聞いたアークは肯き、笑顔を浮かべた。
「馬車にある魔力回復薬は、元々、今回の為に融通をきかせた様なものです。ですから、それが御礼になると言うなら安いものですよ。驚異が無くなりさえすれば、薬の材料の運搬に問題はなくなりますから」
そこまで話したところで、アークは馬の居る方へ視線を戻した。
「さて、今回の話を伺う場所なのですが……一旦、ヘイデル教会に向かいましょうか。教会の礼拝堂であれば誰でも入れますし、馬車を返すにも通り道になりますので」
アークは、馬に指示を出して歩かせ始めた。その後、馬車はヘイデル教会の前で停まり、そこでアークはダームとベネットを降車させる。
「馬車を返却した後で、ちょっとした手続きもあります。ですから、暫くの間礼拝堂でお待ち下さいね」
そう伝えると、アークは馬車を返す為にヘイデル教会の前から去った。一方、ダームとベネットは礼拝堂内に入り、そこでアークの帰還を待ち始める。
心配されたダームと言えば、微笑みながら口を開いた。
「何処にも怪我はしていないよ。ただ、魔族と戦って……何とか倒せたけど、やっぱり簡単じゃなかった。だから、あれからずっと体は震えているし、脚がガクガクし過ぎて」
ダームは、自らの脚を見下ろした。それは服の上からでも分かる程に震えており、それは少年の緊張を現している様でもあった。
「だけど、暫く休めば落ちつくから」
ダームは、戦闘に使った剣を仕舞い、大きく息を吐く。そして、震える左手で右の手首を掴んだ。
「では、その間に洞窟の中も浄化しておこう」
ベネットはアークから渡された小瓶を取り出し、その中身を飲み干した。そうしてから、彼女は洞窟の方へ両掌を向ける。
「光聖霊の加護を受けし者によりて命ずる。洞窟内の悪しきもの全てを浄化せよ」
ダームは、地面に腰を下ろしたままベネットの行動を眺めていた。しかし、洞窟入り口は塞がれている為、その中の変化までは確認出来ない。
「これで、中に魔物が居たとしても浄化出来はしたが」
「新たに出現した分が、どうなるかまでは謎だな」
ザウバーは腰に手を当て、気怠そうに息を吐いた。それから、青年は周囲を見回し、ダームを見下ろす。
「特に追撃も無さそうだ。気配まで消せる魔族が隠れていたら厄介だが……まあ、目的の魔族は倒せただろうしな」
この時、ダームは座ったまま周囲を見回した。すると、少年は近くに宝石のあしらわれた指輪を発見する。
その指輪は、少年がはめるには大きく、宝石は闇を溶かし込んだ様な色をしていた。ダームは、その指輪を良く見ようと顔を近付けるが、それをザウバーが制止する。
「待て。ここはあまり人の来ない場所だ。誰の持ち物か分からない物は迂闊に触るな」
それを聞いたダームは目線を上げ、ザウバーの顔を見上げた。
「確かに、此処まで来る人はそんなに居ないだろうけど、ヘイデルから調査に来た人の……あれ? 確かアークさんの話では、行方不明の人も居るって」
少年の話でザウバーは目を丸くし、転移魔法の呪文を唱え始めた。ザウバーが転移魔法を発動させると、彼らはアークの待つ場所へ瞬時に移動する。
「お早いお戻りで」
そう話すアークに怪我はなく、馬車に異変も無かった。この為、ザウバーは安心した様子を見せ、ダームを抱き上げて馬車に放り込んだ。
「魔族自体は、ダームが倒した。だが、色々と不安な点もある。ダームを休ませてもやりたい」
ザウバーは早口でアークに伝え、馬車に乗り込んだ。話を聞いたアークは馬車の中を覗き、ダームの姿を確認する。
この時、ダームは馬車の椅子に座り直しており、その隣にザウバーが腰を下ろしていた。少年の体に傷は見当たらず、顔色も悪くはない。この為、アークは心配が消えた風に息を吐いた。
「強敵相手なら、戦闘に慣れたアークでも疲れてしまうだろう? ダームも、慣れない相手と戦って、心身共に限界に近くなったのだろう」
ベネットは小声でアークに伝え、ダームの正面の席に腰を下ろした。一方、アークは馬車の戸を閉め、御者台に座る。
アークは、ダーム達に声を掛けてから馬車を走らせた。馬車は徐々に速度を上げながらヘイデルへ向かい、その間にダームの震えはすっかり収まった。
ヘイデルについてから、アークは馬車を停める場所を探してゆっくりと馬を歩かせた。アークは、警備兵施設の前に来たところで馬を停止させる。
「私は、馬車を返して、報告も済まさねばなりません。馬車を返す前に、皆さんと何処で待ち合わせをするかなのですが」
アークは言い淀み、ザウバーは諦めた口調で話し始める。
「あーはいはい。俺の評判が悪いから、ヘイデルの何処にも放流出来ねえってことだろ?」
その返答にアークは苦笑するが、何かを言うまではしなかった。
「魔族のことについては、ダームとベネットに話を聞けば充分だろ。ヘイデルで悪評高い俺は、大人しくマルンで待機しておくわ」
そう言うなり、ザウバーは転移魔法を発動させて馬車内から消えた。この際、ダームとベネットは顔を見合わせ、アークは大きく息を吐き出した。
「本来なら、ザウバーにも御礼するべきなのですが」
アークは、何処か残念そうに話し、小さな覗き窓越しに馬車内を見た。それから、アークはダームとベネットの返答を待つかの様に話すことを止める。
「ならば、馬車に積んだまま、使わなかった分の魔力回復薬を礼にすれば良い。ザウバーも魔力回復薬を作れはする様だが、専門的に作っているルキアの技術の方が上だろう。これから何が起こるかも分からないのだし、アークが魔力回復薬を手放したくないなら他を考えるが」
それを聞いたアークは肯き、笑顔を浮かべた。
「馬車にある魔力回復薬は、元々、今回の為に融通をきかせた様なものです。ですから、それが御礼になると言うなら安いものですよ。驚異が無くなりさえすれば、薬の材料の運搬に問題はなくなりますから」
そこまで話したところで、アークは馬の居る方へ視線を戻した。
「さて、今回の話を伺う場所なのですが……一旦、ヘイデル教会に向かいましょうか。教会の礼拝堂であれば誰でも入れますし、馬車を返すにも通り道になりますので」
アークは、馬に指示を出して歩かせ始めた。その後、馬車はヘイデル教会の前で停まり、そこでアークはダームとベネットを降車させる。
「馬車を返却した後で、ちょっとした手続きもあります。ですから、暫くの間礼拝堂でお待ち下さいね」
そう伝えると、アークは馬車を返す為にヘイデル教会の前から去った。一方、ダームとベネットは礼拝堂内に入り、そこでアークの帰還を待ち始める。