初めてじゃないおつかいの結果
文字数 2,365文字
「ただいま!」
元気な声と共に、荷物を抱えたダームが帰ってきた。ダームは、袋一杯に食料を買い込み、買い物に出た時は持っていなかった箱まで持っていた。
ダームは、買ってきた物をテーブルに置き、満足そうな笑みを浮かべた。少年は、そうしてから一つの袋を開け、肉の塊を取り出した。
「見てよこれ。硬い部分だからって安かったんだけど、煮込めば美味しいんだって」
ダームの話を聞かされたザウバーは、買われてきたばかりの肉の塊を見た。その塊は少年の頭部程の大きさがあり、暗めの赤色をいている。また、処理がなされているのか、肉から血が滴ることは無かった。
「煮込めば美味しい……ね。当然、煮込むのはお前の担当な。硬い肉を食べやすい大きさに切るのも、お前の担当な」
ザウバーは、ダームの持つ肉を指差した。一方、ダームは肉を調理台まで持っていく。
「むしろ、切るのは僕が一番慣れているでしょ? 戦闘の話だけど」
ダームは、そう言うとナイフを握った。しかし、何処から切り始めて良いか分からないのか、その切っ先は迷っている。
少年は、暫く迷った後で、右端から切り分け様とした。しかし、その刃が肉に埋もれた辺りでナイフを動かせなくなり、ダームは力尽くでナイフの柄を下に下ろそうとした。
すると、幾らかナイフは肉を切ったが、力尽くで動かそうとした為に軋み音がした。この為、ダームはナイフに力を込めるのを止め、ザウバーの方を振り返る。
「何で安かったか分かったか?」
その問いにダームは頷き、ナイフが刺さったままの肉をザウバーに見せる。
「何かを壊したり、何かを焦がしたりしたら……って、言ったのはお前だからな。先ずはベネットに謝ってこい。俺はフォロー出来る程には回復出来てねえしな」
ザウバーは、両手の掌を上に向けた。それを見たダームは溜め息を吐き、ベネットの休んでいる部屋へ向かった。
暫くして、ダームはベネットと共に調理台に戻った。ダームは、これまでに起きたことを順に説明し、ナイフを壊してしまったかも知れないことを謝罪する。
「形あるものは何時か壊れる。今回は、良い勉強にもなっただろう?」
ベネットはダームの肩に手を置いた。
「ナイフは別のものを使うとして……いや、別の大きな包丁を使おうか」
ベネットは、そう言うと収納から重厚感のある包丁を取り出した。そして、その包丁を軽く洗うと、肉へ斜めに刃を入れる。
すると、包丁は沈み込むように肉を切り、肉は幾らか小さく切り分けられた。ベネットは、それを繰り返しながら肉を切ってゆき、切り分けられていく肉をダームは眺めている。
「煮込むつもりだったそうだが、他の具材や味付けはどうしたい?」
それまで何も考えていなかったのか、問われたダームは直ぐに答えを返せなかった。そうして、少年は暫く考えてから、口を開く。
「お肉だけ沢山食べたいなって思ってたんだけど……他のことまで考えてなかった」
少年は苦笑し、目を伏せた。その様子を見たベネットは、肉を切りながら話を変える。
「では、他に何も買ってこなかったのか?」
ダームは首を横に振り、それから買ってきた物が入った袋を見た。少年は、その中から幾つかの果物を取り出して見せ、部屋には甘い匂いが広まった。
「パンやチーズはまだ有るし、ここでしか手に入らない物を食べたかったから、果物は買ってきた」
ベネットはダームが取り出した果物を見やり、それから柔らかな笑顔を浮かべた。
「では、その果物と煮込んでみるか。果物の種類によっては、肉を柔らかくするものが有ると言う。勿論、直ぐに効果が出るものではないが、ただ煮込むよりは早く食べられるだろう」
それを聞いたダームは、驚いた様子で果物を持ち上げた。少年は、果物を眺めてから、ベネットが切り終えた肉を見る。
