服は買える時に買っておこう

文字数 1,232文字

 昼になり、病院の昼食が済んだ頃、ダームはアークの病室に戻ってきた。彼の服は汚れていたが、それを当人が気にする様子はない。

「お疲れ様、ダーム。ルキアが昼食を用意してくれたから、二人で食べよう」
 ベネットは、ルキアが用意した食事をダームに見せた。一方、ダームはそれを見て笑顔を浮かべる。

 その後、二人は食事を摂り、食べ終わったところでダームが口を開いた。

「後の細かいことは、警備兵さん達がやってくれるって。だから、午後からは」
「買い物に行ってきてはどうですか? 元々、買い物もヘイデルにきた目的の一つだったのでしょう?」
 アークは、ダームの声を遮る様に話し始めた。アークの目線はダームの上着の袖に向かい、その周辺は特に汚れが酷かった。

「ダームは、食べ物を買いに来たと言いましたが、この機会に服も新調したらどうでしょうか? 身長も、以前より伸びた様ですから、大きめの物を買っておくのも良いですね」
 ダームは、上着の裾を掴んで伸ばした。それは確かに小さくなってきており、解れている箇所も幾つか有った。

「体に合う防具の購入も、魔族対策の一つでしょう? 私が病院を出て動ける時間まではまだ有りますし、ゆっくりじっくり選べますよ?」
 アークの提案を聞いたダームは、難しい表情を浮かべて考えこんだ。少年は、暫く考えてから頷き、ベネットの顔を見る。

「じゃあ、僕は服とか防具を買いに行こうと思う。ベネットさんはどうする?」 
 ダームの問いに、ベネットはアークの姿を横目で見る。

「私は、ルキアからアークの監視を頼まれている。それに、服はマルンの小屋に予備がある。だから、私は服を買う必要は無いし、此処に残る理由がある」
 ベネットは和やかに笑い、アークを見下ろした。すると、アークは苦笑しながら頭をかき、口を開く。

「そう言う訳ですので、ダームだけで買い物をしてきて下さい。もし、一人での買い物がつまらないなら、ルキアの説得を頼みます」
 アークの話に、ダームは小さく笑った。

「一人での買い物はつまらなくない……って言えば嘘になる。けど、だからってルキアさんを説得してまで、二人で行く程でも無いよ」
 ダームは、買った物を持ち帰る為の袋を用意し、それから病室を出た。その後、ダームはヘイデルを回り、服や防具を選んでいった。

 防具を売る店は警備兵施設の近くにあり、ダームはそこで自分に合う大きさの防具を幾つか見繕った。しかし、全てを買う決心は付かなかったのか、持ち運びやすいものだけを購入した。

 服を売る店は沢山あり、ダームはショーウインドウを覗いては気に入るものを探した。ダームの服探しは何時間にも渡り、気になる服がある店にだけ入店した。

 ダームは、新しい服を何枚か買い、それを持ってアークの病室に戻る。すると、タイミングを見計らったかの様にルキアの姿が在った。

 この時、病室には既に夕食の準備がなされていた。また、それは準備がなされたばかりの様で、料理からは僅かながら湯気が立ち上っている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになった少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児。

絶賛成長期。

ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
体力は無い分、魔力は高い。

呪詛耐性も低い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
ブラコン。

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。



OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。

魔物が増えて管理職が故の悩みが増えた。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み