切り終えられた肉の横には、壊れたナイフが置かれていた。そのナイフは刃と柄を繋ぐ部分が壊れていたが、修理すれば使える程度の壊れ方だった。
「折角、沢山の肉があるのだ。複数の煮込み方を試してみるのも良いだろう」
ベネットは二つの鍋を用意し、それぞれに切り終えた肉を入れていった。それから、左側の鍋に水を注ぎ、加熱を始める。
ダームと言えば、手にしていた果物をベネットに渡した。すると、果物は小さく切り刻まれ、右側の鍋に入った肉と合わされた。
「これで暫くおいておく。そうだな……」
「先に火を付けた方が沸騰しだした辺りにかき混ぜて、それからまた考えりゃ良いだろ。立ちっぱなしの火の番は、当然肉を食いたがっていたダームの仕事な」
ザウバーは、それだけ言うと立ち上がり、腕を伸ばした。彼は、体調を確認するかの様に、体のあちこちを動かした。
「俺は、その間に持ち帰った資料を調べる。それ位なら、出来るだろうしな」
ザウバーは細く息を吐き、ベネットは青年の顔色を確認する。その顔色は悪くなく、ベネットは安堵の表情を浮かべた。
「本棚を開けた話は聞いたが、資料を持ち帰ったのか?」
「ああ、あの部屋には大した置き場所も無かったからな。ダームの部屋に置いた分なら、肉が柔らかくなるまでには確認出来るだろ」
それを聞いたベネットは溜め息を吐き、目を細めた。
「何故、人が使っている部屋に」
「俺が使っている部屋は、机にもベッドにも資料があんだよ。ダームの部屋にあるのは、それに比べたら」
この時、鍋の前に立っていたダームがザウバーの顔を見た。ダームの表情には呆れが浮かんでいたが、何かを言うことまではしなかった。
「ならば、ダームの部屋の分は私が確認しよう。その後、使っていない箱に詰めてザウバーの部屋に運ぶ。それで良いな?」
ベネットは淡々と話し、ザウバーはその気迫に押されながら頷いた。そして、ザウバーとベネットはダームに鍋の番を任せ、それぞれの目的の為に部屋を出る。
元気な声と共に、荷物を抱えたダームが帰ってきた。ダームは、袋一杯に食料を買い込み、買い物に出た時は持っていなかった箱まで持っていた。
ダームは、買ってきた物をテーブルに置き、満足そうな笑みを浮かべた。少年は、そうしてから一つの袋を開け、肉の塊を取り出した。
「見てよこれ。硬い部分だからって安かったんだけど、煮込めば美味しいんだって」
ダームの話を聞かされたザウバーは、買われてきたばかりの肉の塊を見た。その塊は少年の頭部程の大きさがあり、暗めの赤色をいている。また、処理がなされているのか、肉から血が滴ることは無かった。
「煮込めば美味しい……ね。当然、煮込むのはお前の担当な。硬い肉を食べやすい大きさに切るのも、お前の担当な」
ザウバーは、ダームの持つ肉を指差した。一方、ダームは肉を調理台まで持っていく。
「むしろ、切るのは僕が一番慣れているでしょ? 戦闘の話だけど」
ダームは、そう言うとナイフを握った。しかし、何処から切り始めて良いか分からないのか、その切っ先は迷っている。
少年は、暫く迷った後で、右端から切り分け様とした。しかし、その刃が肉に埋もれた辺りでナイフを動かせなくなり、ダームは力尽くでナイフの柄を下に下ろそうとした。
すると、幾らかナイフは肉を切ったが、力尽くで動かそうとした為に軋み音がした。この為、ダームはナイフに力を込めるのを止め、ザウバーの方を振り返る。
「何で安かったか分かったか?」
その問いにダームは頷き、ナイフが刺さったままの肉をザウバーに見せる。
「何かを壊したり、何かを焦がしたりしたら……って、言ったのはお前だからな。先ずはベネットに謝ってこい。俺はフォロー出来る程には回復出来てねえしな」
ザウバーは、両手の掌を上に向けた。それを見たダームは溜め息を吐き、ベネットの休んでいる部屋へ向かった。
暫くして、ダームはベネットと共に調理台に戻った。ダームは、これまでに起きたことを順に説明し、ナイフを壊してしまったかも知れないことを謝罪する。
「形あるものは何時か壊れる。今回は、良い勉強にもなっただろう?」
ベネットはダームの肩に手を置いた。
「ナイフは別のものを使うとして……いや、別の大きな包丁を使おうか」
ベネットは、そう言うと収納から重厚感のある包丁を取り出した。そして、その包丁を軽く洗うと、肉へ斜めに刃を入れる。
すると、包丁は沈み込むように肉を切り、肉は幾らか小さく切り分けられた。ベネットは、それを繰り返しながら肉を切ってゆき、切り分けられていく肉をダームは眺めている。
「煮込むつもりだったそうだが、他の具材や味付けはどうしたい?」
それまで何も考えていなかったのか、問われたダームは直ぐに答えを返せなかった。そうして、少年は暫く考えてから、口を開く。
「お肉だけ沢山食べたいなって思ってたんだけど……他のことまで考えてなかった」
少年は苦笑し、目を伏せた。その様子を見たベネットは、肉を切りながら話を変える。
「では、他に何も買ってこなかったのか?」
ダームは首を横に振り、それから買ってきた物が入った袋を見た。少年は、その中から幾つかの果物を取り出して見せ、部屋には甘い匂いが広まった。
「パンやチーズはまだ有るし、ここでしか手に入らない物を食べたかったから、果物は買ってきた」
ベネットはダームが取り出した果物を見やり、それから柔らかな笑顔を浮かべた。
「では、その果物と煮込んでみるか。果物の種類によっては、肉を柔らかくするものが有ると言う。勿論、直ぐに効果が出るものではないが、ただ煮込むよりは早く食べられるだろう」
それを聞いたダームは、驚いた様子で果物を持ち上げた。少年は、果物を眺めてから、ベネットが切り終えた肉を見る。
切り終えられた肉の横には、壊れたナイフが置かれていた。そのナイフは刃と柄を繋ぐ部分が壊れていたが、修理すれば使える程度の壊れ方だった。
「折角、沢山の肉があるのだ。複数の煮込み方を試してみるのも良いだろう」
ベネットは二つの鍋を用意し、それぞれに切り終えた肉を入れていった。それから、左側の鍋に水を注ぎ、加熱を始める。
ダームと言えば、手にしていた果物をベネットに渡した。すると、果物は小さく切り刻まれ、右側の鍋に入った肉と合わされた。
「これで暫くおいておく。そうだな……」
「先に火を付けた方が沸騰しだした辺りにかき混ぜて、それからまた考えりゃ良いだろ。立ちっぱなしの火の番は、当然肉を食いたがっていたダームの仕事な」
ザウバーは、それだけ言うと立ち上がり、腕を伸ばした。彼は、体調を確認するかの様に、体のあちこちを動かした。
「俺は、その間に持ち帰った資料を調べる。それ位なら、出来るだろうしな」
ザウバーは細く息を吐き、ベネットは青年の顔色を確認する。その顔色は悪くなく、ベネットは安堵の表情を浮かべた。
「本棚を開けた話は聞いたが、資料を持ち帰ったのか?」
「ああ、あの部屋には大した置き場所も無かったからな。ダームの部屋に置いた分なら、肉が柔らかくなるまでには確認出来るだろ」
それを聞いたベネットは溜め息を吐き、目を細めた。
「何故、人が使っている部屋に」
「俺が使っている部屋は、机にもベッドにも資料があんだよ。ダームの部屋にあるのは、それに比べたら」
この時、鍋の前に立っていたダームがザウバーの顔を見た。ダームの表情には呆れが浮かんでいたが、何かを言うことまではしなかった。
「ならば、ダームの部屋の分は私が確認しよう。その後、使っていない箱に詰めてザウバーの部屋に運ぶ。それで良いな?」
ベネットは淡々と話し、ザウバーはその気迫に押されながら頷いた。そして、ザウバーとベネットはダームに鍋の番を任せ、それぞれの目的の為に部屋を出る。